七不思議の正体

それから二時間授業を終えて、中休み。

教室でもう一度作戦を確認している。

「ねえ。作戦って、なぁに?」

「私たちも入れてよぉ。」

間弓ちゃんたちだ。もうっ。まだ懲りないのかな?

「もう反省してるからさぁ。入れて?」

「ねえ。いいでしょ? 雪菜ちゃぁん。」

反省してないじゃん。とツッコミを入れたいけど…。

「反省してないじゃん。絶対。」

「え~偏見じゃぁ~ん風香ちゃぁん」

へ? 待って待って。一回一時停止。ヘンケンって何?

「偏見っていうのは、かたよった見方、考え方のことで、客観的な根拠なしに出る非好意的な先入観のことを言うの。」

あれ…? 声漏れてた? それよりヒコウイテキとかセンニュウカンとか…もうこんがらがってわかんないっ!

「今はそれどころじゃないでしょ? とにかく、今回は無理。面白い話じゃないし。」

「あっそ。じゃあいいわ。私たちに逆らう覚悟があるということね。」

「雪菜ちゃん。あんたも同罪だからね。」

「っ…」

一瞬、雪菜ちゃんが顔を歪めた気がした。多分、気のせいじゃない。

 同罪

 この言葉に反応している気がする。

「雪菜ちゃん…大丈夫?」

「…え? 大丈夫…だよ?」

動揺してる。やっぱり怖がってる。当たり前だよね。雪菜ちゃん、前の学校でもいじめられてた。転校するくらいだもの。トラウマになってもおかしくないよな…

「…いっつもいっつもおんなじようなことばっかり…何度も来ないでよ! しつこいのっ! 逆らうだとか同罪だとか、あなたたちは警察官じゃないでしょ? 私たちだって何にも悪いことしていないのに。何でもかんでも自分に関係のないことは全て遊びだと思って! いい加減にしてよ!」

風香ちゃんがついに言った。いきなり怒鳴ってびっくりした間弓ちゃんたちは、どうなっても知らないからね! とよくある捨て台詞を吐いて去っていった。

「サ、続けよ。」

さっすがだなぁ…私はこんなこと、雷の時しか言えないよ。

…って割り切るからいつまで経ってもこの能力が治らないのかな?

なんか最近モヤモヤすることが多くなったなぁ…晴れなのに。

「晴雨! もう、しっかりしろよ。」

「ああ! ごめん!」

今はそんなこと考えないで、目の前のことに集中しなきゃ!

「あっ! 5分前じゃん!」

もうっ…間弓ちゃんたちの乱入事件で、昼休みに延期だよぉ…

 私はイライラしながら席についた。


 それからやっと、やっと昼休みになった。

 中休みが終わった後はサイアクで、先生には怒られるし、掃除では水バケツをひっくり返すしさ…おかげで今私は体操服だよ。

「よしっ! 行くかぁ!」

作戦会議はしないことにした。また間弓ちゃんたちがやってきそうだから。


 全員がはぐくみばやしに行くと、まず予定通り晴太くんが入った。

「よ!」

晴太くんの明るい声がする。

「ここ、使いたいからさ、つかわして。」

「なんだよ! 勝手に入るな。オレの前で、よくそんなことができるなぁ。どうしてココにきたのか、聞かせてもらおうか。」

その後、男の子の声がする。晴太くん! がんばれっ!

「いやぁ、ね。ココ、いっつも使えなくて困ってるんだ。たまには使ってもいいかなーって。」

「なん「じゃあ次はオレが聞く番な。なんでこんなことをしている? みんなが使えなくて困ってるんだ。」

「そんなことどうでもいいだろうが! 俺の勝手だ!!」

「あのなぁ…俺の勝手ですまないからオレがきたんだ! もしそれだけの理由で、みんなに迷惑をかけるなら、今すぐココから出てけ!」

晴太くんにしては珍しい、荒い口調。

晴太くんは本気でこの3人を追い出し…みんなにもここを使ってほしいと思ってるんだなぁ。みんな人のこと考えててすごいな。私なんて自分のことで精一杯。

「なんだよ! いきなりきたかと思ったら、変なことばっか言いやがって! ここは初めに俺が見つけたんだ。俺に使う権利があるだろう。みんなのとことかきれいごと言っておいて、ただ自分のためだけに動いているだけじゃねえの? 自分家に勝手に入られるようなもんだ。正当防衛だろ。」

待って待って待って、せーとーぼーえいって何?

「正当防衛っていうのは、急迫不正の侵害に対し、自分または他人の命、権利を防衛するため、やむを得ずにした行為のことを言うの。」

へぇ…雨海ちゃん、なんでも知ってるなぁ…キュウハクフセイとかヤムをえずとかわからないところはあるけど

「っざけんなよ! なんでよりによってお前なんだ! お前らにどうこう言われる筋合いはねえよっ! 俺はここが好きだからいるんだ! 悪いか!」

「悪いから言ってるんだ! ここはみんなが使うところだっ!」

男子グループと晴太くんの声が聞こえてくる。

「いいじゃねえか! 誰もほとんど入ってこないんだし、時間の使い方に文句つけるなよな!」

結構な怒鳴り合いになってるよ…大丈夫かな…

「私、いってこようか。」

雨海ちゃんが小声で言った。そうだね。そろそろ入ってたたみかけたほうがいいかも。

「うん、お願い。」

「きをつけて…」

雨海ちゃんが中に入っていった。

「ごめんなさい。すごい声がしたのですけど。話の内容は大体聞かせてもらいました。一つ疑問に思ったことがあるんですけど、あなたたちはきた人たちを質問攻めにしているらしいじゃないですか。すぐに追い出せば自分たちの時間を確保できるのに、なぜ返さないのですか?」

雨海ちゃんが冷静な声で言う。

「そっ…そんなの決まってるだろ? 授業に遅らせて恥をかかせるんだ!」

ん? 授業に遅らせる? じゃあ、この3人も、授業に遅れるってことになるけど…

「じゃああなたたちも授業に遅れるじゃないですか。」

雨海ちゃん、ナイス質問! 

「そんなの関係ねぇだろ? 俺は誰にも邪魔されないんだ! 先生が来ないからな! だからずうっとここにいるんだ。」

「先生が…来ない?」

どういうこと? いくら問題児とはいえ、生徒だよ? 先生…なんで?

「ねえっ! 先生が来ないって…どういうこと?」

気がついたら、飛び込んでいた。

「あ…」

「お前、またきたのか? 人の話こそこそこそこそ盗み聞きして! 今まできたやつの中で一番むかつくな!」

「今までって、どのくらい?」

「そうだな…ざっと六百人くらいだ。」

「六百人?」

「みいんな追い返してやったが、ここまでしつこいのはお前だけだ。俺たちはずっとここにいるからな。先生も来ねえし。」

ずっとここにいる? 先生も来ない? それに…


 …………………私、この子達見たこと…ない。

見た目からしても5年生。5年生にこんな子たちいない。それに、たとえ5年生じゃなかったとしても、ここの学校は学年関係なく交流することが多いから、四年生か六年生だったとしても、私はこんな特徴的な子、忘れるわけがない。それでも記憶にないってことは…

「もしかして…ゆうれい?」

「はぁ? んなわけねえだろ。誰がゆうれいだ! 喧嘩売ってんのか?」

そうだよね…

「…お前ら、いまがいつか知ってるか? 何年の何月か知ってるか?」

「はぁ!? 昭和だろ! だからなんだ!」

「え! 昭和って言った? 今は平成だよ!」

「今は令和だ。お前は昭和の人間だ。昭和のいつかは知らないが、お前はずっとここにいるんだ。」

あ…令和か…元号変わったばかりだから覚えてないよ…ってそんなことはどうでもいいの! 晴太くんやけに冷静じゃない? なんで?

「っざけんな! なんでおれが死んでなきゃならねえ! なんで死んだんだ! なんで、なんで…?」

勢い余って喋り出したと思ったら、だんだん勢いを失って、最後には俯いて考え込んでしまった。

 待って待って怖い。雨海ちゃん何も喋らないし。

「俺…死んだのか?」

「さあな。でも昭和からずっとおんなじ姿でいるのは事実だな。」

ずっとおんなじ姿でいる? ってことは…もしかして…

「はぐくみばやしの3人っていう都市伝説、あなたたちのこと?」

はぐくみばやしの3人。ずっと昔からその姿でいる、3人組。ここはとってもいいところだけど、誰も立ち寄らないのはこの3人がいるから。休み時間にここに入った人は、絶対遅刻するんだ。どうして遅刻したかって聞くと、みんな絶対、「男の子3人に、どうしてここに入ったのかって聞かれて逃げられなかった」と答えたの。先生は信じなかったけど…

 そうして、ずっとなぞに包まれてきた都市伝説だけど…まさかこんなところで…

「じゃあ、本当に…?」

「ああ。はぐくみばやしの3人組の都市伝説の正体はコイツらだ。」

やっぱりぃぃぃぃぃ! 

 はぐくみばやしの3人組の都市伝説は本当だったんだ…

「あなたたちは幽霊だったというわけね。でも、幽霊だったとしても、ここにいられたら困るんだよなぁ。ここ、いいとこだしさ、いたいのはわかるよ。でも…」

この子達も大変なんだね…

「どうしたらいいかな…ゆうれいだなんて…成仏できないの?」

「そう簡単にいうなよ…何かしらのミレンがあるから成仏できてねえんだろ? そのミレンがなくなればいいんじゃねえの?」

うーん、そうだよなぁ…

「あの…」

おずおずと、雪菜ちゃんが入ってきた。

「まだ盗み聞きしている奴がいたのか! 気に食わねえ! 俺がそんなにおかしいか! 俺はいつもそうだ! 誰かに笑われて! あの時だってそうだった! みんなで俺のこと笑い物にしやがって! 人を馬鹿にして楽しいか!」

男の子がいきなり叫んだ。私が入ってきた時はそんなに言わなかったのに…

「あの時…っていつのことだ?」

「そんなこと言えるかよ!」

「でも、あの時がわかれば何か手がかりがあるかもしれないよ?」

あの時ってなんのことだろう。ここにいることと、何か関係あるのかな?

「ぐっ…わぁったよ。だが覚えてねえこともいろいろあるんだ。全部話せるかはわかんねえぞ。」

私たちは、男の子が話すのを、黙って、しずかに聞いた。

 でも、それは、話すことのできないくらい、悲しく、残酷な物語だった…











『なあ! 基地行こうぜ!』

『いくいく!』

『おれもっ!』

まだ新しい木製の床をギシギシ言わせながら、三人の男子が走り抜けていった。

基地というのは、もちろんはぐくみばやしのこと。そしてこの三人は…最(さい)と彰(あきら)と夏(なつ)は、後にはぐくみばやしの三人と言われることになる三人組だ。

『またいるぜ! あいつ、いっつも変なカッコしてるよな!』

『きもちわるいぜ!』

こそこそと声が聞こえる。

 最は、とても貧乏な家庭で生まれ育った。

 べつに最は貧乏なことを気にしていなかったし、それでもいいと思っていた。でも、やっぱりそうやってバカにされるのは嫌だった

『こっちの気持ちも考えろよ。まったく。』

最は小さく舌打ちをした。

『まあまあいいじゃん。言われるだけ言われて、後で見返してやろうよ!』

『ちっ…』

この時はよかった。何を言われても、友達がいるから。

 …いたから。


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