第2話 潜入

「うっわ~……ほこりっぽ~」


 俺と由里は警察の設置した注意喚起のイエローテ-プをくぐりぬけ、旧校舎内へと入っていく。情報によると、昨日まで現場に警官も数名来ていたらしいが、何の手掛かりも発見できず、捜査は手詰まりらしい。


「しかし、なんで女生徒ばっかり消えるんだ。変態か? 変態による誘拐か?」


「あのねぇ、誘拐の規模考えなさいよ。少なくても5名以上は行方不明なんだから。第一、旧校舎でさらう意味ある?」


「た、確かに」


 そんな会話をしながら、旧校舎内を歩く俺たち。使われていない校舎は、人影もなく、それだけで不気味だ。


「っていうかさ、由里は怖くないの? 俺もう、足ガクガクなんだけど」


「情けないわねぇ。それでも男? 護衛役なんだからしっかりしてよね」


 さすがジャーナリスト志望。こんな状況下でも一切物怖ものおじせず、どんどん校舎内を探索し、あちこちをカメラで撮影している。


「そうそう。これは噂なんだけどね……」


「な、なんだよ?」


「実は昔ね」


 なにやら真剣な表情で話し出す。由里の話によると、旧校舎がまだ使われていた頃、陸上で有望視されていた女生徒がいたらしい。日々練習に励んでいたが、大きな大会を前に、ある日、不運にも交通事故に巻き込まれてしまったらしい。体の損傷がひどい事故で、中でも右半身は特にひどく、右足はどう現場を探しても発見できなかったらしい。そして……いつしか、その女生徒の幽霊が大会に出られなかった無念の思い、悲しみ、苦しみから、片足を探しながら学校を彷徨さまよい歩くようになったと。


「って、おおい! こんな場所で、そんな不気味な話すんな!」


「あはは! 今の勇一の顔! マジでビビってやんの」


「ふざけんなよ。俺が怖いの苦手って知っていて、すぐそういう話する」


「ごめん、ごめん。でもさ、その女生徒の幽霊って、片足でぴょんぴょん跳ねてるんだって」


「はぁ?」


「片足姿でスカートを履いている姿から「傘女」って呼ばれてるらしいよ。多分、行方不明になったみんなも、お化け見たさで旧校舎に来たんじゃないかな?」


「だったら自業自得だ。同情の余地なんてないね」


「へぇ~? お化けの肩持つの?」


「違う。片足だからって、面白半分に見に来られたら誰だって嫌だろう。ばちが当たって当然だ」


「へー。じゃあ、栗脇さんも見捨てるんだ」


「それとこれとは別。栗脇さんを救って、俺はヒーローとなるのだ!」


「へぇへぇ、それはようござんしたねぇ」


 あきれたように、由里は2階から3階へ上がる階段へと向かう。だが、その時。


『ゾクッ』


 鋭い氷の切っ先が刺さったような、そんな悪寒が背中を走る。


「勇一? どうかした?」


「由里……まずい。引き返すぞ」


「え~、だってまだ手がかりも何にも見つけてないじゃん」


「いいから! 言うこと聞け!」


 嫌な感覚はどんどん強くなる。今までの人生で、この感覚におちいったときはロクなことがない。しかも、今まででの中で一番ヤバいほどレベルだ。一秒たりともこの場所に居てはいけないと、第六感が告げた。その矢先……。


【わたしのあししらないかぁ~】


 地の底から響いてくるような、低く、おぞましい声。そして、俺たちの前方にあるだろう階段の角から、ぴょん、ぴょんと片足の女が出てきたのであった。

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