第9話 VSチャンピオンー3
チャンピオンウィークが始まり、いつも以上に混雑するコロシアムの観覧席に今日は試合に出るのではなく見物に来た未来とテアの姿があった。
初日の今日のチャンピオンの対戦相手は現在ランキング8位の剣闘士ライオネル・テイマリスと剣闘人形ブリッツキマイラだ。
「さあ今年もやって参りましたチャンピオンウィーク! 今年もチャンピオンの全勝で終わるのか、それとも遂にチャンピオンに土を付ける者が現れるのか、実に楽しみです! おっと、観覧の皆様も私と同じ気持ちのようで早く試合を始めないと怒られてしまいそうですね。では早速剣闘士たちに入場してもらいましょう」
司会の合図と共にこの日の演出の為に入場口に仕掛けたらた花火の魔法式が起動し、噴き出す火花と共に挑戦者の立場にあるブリッツキマイラの背に乗って全身に猛獣と格闘したかのような傷を持つ巨漢の男ライオネルが入場する。
「まずはノースゲートから挑戦者の入場! 荒ぶる獣を自在に操るビーストテイマーライオネルと雷鳴の咆哮ブリッツキマイラ!」
観賞用の自動人形としては見かけることはあるが、ブリッツキマイラは剣闘人形としては珍しい動物型で、ライオンの体に鋼鉄の翼と蛇の頭を持つ変幻自在に動く太い尻尾を持っている。
ライオネルがシールドサークルに飛び降りたのを確認してから試合会場中央に移動したブリッツキマイラがコロシアム中に響き渡る声で咆哮を上げると、観客たちが一気に沸き立つ。
「相変わらずの実に雄々しい咆哮だ! さて、続きましては本日の主役の登場です! コロシアムの絶対王者タクスと聖騎士カイウスの入場です!」
ライオネルたちと同じ様に火花飛ぶゲートより登場したのは、先日未来たちと会った時とは違い、スーツではなく革鎧を着たタクスと、白銀に輝く鎧を着た、腰には剣を、左手には盾を持った古式ゆかしい騎士の格好をした剣闘人形カイウスだ。
「騎士と怪物、これは神話にでも出てきそうな対戦カードですね。おっと、皆さま試合開始が待ち遠しすぎて私の話など全く聞く気がなさそうですね。では御所望の通りに試合を始めましょう!」
司会のこの言葉合図となって審判が試合開始を告げる太鼓をたたく。
試合開始と共にブリッツキマイラは野生の獣のように剣を抜いてすらいないカイウスの頭目掛けて襲いかかる。
だが、タクスがカイウスのスピードを上げたことでいとも容易く自慢の鋼鉄をも嚙み砕く牙による攻撃は躱されてしまい、勢いよく閉まった口から大きな音が鳴る。
初撃が躱されたことでカウンターを警戒したライオネルはブリッツキマイラの防御力を高めることでカウンターに備えるが、カイウスはタクスの指示を受けて剣を抜くのではなく、重い鎧と盾をものともせずに大きく跳躍するとブリッツキマイラの背に馬にでも乗るかのように騎乗した。
自らの背に敵が乗ったことでブリッツキマイラは振り落とそうと試合会場中を駆け回りながら暴れるが、カイウスは見事にブリッツキマイラを乗りこなしており、一向に振り落とされる気配が無い。
「ブリッツキマイラ! 回るんだ!」
ライオネルの指示を受けたブリッツキマイラは空中に飛び上がると体を横に捻って一回転することでようやくカイウスを振り落とすことに成功したが、カイウスもただでは落とされなかった。
行き掛けの駄賃とばかりに鞘から抜いた剣でブリッツキマイラの片翼を切り落としたのだ。
落ちた衝撃で土煙を上げた鋼鉄の翼を見たブリッツキマイラは激昂した獣のようになり、残っている翼を横に広げてカイウスの胴体に叩きこもうとする。
しかしその攻撃を予期していたのか、待ち構えていたカイウスのカウンターによってブリッツキマイラはもう一枚の羽根も失うことになった。
今まで何体もの剣闘人形の胴体を二つに分けてきたブリッツキマイラ自慢の羽が失われたことで、ライオネルは一度大勢を立て直そうと距離を取るように指示を出す。
だが追い詰めた相手を逃がすほどチャンピオンの相棒たるカイウスが甘い訳もなく、再びタクスによってスピードを強化されたカイウスがブリッツキマイラに肉薄する。
何とかカイウスを引かせようとブリッツキマイラは蛇の頭を持つ成人男性の腕程ある尾を鞭のようにしならせながら打ち付けるが、スピードから攻撃力強化にタクスがマスターリングの宝石の魔法を素早く切り替えたことで威力が上がった盾による打ち払いでいとも簡単に弾かれてしまった。
弾かれながらも意志を持っているかのようにブリッツキマイラの尾が動き、弾かれた勢いそのままに軌道を変えて再び襲いかかるが、今度は弾かれるのではなく蛇の頭の下の辺りを切り付けられ、切断されてしまった。
ブリッツキマイラ自慢の武器を次々と躱され破壊されたことでライオネルは最後の手に出ることした。
「吼えろブリッツキマイラ!」
ライオネルの声に呼応して大きく口を開けたブリッツキマイラの口内が光った次の瞬間、咆哮と共にブリッツキマイラの口から稲妻が走る。
稲妻の
いくら相手が最強と名高い剣闘人形聖騎士カイウスといえど、この技には耐え切れまいと、魔力切れ寸前でふらつきながらも勝ち誇った顔をするライオネルだったが、晴れた土煙の中から現れたカイウスを見て絶望する。
「ふむ、中々の一撃だったが攻撃範囲が広い代わりに威力が分散してしまっているな。それでもカイウスの盾を砕いたことは誉めてやろう」
相手の必殺の一撃を堂々と受け止めたカイウスの盾はタクスがいう通り砕けてしまっているが、カイウス本体にはダメージが見受けられない。
こうなってしまえば殆んど決着は付いたようなもなのだが、ライオネルは奮起し、残った魔力全てを緑の宝石に回してブリッツキマイラのスピードを上げるとそのままもう一度カイウスに噛みつくよう指示を出す。
「最後まで諦めぬ闘志は見事だが、ここまでだ」
カイウスはブリッツキマイラの噛みつきを狩ろやけに避けながら横に回り込むと、上段に構えた剣を振り下ろし、首を切り飛ばした。
地面を転がる首に勢い余った胴体が突っ込み、激しく土煙を立てながら動かなくなったブリッツキマイラを見たライオネルが膝を付くのと同時に試合終了を告げる太鼓がなった。
「試合終了ー! 流石チャンピオン、ブリッツキマイラの猛攻を全て捌ききっての圧巻の勝利です! ライオネルとブリッツキマイラも見事な戦いぶりでした。皆様、素晴らしい試合を披露してくれた両者を讃えてください!」
司会に焚きつけられた観客たちからの割れんばかりの声援と拍手を背にタクスとカイウスは会場を後にした。
「今年は初戦から盾を砕かれるとは幸先の悪いスタートだな、カイウスよ」
「申し訳ありません主様」
「まあ構わんさ。……今年のチャンピオンウィークは楽しめそうだな」
これから待ち構えるであろう激しい試合に、タクスは剣闘奴隷として自ら戦っていた頃を思い出し、血を滾らせるのであった。
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