どろろ! 傘女

第1話 失踪事件

「な、なんだって!?」


 俺、錦見にしきみ勇一ゆういち驚愕きょうがくした。部活動の最中、クラスメイトの栗脇くりわきさんが昨日から消息不明だと聞いたからだ。


「うるさ~……あのね、ちょっと落ち着いて聞いてくんない?」


 そう情報を提供してきたのは、将来ジャーナリスト志望、新聞部部長の佐伯さえき由里ゆり。こいつとは小学校からの同級生で、同じ高校まで一緒になるとは予想だにしなかった腐れ縁というやつである。こいつの強引さで同じ新聞部に入部させられる程、かなりのお転婆てんばである。


「これが落ち着いてられるかっての! だって、栗脇さんが行方不明なんだろ?」


「まぁ、そうだけどさ」


「どうりで今日、休みだったわけだ~」


 俺は頭を抱えた。栗脇さんというのは、俺のクラスのマドンナ的存在で、容姿端麗で成績優秀、おまけに誰にでも分けへだてなく接してくれる聖女なのだ。そして、俺がひそかに好意を抱く想い人でもある。そんな人の失踪しっそうに、居ても立っても居られない様子の俺を落ち着かせるよう、由里はメモ帳をペラペラとめくりながら、あれこれと調べたことを報告してくれた。


 なんでも数日前、取り壊し予定となっている旧校舎に遊び半分で肝試しに行った女子生徒たちが謎の失踪をげたというのだ。しかも、それに後追いをかけるかのように、次から次へ失踪者を量産している。そして、ここからがどうも変で、女子生徒に限り失踪をしているようなのだ。


「確かに、それは妙だね」


「そこで提案なんだけど、今から行ってみない?」


「はぁ!?」


「だって私も女の子じゃん。いざという時に守ってくれる人がいなくちゃ」


「由里なら大丈夫だよ。全体の7割が男だから」


『バシッ!!』


 俺は頭をはたかれ、胸ぐらをつかまれる。


「それどういう意味!」


「ご、ごめん! 嘘! 今のは冗談だって!」


「ったく、じゃあ同行してくれるってことでいいのね?」


「でもさ、俺が心霊系苦手なの知ってるでしょ。昔からどうも、こう、見えなくてもいいものが見えるとういうか、なんというか」


「勇一だって新聞部でしょ? 部長の安全を守るのは部員の務め」


 新聞部といっても、俺とこいつ、二人しかいないのだが。

 しかし、このままこの事態を黙って見過ごすことも気が引ける。栗脇さんのことも心配だし……俺はしぶしぶ同行を了承した。


「ただし、危険を感じたらすぐ逃げること。いい?」


「うん! りょーかい♪」


 こうして、とりあえず軽い調査のつもりで、俺たちは旧校舎へと向かうことになったのであった。

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