公園で…

真っ黒のフードをかぶっており、見えない。

 下半身を見てみると、うちの学校の制服だった。

 誰? ますますわからない。こんなに早く走れる人なんて…

「俺だ。」

そういうと謎のフードの人は、フードを取った。

 それは、雷くんだった。

「雷くんっ? 何で!」

「お前のことはよく知ってるつもりだ。お前のこういう時のカンは当たる。」

何でそんなに走れるの? そう言おうと思ったら、もう公園についていた。

「ハァっハァっハァっ」

い…息が…

「ほら、こっちだ。」

息切れもせずに雷くんが指をさして言った。

 その指の先には…

「最くんっ!」

最くんと夏くんと彰くんがいた。

『やっと話せるようになった! やっぱりここが思い出深い場所だったんだ!』

夏くんと彰くんは飛び上がる勢いで喜んでいる。

 待って待って待って。全然頭の整理が追いつかないんだけど。

「要するに、最と夏と彰は、もうここにきていて、夏くんと彰くんはしゃべれるようになった…と…」

なあるほど…





「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


「こっちで声がしたぞ!」

「こっちだ!」

先生たちの声がする。

「どうしよう、隠れなきゃ!」

「こっちだ。」

私は雷くんに連れられて、倉庫の裏に隠れた。

「公園があったぞ! ここだ!」

「じゃあ、ここが雷雪の言ってた…」

「それにしてもあのフードの男は誰だ?」

「制服が見えました。」

 ばれるかもしれない…

 気づかれませんように…

「全く、何だっていうんだ…あ…」

何かに気がついたような声がしたと思ったら、怯えるような震えた声になった。

「なに?」

「多分、最たちに気がついたんだ。」

そっか…先生たちも見えるようになったんだ。

「あ…おま…もしかして…」

『ああそうだ。俺がはぐくみばやしの都市伝説の正体だ!』

ゆっくりと見上げると、仁王立ちした最君がいた。

「ば…ばかなことを言うのはやめなさい。学校はどうしたんだ? これでも一応先生でね。」

『うるせえっ! いっつもいっつも生徒のいうことに耳を傾けないで! ふざけるな! 生徒の言っていることに証拠もないのに嘘だと決めつけるな! 常識に囚われすぎて変化を受け入れないで! 晴雨の気持ちも考えてみろよ! お前のことだから今まで何度も傷つけたんじゃねえのか? 嘘だと決めつけて!』

「そんなことはない! 俺は生徒の声をしっかりと聞き入れて!」

『嘘つけ! …と言いたいところだが、決めつけるのも良くねえ。証拠もねえのにな。じゃあ、本人の声を聞いてみようか。出てきていいぞ。晴雨たち。大丈夫だ。』

そう言って最くんはこっちを見た。

 何でっ? 大丈夫って…

「何…?」

恐る恐る出ていくと、案の定先生がすごい形相で怒鳴ってきた。

「こんなところに隠れていたのか! 今すぐ帰りなさい!」

「だから! この子達のことを聞くために! 今ここにいるんです!」

怒鳴りつける先生に、私も負けじと言い返す。

「そんなわけないだろう! 誰だこの子達は! 学校はどうしてるんだ? 余計なことに他人を巻き込むな!」

『ほーら、言った通りだ。嘘だと決めつける。』

先生の言葉を聞き逃さず、最君が言った。

「だがそんなことがあるわけないだろう! 嘘に決まってる! 君も早く家か学校に帰りなさい。雷雪の嘘に巻きこまれる必要はない。」

呆れた…ここまで信じないなんて…

 あ、ちなみに今最くんと会話してるのは森先生だよ。

『はぁ…ん?』

最くんは何かに気がついたみたいな素振りを見せてから、ニヤッと笑って言った。

『ああそういうことか。森先生、この制服に見覚えはないですか?』

いきなり最くんが敬語になって言った。

「は?」

先生が最くんにそう言われて、最くんをまじまじと見つめた。

 すると先生も何かに気がついたようで、びっくりしていた。

「もしかして…」

『ああそうだ。晴雨たちの通う学校の、昔の制服だ。先生、知ってるはずだろう? なあ、絶対知ってるよな! 先生もここの学校の出身だもんな! 俺らと同級生だもんな!!!』

ええええええ? 森先生がここの学校出身だってことは知ってたけど、まさか最くんたちと同級生なんて…

『…なあ、裕貴さんよ。俺のこと、覚えてねえのか?』

「知らない! 似たような制服があるだけだろう! そもそもなぜうちの学校の昔の制服を知っている?」

『現実逃避しすぎだ。いい加減認めろよ。俺とお前は同級生、しかも同じクラスだったなぁ。貧乏な俺のことなんて、記憶にあるだけで無駄か? なあ、森裕貴!』

「あ…もしかして…あの…最…び、貧乏…の…ほんとに…」

言い放った最君に、森先生はがくがくとおびえる。

 こんなにおびえた先生、初めて見た…

『その通りだよ裕貴。俺があの最だよ。』

「まさか…何でここに…?」

『だから幽霊になって学校にいるって言っただろ?』

「そんな…」

『まあそれは今はあまり関係ねえ。で? どうなんだ。本当は晴雨たちを偏見で傷つけてるんじゃないのか? 裕貴なら尚更な。』

森先生はしばらく放心状態だったけど、しばらくすると、今度は笑い出した。

「ふふふふふ、ははははは! やっぱりお前はいっつも他人に迷惑かけるんだな。存在しているだけで迷惑をかける。今も現に雷雪たちに迷惑をかけている。そんなんだからあの二人にも捨てられたんだ。」

『あ…』

あの二人って…夏くんと彰くん?

『そんなわけっ!』

「ないっていうのか? 貧乏だって、あれほど捨てられていたのに…」

森先生は私たちがいることも忘れて、一方的に最くんを罵り始めた。

 これ…形勢逆転…?

「なあ? そうだろう? 貧乏な家系に生まれたばっかりに、いっつもな? 生まれたお前が悪いけどな! はっはっはっは!」

どうしよう…最くんもう心ズタズタだよ! 止めなきゃ!

 そう思って先生につかみかかろうとしたら、雷くんに止められた。

「雷くん!」

「大丈夫だ。あれをみろ。」

そう言って雷くんはこっそり指をさした。

 その先には…

「…誰?」

おばあさんが、何かを握りしめて立っていた。

「なあなあなあ? そうだよな? 少しでも罪悪感というものが心に眠るのなら、早く学校から立ち去れ!」

『でもっ! そしたらっ!』

「居場所がなくなるって? お前に居場所なんかねえよ! もともとな!」

『うっ、ううっ…!』

何でそんなことが言えるの? ひどい…森先生っ!

「いつまで他人の力しか借りられないのかな? いつになったら他の人の力を借りずに生きられるのかな?」

ぽた…ぽた…

 最くんから涙が溢れる。

「なあ、いつまで他人に迷惑をかけるつもりだい? いつまで人のすねをかじるんだい? なあなあなあ?」

『うっ…ひっ…』

最くんから嗚咽が漏れ始める…

「そろそろ自分で自覚しろや!」

『うううっ…ううううううう…!』

ああ、最くん泣いちゃったよ…

 どうしたら…

「そこまでにしなさい!」

流石にもう止めた方がいいと思った時、あのおばあさんが怒鳴った。

 森先生が口を止める。

「全く、情けないね。そんなことして面白いかい?」

「何だよ…」

そのお婆さんがこっちにきて、森先生に掴みかかった。

「なんだ! いきなりきて! お前には関係ないだろう!」

「関係あるわ…だって私は…あのこの…最の母親なんだもの。」

「は?」

ええええええええええええええええええええええええええええ!?

 ほんとに!?

 最くんの話を聞いて、いつかは探そうと思ってたけど…まさかこんなところで…

「全く、あんたかい!? うちの最を散々いじめていたのは! おかげで最は…」

おばあさんは森先生を見た後、最くんを見た。

 きっと、悲しかったんだろうな。

「は…ハハッ、あんたか。貧乏の母親は! お前が貧乏なせいでオタクのお子さんはかわいそ〜な目にあってますよぉ〜」

今度はおばあさんをせめ始めた。

「うるさいねえ。あんたがこんなだから、いろんな子供たちが巻き込まれているのよ。あんたがこんななせいで、この子達もずうっと嫌な目に遭っているのではなくて?」

「はっ、貧乏人から説教を受ける日が来るとはね。」

「それほどまでにあなたは悪い人ってことよ。」

「何だと…ふざけんなぁ!」

そう言って森先生はおばあさんにつかみかかった。

「やめろ!」

すると、今まで呆然と見ていた先生たちが、森先生を抑えた。

「まったく、自分勝手な人…いい? 貧乏だからって人を差別してはいけない。大人になっても小学五年生のままなの? あなたみたいな自分勝手な人がいるから、犠牲者が増えるのね…」

「このやろう! 言わせておけば…」

「もうやめないか!」

ジタバタ先生が暴れていると、校長先生が来た。

 うわぁ…とんでもないことになっちゃった…

「校長先生…」

校長先生が来ると、先生は校長先生に泣きついた。

「聞いてくださいよぉ。この人たちがぁ…」

「黙らんか! 失礼な奴め。」

「校長先生…?」

「普段生徒を差別するだけでなく、昔いじめをしていて、生徒の前で醜態を…何ということだ…」

「違います!」

「何が違うんだ! これまでにも何度か森先生のことについて相談されることはあった。だが、君が生徒に対してそんなに悪いことをしているわけでも無いように見えた。それは見間違いだったんだな。学校を抜け出すのは決していいこととはいえない。だが、たとえ幽霊だろうと何だろうと、人を助けるために頑張っているこの意見を尊重せず、ただ嘘だと一方的になる。それは先生としてあってはならないことではないのか? 森先生。」

「だけど、幽霊なんて嘘ついてまでサボろうとする生徒にそういうことはいけないと教えるのも、先生の役目なんじゃないのですか!?」

「現に今先生の前にいるじゃないか。しかもその子を馬鹿にして、罵っていたな。幽霊だとしても、あってはならないことだ。」

「そんなぁぁぁぁ!」

「私も証拠を録音してあるわ。言い逃れはできないわよ。」

二人の発言に、あたふたする先生。

 もうなんか考えるのやめたくなるくらい、情報量が多いんだけど…

「だいたいお前が貧乏なのがことの発端だろ!? お前さえ貧乏じゃなかったら、俺は最をいじめることもなかったんだ!」

「そんな理由、通じると思ってるのかい!?」

今度は森先生はおばあさんにキレ始めた。

「まったく、貧乏人は話が通じないな! これだから貧乏人は!」

「何を言っているんだ!」

貧乏人貧乏人繰り返す先生に、今度は校長先生が言い出した。

「何を言っているんださっきから。貧乏貧乏と。このかたはいつもこの学校に寄付をしてくださるお方だ。」

「校長先生まで何言っているのですか! 貧乏人の母親は貧乏人だろ!? それともこの女は、こいつとは全然関係ねえってのか!?」

「いんや、私は正真正銘私の最の母親だよ。」

「じゃあなんでっ!」

「私は、最が…いなくなってから、せめて思い出の詰まった…最の…遊び場所だけは…取り壊さないで欲しかっだから、一生懸命働いて、一生懸命、ずううううっと寄付をしてきたわ。でも、こんな先生の生活費を出してあげていたなんて…」

「待ってください天王寺様! お願いします! 此奴は確実にクビにしますので!」

あ、最くんの苗字天王寺って言うんだ…

「ではこの人は、今までひどい仕打ちをしてきた人に、一人ずつ謝らせて…いや、この人の意思で謝らせてください。」

「はぁ!? 俺は教育してやってるんだ! 感謝してもらいたいくらいだ!」

「教育!? 人を差別して、あなたの自分の世界を押し付けるのを、教、育、と、おっ、しゃる、の、で、す、か!?」

「俺が間違うはずがないだろう! ふざけるな!」

間違えるはずがないって…どこからそんな自信が…?

「ふざけてるのはどっちですか! いっつもいっつもいっつもこんな意見を押し付けていたのね…校長先生、こんな人をいつまでも先生にしていてはなりません。この人をずっと先生にしていた校長先生にも責任はありますよ。」

「おっしやる通りでございます。」

「そんな! 校長先生!」

「あなたには少しがっかりしました。最の思い出の場所も、ここ以外に見つかったようですし、考えてみれば、最にとって学校はあまりいいものではなかったはず。もうこんな学校に寄付をするのはやめます。それでいいですね!?」

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