そちらの二人はどちら様

 晴雨視点

「…そうだ…全部思い出した…俺は…」

「ヴわああああああああん! 今までよぐたえだね!」

まさかっ、こんな悲しい過去を背負った人だとは思わなかった…

 何もわからずにずっと過ごしていたんだね…

 でも、何であそこで記憶を失ったんだろう…

「でも、一つ疑問に残るところがあるのですけど…」

雪菜ちゃん、冷静…

「はぐくみばやしの『三人』ですよね。現に三人いますし。」

そうだよ。それ私も疑問に残ってた。

「何言ってるんだよ。ここには俺しかいねえぞ。」

「じゃあ後ろの二人は?」

「は? 二人?」

そう言って、最くんは後ろを振り返った。

 しばらく見回したけど、不思議そうにこっちを向き、

「誰もいねえじゃねえか。」

と言った。

「え…? いるじゃん。」

もしかして…見えてないの?

「ねえ、そこの二人…しゃべれる?」

試しに二人に喋りかける。

 だが、何やら口をパクパクさせるも、聞こえない。

「聞こえないよ。」

「私たちには見えるけど聞こえない。最くんには見えもしない。困ったなぁー。」

「ねえ、最くんは見えるの?」

雨海ちゃんがそう問いかけると、二人はコクコクと頷く。

 どうしたものか…

「この子たちの思い出深い場所を探せばいいんじゃない?」

なるほど! それなら見えるかも。

 でもなんでここだとこの二人が見えるんだろう。

「何でここだと姿だけ見えるの?」

「多分、ここも思い出深い場所だけど、もっと思い出深い場所があるんじゃないのかな?」

なるほど…じゃあそこにいったら、最くんも二人のことが見えるかも!

「じゃあ、そこに行こうか! 最くんも! 二人も! それでいい?」

「まあ…暇だったし…いいぜ…」

最くんに続き、後ろの二人もこくりと頷いた…

「でも、途中で見失っちゃうかもしれないよ?」

あ…

 確かに…

 っていうか、この二人、誰?

 言ってた夏くんと彰くんと言う設定で話してるけど…

 ま、違ったら違ったでいーや…

「なあ、こいつらにものを渡すとそれも消えるのか?」

そっか。消えなかったらそれ持ってて貰えれば、目印になるもんね。

「やってみるか。」

「じゃあ、私のこれ持って。」

私はヘアゴムを取って渡した。

 だが、スルッと手が抜けてしまった。

「あ…」

これ、結構怖いよ。だって、そこに存在しているはずの子が、 本当は生きていなくて、魂だけの存在で、手を通したらすり抜けるんだよ!? こんなこと言ってしまっては失礼だとは思うけど、怖い…

「無理…か…うーん…何でも触れないのかな?」

「でも、何でも触れないのなら、服だって着られないと思うな…」

そっか。

「何でだろ…身につけるものだけなら触れるのかも!」

「でもそれならきっとヘアゴムを渡しても通るはず…」

それもそっか…

「…自分のものなら通るのかな?」

あ、なるほど…

「でも自分のものだったら一緒に消えちゃうんじゃない?」

そっか…そこ見落としいてた…

「うーん…」

一体どうすれば…

もう手がかりはないよ…

「もういっそのこと思い出深い場所を見つけて、見えるのを待つしかないんじゃない?」

「そうだね。」

もう手がかりないもん。奇跡を信じるしか方法はないんだよ…

「でも、この二人に関しては、何の関係性もないし、誰かもわからないし、声を聞くことすらできないよ? どうする?」

あっ…もうっ、問題だらけじゃんっ!

「なあ、その二人って、髪が少し長い男と、ボッサボッサの寝癖ヘアーの男じゃないか?」

不意に、最くんが言った。

「え?」

改めてまじまじとみると、一人はボサボサで、一人は長い髪の毛をしている。

「ほんとだ…」

「じゃあ、きっと夏と彰だ。何でここに?」

そう最くんが言うと、二人は何か言いたげに口を動かす。

 これは、当たりの予感…

「多分そうだよ。じゃあ尚更探さなきゃ!」

よぉし! がんばるぞ!

 …とはいったものの、まだ頭が混乱しているから、一回整理するね。

 この子の名前は最くん。

 昔、いじめられて、屋上から飛び降りた。

 今は魂だけの存在で、実体化(触れないけど)できるところは、はぐくみばやし。

 夏くんと彰くんっていう友達がいる。でも、貧乏だからって裏切った。のかな?

 私、いまだにここが謎なんだよね。

 だって、今なぜか最くんと同じくらいの年齢でここにいるし、同じように魂だけの存在。ここにいるのはおかしい。きっと何かがあったのではないかと予想している。と。まあ、このくらい?

「あ、授業!」

私が状況を整理しおえるやいなや、晴太くんがいきなり叫んだ。

 あ…

「授業!!!」

「晴雨ちゃん、うるさいよ。」

でも、授業の時間だよ、もう。

 でも、この事件を放っておく訳にも…

「ええい! なるようになれっ! 今日はサボるよ! もうこれは勢いに任せたほうがいいと思う!」

もう何度かサボってるんだし、これは事件だしっ!

「そうだな。」

「うん。」

「私もいいです!」

「じゃあ、何からしていくか…」

うーん…

「とりあえず、夏くんと彰くんに話を聞くために、二人の思い出深い場所に向かおうか。」

「うん!」

こうして、みんなは思い出深い場所に向かおうと言うことになった。

「雷くんと風香ちゃんも連れて行こう!」

「どうやって? みんなは普通に授業受けてるよ?」

「事情を説明して、二人にだけ抜けてもらえるように頼んでみるよ!」

「そんなんで信じてもらえるわけないじゃん…」

うっ…

「でも、勢いのまま行くことも大事だと思わない?」

「落ち着いで作戦を考えるのも大事だと思うけど。」

でも、今回のことは、一刻も早く解決したい!

「よし! そうと決まれば教室にダッシュだ! 最くん、夏くん彰くん! 待っててね! すぐに戻るから!」

「…おう。」

そう言って、私は駆け出した。

「あ!」

外に出た途端、気づいた先生が近寄ってきた。

「こんなところにいたんですか。みんな探していたんですよ! 連絡しておきますから、早く教室に戻りなさい!」

「でも先生! 実は!」

「何? 何かあったの?」

幸い先生は私の言うことを少しだけ聞いてくれた。

 でも、聞いていくうちに段々と表情が変わり、最後には怒った様子で、

「そんな嘘でっち上げてまで言い訳しないで、早く戻って謝ったほうがいいのよ。」

「違うんです! 本当のことで!」

「全く…そんな嘘をつくなんて…まあ、変にリアルな嘘をつくよりマシね…」

「だからっ!」

「もういいって。こんな話、本当なら信じてもらえないよ?」

「そうよ。」

「行きましょう?」

晴太くんや雨海ちゃん、雪菜ちゃんにも言われ、私は渋々、その場を離れ、教室に向かった。

「遅れてすみませんっ! 雷くん! 風香ちゃん! きてっ!」

「あっ! 雷雪っ! 早く座りなさい! 遅いじゃないか!」

「今はそれどころじゃないんです! 後でお説教なら聞きますから! 今は行かせてください! 雷くん、風香ちゃん、早く!」

「何だよいきなり…いくけどさ…」

「おい! こら! いくな!」

雷くんと風香ちゃんは、みんながポカーンとしている中で、立ち上がり、こっちにきた。

「で? あの三人はどう懲らしめた。」

「事情はあと! とりあえず状況の説明と作戦を話すから、はぐくみばやしまでゴーだよ!」

「おい! ちょっと待て! おい!」

「先生すみませんっ! 今日はお見逃しを!」

私たちは教室を出て、はぐくみばやしへと向かった。

 途中、またあの先生に声をかけられたが、むし。

 なぜかはわからないけど、今すぐ解決しなければいけない気がしたのだ。

 

 はぐくみばやしにつき、最くんたちのことを雷くん、風香ちゃんに説明した。

「ふーん…」

「そんなことがな。」

相変わらず二人は何というか…もうちょっとこう…いいけどさ…

「で? 作戦は?」

「あっ、えっと、夏くんと彰くんの思い出深い場所を探して、二人の話を聞こうってことになったの。何でここにいるのかとか、そう言うこと。で、そのあとは考えちゅう。」

「あっそ。」

作戦っていうか、目的になっちゃうけど。

「最くん、二人の思い出深い場所に、心当たりはない? 二人に道案内してもらおうとしても、消えちゃうなら意味ないし…」

「ああ、いくつかある。だが、そこにどうやって案内するか…」

そうだよなぁ…道案内もしてもらえないし、知ってるところならまだしも、知らないところだったら…

「ねえ、そこの場所の名前ってある?」

風香ちゃんが聞いた。

「ああ、確か…」

私は、その名前を聞いて、絶句した。

「…三年…公園…だったかな?」

「え…」

うっそ。うちの近くだから行ける! 

「あーあ、知らないや。そんな名前の公園、じゃあ別のところでもっと思い出深い場所ない?」

雨海ちゃんたちが話を進める。

「あ、ちょっと待って。私、その公園、知ってる!」

「え? 本当に?」

私が慌てて話を止めると、全員が目を丸くしてこっちを見た。

「知ってる…と思う…うちの近くにあるの。」

そう。あの都市伝説だらけの三年公園。

 私は公園が好きだけど、三年公園にはあまり近づきたくない。

 あそこは毎日人がいるから。(ベッ…別に、お化けが怖いからとかじゃっ…ないからねっ!)

「じゃあ、行こう!」

「ちょっと待って学校は?」

「そんなのいいじゃん!」

「よくないだろっ!」

今は今すぐやらないといけないんだ! 何となく、今やらなかったら大変なことになる!

「いいの! いくよ! 最くん、夏くん、彰くん、ついてきて!」

私はそう言って、引き止めるみんなを振り解き、ダッシュで門を出て、学校が見えなくなるまで駆け出した。

「ふう…ここまでくれば…」

「ここまでくれば、何?」

「ぎやぁっ!」

風香ちゃんがすぐ後ろにいた。

「学校を抜け出すのはよくないよ。帰るよ。」

「やだっ! 帰らないっ! 最くんたちは? ちゃんといる? みうしなちゃったじゃん!」

「最たちはちゃんとまだあそこにいる! 早く帰るよ!」

嫌だ、嫌だ、嫌だっ!

「風香ちゃんは最くんたちを連れてきてここにきて! 急いで!」

私、何でこんなに急いでるんだろうとも思うけど、なんかやばいことになりそうな気がする! 大変なんだっ!

「いい加減にしな! 今学校を抜け出したら、最悪大問題だよっ!」

「いいのっ! 私たちのことはどうにでもなる! 風香ちゃんたちが行かないのなら、私だけでもいくから! 早く最くんたちを連れてきて!」

「ふざけるな! どうにでもならないでしょ!? 何でそんなに急いでいるの!?」

「わからない…でも今すぐ行かないと大変なことになるんだよ! 急いでよ!」

「はぁ…」

風香ちゃんはため息をつくと、何も言わずに学校の方へと戻っていった。

「諦めてくれたのかな?」

呼びに行ってくれたと思い、しばらくここで待ってよう。


「…おかしい。」

私はたくさんの先生に囲まれながら、そう思っていた。

「何でこんなところに? 早く帰りなさい。勝手なことしないんだ。」

「だ・か・ら! 違うんです! 信じてください!」

「信じられないだろ!」

「生徒の意見に耳を傾けるのが先生じゃないんですか?」

「生徒の嘘をつく癖を直すのが先生だ!」

「嘘じゃないんですって!」

「だがあそこに行ってみたら誰もいなかったぞ!」

「だから、それは最くんが出て言ったから! だから私たちは公園に行かないといけないんです!」

もう! 何で信じてくれないのかなぁ?

「とにかく、帰るぞ!」

「いや! 今すぐ行かないといけないんです!」

「何でだ!」

「わかりません! でも、本当に行かなきゃいけないんです!」

あ、一応何でこうなったのか説明するね。

 風香ちゃんが、最くんたちを呼びに行ってくれるのかと思ったら、先生を連れてきてさ、事情を説明しても信じてもらえないし。早く帰りますよ! ばっかり。

「とにかく学校に戻るよ。」

風香ちゃんもこう言ってるし。

「いや! 今すぐ行かないと! 一刻を争うんです!」

「そんな無謀なことするな!」

私も無謀に正義を振りかざして突っ込んでいくキャラは嫌いだけど! 今はそれどころじゃないんだよ!

 もう意地になって、力づくで抜け出してしまおうか…

 ビュン!

 そんなことを思っていると、誰かがものすごい勢いで通り、私の腕を掴んだ。

「えっ、あっ、ちょっ!」

勢いのまま引っ張られ、よろけながらも走り出した。

 すごい勢いだ。

「何っ? 誰っ?」

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