次の日の朝

 外は、まだ曇っていて、雨が降りそうな天気だった。

「ありがとうございました。」

公民館の人にお礼を言って、先生の前まで来た。

「中井さんのところまで一緒に行きます。雷雪さんと中村さんは、おうちに着いたら別れてください。それじゃあ、行きますよ。」

あ、紫雲ちゃんの家、私たちの家より先にあるんだ。

 私たちは、帰り道に向かって、歩き出した。

 それから、雨が降ってくることもなく、私と雪菜ちゃんの家に着いた、

「それじゃあ、さようなら。」

「さようなら。」

私と雪菜ちゃんは、紫雲ちゃんと先生と別れた。

「紫雲ちゃん、いい人だったね。」

紫雲ちゃんたちが見えなくなってから、私は言った。

 ほんとにいい人だった。初めは、なんか愛想がないな。って思ったけど、すっごくいい人だった。愛想って、優しさと関係ないんだね。

「そうだね。」

雪菜ちゃんが言った。きっと、雪菜ちゃんも同じ気持ちだよ。

「じゃあ、また明日ね。」

「うん、明日ね。」

私は雪菜ちゃんと別れ、家に入った。

「ただいまー。」

私が言うと、珍しいことに、お母さんが迎えに来てくれた。

「おかえり。よかった。」

お母さん、多分、雨だったから心配してきたんだろうな。ちょっとうれしいな。

 私はそんなふうに思いながら、靴を脱いだ。

「みんなに迷惑かけなかった?」

何だ、そっちか。ちょっとでも私の心配してくれてるって思ったのは、間違いだったな。まあ、いいか。お母さんらしくて。

「雷の時は結構怒りっぽくなったの。もしかしたら、少し迷惑かけちゃったかもしれない。」

私は正直に言った。

「そう…なんとかならないのかなあ。」

お母さんは、深刻そうな顔をして言った。

 あ、紫雲ちゃんのことと、能力を使わなくすることができるようになったかもしれないこと、言わなきゃ。

「ねえお母さん。今日ね、雨だったから、班ごとに分かれて帰ったの。そのときね、紫雲ちゃんっていう子とあってね、その子がね、能力について…。」

能力についてなんだろう。なんていえばいいのかな。

 まあ、研究って言っておけば伝わるか。

「け、研究をしてる人がいてね、その人を、紫雲ちゃんが紹介してくれるんだって。もしかしたら、治るかもしれない。」

私は言った。もし、本当に治るなら、それほどうれしいことはない。

「あら、そうなの? その子、どこに住んでるの?」

お母さんは驚きながら言った。

「あ、いけない。聞くの忘れてた。」

どこに住んでるのか聞こうと思ってたのに。

「あら、そう…。そのことについて、もっと詳しく聞こうと思ったけど…。」

お母さんは、がっかりしたように言った。

「まあ、おかえり。おやつあるわよ。」

「はーい。」

リビングに行くと、窓からオレンジ色の光が入っていた。

 もうそんな時間? と思い、時計を見ると、四時過ぎになっていた。

 二時に学校を出たから…。一時間くらいあそこにいたのか。結構いたな。

「晴雨、おやつの前に着替えちゃいなさい。」

お母さんが台所から言った。あ、着替えないと。

 私は、二階に行って、着替えた。

 もう一度下に降りると、机の上に、おいしそうなクッキーがあった。

「これ、雪菜ちゃんのお母さんから、引っ越しのあいさつにって、分けてくれたのよ。」

そうなんだ。こんな高級そうなクッキーを?

「これ、あと二袋あるから。」

「そんなに?」

私は驚きながらも、机に座り、

「いただきます。」

と言って、クッキーを口に放り込んだ。

 サクッ

いい音とともに、クッキーが口の中で二つに割れた。途端に、甘みが口の中に広がった。と言っても、そんなに甘すぎなくて、上品な味だった。

「ふわっ、おいひい。」

それは、とてもおいしくて、言葉に表すのは難しかった。ただ一つ言えるのは、上品な、とてもおいしい味だということ。

 私は、お母さんに、

「ちょっと、食べ過ぎよ。」

と言われるまで、まるで掃除機ような勢いで食べた。

「ふへー、おいしかった。あ、この時間、夜のニュースの時間だ。」

私は、勉強をする前に、ニュースを見ることにした。今日の雨のことがあるはずだから。

『風で雨が大暴走。管理人、天辺健二、報道陣の前で謝罪。』

やっぱり。

 画面越しに、パシャッ、パシャッとカメラの音がする。その中、報道陣に埋もれた男性が、

『えー、この度は、天気の予想を見ずに、無理やり雨雲を発射させたことによって、たくさんの人を、えー、巻き込んでしまったことを、心からお詫び申し上げます。』

と言った。言い終わると、また、パシャッ、パシャッと音がする。

 予想を見ずに、無理やり発射させたですって? なんでそんなことを。

 私が疑問に思っていると、また男の人が話し始めた。

『ですが、これは、雨が降らない地域を助けるための、大切なことなのです。どうか、二度は失敗しませんので、もう一度、この検証をして、雨を届けさせてください。』

男の人は、こういって、たくさんの人の中、頭を下げた。

『そして、一週間後に、もう一度、検証をすることとなりました。』

アナウンサーの人が言って、そのニュースは終わった。

 なんで、こんな日に打ち上げたんだろう。予定を変更することも、できたはずなのに…。

「晴雨、いつまで見てるの? 早く宿題しなさい。」

固まっている私に、お母さんが言った。

 私は、なんでだろうと疑問に思いながら、二階に上がった。

 宿題をしている間も、ずっと考えた。

 なんで、わざわざ風が強いときにやる必要があったのだろう。テレビではああいっているけれど、何か絶対裏がある。私がその裏に気づいたところで、何もできないのは分かっているけれど、どうしても引っかかる。

 私は宿題をしていると言っても、頭の中はそのことでいっぱいだった。だから、ふと宿題に目を向けると、マスの外に書いてあったり、一問ずつずれていたりと、大変なことになっていた。

「あー! 書き直さなきゃ。」

とりあえず、考えるの止めよう。わかったところで何もできないんだし。

 私は書き直して、宿題を終わらせた。

「晴雨―、ごはんよー!」

しばらくして、お母さんの声が聞こえた。

「はーい!」

私は返事をして、下に降りた。

 下に降りると、おいしそうなご飯があった。

 今日の夜ご飯は、炊き込みご飯に、お味噌汁、目玉焼きだ。

 そういえば、目玉焼きって、和食なのかな、洋食なのかな。パンにも合うし、ご飯にも合う…玉子焼きは和食っぽいけど…。

「晴雨、食べるわよ。」

私がそんなどうでもいいことを考えていると、お母さんが台所から出てきて、言った。

「はーい。」

私とお母さんは席に着いて、

「いただきます。」

と言って、ごはんを食べ始めた。

 実は、私、洋食の方が好きなんだけど、和食の中で洋食に勝る食べ物が、鍋と炊き込みご飯なんだ。あっ、後お寿司!

炊き込みご飯って、とってもおいしいじゃん? そして、鍋は色々な味があって、うどんにも、雑炊にもできるんだから、万能だよね。栄養もあるし。

「あ、そういえば、晴雨、さっき、何のニュースを見てたの?」

お母さんが、ふいに聞いた。

「ああ、あのニュースね。なんかね、今日の雨を降らせた人が、あやまってたよ。」

私は言った。お母さんは、炊き込みご飯を食べながら、

「その話ね。その人、一週間後にもう一回やるんだって?」

と言った。どうやらその話、知ってたみたい。

「そうみたいだね。」

また失敗しないといいけど…。

「まあ、失敗しないことを祈るしかないわね。」

「うん…。」

私は、せっかくのおいしい炊き込みご飯なのに、どんよりした雰囲気で、ゆっくり食べた。

「ごちそうさまでした。」

私は、ゆっくり食べていたせいか、思ったよりも時間が遅くて、あわてて寝る支度をした。

 そして、お母さんにおやすみを言って、目覚ましをかけて寝た。


 ピピピピ ピピピピ

「んん…。」

私は目覚ましの音で起きた。寝ぼけまなこをさすりながら起き上がって、顔を洗った。

「あ、雪菜ちゃん!」

顔を洗って目が覚めて、雪菜ちゃんと窓越しに話せるかと思い、急いで着替えた。

 着替え終わると、窓を開けた。

 まだ太陽は見えなくて、遠くにある日の光がわずかに入っている。

「きれいだな…。」

そのわずかの光がきれいで、裏に生えている雑草ですらきれいに見えてくる。

 私が見とれていると、

 キキッ キキキキキッ

甲高い音がした。音のした方を見ると、雪菜ちゃんの部屋の窓が開いていた。

「おはよう!」

私が、窓から出てきた雪菜ちゃんに声をかけると、

「あ、おはよう。」

こっちのほうを向いて、挨拶を返してくれた。

「今日も一緒に行こう! 少し遅れるかもしれない。」

私は、またあのニュースが流れることを考えて言った。

「わかった。待ってるね。」

雪菜ちゃんは嫌がることなくオッケーしてくれた。

やっぱ、雪菜ちゃん、優しいな。

 私が雪菜ちゃんの優しさにうっとりしていると、

 ドキン!

 いきなり心臓がバクバクし始めた。

「晴雨ちゃん、どうしたの?」

私が窓を開けたまま何も話さなっかったので、心配した雪菜ちゃんが言った。

 雪菜ちゃんの声を聴くと、そのバクバクはもっとひどくなった。

「あっ、い、いや、なな何でもないよ! じゃあね!」

私はこれ以上雪菜ちゃんのことを見ていられなく、あわてて返事をして、窓を閉めた。

 何なの? なんでこんなにバクバクするの? 

晴太君の恋してるんじゃないか発言が頭の中を埋め尽くす。

私、前世、男だったのかなあ。

でも、いくらバクバクしてたからって、あんな返事したら戸惑うよね。あとで雪菜ちゃんに謝らないと。

「晴雨ー、ごはんよー。」

ちょうどいいタイミングで、お母さんの声がした。

「はーい!」

私は、下に降りた。

今日の朝ごはんは、オムレツと、食パンだった。私の大好きなオムレツだ。

「いただきまーす!」

椅子に座って、ニュースをつけた。

『今日は午前は晴れで、午後から雨となるでしょう。傘を持って、お出かけください。』

オムレツにかぶりつきながら、ニュースを見た。

 傘を持って行かないとな。

「晴雨―、そろそろ行きなさい!」

お母さんの声がした。私は急いで食べて、準備をした。

 今日は意外と早くできて、雨のニュースについてが出る前に、準備を終えてしまった。

 あのニュースみたい。でも、雪菜ちゃんを待たせてるし、遅刻したらいけないし…。

 私が迷っていると、

「晴雨! 準備ができたなら行きなさい! 遅刻するわよ!」

お母さんの声が台所からした。

 すっごく迷ったけど、行くことにした。

「行ってきます!」

私は靴を履いて、家を出た。

 外に行くと、珍しく、まだ雪菜ちゃんはいなかった。

 あのニュース、見とけばよかったな。

 私がいまさら後悔していると、玄関から雪菜ちゃんと家政婦さんが出てきた。

「おはよう!」

私が雪菜ちゃんの方に行きながら言うと、家政婦さんは頭を下げ、雪菜ちゃんは

「おはよう。」

と言った。

「ごめんね。待たせちゃった?」

雪菜ちゃんは申し訳なさそうに言った。

 ドッキーン!

 また心臓がバクバクし始めた。なんでこんなにバクバクするの?

「いいいいんだよ。わわわわ私がはは早かっただけだから。」

私はバクバクする心臓を押さえつけながら言った。

 ううっ、なんでこんなに緊張してるのっ? このままはやだよっ!

「なんでそんなに緊張してるの? ふふっ、行こう!」

雪菜ちゃんは私が緊張してるのに気づいたみたい。

 でもにっこりしながら言った雪菜ちゃんを見て、緊張が解けた。

「じゃあ、行ってきます。」

雪菜ちゃんが家政婦さんに行ったので、

「行ってきます。」

私も言って、歩き出した。


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