第3話 旧校舎の主

 プルルルル。思わぬ休日に、家でくつろいでいると、不意にスマホが鳴った。


「新見! 大変よ、今すぐ来て」


「大変って、何が?」


「いいから! 説明は会ってから話す」


 なにやら慌てた様子のリリス。ただ事ではない様子に、俺は急いで身支度をし、待ち合わせ場所に指定された喫茶店へと向かった。


♢♢♢


「ねぇ、これ見て。監視カメラの映像なんだけど」


 注文したコーヒーが出されると、リリスは自分のスマホ画面を見せた。

 昨日、俺が設置した監視カメラは現場に入れなくなった為、回収を諦めていたが、リリスはあらかじめデータがスマホに転送されるよう設定していたらしい。そして、保存された動画の再生ボタンを押す。


「こ、これは」


 動画には肝試しに来たであろう女生徒2名がバッチリ映っていた。最初は楽しそうにあたりをうろついているようだが、すぐさま何かに怯えた様子。

 そして、次の瞬間! 恐ろしい速さで何者かが天井を這いずり、二人のもとへ近づく。そこからは瞬く間の出来事であった。


【オマエラノアシ、キレイダナァ】


 見るからにこの世のものではない化け物の出現に、俺たちは凍りつく。何かのイタズラであってほしいが、いや、この体にねばりつくような不快な感覚、そしてこの声

。間違いなく……あいつだ。カメラを設置した時に聞いた、あの。


【ギャギャギャギャギャ】


 化け物は天井から降りると、足をピョンピョンさせ、腰を抜かした二人を追いつめる。


「こ、こいつ……足が」


「そう。一本しかないの」


 映像は続く。


【オンナノアシィ……オマエノアシィ、ホシイナァ】


 そいつは四つんいの体勢となったかと思うと、目にもとまらぬスピードで女生徒を引きずって連れ去る。


【ソノアシモヨコセェェェ】


 そして、女はすぐさま逃げようとしたもう一人の女生徒の前に立ちふさがる。その姿はまるで傘お化けのような出で立ち。また女生徒を引きずり連れ去ってしまった。そして、こちらに気づいたように監視カメラに近づき、そこで映像は途切れた。

 あまりの光景に、俺たちは言葉を失う。


「じ、実は聞いたことがある噂で、む、昔ね……」


 リリスは静かに、そして真剣な表情で話し出す。

 あくまで噂ではあるらしいのだが……旧校舎がまだ使われていた頃、陸上で将来を有望視されていた女生徒がいたらしい。日々練習に励んでいたが、大きな大会を前に、ある日、不運にも交通事故に巻き込まれて亡くなったらしい。体の損傷がひどい事故で、中でも右半身は特にひどく、右足はどう現場を探しても発見できなかったらしい。そして……いつしか、その女生徒の幽霊が大会に出られなかった無念の思い、悲しみ・苦しみから、片足を探しながら学校を彷徨さまよい歩くようになったと。


「片足姿でスカートを履いている姿から「傘女」って呼ばれてるらしいよ」


「……これ、どうする?」


「警察にって言いたいところだけど……信じてくれないでしょうね」


「そんな! じゃあ、さらわれた女生徒たちは?」


「残念だけど」


「そんな! 栗脇さんもきっとあいつにさらわれたんだぜ」


「冷静になりなさいよ。あんな化け物相手にどうするつもりなのよ」


「くっ!」


「目の前で人が熊に襲われたところで……私たちにできることなんてないんだよ」


 どうしようもないのか……。行き場のない怒りに、俺はテーブルにコーヒー代金を叩きつけ、そのまま店を出る。


「新見! あんた言っとくけど、無茶しないでよね!」


 背後からそう声をかけるリリスの声を無視し、俺は喫茶店を後にした。

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