恋の相手と雷雲

『あんたは役立たずよ!』

『未来を見れることしか取り柄がないくせに! その未来を見ることもほんの少ししかできないなんて。』

『いじめられてる? 証拠はありますか?』


「もうあんな思い、したくないな。」

私は、そう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。

 未来を見るためには、ゆっくりと目を閉じて、五秒待って、ゆっくり目を開けるんだ。すると、目を開けた先は、その場の未来なんだ。

 五秒待って、ゆっくりと目を開けると、そこには誰もいなかった。

 あ、私、もう教室に戻ったんだ。

 私は再び目を閉じて、現在に戻った。

 もう、教室に戻るか。

 私は、教室に向かって、歩き出した。

 教室に戻ると、

「雪菜ちゃん!」

晴雨ちゃんが気づいて、呼んでくれた。私が返事をしようとすると、

「はい、席に着いて。社会を始める。」

先生が来て、話すことができなかった…。


 晴雨目線に戻る

 それから、社会の授業をして、書写の授業をして、給食の時間になった。

 昨日も給食の時間はあったのだけど、雪菜ちゃんに話しかけることができなくて、しかも私があまり好きな食べ物じゃなかったから、あまり楽しく過ごせなかった。

 でも今日は、大好きな給食だから、楽しく過ごせるはず!

 ちなみに、今日の給食は、はいがパンに、ミネストローネ、ポテトサラダだよ。私は、特にミネストローネが大好き!

 私は、机の上のものを片付けて、雪菜ちゃんの方に行った。

「ねえ、一緒に手を洗いに行こう!」

「うん。」

私が話しかけると、笑顔でうなずいてくれた。

 ほわほわほわぁ

あれ? 顔がほてっとしてる。なんでだろう?

「どうしたの? 顔赤いよ。熱?」

そう言って、雪菜ちゃんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。

 ドキッ!

 今度は心臓がバクバク言ってる。なんで?

「晴雨、顔赤いな。」

近くを通った晴太君が言った。やっぱり顔が赤いんだ。

「やっぱり雪菜ちゃんに恋してるなっ。」

晴太君は続けていった。

「そっ…そんなわけないじゃん!」

雪菜ちゃんに恋してるなんて、そんなこと、あ、ありえない。

「ははっ、あわててる。雪菜ちゃんに迷惑かけんなよ!」

晴太君はからかうように言って、教室を出て行った。

 うぅー、人をからかって!

「ふんっ、あんな奴の言葉なんて気にしないで、いこっ!」

「あ、うん。」

私は雪菜ちゃんの手を引いて、水道まで行った。

 手を洗っている途中に、雪菜ちゃんが、

「晴雨ちゃん、昨日はありがとう。怒られた後、誤解だったって、お母さんがあやまりに来たの。晴雨ちゃんが本当のことを言ってくれたって聞いて…。」

と、話しかけた。何だ、そんなことか。

「いいよ。全然。」

本当にそう思ってる。雪菜ちゃんのためなら、私、何でもできる!

 あれ? 私、なんでこんなこと考えてるんだろう。もしかして、本当に恋…。

「晴雨ちゃん、晴雨ちゃん!」

ん? 何?

「晴雨ちゃん、水が!」

え? 水? 

 私が手の方を見ると、長そでの制服に、水がかかっていた。

「きゃあ!」

私は慌てて手を引っ込めた。

「あら…びしょびしょ…。」

「うぅ…晴太くんめ…許すまじ…。」


「うぅ、晴太君が変なこと言うからぁ。」

教室に戻ってから、ちょうど近くにいた晴太君に、半分八つ当たりの文句を言っていた。

「はっはっはっはっは! おれが言ったことを真に受けるなんてな!」

晴太君は大爆笑しながら、私をからかってくる。うー、そのせいで私は上半身体操服なのに。

「こら、雷雪、沢凪、運びなさい。」

文句を言ってたら、先生に怒られた。

 まあ、今日はいいか。おいしい給食だから。

「はーい。」

私は給食を取りに行った。

「では、手を合わせて、いただきます。」

「いただきます。」

給食をみんな運び終わって、みんな食べ始めた。うわぁ、おいしそう。

「いっただっきまーす!」

ポテトサラダを食べて、パンを少しかじって、いよいよミネストローネを口に運ぶ。

「んんー、おいしーい!」

ここの給食はかなりおいしいと評判なんだ。その中でも、汁物は特に。

 ふと雪菜ちゃんの方を見ると、私を見て笑っていた。

「どうしたの?」

私が聞くと、雪菜ちゃんは軽く笑って、

「いや、晴雨ちゃん、おいしそうに食べるなって思って。」

と言った。

「そう?」

私的には、普通に食べてるつもりなんだけど…。

 それから、私たちは、何気ない会話をしながら、給食を食べた。

「それじゃあ、手を合わせて。ごちそうさまでした。」

「ごちそうさまでした。」

十分くらいして、食べ終わり、みんな机を前にした。

「さあ、掃除だぁ。」

いつも、教室のほうき争奪戦が起こる。でも、私はぞうきんの方が好きだから、その争奪戦には参加しない。 

 そして、誰がほうきを取るかと言うと…。

「とったぁー!」

晴太君と、

「ふん。」

さりげなく参加している風香ちゃんだ。雷君は、大体黒板を消す。

 雪菜ちゃんは、昨日、この争奪戦を見たとき、ロッカーから一番遠いところまで行き、おびえていた。大丈夫だよと言おうとしたら、間弓ちゃんに先に話しかけられたけど。

 そして、掃除が終わり、昼休みになった。

「ねえ、みんなで鬼ごっこしようよ!」

私がみんなの前で言った。

「いいぜ。」

晴太君が言う。風香ちゃんと雷君も、

「うん。」

と、賛成してくれた。雪菜ちゃんも、

「私も行きます。」

喜んで参加してくれた。雨海ちゃんは、

「本返してから行くね。」

と言って、先に教室を出た。

「じゃあ、いこー!」

私たちも、雨海ちゃんに続いて、教室を出た。

 下駄箱で靴を履いて、校庭に着いた。

うちの学校の校庭は、一、二年生と、三年生以上の学年で、校庭が分かれていて、三年生以上の学年の人は、一、二年生の校庭に入っちゃいけないんだ。一、二年生の方のグラウンドは、しょうグラと呼ばれていて、三年生以上のグラウンドは、だいグラって呼ばれているんだ。

しょうグラとだいグラは結構違って、しょうグラは小さい代わりに遊具がいっぱいあって、だいグラは大きい代わりに遊具がないんだ。私はしょうグラの方が好きだったなぁ。

「よし、遊ぼう!」

私たちは、だいグラに向かって、走り出した。

「おにきめおにきめおにだよ。あ、風香ちゃんが鬼だぁ。」

風香ちゃんが鬼となって、鬼ごっこは始まった。いやだなぁ。風香ちゃん、速いもん。

 風香ちゃんは走るのが速くて、女子だと学年一位、男女合わせても二位なんだよ。ほんとに。

 ちなみに、一位は誰かと言うと…

「雷、タッチ。」

そう、雷君。

 雷君は逃げるのは苦手だけど、追いかけるのは速くて、気が付いたらタッチされてるの。

「晴雨。」

ん? 何?

「雷君? あ…。」

「タッチ。」

ほらね。雷君は気が付いたらタッチされてる。本当に速いんだ。

「くっ…行くぞー! いーち、にーい、さーん…。」

ちなみに私は…風香ちゃんと雷君は到底タッチできない。

「きゅーう、じゅう! よし、行くよー!」

今日は雪菜ちゃん追いかけてみようかな?

「待てぇー!」

私は雪菜ちゃんに向かって走り出した。

 途中から雨海ちゃんも参加して、鬼ごっこはますます盛り上がった。

 雪菜ちゃんは私より足が速くて、捕まえられなかった。

 キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴った。ふと周りを見てみれば、私たち以外、誰もいなくなっていた。

「あっ、いけない! 急がなきゃ!」

私たちは、鬼ごっこをして疲れ切っている体を無理やり動かして、走って教室まで戻った。

「よしっ、ギリギリセーフ。」

先生はまだ来ていなかった。私たちは急いで席に座り、五時間目の授業の準備をした。

 しばらくしても、先生が来ないので、みんなざわざわし始めた。

「先生、来ないね。」

「何かあったのかなあ。」

みんなが心配そうにささやいている。ほんとに、こんなに来なかったことないよ。

 すると、後ろの雪菜ちゃんが、

「ねえねえ、いつも先生こんなに来ないの?」

と、話しかけてきた。

「ううん、いつもは(五分くらいしか)遅れないんだけど…」

私は雪菜ちゃんの方を見て言う。どうしたんだろう。

 それから十分後、さすがに遅いと思い、私が席を立って、

「ちょっと先生いないか見てくるね。」

先生を探そうと、ドアを開けたその時、

 ピーンポーンパーンポーン

全校放送のチャイムが鳴った。

 何? 先生のことかな?

『全員、その場で聞いてください。』

何だろう。いやな予感がする…。

「何だろう。なんか、怖いね。」

みんながザワザワ騒ぎ出す。私は、席に戻り、座って耳を澄ました。

『ニュースで聞いている人もいると思いますが、雨雲メーカーの会社が、雨を降らす機械を作りました。』

先生が言った途端、ひゅっと息が止まった。いやだ、その先は言わないで。

『その機械を、外で実験していたところ、風の影響で、雨雲が飛んで行ってしまったそうです。』

いやだ…いやだ…。

『その雨雲は、水蒸気をものすごい勢いで吸って、雷雨となって、こっちに近づいてきているようです。今すぐ皆さんを家に帰したいところですが、家に帰るまでに雨雲が来るかもしれません。』

いやだ。いやな予感が当たった。私が雷雨に巻き込まれたら、どうしたらいいの? 雷雨は今まで経験したことがない。どうすれば…。

『なので、今、緊急会議が行われています。皆さんは、その場で、落ち着いて、待っていてください。』

 ピンポンパンポーン

みんなが静まり返る中、放送の終わりのチャイムが響いた。

 なんで…なんで私が予想できることを予想しないの? 私、小学生だよ?

「晴雨ちゃん、大丈夫だよ。」

雪菜ちゃんが励ましてくれる。でも、説得力のない励ましは、私の不安をさらに増やすだけだった。

 しばらくして、先生が戻ってきた。

 ちなみに、私は帰りたかった。雷雨なんて、最悪の性格になるに決まってる。それなら、お母さんには悪いけど、家に帰っておとなしくしたかった。

 先生は、黒板の前まで来て、深刻な表情で、言った。

「今日は、今から帰って、家で過ごすということになった。」

やった。よかった。これから雷雨が来たら、大変なことになってたかもしれない。

「いいか? みんなは、それぞれ帰る方向が同じ人と、班になる。それぞれの班ごとに、つきそいの先生が来る。その班で、帰ってもらう。」

それまでに雷雨が来ないことを祈ろう。

「それじゃあ、帰りの支度をして。」

先生の合図で、みんなあわただしく帰りの支度を始めた。私も、かばんを取って帰りの支度をする。

「大変なことになったね。家に帰るまで、雨雲が来なければいけど…。」

雪菜ちゃんが、心配そうに言った。ほんとにそうだ。みんなに迷惑がかかるかもしれない。

 みんなが帰る支度をすると、先生が一つの紙を見ながら、話し始めた。

「えー、これから班を説明する。呼ばれた人は、それぞれの場所に行くように。」

あ、そうなんだ。それなら雪菜ちゃんと同じ班かな。

「まず、一班。田村、濱木…。」

風香ちゃんの班が呼ばれていく。ちなみに、間弓ちゃんたちも、風香ちゃんち方面なんだ。

「次、二班。沢凪、天野…。」

「次、三班。雷雪、中村。」

あれ? 三班、私と雪菜ちゃんだけなんだ。っていうことは、雪菜ちゃんが引っ越してこなかったら、私だけだったんだ。

「一班は俺、二班は二組の瀬戸先生、三班は三組の中島先生が付きそう。それぞれの班は、それぞれのクラスに行く。これから、校内放送が…。」

ピンポンパンポーン

先生が話しているうちに、校内放送のチャイムが鳴った。

『これから、下校となります。それぞれ言われたところへ行き、人数がそろったら、下校してください。』

ピンポンパンポーン

「というわけだから、移動して。」

先生は、さっきまでの話を止めて、移動の合図をした。

 私たちは、かばんを持って立ち上がった。

「雪菜ちゃん、行こうか。」

私は雪菜ちゃんに言った。

「うん。」

雪菜ちゃんと私は、三組に行った。

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