悲しい再会

「おおおおお待ちください! もう少し、もう少し!! お待ちいただけませんか!」

きっぱりというおばあさんに、校長先生は慌てて言う。

「いいえ、この人には反省の意思はないようなので。私は今日をもって、月に一度払っていた百万円の寄付をやめさせていただきます!」

ええええええええええええええええええ!?

 ヒャ、ヒャ、百万!!!?

 びっくりだよ! しかも一ヶ月ごとに百万も…このおばあさん、何者なんだ…

 雷くんも呆然としている。

「百万も!?」

「ああそうだ。保護者の方に払っていただく金額を比較的安く抑えられたのは、いつもこの方が支えてくださっていたからだ! 八年前、ここにきた時にはすでに寄付してくださっていた! ずうっとだ! そのお金をいただけなくなったと言うと…」

待って待って、月百万を、八年以上続けていたってこと? えっと、百万かける…十二…かける…はち?

「私は十年払っているよ。」

いや違う…じゅう

 いこーる…

「い、いいいい、いちおくにせんまん…?」

一億二千万…怖い…そんなに払っているの? 寄付してくださっていたの???

「それなのに…がっかりです…この子達には悪いですが、きっとこのような先生がいるよりかはマシでしょう…」

「おおまちください! お願いします! それだけは!」

いよいよこの状態がわかり始めたのか、森先生も慌てて引き留める。

「じゃあ、何かいうことがあるだろう?」

「も、もももも、申し訳ございませんでした!!」

「誰に向かって言ってるんだい?」

「あ、ええっと…」

「言えないのね…私に謝ったって無駄よ。全ての人に謝りなさい! でも、ちゃんと反省するまでは言わなくて結構。それまでの期間は少なくとも払いません!」

そう言いのけると、今度は私たちのところにやってきた。

「ごめんね。ちょっと迷惑かけるかもしれないわね。」

そういうと、私の耳の近くに口を寄せて、

「ま、こっそり払っておくから、何にも問題は出ないようにするからね。」

と、こっそり言われた。

「あなたたちも、あまりにも理不尽だと思ったら、きちんと意見を言うのよ。」

最後にそう言って、私たちの元を離れた。

「私はここの周辺をいつもいますので、きちんとした誠意を見せて、皆さんに謝った後、私の元に来てください。その時に考えてあげましょう。学校を出るか出ないかはあなたの自由ですが、まあ、頭を使って考えれば…わかりますよね。」

わあ…おばあさん、圧が…

「は、はひぃ…」

そう言って、私たちのことなんてすっかり忘れて、森先生は出て行こうとした。

『あ! 待て!』

すると、聞き慣れない声がした。

『あのセリフ、訂正してもらおうか。』

もしかして…

「夏くん…彰くん…」

『俺たちは確かに最にしてはいけないひどいことをした…そのことは絶対に償うつもりだ…だが! 俺たちは! もう裏切ったりなんかしない! 最がどう思っているかは知ってる…本当に…すまないことをした…』

『だけど、お前に裏切ったと言われる筋合いはない! そう言って最を傷つけたこと、俺たちの侮辱もしたことを謝って訂正しろ!』

「あ、あああ…す、すまなかった! 訂正する! 悪かった、この通りだ! 許してくれ!」

そう言うと、逃げるように先生はでて行った。

 夏くんと彰くんのこと、すっかり忘れてた。

 裏切ったりしないって…何言ってるんだろう…裏切ったんじゃないの? だって、夏くんと彰くんは最くんのお母さんを呼びに行くって言って、呼びに行かなかったんでしょ? 

 そういえば…なんで二人も幽霊なんだろう…

「さあ、他の先生方も大丈夫です。情けないところを見せてしまいましたね。」

「い…いいえ…」

他の先生もポカーンとしていた…

 そして、ふらふらと帰っていった。

 まあ、私もそんなに変わらない表情をしてるんだろうけど。

「さて、雷雪さん、浜木さん、すみませんでした。これまでたくさんひどい思いをさせてきたのかもしれません。本当に、申し訳ありませんでした。」

「いえいえ校長先生が謝ることではありません。私にも悪いところがあったのかもしれないし、まあ…何度かあの先生には少し困ったことがありましたけど。」

「だとしても、何も言わずに急に学校を飛び出すのは良くありません。」

「おっしゃる通りです…ですが、今回はなかなか信じてもらえないことだったじゃないですか! 先生もきっと信じなかったですよね? そういう時はどうすればいいのですか?」

絶対に先生は信じてもらえなかったと思う。

 森先生の他にも、信じてなかった先生はいっぱいいる。そういう時、本当に危ない時、どうしたら信じてもらえて、許可が出るのか…

「そうですね…」

そうだよね…幽霊なんて、信じていない人も多い。お母さんもお父さんも信じてないもん。しかも私たち子供の言うことなんて、信じない人の方が多い。実際に見えると言っても、別の人だと言われて終わり。そうなったら、たとえ本当のことでも。嘘だと思われちゃう。かといって、全部に許可を出したら、サボる言い訳にもなっちゃうし…

「じゃあ、本当にこう言うことがあって、どうしても行かなくてはならない時は、校長室に来なさい。君たちのことは信じることができる気がする。こう言うこともあったから、きっと本当のことを言うのだろう。それに、もし嘘をついても、私はわかる自信があるからね。」

わかる自信って…こわっ!

 でもわかってくれてよかった。これで心置きなく最くんたちのことを話せる!

「じゃあ、帰りますよ。」

よし、帰ろう!


 ……………………ってちがーう!!!

 最くんたちの話を聞くためにここに来たんだ!

「校長先生! 待ってください! 私たちの本当の目的は、夏くんと彰くんの話を聞いて、どうしてこうなったのかを聞いて、作戦を立てる…」

私が言おうとすると、校長先生は唇に人差し指を当てた。

 なんで? 

 すると、雷くんが何も言わず、私の後ろを指さした。

 後ろを見てみると…

「最…最…」

あのおばあさん…最くんのお母さんが。最くんの方に近づいた。

「あ…」

そう言うことか。

「母さん…ずっと…会いたかった…私の…たった一人の…可愛い息子…」

『…俺も…母さんに…会いたかったっ…!』

するっ…

「ああ…もう一度抱きしめたい…どうして…どうしていなくなってしまったの? どうして…心配することなんて…なかったのに…」

『ごめん…母さん…』

ぽたり…ぽたり…

「うう…でも…あえてよかった…」

『おれも…母さんっ…!!』

二人はすり抜けながらも、抱き合うような形で、悲しみながら…でも、幸せそうに抱き合った…

「どうして…どうしていなくなってしまったの? あなたのこと…だいすきだったのに…」

『母さんのことは、おれも大好きだった…でも…耐えられなかったんだ…」

「辛かったでしょう…気づけなくてごめんね…もっと早く気づいていたら…こんなことにも…」

そういうと、最くんのお母さんは最くんから離れ、最くんの目を見て話だした。

「母さんね、今までずうっと、あなたのことを探し回ってたの。ずうっと…ね…」

『ずうっと探してたって…どうやって?』

「あちこちの心霊スポットを歩き回って…探したかったの。最はいろんなところに行きたがる子だったから。もし幽霊や可能性は薄いけど、それでもかけたかった。最近できた都市伝説とか、色々調べてね。そんなこんなしてたら、一部で話題になってたらしいのよ。それから色々なテレビにも出るようになったの。そんなこんなしてたら、たくさんお金が入って、働けるようにもなったから、学校に寄付を始めたの。」

心霊スポットを歩き回っていたら、テレビに出るようになったって…もしかして…

「歩く都市伝説…人探しのははって…」

あ、人探しの母っていうのは、確か数十年前、お母さんから聞いたんだけど、心霊スポットで女性がずっとウロウロして、『最〜…最〜』ってずっと言ってるって…もしかして…

「なあに? その人探しの…? って…」

「いやいやいやなんでもないですよ!? なんでもないですっ!」

なんでもないですよ! ごめんなさいっ!

「ばかっ」

雷くんにも言われちゃった…

「そう…ここの公園は何度も探したわ。それでも見つからなかったのよ。もしかしたら学校にいるのかとも思った…だからせめて、学校が潰れないように寄付金を毎月百万払っていたというのに…がっかりだわ。」

『でも母さん。おれはずっと学校にいたよ。母さんの努力は無駄だじゃないよ。』

「そう…よかった…」

『あの…』

二人が喜んでいると、夏くんと彰くんがおずおずと話だした。

『本当に、本当に…』

『『ごめんなさいっ!!』』

二人は土下座をして謝った。

『…………』

複雑なんだろうな。きっと…

 裏切った人だけど、友達だったし。何があって今ここにいるのかも何もわからないから。

『なあ…何があったんだ…?』

『それが…』

二人は頭をあげ、ゆっくりと話だした。

『俺たち…最に言われてから、最の家に向かったんだ…だけど…』

『車に…彰がはねられちゃったんだ…』

え…? じゃあ彰くんは…

『それで、慌てて救急車を呼んだんだ。』

『そんなことが…』

じゃあ夏くんは?

『でも、おれはどうしていいのかわからなくて、救急車に乗らなきゃという気持ちはあったんだけど、まずは最のお母さんを連れて行かなきゃならない。だから、また後で言おうと、その時は救急車に乗らなかったんだ。一人になったおれは、最の母さんのところまで来たんだ。その時の最のお母さんは、とても精神が不安定で…なんとか落ち着かせて、学校まで来て欲しいと言ったんだ。最のお母さんは、最がいると言ったら、半信半疑だったけどいいって言ってくれたんだ。』

じゃあ一回最くんのお母さんには夏くんはあっていたってこと?

『で、そのまま最のお母さんを連れて学校に行く途中に…』

まさか…

『多分…おんなじ…車に…』

同じ車!? ひき逃げはんだったってこと?

「あ…」

そこまで夏くんがいうと、最くんのお母さんは何かを思い出したかのように、はっと顔を上げた。

「そうだったわ…思い出した…夏くんは目の前で白い…でも少し赤い車に…救急車は呼んだ。けど…」

じゃあ今夏くんが話してたことは、忘れていたの?

『その後が大事なんだ!』

みんながシーンとしている中、夏くんが言った。

『その後、なんか自分くらいの大きさの…後悔の塊…? にあったんだ!』

『あ! おれも!』

夏くんが言ったことに、彰くんもいう。

『おれも後悔の塊にあった。成仏とかできないし、地獄に落ちるのかなって思ってたけど、そうじゃなかったんだな…で、なんか後悔の塊は、思い出深い場所なら実体化できるとかなんとか言ってきて…』

『そうそう! それと後悔の念は思い出すけど一回なくなるとか…』

『それで最のところに行ったら、ヤンキーみたいになってたから、止めようとしたんだ。でも、ずっと聴こえてなかったみたいで…』

『後から僕も同じところに行った。僕も同じ結果だった。なんでかなって思いながら、毎日を過ごしてたよ…』

『じゃあ、ずっとお前らは、あそこでおれと過ごしてたのか…?』

『うん…』

はぐくみばやしの三人の謎が解けた。最くんがずっと一人だって言ってた理由もわかった。そういうことだったんだ…

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