誤解
私は教室に戻った。押し合いをしたせいで、少し疲れた。
ドアを開けると、晴太が真っ先に気づき、
「風香っ。」
と言った。私、どうやって言えばいいの? 聞かないで…。
「どうだった。雪菜、家に向かったか?」
ああ、聞いてしまった。晴太が、雪菜のことについて聞いちゃった。
私は、悔しさから何も言えず、ただ首を横に振ることしかできなかった。みんなが、いっせいに顔を驚きの顔に替えたのがわかった。
「それ、ほんとか?」
雷が聞いた。普段なら、こんなところで冗談言わないよ。というところだけど、今回は、もう本当に、何も言えない。
私が黙っていると、いきなり雷が私の胸倉をつかみ、
「なんで追わなかった! 捕まえるまで追わなかったんだ!」
と言った。いつもならキレてるな。
「おい、そこまですることじゃないだろ!」
あ、晴太がかばってくれてる。
「そうよ! 風香ちゃんだって、頑張って追いかけたじゃない!」
雨海もだ。
「落ち着いて、雷君。」
晴雨が雷をなだめてくれた。雷は、まだ怒ってるっぽかったけど、私を離した。
「風香ちゃん、大丈夫?」
晴雨が駆け寄ってきた。そして、私の顔を見ると、はっとした表情になった。もしかして、私が半泣きだってこと、気づいたのかな?
「何があったの?」
晴雨が聞いた。話したくない。話したくないけど、話さなきゃ。
「私が教室を出た後、玄関で追いついたの。それで…。」
私は、みんなに、起こったことを話し始めた…。
風香が話し終わった。晴雨目線に戻る
「…っていうわけだったの。」
風香ちゃんが話し終えた。
「そうだったんだ…。」
いつもの風香ちゃんなら、絶対に雪菜ちゃんをピアノに行かせることができるはずなのに、ピアノに連れていけなかった理由がわかったよ。風香ちゃんはそこらの女の子(私も含めて)よりずっと体力があるから、あのまま先生に見つかっていなければ、力ずくで雪菜ちゃんをピアノに送れたと思う。
「まあ、運が悪かっただけだよ。追ってくれてありがとう。」
私はひとまず風香ちゃんにお礼を言って、これからどうするかを考えることにした。
「うーん…。」
今から雪菜ちゃんを追いかけても間に合わないだろうし、雪菜ちゃんのおうちの電話番号知らないし…。
私たちが考えていると、
「まだいたのか。早く帰りなさい。」
先生が来た。とりあえず秘密基地まで行くか。ここにいたからって雪菜ちゃんが戻ってくれるわけでもないし。
「はーい。」
私が返事をして、私たちは教室を出た。風香ちゃんは、ドアを閉めるとき、先生の方を思いっきりにらんでいた。
私たちは、傘をさして秘密基地まで、何も話さず行き、それぞれの場所に座った。ここは、大きな葉っぱと大きな木に守られてて、雨は入ってこないんだ。
しばらくして、先に口を開いたのは雷君だった。
「風香が悪い。」
「そんなことない!」
雷君の言葉に、風香ちゃんも含めて反論した。そんなわけない。風香ちゃんは頑張って追いかけたんだもん。
「だろ? だから先生に言ってやろうぜ。風香は悪くないって。」
……へ?
私たちはしばらくぽかんとしてしまった。しばらくして、ようやく意味がつかめてきた。雷君は、風香ちゃんが悪いって言ったのは嘘で、先生に言ってやろうということを言うために言ったんだ。
「そうだね。風香ちゃんは悪くないんだから、先生に本当のこと、話そう。」
雨海ちゃんが言った。そうだよ! こんなに味方してくれる人がいるんだから、きっと大丈夫。雪菜ちゃんにも話そう。
じゃあ、今日はこれで解散にしよう。
「じゃあ、日も暮れてきたし、また明日言おうか。」
私が言うと、みんなもうなずいて、今日は帰ることにした。
「じゃあね。あの…ありがとね。ごめんね。」
風香ちゃんが別れ際に言った。
「うん! いいよ! また明日ね!」
私はそう言って、歩いて行った。
それから、晴太君と雨海ちゃんと別れ、私は家に帰った。
「ただいまー。」
と言うと、お母さんが、すごい剣幕で、迎えてくれた…というか、待ち構えていた。
あ…大変。お説教タイムだ。
「で? いうことは?」
私は、リビングの真ん中で正座させられ、お説教を受けていた。うー、今日は私、悪くないのに。
でも、そんなこと言っても、お母さんは信じないだろうしなぁ。早く終わらせよう。
「遅れてしまいモウシワケありませんでした。」
私は、うつむいたまま言った。ううー、クツジョク…
「これからは遅れるならあらかじめ言っておいてよね。」
お母さんが言う。
「はい。」
「よろしい。夜ご飯にするから、着替えて勉強しちゃいなさい。」
仕方ない。勉強しちゃおう。あ、でも、先に雪菜ちゃん家に行って、今日雪菜ちゃんが遅れた理由について話さなきゃ。
「あっ、先に雪菜ちゃんのおうちに行っていい? 用事があって。」
私がそういうと、お母さんは、気迫にも似た勢いで、
「何時に帰る?」
と聞いてきた。何時だろ。今が五時十五分だから、長くて五時半くらいかな?
「長くて五時半くらい。」
私が言うと、お母さんはため息をついて、
「まあ、隣だからいいか。行ってらっしゃい。」
と言ってくれた。考えてみれば、お母さんがこんなにも帰る時間にこだわってるのは、私のこと大切に思ってくれてるからなんだよね。
「いってきます。」
私は、さっき脱いだばかりの靴を履いて、家を出た。
雪菜ちゃんのおうちに着くと、インターホンを押した。
『はーい。あら、どなたですか?』
聞いたことのない声がした。誰だろ。雪菜ちゃんのお母さんかな。
「雪菜ちゃんのクラスメイトの雷雪晴雨です!」
『ああ、お隣さんのお子さんね! ちょっと待っててください!』
しばらくして、ガチャっとドアが開き、きれいな女の人が出てきた。
「こんにちは。私は雪菜の母です。何か用かしら。」
雪菜ちゃん、見た目はお母さんにだな。って、ちがう! 本題に入らなきゃ。
「あの…今日、雪菜ちゃん、ピアノに遅れませんでしたか?」
私が言うと、雪菜ちゃんのお母さんは、驚いた顔をして、
「遅れたわよ。雪菜には、いくら友達ができてうれしいからって浮かれてちゃだめだって注意してた…」
「雪菜ちゃんが悪いんじゃないんです!」
思わずさえぎってしまった。いけない。でも、言おう!
「私たちが悪いのもあるんですが、私たちのクラスメイトが、ピアノだからと断る雪菜ちゃんを無理やり誘ったんです! 昨日、私たちが雪菜ちゃんと遊んだのが原因なんですが…。」
私は、雨の日にしては珍しくはっきりと言った。雪菜ちゃんのお母さんは、驚いた顔をしている。よかった。言えた。
「そうだったの…。私、てっきり雪菜が浮かれたのかと…。」
雪菜ちゃんのお母さん、誤解が解けたみたい。よかった。
「そのことが言いたかっただけなので。失礼します。」
私が家に戻ろうとすると、
「ちょっと待って!」
雪菜ちゃんのお母さんが引き留めた。何だろう。
振り返ると、雪菜ちゃんのお母さんが、
「雪菜と仲良くしてくれてありがとう。あの子、実は、先が読める能力を持っていて…。」
ああ、そのことか。
「そのことなら雪菜ちゃんから聞きました。雪菜ちゃんをいじめることは、絶対しませんよ。」
私が言うと、雪菜ちゃんのお母さんは、安心した顔になり、
「よかった。できれば、能力を使わせないでもらえるかしら。」
と言った。ちょっと見てもらいたいところもあるけど、
「わかりました。みんなにも伝えておきます。では。」
みんなも、私の能力を理解してくれて、性格が変わっても、仲良くしてくれる。
私は今度こそ、家に戻った。
「ただいまー。」
靴を脱ぎながら、リビングに向かって叫ぶ。
「おかえりー。ご飯できるから、勉強は後にして、着替えちゃって。」
お母さんから返事が返ってきた。私は、二階に上がり、着替えて、下に降りた。
「今日はさけのホイル焼きよ。」
机には、ごはんと、アルミホイルで包んださけがあった。
「うわぁ、おいしそう。いただきます。」
私は机に座って、ごはんを食べた。とてもおいしかった。
それから私は、お勉強をして、お風呂に入って、寝る準備をして、寝た。
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
「はふ…ふぃー。」
昨日と同じ時間に起きた。昨日は、雪菜ちゃんと一緒に学校に行けたけど、今日も一緒に行ってくれるかな。
私は少し不安だけど、窓を開けてみることにした。
外は、雨が上がっていて、朝日が差し込んでいた。きれいだなぁ。
雨上がりと言えども、朝はやっぱり寒くて、体がぶるっと震えた。
三分くらい待ってたけど、雪菜ちゃんがカーテンを開ける気配はなかった。そういえば、昨日は顔とか洗ってから窓を開けたな。しまったぁ。今から洗うのもな…。
私は、顔を洗うか迷ったけど、このまま待ってることにした。ううー、寒い。
しばらくすると、雪菜ちゃんの部屋のカーテンが開いた。中から、雪菜ちゃんの顔が見えた。
「雪菜ちゃーん!」
私は思い切って呼んでみた。すると、雪菜ちゃんがこっちを見た。
「今日も一緒に行こう!」
私が言うと、少し戸惑ってから、部屋の奥に行ってしまった。
…やっぱり、昨日のことがあるからかな…。どうしたら、また友達に戻ってくれるかな。
とりあえず、雪菜ちゃんと話さなきゃ。今は無理だから、今日は早めに出て、雪菜ちゃんが出てくるのを待とう。
私はそう決めて、顔を洗って、着替えて、下に降りた。
「あら、今呼ぼうと思ってたのよ。呼ぶ前に降りてくるなんて、珍しいじゃない。」
珍しく、お母さんが呼ぶ前に降りてきた私を見て、お母さんが言った。
「まあいいわ。早く食べちゃいなさい。」
「はーい! おいしそう。玉子サンド!」
私は席に座って、テレビをつけて、玉子サンドにかぶりついた。
『今日の天気です。今日は、一日を通して強い風が吹くでしょう。天気は晴れです。物が飛ばされないよう。ご注意ください。』
「早く食べないと遅刻するわよ!」
私がニュースを見ながら食べていると、お母さんの声が聞こえてきた。あ、私ったら。そういえば、一年生のころから、いつも同じやり取りしてるな。雨の日も、晴れの日も。
「晴雨!」
ああ、行かないと。
「行ってきまーす!」
私はそう言って、家を出ようとした。すると、テレビから、昨日の雨雲メーカーについてのニュースが出た。
『昨日、雨雲メーカーを屋内で検査して、成功しました。今日は屋外での挑戦だと発表がありました。』
え? 屋外? 屋外でやったら、今日は風が強いから…。
「晴雨! いい加減遅刻するわよ!」
お母さんが怒りそう。っていうかほとんど怒ってる。
「行ってきまーす!」
私はまだ行きたくなかったけど、靴を履いて、家を出た。
「まあ、屋内で成功したんだから、大丈夫だよ。それなりの覚悟でやってるはずなんだし。」
私は自分をなだめながら、道を歩いていた。すると、突然、
「わっ!」
「ひゃあ!」
後ろから声がして、変な声が出ちゃった。振り返ってみると、雪菜ちゃんがいた。
「雪菜ちゃん! 全然気が付かなかったよ! おはよう!」
うわぁ、びっくりした。雪菜ちゃんは、しばらく笑った後、急に真剣な表情になり、
「昨日は、ありがとう。風香ちゃんも、晴雨ちゃんも、ほかのみんなも。」
なんだ、いきなり真剣な顔になったから、何のことかと思ったら、そんなことか。
「全然いいんだよ。あの子たちが悪いんだから。」
私が言うと、雪菜ちゃんは首を横に振って、
「私が自分の意見を言えたら、多分、あんなことには…。」
と言った。どうやら、本気で言ってるみたい。でも、雪菜ちゃん、
「甘いよ。」
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