どろろ! 傘女

第1話 失踪事件

「な、なんだって! 行方不明!?」


 俺、錦見にしきみ勇一ゆういち驚愕きょうがくした。部活動の最中、クラスメイトの栗脇くりわきさんが昨日から消息不明だと聞いたからだ。 栗脇さんというのは、俺のクラスのマドンナ的存在で、容姿端麗で成績優秀、おまけに誰にでも分けへだてなく接してくれる聖女なのだ。そして、俺がひそかに憧れている女性でもある。


「うるさ~……あのね、ちょっと落ち着いて聞いてくんない?」


 そう情報を提供してきたのは、将来ジャーナリスト志望、新聞部部長の天野リリス。こいつとは中学校からの付き合いで、同じ高校まで一緒になるとは予想だにしなかった腐れ縁というやつである。こいつの強引さで同じ新聞部に入部させられる程、かなりのお転婆てんば娘である。


「これが落ち着いてられるかっての! 他にも行方不明者がいるって噂じゃんか」


「まぁ、そうだけどさ」


「こうしちゃいられない! 取材に行くぞ」


 居ても立っても居られない俺は、すぐさま部室を飛び出す。


「ちょっと! 待ちなさいよ、新見!」


 ♢♢♢


 他の部活や校内に残っていた生徒から、かき集めた情報を整理すると、事件の概要はこうだ。

 なんでも数日前、取り壊し予定となっている旧校舎に遊び半分で肝試しに行った生徒たちが謎の失踪をげたというのだ。しかも、それに後追いをかけるかのように、次から次へ失踪者を量産している。


「妙だな……女生徒ばかり狙われている」


 不可解な点としては、現在、失踪中の生徒はみな女生徒いうことだ。噂の検証や怖いもの見たさで肝試しで言った男子はみな、何も起こらなかったと口々にしている。


「やっぱ変質者の仕業なのかねぇ~」


 リリスが取材メモをパラパラめくりながら呟く。


「他の場所ならいざしらず、学校内だろ? わざわざ犯行現場に選ぶか?」


「でも、今は使われてないし……生徒を狙う、変なのがいたって不思議じゃないんじゃない?」


「そりゃ、そうかもしんないけどさ」


 その答えはどうにも腑に落ちない。俺の中ではこう、そう単純なものではない事件性めいたものが裏に潜んでいるような気がするのだ。それを感じ取ったのか、リリスがあるものを渡してきた。


「そういうわけで、ほい! これ」


 リリスが渡してきたのは、小型の監視カメラであった。


「わからないなら、検証してみるべし。情報こそが私たちの武器でしょ」


「……誰が設置すんの?」


「そんなの、勇一しかいないじゃない?」


「はぁ!? 俺が?」


「私が行ってもいいけど、そのまま行方不明になったら責任取ってくれんの? こう見えても私だってレディなのよ?」


「リリスは大丈夫だろ。半分男みたいなもんだし」


 バシン! そう言い終わる間もなく、強烈なビンタがさく裂した。


「いでー!」


「ざけんじゃねっての!」


「ほ、ほら! この腕っぷしの強さ、とても女とは思えないよ」


「とにかく、今日中で設置しときなさいよね。ジャーナリズムはスピード勝負よ」


「はぁ……やっぱ行かなきゃダメか」


 こう見えても、俺、そこそこ霊感体質なのである。変なもんが見えたり、金縛りや耳鳴りにも悩まされている身なのだが……ただ、栗脇さんのピンチとあっては、男として見過ごすわけにもいかない。俺はリリスから預かった小型監視カメラを持って、旧校舎へと行くのであった。

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