その7
農道がつづく田園地帯のバス停小屋で、おれたちは隣り合わせに座っていた。
少女は自身の名を『キルネ』と名乗った。そして先ほど口にした『とある美女の話』の続きを語り出す。
「ある日、軍部の指令室に護衛の要請が入った。依頼したのは国営の調査団だ」
「ふむ。それで?」
「北極圏の島の地下に、不可解な熱源を発見したので同行して欲しいと」
「つまりその美女が率いる遠征部隊が調査団とともに現地へと向かったんだろ? その話なら知ってるぜ。結果、確認したのは零灮(れいこう)という資源だ」
おれは腕組みして煙草を吹かす。一応は煙がなるたけかからないよう風下を選んで座っていた。
零灮の源が発見されたことは人類にとってプラスになりマイナスにもなった。北の果てから発信される新規エネルギーの恩恵にあずかり、各級において技能を習得した者はその段階に合わせた特殊なエネルギーを受信して、さまざまな技法を展開することが適う。
もちろん科学の発展や運用にも使われ、暮らしぶりが便利になることは多々あった。しかしそれを悪用して社会を混乱させる団体もいた。
それに未解明の部分が多い怪しいエネルギーの利用を中止せよといった反対運動は各国で起こっており、血生臭い事件やテロ活動が時折メディアに乗せて報道される。
そして世界それぞれの国民が零灮税を課せられるようになり、年度が進むごとに税率が増え、人々の暮らしを経済面から圧迫している。
おれがそのあたりのうんちくを語っていると、少女がすっぱりと話を切った。
「資源を発見したというのは、世間一般に公開された偽情報だ」
「なんだって?」
「実際は資源などではない。……あの日、現地『デラグロウガ』で何があったのか教えてやろう」
少女のニコリともしない顔がこっちに向いた。緊張感のある口調のわりに冷めた目をしていた。
「……美女は、あの日のたったひとりの生存者」
膝にそろえた手が少しだけ握られた。おれは煙草を指に挟み、ベンチに腕をのせる。
「待ってくれ。なぜおまえのような子どもがそんな込み入った話を知っている?」
「子どもではない。わたしは齢十九だ」
「年齢なんか聞いちゃいねえ。おまえはどこの誰なんだ? 身分を明かせ」
少女は意に介さない無表情で口を一字に引いた。だがおれはある程度のあたりがつき、こう問いかける。
「わかったぜ。おまえはヴィスタノッテの使いの者だろ」
「……」
「あいつてめーの口を割りたくねえからこうして部下を使ったわけだ」
どうやら推測が当たったらしく、少女はやおら顔を横に戻して口を切った。
「話を聞くのか? 聞かないのか? どっちなのか?」
「もちろん聞くぜ。時間はたっぷりとあるんだ。じっくり教えてもらおうじゃないか」
──そして場面は、七年前の北の果てへと移る──。
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