喧嘩とお父さん
それから、三時間目と四時間目が終わって、今日は土曜日だから、帰りの支度をした。
「さようなら。」
「さようなら。」
みんなが帰った後、私たちは、教室の後ろに集まった。
風香ちゃんは、いない。
「とっ、とりあえず、木野節神社に行かない?」
私は沈黙に耐えかねて言った。
「…そうだね。とりあえず、神社に行こうか。」
私たちは、神社の秘密基地に行った。
秘密基地について、みんながそれぞれの場所に座った。
しばらく、誰も話さない。私も含めて。
まだ二分くらいしかたってないと思うけど、私たちには、十五分くらい話してないように思えた。
いつも大体、何かしゃべっているから、違和感を覚えるほど、静かだった。
これ、何か話した方がいいよね。
「っ大丈夫だよ。時々起きる喧嘩みたいなものでしょ?」
私は、できる限り明るく言った。
「…ごめんなさい。」
少しの沈黙があった後、雪菜ちゃんが言った。
「ごめんなさい。私、転校生なのに、ここのこと何も知らないのに。ここの問題も、知らないのに、出しゃばっちゃって。」
そんなことないよ。って言いたかった。でも、雪菜ちゃんは、結構本気。軽いなぐさめはいらないかもしれない。
「そんなことないぜ。俺はいい考えだと思ったけどな。」
晴太君が言った
「でも、風香ちゃんには反対されちゃったから。」
雪菜ちゃんは晴太君が言ってもまだネガティブだ。何とかできないかな。
私が考えていると、
「あいつ一人の意見で、お前の意見が左右されるほど、簡単にお前の意見は動くのか?」
さっきまで興味なさそうにしていた雷君が、雪菜ちゃんに聞いた。
「それは…ええと…。」
雪菜ちゃんは、突然質問されて、戸惑っている。
「あいつと喧嘩したくらいで、お前はすぐあきらめるのか?」
雷君はさらに聞いた。
「それは…私だって、それはやりたい。」
雪菜ちゃんは言った。
「じゃあやればいいじゃんか。なんで風香一人の意見に惑わされてるんだよ。風香の意見なんて気にするな。やりたいと思ったらやれ。」
やりたいと言った雪菜ちゃんに、雷君ははっきりと言った。
「でも、それで風香ちゃ…。」
「でもでもうるさいんだよ! 風香のことが心配ならやるな! もっとはっきり意見を決めろ!」
風香ちゃんのことを心配する雪菜ちゃんに、雷君は厳しく言った。
雪菜ちゃん、すごい。雷君にここまで言わせるなんて。
「…うん。そうだね。私はやりたい! みんな、いい?」
雪菜ちゃんは、雷君に言われて、はっきりと言った。
「もちろん!」
「雷にそこまで言わせるなんて、雪菜すごいぜ!」
私たちは言った。
「風香のことは大丈夫だ。あいつはそんなに引きずるやつじゃねーから。」
雷君は、雪菜ちゃんが一番気にしていることを言った。
うん。大丈夫。いつもの喧嘩みたいなものだから。
「ありがとう。」
雪菜ちゃんは、嬉しそうに笑った。
「じゃあ…。」
それから私たちは、どうすればあの子たちにわかってもらえるかを考えた。
途中、風香ちゃんの言ってた、正義のヒーロー気取りと言う言葉を思い出した。
私、物語の中の主人公、基本あまり好きじゃなかったのにな。今、主人公みたいなことをしてる。
私はそんなことを思いながら、作戦を考えた。
「よし、これならいいね。」
しばらくして、日が落ち始めたころ、作戦は決まった。
作戦はこう。
まず、晴太君が中に入る。
なぜこんなことをしているのかを聞く。
多分これだけだったら言わないと思うから、そのあと雨海ちゃんが入る。
それでも無理だったら、雪菜ちゃんが入る。
私は、雪菜ちゃんが入って、まだ言わなかったら入る。
私が入る前に何か危ないことが起こりそうだったら、先生を呼びに行く。
雷君はちょっと怒りやすい性格だから、今回は参加しない。
なんではじめっから先生を呼ばないのかと言うと、先生が来たら先生が仕切って勝手に話を終わらせようとするでしょ? それで変な方向に向かって、事実がはっきりしなくなるようなことがあったらいやだからね。
「うん。なかなかいいんじゃない?」
私は言った。
「じゃあ、月曜日にね。」
私たちは作戦を覚えてから、解散した。
「…ごめんね。」
帰る途中、雪菜ちゃんが私に謝った。
もういいのに。あやまらなくて。
「いいんだよ。」
私はそう返した。
「実はね…。」
雪菜ちゃんが話し始めた。
え? 実はって、とんでもないことなんじゃ…。
私がそう思いながら話を聞くと、
「私、正義のヒーローとかが、あまり好きじゃないんだ。」
なんと! そんなにすごいことじゃなかったけど、びっくりだな。
「私もそうだよ!」
私が言うと、
「そうなの?」
雪菜ちゃんは驚いていた。
「私、みんながいればできるとか、絆が宝物とか、そういうのが苦手なの。」
私は言った。ほんとのことだよ?
「私も! 悪者にもさ、ちゃんと悪者になるまでのエピソードがあるんだけど、それとか関係なく、倒しちゃうから。」
雪菜ちゃんは、私と同じ考えみたい。
ずっとこの考えはおかしいと思いながら思ってきてたことだったから、同じ意見の人がいてよかったよ。
「あとさぁ…。」
私たちはいったん学校のことは忘れ、色々話した。
「じゃあね!」
「うん、またね。」
私たちは家について、別れた。
「ただいま!」
ドアを開けて、私は入った。
「おかえり。」
「おかえり。」
リビングから二つ声がした。もしかして…。
「お父さん!」
私は靴を脱ぎ捨て、猛ダッシュでリビングに行った。
そこには、お母さんと、もう一人…。
「晴雨、おかえり。」
肌の黒いかっこいい人、お父さんがいた。
「お父さん、帰ってたんだ!」
言い忘れてたけど、お父さんは土日も仕事で、めったに休みが取れない仕事をしているんだ。いつもほとんど会社に泊まってて、なかなか帰ってこれないから、二か月に一度しか会えないんだ。
それでね、すっごーくかっこいいんだ。お父さんだからとかじゃなくて、もうほんとに。
それでそれで、すっごく優しいから、もう完璧でしょ?
「晴雨、元気にしてたか? 今日と明日、休んでいいって言われたから、帰ってきたんだよ。」
やったあ! お父さんが来ると、楽しくなるんだ!
「よおし! じゃあ、お父さんがご飯を作ろう。晴雨、片付けてきなさい。」
「「いやいやいやいやそれはちょっと!」」
優しくて、かっこいいお父さんだけど、料理だけは絶望的に下手だから、だめ!
私とお母さんは全力で否定して、結局、お母さんが作ることになった。
私は、着替えて宿題を終わらせると、下に降りた。
「よし、晴雨、何するか。」
「お絵描き勝負だ!」
私は、結構お父さんに甘える方なんだ。全然反抗期みたいな人もいれば、私みたいな人もいる。不思議だよねぇ。
それから私たちは、夜ご飯まで絵を描いた。
「ごはんよ。」
お母さんの声がして振り向くと、いつもより少し豪華なご飯が、食卓に並べられていた。
「わあ、おいしそう!」
私たちは席に着いて、いただきますと言って、ご飯を食べた。
「おいひーい!」
あったご飯は、すき焼きと、サラダと、お刺身だった。
お父さんはすき焼きが大好きで、お父さんが帰ってきた日の夜ご飯の半分は、すき焼きになる。
「いつ食べてもおいしいな。」
お父さんは喜びながら食べている。それを見て喜んでいるお母さん。私は、この時間が大好き!
そして、ご飯を食べ終わり、お母さんは食器を洗って、お父さんはお風呂に入った。
私はと言うと、描き途中だった絵を完成させている。私は決して絵が上手なわけじゃないけど、大好きなんだ。
「おーい、出たぞ。よし、晴雨、トランプでもやるか。」
お父さんがパジャマ姿で言った。
「あ、それなら私も。」
お母さんも参加して、その日は夜更かしした。
「あ、もうこんな時間だ。晴雨、寝なさい。」
お父さんが時間が遅くなっていたのに気付き、追った。
「そうだね。おやすみなさい。」
私は素直に二階に上がり、布団で寝た。
『ねえ、おねえちゃん。』
私が気づくと、そこは真っ白なところだった。
『ねえ、おねえちゃん、たまごすき?』
声のした方を見ると、小さな女の子がいた。
「…? 好きだけど。君はだれ?」
私は卵が好きだったから、そう答えた。
『じゃあ、たまごとぎゅうにゅうだけでいきてくれる?』
私の質問には答えずに、その女の子が聞いた。
え? 卵と牛乳だけで? どういうこと?
「それは…。」
私が答えに困っていると、その子は泣きそうな顔になり、
『ねえ、たまごとぎゅうにゅうだけでいきてくれれば、いのちがたくさんからだにやどるの。ねえ、おねがい!』
と言った。そんなこと言われても…。
「私になんで?」
私は色々な疑問があったけど、私が一番気になっていたことだった。
『それはね、おねえちゃんが、わたしのきげんとおなじときに、おなじきげんになるから、いちばんあんしんしたの。』
どういうこと? 天気によって機嫌が変わる能力を持っているからってこと? でも、この子の機嫌と関係があるって?
『とっ、とにかく、たまごとぎゅうにゅうだけでいきて! じゃないと、いのちがへっちゃう!』
その子は話を進めた。
「それは今からだとむっ…え?」
私が話しながらその子の方を見ると、少しずつ透けていた。
『あ、もうじかんになっちゃった。とにかく、おねがいね!』
「えっ、あっ、ちょっ。」
私が慌てて止めるも、その子は消えてしまった…
「んっ、んん?」
私が気づいた時には、ベッドの上だった。
なんか夢を見ていたような気がしたけど…。まあいっか。
「晴雨、起きたか。」
あまり聞きなれない足音がして、ドアが開いた。
「お父さん! おはよう!」
「おはよう。」
そうだった。お父さんがいたんだ。でもお父さん早起きだなあ。もう着替えてる。
「晴雨、遅かったな。もう八時だぞ。」
え? もう八時? そんなに寝てた?
私が時計を見ると、確かに八時過ぎだった。
そんなに寝てたんだ…。
「朝ごはんが冷めちゃうって、下で母さんが言ってるぞ。早く下りなさい。」
「はーい。」
お父さんはそれだけ言うと、部屋を出て言った。
私は、休日用の私服に着替えて、下に降りた。
そこにはすでに、朝ごはんが並べられてあった。
「遅刻。」
私がご飯を見ていると、台所からお母さんが出てきて、不機嫌オーラを出しながら言った。
「まあいいじゃないか。食べよう。ご飯が冷めちゃう。」
洗面所から出てきたお父さんがお母さんをなだめた。
「もう冷めちゃったよ。」
お母さんはぶつぶつ言いながら、席に着いた。
私たちも席に着いて、ご飯を食べ始めた。
今日のご飯は、オムレツに牛乳だった。
「もいひい!」
私はオムレツに歓声を上げながら、ふわふわと食べていた。確かにちょっと冷めていた。
あっ…思い出した。今日の夢。
なんか小さな女の子が玉子と牛乳だけで生きてっていう夢だったな。
「変な夢見たな。」
それができたら確かに命が失われないで済むかもしれないけど、こっちも結構大変だからな。きっと無理なんだろうな。
私がそんなことを思いながら外を見たら、微妙に曇っていた。
あっ、話は変わるけど、今日、なんでニュースを見ないかと言うと、お父さんが許さないからなんだ。
お父さんは基本怒らないんだけど、食事の時だけは、やたらとマナーに厳しいんだ。
「こら、晴雨、よそ見しないで、味わって食べなさい。」
ほらね。ちょっとよそ見したくらいで、すぐ怒られる。
「はぁい。」
私は前を向いて、食べ始めた。
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