第3話 初めての対面レビュー!
対面レビュー。それは、設計書を作成した者が、その設計書の正当性を依頼主に説く。そんな神聖な儀式。
多くの設計マン(注釈:筆者の造語です)は、対面レビューで戦い抜くために、また、対面レビューで能力を評価してもらうために切磋琢磨して設計書を作成していく。(筆者の妄想)
今回は、金子新人の初めての対面レビュー記をお見せする。
まずは、状況説明から始めよう。
新人金子君は、初めて設計書の作成を任されている。
作成するのは、旧システムから新システムへと移行するため、旧システムで動いていた機能を新システムでも同様に使用するための処理設計となる。
一般ピープルのためにわかりやすく解説すると、いわば引っ越し作業のようなものだ。
前の部屋にあった家具や家電を新しい部屋に移動するために、引っ越し手順や家具家電の配置場所をあらかじめ決めておく。
ここで難しい点は、システム移行では部屋の入り口の形状や間取りがいびつな形をしており、簡単に家具や家電が搬入できない場合があるということだ。
なんとなく、システム移行における設計の難しさを理解いただけたであろうか。
それでは、実際に金子新人の初めての対面レビューの光景を見ていこう。
「金子君、そろそろお客さんの本社に向かうから用意して」
上司AはノートPCをバッグに詰め込みながら言う。
「はい!」
これから俺ははじめての対面レビューに行く。
そもそもお客さんの本社に行くこと自体が初めてのため、段々と心拍数が早くなっていくのを感じる。
「それじゃあ行こうか」
俺は上司と2人でエレベーターに乗りこむ。
会社を出て電車で数駅。駅を出て10分ほど歩くとお客さんの本社ビルに到着した。
(金子君、目の前にそびえるビルを見上げる)
「で、でけぇ」
上司Aが反応する。
「すごいビルだよな。俺も初めて入ったときは少し緊張したよ」
「そうですよねー...」
「さすが業界最大手。この一等地にこのビルだもんな。受付嬢も別嬪さん揃いだ」
(金子君、上司Aをガンスルー。)
「...。それじゃあ、レビューの際はフォローをお願いしますね」
「おう、任せておけ。はじめてだから緊張するだろうけど頑張れよ」
上司Aと俺はお客さんの本社ビルへと足を進めていった。
ほどなくして2人は受付を済ませると、来客用の会議室に案内された。
(お客さんの担当者が会議室に現れる。)
「佐藤さん(仮名)、ご無沙汰しております」
上司Aが椅子から立ち上がったのを見て、俺も腰を上げて会釈する。
「それでは、○○機能のレビューということでよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
そうして生死をかけた戦いの火蓋が切られた。
初手、金子君のターン。
俺は、これまで作り上げてきた設計書をスクリーンに表示させながら、処理の流れについて説明していく。
すでに上司Aにレビューしてもらっているということもあり、自信をもって説明を進めていく。
「うんうん、なるほど」
佐藤さんも頷きながら聞いている。
これはうまくいっているのではないか、好感触だ。
一通りの説明が終わると、佐藤さんのターンだ。
「設計書、ありがとうございます。いくつか指摘点をいいですか?」
佐藤さんは遜って、しかしハキハキとした口調で話し始める。
「まず、誤字がいくつかありますね。ここは直しましょうか」
しまった!!
上司Aに確認してもらった後に、自分でミスに気が付いて修正した部分...。
上司Aも、なぜここに誤字があるのかと思っているのではないか...。
上司Aからの視線も気にしつつ、耳を傾ける。
「次に、ここの処理なのですが...」
――30分後――
ぜえ、ぜえ、ぜえ。
幻聴だろうか、遠くから女の人の声が聞こえてくる気がする。
もうやめて!金子君のライフはゼロよ!
「かくかくしかじかですね、承知しました。修正しておきます。また、ご要望の○○についても検討してみますのでよろしくお願いいたします」
ふと、現実世界に頭が戻ってくると、上司Aが佐藤さんの指摘、要望をまとめ、今後の対応について確認してくれている。
か、かっこいい...///(同性です)
「じゃあ金子君、そういうことだから会社に戻って作業しようか」
上司はそう促すと、席を立ち「それじゃあ行くぞ」と促す。
「本日はありがとうございました。失礼いたします」
二人は会議実を出てエレベーターホールへと向かって行った。
お客さんのビルを出ると、先ほどまでバクバクしていた心臓が平静を取り戻す。
「いやあ、やっぱり初めての対面レビューは緊張しました」
「そうだよな、おつかれさま」
上司は、ねぎらいの言葉をかけてくれる。
「思ったよりも指摘が出てしまって...、すみませんでした」
上司は一拍置いて口を開く。
「何言ってんだ。初めてでここまでできれば上出来だよ。今日の指摘は今後起こさないようにしていけばいいから」
不覚にも目頭が熱くなる。
「本当ですか、頑張ります!」
俺は目が潤んでいるのを見られないようにそっぽを見ながら返答する。
「まああれだ、せっかく○○(地名)まで来たんだから、おいしいもの食べてから会社に戻るとするか。俺は前このあたりで働いていたからいい店を知ってるんだ」
上司Aは神か!
「はい!」
そうして、新人金子君の初めての対面レビューは幕を閉じるのであった。
新人です!!よろしくお願いいたします!!編(完)
おまけ
その後、付近で有名な海鮮料理屋さんに入店した。
海鮮丼、海鮮定食、どれも値が張るなあ、少し上司に申し訳ないけど、上司と同じ料理を頼んでおこうか...。
上司A「じゃあ、俺は海鮮Aセットで」
金子君「じ、じゃあ私も同じので」
店員「あいよー!」
――30分後――
上司A「ふう、おいしかったな。それじゃあ会計にするか」
金子君「はいっ!」
(上司A、手を上げて店員を呼ぶ。)
上司A「じゃあお会計で」
店員「お会計ですね!お会計は一緒でしょうか?」
上司A「ああ、別でおねがいします」
...。
別かーい!
期待してしまった...。俺の1,500円...。
それでも、この日をきっかけに、口うるさいだけと思っていた上司Aの頼もしさに気が付いていくのであった。
新人です!!よろしくお願いいたします!!編 おしまい。
見習いSEのすすめ! かまぼこにーさん @kamaboko23
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