ドキドキとムカムカ
「へっ?」
不思議そうにしている雪菜ちゃんに、
「あの三人は、たとえ雪菜ちゃんが自分の意見を言えても、無理やり誘ってきたと思うよ。風香ちゃんとのやり取り、見てたでしょ?」
私は言った。ほんとにあの三人は、無理やりでも誘ってくる。断ったら、陰口をたたかれる。ほんとに困った三人なんだ。
「あ…そうなんだ…。でも、そんなことしてたら、みんなから嫌われちゃうよ。」
雪菜ちゃんが言った。
ちょっと待って、いま、みんなから嫌われちゃうって言った? 自分にひどいことした子のことを心配してるの?
雪菜ちゃん、優しいな。自分が悪魔に見えてきたよ。なんでいやな事させられた人のことを考えられるの? 優しすぎない? 雨海ちゃんですらそこまで優しくないよ。(雨海ちゃんには失礼だけど。)
「晴雨ちゃん、どうしたの?」
私が雪菜ちゃんの優しさに驚いていると、雪菜ちゃんが心配そうに言った。
「あのさ、みんなから嫌われちゃうって、間弓ちゃんたちのこと、心配しているの?」
私は思い切って訪ねた。すると、雪菜ちゃんは不思議そうにしながら、
「そうだよ。何か変なこと言った?」
と言った。ええ? すごくない? 私、神様みたいっていう表現が嫌いだけど、今回は雪菜ちゃんのこと女神さまって思っちゃった。
「いや、あのさ、雪菜ちゃんをピアノに遅らせるっていうひどいことしたのに、なんでひどいことした本人のことを心配できるの?」
「え? だって、みんなから嫌われていいことないじゃん? それに気づいてないんだよ? 気づかせてあげた方が絶対いいのに。みんなは違うの?」
私たち、みんな、間弓ちゃんたちのこと、ずっと嫌いって思ってたけど、考えてみれば、そっちに気づいて、これからみんなで仲良くした方が、私たちのためにもなる…。
「雪菜ちゃん、すごいね。」
「なんで?」
「だってさ、普通はみんな仕返ししてやるとか考えるのに、さ。」
「そう? 普通じゃない?」
やっぱり雪菜ちゃんはすごいや。じゃあ、さっそく間弓ちゃんたちと話そう! と言いたいところだけど、まずは風香ちゃんのこと、先生が勘違いしてるところを直さなきゃ。
「じゃあ、間弓ちゃんたちにそのことを言う前に、先生に風香ちゃんは悪くないっていうことを話さなきゃ。」
私は雪菜ちゃんに言った。雪菜ちゃんは、しばらく何のことか分からなかったみたいだけど、私が、
「あの押し合いの時に、先生が誤解して、風香ちゃんのことを怒ったでしょ?」
と言うと、雪菜ちゃんは、ああ。と言って、
「そうだね。」
と、うなずいた。
「雪菜ちゃんにも協力してもらうけど、いい?」
「もちろん。私にも責任があるし…。」
よし! これであとは実行するだけ。
私が心の中でガッツポーズを決めていると、雪菜ちゃんがこんなことを言い出した。
「あのさ、おとといに、私が入った木の奥のスペースに、私たちと同い年くらいの男の子たちがいたでしょ? 私、あの子たち、あのままだと、間弓さんたちと同じで、みんなから嫌われてしまうような気がするの。」
あの自分勝手男子たちのことも気になるの? 雪菜ちゃん、優しすぎるにもほどがあるわ。
「そ…そうね。その子たちのことも、また考えようか。」
私は、とりあえず言った。雪菜ちゃん、優しい! 私がほんとに悪い人に見えてくる。
私が雪菜ちゃんの優しさに驚いていると、
「あ、学校着いたよ。」
雪菜ちゃんが、学校を指さして言った。あ、もうそんなに歩いたんだ。あっというまに感じたな。
「あの…昨日は、ありがとう。何も言えない私のこと…怒られてまで…風香ちゃんも、追いかけてきてくれたのに…。」
下駄箱で上履きに履き替えて、階段を上っているときに、雪菜ちゃんが言った。
「いいって。私たち、友達じゃん!」
そんなに気にしなくてもいいのに。あれ? 雪菜ちゃん、何も言わない。
「雪菜ちゃん?」
私が話しかけてみると、雪菜ちゃんは、ふわっと顔を上げ、
「ありがとう。友達になってくれて。」
と、笑顔で言った。
ズッキューン!!
私は女の子だというのに、その雪菜ちゃんの笑顔に、胸がバクバク言い出した。
女の子でもこれだというのに、男の子だと、もっとひどいことになってただろうな。絶対雪菜ちゃんに恋してた。
「どうしたの?」
雪菜ちゃんが、私の顔を覗き込んだ。
ドキン!
「ああ、なな、何でもないよぉ。ほおら、速くいかないと、ち、遅刻するから、速くいくぉう!」
あ、言葉がなまっちゃった。それでも雪菜ちゃんは、納得してくれたようで、
「そうね。行きましょう。」
と言って、階段を上って行った。あ、私も行かなきゃ。
私と雪菜ちゃんは、階段を上り、教室に着いた。
ガララララッ
私は教室のドアを開けて、
「おはよう!」
と言った。私と雪菜ちゃん…っていうか、ほとんど雪菜ちゃんの周りに、晴太君たちが集まった。
「よかった! 雪菜、晴雨と登校したんだ。よかった!」
晴太君が言うと、雨海ちゃんも、
「よかった。私たちのこと、嫌いになったらどうしようかと…。」
うー、雪菜ちゃんにばっかり。雪菜ちゃん、戸惑ってるじゃん。
私がすねていると、
「晴雨。」
風香ちゃんが話しかけてきてくれた。
ううっ、こういう時、風香ちゃんは真っ先に、私のところへ来て…。
「誤解を解くために、雪菜に協力してもらえるよう、頼んだ?」
私にお疲れの一言も言わず、できたかどうか聞いてくる。ふんっ、誰だって私のこと、お疲れって言ってくれないんだ。隣だから当たり前みたいにいってっ…。
「わかってるよっ、できたよ、雪菜ちゃんは一緒にやってくれますよっ!」
私が言うと、風香ちゃんは、
「私の誤解を解くために協力してくれるって、ほんと?」
雪菜ちゃんに質問した。もちろん、雪菜ちゃんは、
「私のせいで先生に誤解されたのだもの、もちろん。」
と言う。雪菜ちゃんに聞くなら私に聞かないでよ!
私の心の叫びも届かず、風香ちゃんは雪菜ちゃんに、
「ありがと。」
と言う。ふん、いいもん。もう慣れてるもん。
私は、少しふてくされながら、席に着いた。
それから、担任の先生が来て、(風香ちゃんがすごい目で先生を見てた。)朝の会になって、授業が始まった。
「では、金曜テストを行う。あ、中村、金曜テストと言うのは、月曜から宿題で出した漢字を、金曜の一時間目に行うテストのことだ。今回は中村にも用紙は渡すが、中村のは成績には入れないから安心しろ。じゃあ、用紙を配るぞ。」
先生はそう言って、テスト用紙を配り始めた。
大変。今週のテスト勉強、水曜からほとんどやってない。どうしよう。ああ、どうしよう。
「十分だ。はじめ!」
あわわ、全然わからない。こんなことなら、勉強はしっかりやっとくんだったぁ。
私の後悔もむなしく、あっという間に十分が過ぎていった。
「終わり!テスト用紙を後ろから持ってきて。」
ああ、無理だったぁ。
私が絶望のどん底に落ちていると、後ろの雪菜ちゃんから、
「はい。」
テスト用紙を渡された。私は雪菜ちゃんのテスト用紙に、私のテスト用紙を重ねようとして雪菜ちゃんのテストを見た途端、びっくりした。
全部漢字が埋まっている。しかも、私が火曜日まで練習したであろう漢字ばかりだ。あっ、これか、あ、この漢字だったのか。
「雷雪、早くしろ。」
あ、いけない。テスト出さなきゃ。
私は、自分の全然できていないテスト用紙を重ねて、前の人に渡した。
それから、国語の授業をやって、二時間目に算数をやった。どちらの授業も、雪菜ちゃんが注目の的となった。国語では、物語の音読で、みんなが涙ぐむような音読をして、算数の授業では、正確に答えた上に、先生以上に分かりやすい説明をした。
それに比べて私は、先生にあてられても、答えどころか、公式すら答えられなかった。先生にため息をつかれるくらいだ。
そして、休み時間…。
「じゃあ、まず、風香ちゃんが本当のことを話そう。それで、先生が何も納得してくれないようだったら、雪菜ちゃん本人に話してもらおうか。それでいい?」
私たちは集まって、先生に納得してくれるための作戦を考えていた。
「うん、いいんじゃないかな。」
「それがいいと思います。晴雨ちゃんたちが言っても、風香ちゃんが嘘をついたと思われるから、私が言います。」
みんな納得してくれた。じゃあ、さっそく実行だ。
「先生は職員室にいるはずだから、さっそく行こう!」
私たちは、職員室に行った。
職員室に行くと、風香ちゃんと雪菜ちゃん以外は、職員室近くの階段で、会話を聞いていた。
「失礼します。森先生いますか?」
風香ちゃんが言った。さあ、どうなるかな。
「森先生、田村さんが呼んでいますよ。」
先生の声が聞こえた。よし、先生はいるね。あとは風香ちゃんと雪菜ちゃんに任せよう。
「あの、先生。昨日の帰りのことなんですけど。」
風香ちゃんが、怒りを極力抑えたような声で言った。まあ、風香ちゃんにしてはよく抑えた方だよ。
「何だ? まだ言い訳するのか?」
風香ちゃんの堪忍袋の緒が切れるのが分かった。私たちの位置じゃ、風香ちゃんは見えないのに。
「私の言うことも聞いてよ!」
風香ちゃんの怒鳴り声が聞こえた。いや、先生にその言い方は…。でも、ふうかちゃんにしては耐えた方だ。
「何だ、その言い方は!」
続いて先生の声も聞こえる。いつもなら、
「いや、風香ちゃん…。」
って思うところだな。でも、今日は先生が悪い。
「先生が私の言い分を聞かずに勝手に私が悪いって決めつけるからでしょ?」
「何か違ったのか?」
先生と風香ちゃんが言い争っている。風香ちゃん、頑張れっ!
「昨日は、雪菜はピアノだったの! それを間弓たちが無理やり誘ったの! だから私が止めてたところを先生が勝手に誤解しただけ。」
「本当か? 中村。」
よし、その調子で押し切って!
「はい。昨日はピアノなのですが、間弓さんたちが遊ぼうと誘ってくれました。なかなか意見を言えない私が、誘いを断り切れなくて、困っていた時に、田村さんが来てくれたんです。」
「な、そんなわけないだろう。中村、田村に脅されたんだろ? 先生に本当のことを言いなさい。」
うわぁ、先生、なかなか認めないなぁ。普通、習い事があったっていったら、すぐに折れると思うのに…。でも、雪菜ちゃんが言えば、きっとわかってもらえるはず。
「今言ったことに嘘はありません。田村さんが言っていることも本当です。」
雪菜ちゃんが言った。よし、いいぞ。
「じゃあ、あの三人に聞いてみよう。それならいいだろう。」
「なっ。」
えっ、それだったら、間弓ちゃんたちが嘘をつくに決まってるじゃん!
「先生! それだったら三人は嘘をつくに決まってる!」
そう! 先生、納得してよ。
「とにかく呼んでくる。ここでおとなしくしてろ。」
待って! 上に上がる!? それなら、ここの階段を使う! 大変! 盗み聞きしてたことがバレちゃう!
私たちは、顔を見合わせ、
「どうする?」
「走って間に合うかな。」
「無理だよ。」
今は風香ちゃんが止めていてくれるけど、それもあと数秒だ。
どうしよう…
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