その12


 モンスターが豪腕を振って咆哮しているさなか、ヴィスタノッテは部隊に命令を出す。

「火炎放射器展開! 敵を中距離から三角形に囲んで波状攻撃して。他の者は壁に背を寄せて敵の目を狙って集中射撃!」

 即座にバックパックを背負った火炎放射器兵三名が武器を持ち換え、酸素マスクをつけて移動に入った。

 暴れる渦中を抜けて回り込むと、敵がたちまちふり返った。三位置の兵士は換気ダクトの配電盤から空力全開になった合図を見、点火システムの弁をひらき、銃部から燃焼したゲル化ガソリンを放射する。

 勢いよく伸びた火炎と銃撃の同時攻撃により敵がひるみはじめた。

 フロアの空気不足のため軽度の呼吸苦になった兵士はいたものの、やはり金属には火炎が効果的らしい。やがてモンスターの勢いがだんだん弱まり、全身を火に包んで力尽きた。

 だが突如、火の勢いが衰えて消失し、金属の骨格が液体のように柔らかくなってゆく。

 リニカが側頭部の出血を手でぬぐい、亀裂の入った端末を見つめて状況を発する。

「ふたたび形態変化を起こしています。構造躯体の表面から流動性をもつ物質が発生し、内部の中心へと浸透していきます。解析結果、硬度5700前後の水です」

 地にくずれた巨体に青白い流れが起こり、骨組みが血管のように変わって循環しはじめた。その身体が活力を得たみたいにして、ゆらりと起き上がってくる。

 不死身の如く蘇生したその姿に、隊員たちが戦慄して目をみはった。敵の十指から水の弾丸が高速で飛んできて数名が被弾して肉片を飛ばす。

「火炎放射中止! 三地点の兵は第二分隊二班と交代。総員、攻撃の手を止めないで!」

 入れ替わってテスラコイル銃を携えた兵士たちが同位置に立った。

 暴れる敵はそんな隊員を水流に飲み込もうと手を伸ばすも、三方から強力な稲妻攻撃を受けて異常をきたしたように苦しむ。

 テスラコイル銃を握った兵士たちはヴィスタノッテのほうに視線を向けた。無線は電波障害によって使えないため、彼女は二班に電圧を上げるようハンドサインを送る。

 各兵士はそれを目で応え、敵に電撃を浴びせつつスライドフェーダーを操作した。すると放電量が増加し、敵は全身から電気ノイズを起こして押し返されたみたいに攻撃できなくなる。

 そして激しい電流の影響により、敵は姿かたちを維持できなくなったらしく、どんどん身体が縮小していった。その後、人間サイズまで落ちて、地面に水溜まりを残して静かになった。

「……」

 周辺では兵士の誰もが疲弊していた。先の形態時に打撲で負傷していたオイセコーノが腕をおさえて口をひらく。

「ようやく倒せたか……? しかし構造がよくわからないゾンビみたいなバケモンのせいで、仲間がたくさんやられちまった……」

 あたりは目を伏せたくなる惨状だった。部隊の半数以上が犠牲となってしまい、そこかしこに残酷な姿となって事切れている。なかには性別がわからないほど損壊した遺体もあった。

 けれども戦いは終わらなかった。

 リニカが血の入った片目を閉じて、くやしそうに唇を噛んだ。

「敵に活動反応があります。水面から新たな物体が現出しているようです」

 壊れて飴のように曲がったライトブリッジの一部分からキルネがスコープを覗く。封鎖のためハシゴ上部を溶接してあった金属板がめくれ上がっていた。

 兵士たちは予備の少ない弾倉を交換して気持ちを奮い立たせた。そして仲間の遺骸と血潮のなか、水面が複雑な電子回路をおびていくのを見守った。

 

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