異変

『本当にごめんっ! 謝っても許されることではないと思う! でも、でも、謝りたくて…』

『あの時は裏切って、本当にごめんなさい!』

二人はまた土下座をして謝った。

『なあ…もう一つ質問していいか…? なんで、あの時はあんなことを…』

『最のことが大好きだったんだ…裏切るつもりなんてなかったんだ…』

『じゃあなんでっ!』

『最を貧乏扱いしてたグループあっただろ…? そのグループが、最ともう関わるなって言ってきたんだ…』

『突き離せって…じゃないと…おれらが…いじめをしてるって…いうぞって…』

『おれら以外にもいじめられてた女の子、いただろ? そのこをいじめてるって先生に言ってやるって…』

『いつも貧乏とか言っておれらの話を全く聞いてくれない先生に、おれらが…いじめてないと言ったところで…信じないぞって…』

『最を突き放して、グループに入るなら、今回だけは見逃してやってもいいって…』

『本当に、本当にごめん! そうしたら最も傷ついて飛び降りることなんてなかったのに! 本当にごめん! ごめんなさい!』

『おれら三人で立ち向かえばよかったんだ! 今更言っても遅いかもしれない。だけど、だけど…!』

『もういいよ。』

最くんは驚くほど穏やかに言った。

『むしろ、ありがとう。』

『へ…?』

『おれのこと、守ってくれたんだろ? 嬉しい。正直、裏切られた時はめちゃくちゃ傷ついた。でも、そういう理由なら、むしろ感謝する。ありがとう。』

『うう…本当に…ごめん…』

『ありがとう…』

よかった…二人は本当の黒幕じゃなかったんだ…

 でも、私はまだモヤモヤする。

 だって、そのいじめた人とか、車で二人を引いた人とか、そういう人にもきちんと天罰が降らないと、スッキリしないでしょ!?

「そういう理由だったのかい…本当はどんなことを言われても、最が許しても、二人のことは許さないつもりだったけど…最を守っててくれたのね…ありがとう…」

『いえ…僕たちは…』

「じゃあ、そろそろ帰りますかね…晴雨さん…ありがとう…」

「えっ!? いえいえいえいえいえいえいえいえ! 私はなな何も! していませせん!」

「あなたが行動を起こしてくれなかったら、今もこれからの短い人生も、命を落としても、空っぽの人生を送るところだった…夏くんと彰くんの誤解も解けた…本当に、晴雨さんには感謝しています。何かお礼がしたいのだけど…」

「いえお礼なんてとんでもない! 私たちは私たちのためにやっていたことで…むしろ軽い気持ちでこんな重い問題だとも知らずに、ささっと学校のために解決しようとしていた私がばかでした! 申し訳ありませんでした!」

「でも、それが結果こうして解決して、あの森先生も追い出せたし、いい結果を導いてくれたよ。」

びっくりしたぁ…いきなり私が感謝されちゃった。

「でもあの…」

「こういうときは礼を素直に受け取っておけ…後々いいことが起こるぞ…」

雷くんに耳元でこっそり囁かれた。

「えと、ありがとうございますでございます…」

「ふふ、何か困ったことがあったら言ってね…」

「はははははい!」

穏やかに微笑みかけられて、少しドキッとした…

 なんか、雪菜ちゃんと似てるなぁ…

「では、私たちはこれで失礼します。森のことはしっかりとケジメをつけますので…」

「しっかり誠心誠意、謝罪させてください。それまでは金銭での寄付をやめさせていただきますからね。」

「承知いたしました…」

そう言って、私たちは今度こそ帰った。


それから、学校はすぐに下校になり、緊急で一週間休みになった。

 きていなかったお天気組のメンバーにだけ、木野節神社で事情を説明した。

「そんなことが…」

「でも、なんでいますぐ飛び出す必要があったのさ…」

「そうだよ…学校を飛び出してから大変だったんだからな! 担任の先生もいないし、なんの放送も入らないまま先生が慌ただしく飛び出していくしさ! いつまで経っても帰ってこないと思ったら、晴雨達と一緒に校長先生まで入ってきて! びっくりしたこっちの気持ちも考えろよ!」

晴太くん達に捲し立てられたけど、私は後悔していない!

「でも、結果よかったんだから、今回のことはもう話すのやめませんか?」

「でもだな! あのな! それはけっか…なんだっけ?」

「結果論、でしょ?」

「そうだ! それだ! いいか、晴雨! もうこんなことするなよ! お前がたとえ大変でも、他の人にも迷惑がかかるんだ! 自分の問題はあくまで自分の問題で、他の人の問題じゃないんだ! わかったか!」

「うぅ…ごめんなさい…善処します…」

反省はしてないけど…

「はぁ…まあでも、最達のことが解決してよかったよ…」

そう晴太くんが言って、とりあえずその場は収まった。

 それからみんなは解散して、家に帰った。


「ただいまー」

「晴雨!」

うぅ…怒ってる…

 こういうことは絶対にお母さんのところに連絡が行くからなぁ…

「これはどういうことなの!? 全くもう! 晴雨のせいで学校全体の大騒ぎになったらしいじゃないの! どうしてくれるの!? きっちり、きっ・ち・り・説明して、もらいますからね!」

「はい…」

でも今回は私は悪くない! 自信を持ってそういえる! はず!




「はぁ…」

お母さんに説明したら、真っ先にため息をつかれた。

「あのね…晴雨…あなた…はぁ…」

「でも! けっか最くん達も救えたし、最くんのお母さんにも合わせることができたし、夏くんと彰くんの誤解も解けて、はぐくみばやしもみんなが使えるようになったよ!」

「だけどね…急に学校を飛び出して、幽霊だとか本来なら信じられないことを言って、けっか一人の先生の悪事を暴き、しかもずっと寄付をしてくださった方を怒らせ…なんて、本来ありえないことなのよ…もう…はぁ…」

「ため息ばっかりつかないでよ! なんで? なんで?」

「もう…はぁ…」

「またため息!」

なんでよ…

「いい? 晴雨…晴雨がしたことは、確かにいいこと。幽霊の…最くん? だって救えたし、先生の悪事を暴くこともできた。それはよかったこと。だけどね、だからといって、感情に任せて急に学校を飛び出しちゃダメなの。わかる? わからないかしら…晴雨のことだから、周りのことなんかに気を使わないからな…いい? あなたのやることで傷つく人もいれば、困る人もいるの。そのことはしっかりと理解してもらわないと、あなたを治すことはできないわね。」

「直すって…」

「いい? わかった? これはね、自分だけの問題だと思ってはいけないの。かといって、他の人も自分の問題を抱えていると思ってもいけないの。自分は他の人のためといえど、別の人にも迷惑をかけていることを忘れてはいけないわ。わかった?」

「よくわかんない…」

だって、他の人を助けるためなんだから、正しい行為のはずでしょ?

「いつかわかるから、他の人がそういうことをした時は、ああ、自分もこういうことをしてしまっていたんだなって思ってね。」

「うん…」

あれ…? 結局なんの話をしてたんだっけ…? ま、いっか。

 お母さんの説教がやっと終わって、ご飯を食べた。

 どうなったんだろう…最くん達も…森先生も…

「宿題がないって…暇だなぁ…」

まさかこんなこと思う日が来るなんて…

 考えてみれば、森先生、色々と変なことあったなぁ…

 生徒が行方不明なのに肝心の先生が探しに行かなかったり、

 生徒が飛び出しても、風香ちゃんに呼ばれるまで来なかったし…

 私たちがいるのにあんな暴言吐いたり…

「変な先生だったなぁ…」


 それから私は、特に何をするでもなくぼーっと過ごした。

 なんか、胸のパーツが一個無くなったみたいな、そんな気持ちだった。

 でも、このパーツは、森先生のパーツじゃないと思う。

 なんでだろ…

「晴雨! ご飯よ!」

「はーい。」

なんだか元気が出ない。

 頭がぼーっとする。

 嫌だなぁ…今日晴れだったのに…

「いただきます…」

「どうしたの晴雨? ニュースもつけないで…」

え? ニュース?

 ああ、ニュースか。

 ポチッ

ぺ4fてc「4x;ウェ。

何言ってるの? 全然頭に入ってこない。

「怖いニュースね…晴雨もそうでしょう? 晴雨?」

何? お母さん。

「晴雨! しっかりしなさい!」

お母さん…近い…









『おねえちゃん! おきて! たいへんだよ! このままじゃ! おねえちゃんが!』

「何…? またあの夢…」

『はやくおきて!』

「いやだよ。眠たいんだから。君のせいで私、最近睡眠不足なんだよ? 寝るたび寝るたび君の顔見なきゃいけなくて。」

『そんなことよりもっとたいへんなの!』

なんなんだろう? この女の子は。

『もう! もうぜったいにつかわないようにしようとおもってたのに!』

ドンッ!

 ああ…





「ん…」

「晴雨!」

だからお母さん近いって…

 っていうか、ここどこ?

 見慣れない天井、真っ青なお母さん…

 何があったの?

「晴雨! あなた倒れたのよ!?」

「た……た?」

うまく声がでない。なんで? 何がおきてるの? 倒れたって…

 ぐるぐるしてたら、バンッと扉が開いた。

「晴雨! 倒れたって本当か!」

「晴雨ちゃん!」

「こら! 静かに!」

ああ…騒がしいなぁ…

「でも、雪菜ちゃんに続いて、晴雨も倒れるって、どういうことだよ。」

「え? 雪菜ちゃんも倒れたって、どういうこと?」

「こら! 起き上がらないで!」

あ、起き上がれた。声も戻った。

「大丈夫です! ねえ、どういうこと?」

「大丈夫じゃないから!」

何がどうなってるの?

「雪菜も…倒れたんだ…晴雨と同じくらいの時間に、突然。」

「そうなの…?」

「そうなの。晴太くんから連絡があって、私たちは来たよ。」

「俺も。」

みんなそうなんだ…でも、じゃあどうして晴太くんに情報が入ってるの?

「でも、なんで晴太くんは私と雪菜ちゃんが倒れたってわかったの?」

「なんか二人がやばい気がして、それで連絡してみたら、倒れたって…なんでやばい気がしたのかは…わかんねえ…」

そうなんだ…なんでだろ…

「雪菜ちゃんは?」

「この隣の部屋。お前らほんと仲良いよな。病室まで隣同士だぞ。」

「そうなの!? お見舞いしなきゃ!」

「される立場が何言ってんだよ。」

あ、そうか。

「ねえ、倒れたのって、いつぐらい前?」

「五時間くらい前よ。」

「なんで急に…何か心当たりないのか?」

何か心当たり…あっ!

「なんか急にぼーっとして、気がついたらここにいて…」

「熱かしら…疲れたのね。ゆっくり休むといいわ。」

「うん…」

変なの。雪菜ちゃんが倒れたのも気になるし、胸のぽっかりも気になるし…最近変なこと起きっぱなしだな…

「変だなぁ…」

色々考えてたらお医者さんが来て、

「熱は出ていないのでストレスか疲労でしょう…」

なんか曖昧だな…

「実は、隣の病室の子と症状が似ているんです。何か心当たりはありませんか?」

隣の子って…雪菜ちゃん?

「私、雪菜ちゃんとは友達です!」

「何か同じものを食べたり、同じ場所に行ったりしなかったかい?」

「いえ…」

今日はお昼食べずに帰ったし、とくべつ一緒にいたわけでもない。

「おかしいですね…食中毒ではないですし…」

「何か病気なのでしょうか?」

「いえ、ウイルスはありませんでした。」

「じゃあ何が!」

「おそらく疲労だと思われます。ゆっくり休ませてください。」

「わかりました…」

お母さん、絶対納得いってない。顔がブスッとしてるもん。

「あ、こんな時間だ! 帰らなきゃ! じゃあな晴雨! 元気でな!」

「ありがとう晴太くん!」

「あ、雪菜のところにもお見舞い行かなきゃ!」

バタン!

「なんだろ…なんとなく雪菜ちゃんに負けたきが…」


 そのひは一日入院して、次の日退院した。

 あの後は特に何も起こらなかった。

「なんだったのかしら…」

「なんだったんだろうね…」

もういいや。気にしない、気にしない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る