異世界奴隷少女問題を考える

久野真一

異世界奴隷少女問題を考える

 のっけから凄いアレなタイトルですね。ただ、この問題って小説家になろうをはじめとする(小説家になろうがメイン戦場ですらある)ネット小説で繰り返し見る問題なので、ちょっと私なりに見解をまとめておこうかなーと思ってこうして筆を取りました。


 この「異世界奴隷少女問題」は筆者が適当に命名した問題なのですが、一言でいうと以下のようなもはやテンプレと化した物語構造に関する賛否です(逆にテンプレになった故に最近は減ってるかもですが、異世界転生はあんまり読まないのでわからないです)。


1.現実世界でうだつの上がらない主人公が何らかのきっかけで異世界転生をする

2.主人公は転生にあたって、神様とかの超自然的存在からチートスキルをもらう

3.転生した(現世ではモテなかった)主人公が金で奴隷少女を買う

4.奴隷少女は異世界標準と違って自分を対等に扱ってくれる主人公に感激

5.奴隷少女が主人公に惚れる


 さて、このようなテンプレ展開についての態度は大きく三つに分かれます。


 一つ目は積極的否定派。まあ、個々の言い分は微妙に違うのですが、まとめると「お前、転生する前は日本人だろ。そんな金で愛情を買うようなことして恥ずかしくないの?」てのが本音だろうかと思うのです。あるいは、「そういう下衆な主人公が作中でゲスさを指摘されるのならいいけど、ゲスい部分まで肯定されていて気持ち悪い」といったところでしょうか。


 二つ目は中立派。私はそういう振る舞いの主人公をそんなに好きでない(あるいは別に主人公は他人だしていう観点からそもそもこだわっていない)けど、それで満足してる人もいるんだし、放っておいてもいいんじゃない?て感じでしょうか。


 三つ目は積極的肯定派。「そんなこと言ってもこれはフィクションだろ。それに、俺はそういう展開自体が好きなんじゃなくて、別の展開が素晴らしいから読んでるんだよ。大体、今更テンプレ化してることにキーキーわめきやがって……(以下略)。これだから現実とフィクションの区別がつかない奴は(溜め息)」こんな感じでしょうか。


 さてさて、この分析が正しいかは読者の皆様に任せるとして、積極的否定派は色々理屈並べているけど、本音はシンプルです。要はそういう人は現代日本人の標準的な感性が根っこにしみついているので、物語中でも「現代日本人の感性を持ってるはずなのに、こんな下衆な行為に手を染めているのが理解できない」って生理的嫌悪感がまず出ていると思うのです。


 その上で、その下衆さが作中で指摘されれば、嫌悪感は中和されますが、そんな主人公が全面的に肯定される「世界」自体に気持ち悪さを感じている、というのが色々観察して思ったことです。


 もちろん、そういう人も「これはフィクションである」ということは理解してますが、どちらかというとそういう欲望を描いている作者ないしは乗っかっている読者に嫌悪を抱いているというのが正確なように思われます。だから、そういう立ち位置への反論として「これはフィクションだろ」てのはちょっとずれてるんですね。まさに反発する「あなた」が嫌われているので。


 だから、積極的肯定派が反論をしても、否定派からしてみれば「俺(読者)を嫌うな」以上にしか聞こえないわけで単純に時間の無駄じゃないかというのが個人的な意見です。自分の倫理観に合わない人を嫌うのは人の性なので止めようがない。


 中立派の人については特にいう事が無い気がします。概してこの立場の人は、両者の対立を見て「まあ、どっちの言い分もわかるけど」くらいにしか思っていないので積極的に争いには加わりませんし。


 さて、最後に積極的肯定派。つまり、「別にフィクションだし誰に迷惑をかけているわけでもない。それを何か悪いことをしているかのように言われるのは納得できない」という立ち位置の人について考えてみます。端的に言えば確かに正論なんですが、問題は「そういう物語を消費して楽しむ(楽しめてしまう)性向への嫌悪」なので、いくら理屈を並べても仕方がないだろうというのが個人的な意見です。


 あるいは、そういう人にとってみれば「お前だって異世界で本当にそういう状況になったら奴隷少女買うだろ。いい子ぶりやがって」とか「フィクションを弾圧しようとしている奴らだな」と思ってるかもしれませんが「いやいや、そういう行為気持ち悪いし。いっしょにしないで欲しい」と本音で思ってる人にしてみれば、理解し難い人種にしか映らないわけです。


 ちなみに、私の正直な立ち位置を表明しておくと、いずれにしても自由だけど、行き過ぎた欲望描写(性的なものに限らない)を見るとちょっと微妙になる、というのが本音です。感情的には積極的否定派に近いのですが、とはいえそれでストレス発散になったり楽しんだりしてる人がいるし、現実に自分に害悪を与えているわけでもなし、否定するのも無粋だなあと思います。


 なお、こんな物語が流行ったら、悪影響がーとか言う人もいますが、たぶんそれは因果関係が逆だと思うんですよね。今が正社員と非正規雇用の待遇の差とか、デフレがずっと続いたせいでしんどい境遇に甘んじないといけなかった人がいるとか、そういう時代背景があって、「転生で一発逆転、異性にモテてウハウハ」ていう物語がより受けるようになったわけで、そこを責めてもしゃあないだろと思うのです。


 以上、限られた事例を観察した結果で、しかも筆者の主観が入りまくってるので全く持って正しいかは自信がありませんが、議論のたたき台になればと思って筆を取ってみることにしました。ではでは。

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