第4話 フクシマさん

「うぇぇぇ、こわかったよぉぉぉ」


 旧校舎を出る頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。

 命があっただけでもめっけもん。それがわかっているのか……ずっと由里は泣きじゃくっている。


「もうりたろ? 帰ろうぜ」


「でも、あいつ……また襲ってこないかな?」


「大丈夫だよ。あいつのテリトリーは旧校舎だけっぽいし、近づかなけりゃ問題ないって」


「ねぇ、勇一。どうしてそんなことわかるの?」


「だから……昔から俺は見えなくていいもんが見えちまう体質なの。おかげでああいう奴らの扱いには慣れてる。言っとくけど、けっこう苦労してんだからな」


「そうだったんだ……ごめん。私、軽率だった」


「いいから、もう帰ろう。親も心配するだろうし」


「うん……」


 やけに素直になった由里を、念のため家まで送る。家に入るのを見届け、そのあと俺も家路についた。しかし、あんな化け物が誘拐犯だったとは。こりゃ、警察じゃあどうにもできないだろうな。

 となると、このままでは栗脇さんや行方不明の生徒たちはもう帰っては来られない。あいつの狂気さはそれを物語るには十分だった。


「相手が人間じゃないなら、どうしようもないか」

 

 ぼっーと考え込んでいる内に、気がつけば町はずれの福島屋という薬屋の前へ来ていることに気づく。

 どうして俺はこんな場所に? 慌てて引き返そうとした。あまり言いたくはないが、この店は昔からどうも好きになれない。不気味だし、変なもの売ってるっていうし。これ以上、怖い思いはしたくない。


「おい、そんな霊障れいしょう匂わせといて、そのまま帰る気か?」


 振り返ってみると、若い着物姿の女性が店の前に寄りかかりながら、こっちを見ていた。


「あの……あなたは?」


「この店の主人だ。とはいっても、最近なったばかりなんだがな」


「はぁ」


「少し話をしていかないか? 茶ぐらい出すぞ」


 こうして、謎の女性に導かれるように、俺は店内へと吸い込まれていった。


♢♢♢


「私の名は福島霊子。詳しい事情は伏せるが、母からこの店を任されてる」


 お茶をご馳走してくれる福島屋の女店主に、俺も自己紹介する。


錦見にしきみ勇一です」


 しかしまぁ、こんなべっぴんさんが店主だなんてなぁ。これから定期的に通おうかしら?


「錦見か。それよりも、随分と危険な目に遭ったようだな」


「わ、わかるんですか!?」


「ああ。表向きには薬屋だが、裏の顔があってね。お前さんを襲ってきたような連中を専門にしている 」


 この手の話はほとんどの人が取り合ってくれない。わらにもすがる思いで、俺は行方不明事件の事、今日起こった出来事をすべて話した。


「ふぅん、まさかこうも堂々と人を襲う奴がいたとは……こりゃあ厄介だな」


「どうにかしてくださいよ」


「なんで私が?」


「え? だって、相談に乗ってくれるって」


「話を聞いてやるって言ったんだ。いっとくが、私は退治は請け負っていない」


「そんなぁ……」


 俺はがっくりこうべれる。


「男だったら、自分でどうにかしろ」


「それができたら苦労しませんよ。今日だって、ハッタリをかますくらいが精一杯だったし」


「ハッタリ? そういえば、お前……そんな化け物を前にしてよく無事だったよな」


 福島屋の女店主は何かハっとしたかのように、望遠鏡のようなものを取り出し、俺を見た。


「ほぉ~、お前霊力があるな。しかも、そこそこの数値」


「なんです? それ?」


「そんなことよりも、お前、そいつの退治引き受けないか?」


「ええ!?」

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