イライラといじめっ子


「え? あ、あの…。」

間弓(まゆみ)ちゃん、聖里(せいり)ちゃん、まあやちゃんが、雪菜ちゃんに言った。

この三人は、私のこの天気の能力を、かまってアピールだと言って、嫌ってくる子たちだ。

おまけに、リーダー格の間弓ちゃんが、晴太君のことが好きだから、晴太君と私が仲良くしているということも、嫌われる理由の一つだ。

 私の能力は、化学では証明できないから、信じないのはまだいいとして、もう半分は、晴太君の問題で、私は関係ないじゃん。って、いつも思うんだ。

 三人は、私を押し出して、雪菜ちゃんを取り囲み、色々話した。雪菜ちゃんは、明らかに戸惑っている。

「ねえ、雪菜ちゃん、戸惑ってるじゃん。」

私が言うと、間弓ちゃんが、

「あら、晴雨ちゃん、でも、雪菜ちゃんは晴雨ちゃんのものじゃないでしょ? 私たちも話したいのにさあ、昨日、雪菜ちゃんを独り占めしたじゃん。今日は私たちと話すの。ねっ、雪菜ちゃん?」

「あ…えっと…私は…。」

「えー、私たちと話してないのに、晴雨たちとは話すのぉー?」

「それって差別じゃなぁい?」

三人が、一気に言った。もう。三人の言ってることは本当だし、思い返してみれば、私たちが誘った時も、雪菜ちゃんこんなだったな。ううっ、悔しい…っ

「じゃあ、今日の中休みね! 晴雨たちとは話しちゃだめよー。」

そう言って、三人は、雪菜ちゃんのそばから離れた。私たちの方をずっと見ながら。

 気が付くと、ほかのお天気組もいた。みんな、微妙な顔をしている。いつもはっきり言う風香ちゃんも、今回は、雪菜ちゃんに被害が来る可能性があるから、何も言えなかった。私、こういう雰囲気あまり好きじゃない。

 私は、この雰囲気を壊そうと、雪菜ちゃんに話しかけようとして、一歩前に出ようとした。すると、

「だめっ、晴雨ちゃん。今話したらだめ。」

雨海ちゃんが止めた。風香ちゃんも、

「ヒーローじゃないんだから。」

と言っている。

「でも…。」

「ちょっとは我慢しなさい! 雪菜まで巻き込むことになるよ。嫌味っぽいからイライラするのはわかるけど。」

「でもっ、雪菜ちゃんがあっちに行ったらっ。」

「それは雪菜が決めることだ。」

「晴太君まで…。わかった。わかったよ。」

悔しいけど、今回は、ちょっと誘い方が悪かっただけで、あの三人は、何も悪いことしてない。

 私があきらめると同時に、

「さあ、席に座って。朝の会を始める。起立。」

先生が来た。

 私は、あまり悪い天気じゃないのに、暗い気持ちで一日を迎えた。

 それから、中休みも、昼休みも、授業中ですら、雪菜ちゃんに話しかけることはできなかった。おまけに、悪いことに、午後から雨が降ってきてしまった。そのせいで、午後からは、話しかけようにも勇気が出なかった。

 そして、放課後…。

「雪菜ちゃん、今日一緒に遊ばなぁい?」

間弓ちゃん、聖里ちゃん、まあやちゃんが言った。雪菜ちゃん、今日はピアノのおけいこの日…。

「あのさ…」

三人に、雪菜ちゃんは今日ピアノのおけいこだ言おうとすると、私の話を聞く前に、

「何よ。いいじゃない。今日は雪菜ちゃんは私たちと遊ぶんだもん。ねっ、雪菜ちゃん。」

と、間弓ちゃんが言った。雪菜ちゃんは、

「いや、今日は、その…。」

と、戸惑っている。どうしよう。すると、風香ちゃんが、

「今日は雪菜、ピアノのおけいこがあるから、無理なんだよ。」

と言ってくれた。どうだろう、納得してくれるかな。

「あ、そうだったの。ま、でもいいじゃない。一日くらいさぼったってさ。」

納得してくれなかった。雪菜ちゃんは、

「あの…、そろそろ行かないと…。」

ピアノに遅れそうな時間帯なんだろう。どうしよう。遅れたら、大変だよね。言わなきゃ。晴れの時みたいに。

「もう、雪菜ちゃんったら、マジメなんだから。」

「大丈夫だよ。雪菜ちゃん、私たちが悪いって、お母さんに言っていいから。」

「っていうわけだから、じゃあね。」

「あ、ちょっと、間弓たち!」

三人は、雪菜ちゃんの意見も聞かずに、行ってしまった。

「間弓!」

そのあとを風香ちゃんが追いかけた。大丈夫かなあ。雪菜ちゃん。

「風香は足が速いから大丈夫だよ。」

晴太君が来て、言ってくれた。

「…ごめん。オレが追えばよかったな。」

そして、あやまった。そんなことないよ。晴太君のせいじゃない。

「とりあえず、ここは風香ちゃんを信じよう。」

うん。信じよう。あ、そうだ。

 私は、雪菜ちゃんと風香ちゃんがいないけど、それ以外の友達は全員いた。だから、みんなに、家が隣のことを話した。ついでに、雪菜ちゃんのピアノがとてもやさしい音だったことも。

 それを聞いたみんなは、私のお家と雪菜ちゃんのお家が隣なことに、驚いた。

「そういえば、工事の音がうるさいって言ってたもんね。」

雨海ちゃんが言った。

「隣に引っ越してきた人には、感謝しながら住んでほしいって言ってたけど、雪菜ちゃんに感謝しながら住んでほしいのか?」

晴太君が、からかうように言った。あ、そういえば、そんなこと言ってたな。いけない。雪菜ちゃんは、こっちが感謝しなきゃいけないくらい優しい子なのに。

「あはははは! そんなこと言ってたね。でも、晴雨ちゃんでも、さすがにそんなこと、雪菜ちゃんには言えないね。」

雨海ちゃんが、この場の空気を壊そうと、笑った。実は、このお天気組、自分の天気の日が、一番調子がいいんだ。例えば、雨海ちゃんだったら、雨の日が一番調子がいい。など。

「ふっ、そうだな。」

晴太君も、つられて笑う。そうだね。ネガティブでいても、何もできないもんね。

「ふふふっ。」

私も笑った。その中で、雷君だけが、真剣な顔をして、教室のドアを見ていた。

 私たちは、風香ちゃんの帰りを待った。


「そろそろ帰ってきてもいいよな。」

二十分くらいして、最終下校時間が近づいてきたころ、晴太君が言った。すると、

 ガラガラガラッ

 ドアが開いた。みんながいっせいに、ドアの方を向いた。

「風香っ!」

風香ちゃんが、開いたドアに寄りかかっていた。

「どうだった。雪菜、家に向かったか?」

晴太君が聞いた。風香ちゃんは、悔しそうな顔をして、首を横に振った。

 え…? ダメだったの? 風香ちゃんが?

私が本当に? と聞こうとすると、

「それ、ほんとか?」

雷君が聞いた。風香ちゃんは、ますます悔しそうな顔をした。

「なんで追わなかった! 捕まえるまで追わなかったんだ!」

雷君が風香ちゃんの胸倉をつかんで怒鳴った。

「おい! そこまですることはないだろ!」

「そうよ! 風香ちゃんだって頑張って追いかけたじゃない!」

雷君を止めようとする晴太君と雨海ちゃんの声も、心なしか荒れてる。

「落ち着いて、雷君。」

私ができる限り落ち着いた声で言うと、雷君は風香ちゃんを離した。

「風香ちゃん、大丈夫?」

私が駆け寄ると、風香ちゃんは、今にも泣きそうな顔をしている。

いったい何があったんだろう。あの雷君にも勝る(失礼だけど)風香ちゃんが泣くなんて。

「何があったの?」

私が聞くと、震えるような声で、話し出した。

「…私が教室を出てから、玄関で追いついたの。それで…。」



 風香が教室を出てから帰ってくるまでに、風香が何をしたのか。少し時をさかのぼり、風香の目線で見てみよう…。

 風香目線

「間弓!」

私は我慢できずに、教室を飛び出した。私たちのクラスを出ると、曲がり角が二つある。一つは、下駄箱につながる階段の方で、もう一つは、音楽室につながる廊下が続く道。どっちに行った。

 私は、音楽室の方を見た。すると、誰もいなかった。ここの廊下は、学校一長いから、いたら少しでも姿が見えるはず。わたし、そんなに遅くに出てないし。よし、階段方面から行こう。

 階段方面に行って、階段を、できる限り速く下り、玄関に行った。すると、聖子たちがいた。まてっ!

 私は、ほぼ走って廊下を間弓たちの方まで行くと、

「間弓! 今日は雪菜はピアノなんだよ。」

と言った。遊ぶってなっても、わざわざピアノの日に行かなくたって。

 しばらく沈黙が訪れた後に、

「ぷっ、あははっ! あははは! おっかしぃ。」

間弓が笑った。なんで笑うんだ?

「ピアノのおけいこ一つさぼれないなんて、将来きっつきつの人生を送ることになるよ、雪菜ちゃん。」

いや、そんなことないから。ピアノのおけいこは行くに越したことはない。

「まだぁ? あ、風香じゃん。」

「しつこいよ、あんた。」

先に行ってた聖里とまあやが、戻ってきて言った。

「しつこいも何も、三人が雪菜を放さないからでしょ。」

私も言い返す。口論になったらきりがない。ひとまず雪菜に自分の意見を言わせるか。

「雪菜はどうなの?」

私は、ずっと何も言ってない雪菜に話した。雪菜は肩をびくっと震わせて、

「私は…今日…ピアノがあって…。」

と、つっかえながらも言った。そんないい方したら、私が無理やり言わせたみたいになるじゃん! 間弓たちには伝わりませんように…。

 私の祈りもむなしく、間弓たちは、

「うわー、無理やり言わせたぁー。」

「風香ちゃんこわぁーい。」

「うわぁー。」

と、私をバカにしてきた。悔しいけど、今はその時ではない。雪菜をピアノに間に合わせるのが目的。今は我慢。

「雪菜、とりあえず、ピアノ行きなよ。遅れるよ。」

私は、三人を無視して、雪菜に言った。

「え…あ…うんっ、ごめんなさい。また明日。」

雪菜は、玄関を出て、走って出て行った

 ……つもりだった。

「あれ、雪菜ちゃん、どこ行くの?」

「私たちと遊びたくないの?」

「私たちよりもピアノが大事なんだ。」

三人は、雪菜ちゃんが出る前に、雪菜ちゃんを取り囲んだ。雪菜ちゃんは、

「あ、うう…。」

と、戸惑っている。

「あっ、こらっ! 先生に言うよ!」

私は慌てて言った。しまった!

 私の思った通り、三人は大笑いして、

「先生に言うよって、一年生?」

と言った。もうっ、やけくそだっ!

「雪菜はピアノへいくの!」

私はそう言って、三人の間に入り、雪菜が通れるように、三人を押しのけようとした。でも、さすがの私でも、一対三は無理。何度やっても雪菜の通り道を開けてくれなかった。

 少しの間、押し合っていたが、先生が来て、

「こら、何をやっているんだ。だめじゃないか。田村、特にお前だぞ。中村まで巻き込んで。」

と言った。私たちは押し合いを止めた。っていうか、なんで私のせいになってるの? 現場の状況がわかってないのに、わかったような口きかないでよ!

私はそう叫びたかったが、何とか抑えて、

「先生、これは!」

と話そうとした。だけど、先生に、

「言い訳はしないんだ!」

と、さえぎられた。これは間弓たちが始めたことなのに。雪菜はピアノの日なのに…。

 私は、泣きだしそうになってしまった。まるで一年生みたいだと思うかもしれないけど、そのくらい、私は悔しいんだ!

「あのぉ、私たち、雪菜ちゃんと帰ろうとしてたんですけど、風香ちゃんが、今日は私が雪菜ちゃんと帰るのって言いだして、襲ってきたのでぇ、やられないようにしてたんです。」

先生の前ではいい子ぶってる間弓が言った。すると、普段(先生の前だけ)いい子な間弓の言うことを真に受けて、先生が

「何だと! 中村はものじゃないんだぞ! ほかの子とも帰らせてあげなさい。」

と言った。こっちの意見も聞かないで、勝手に決めて。

「なんとか言いなさい。」

私がいつまでも返事をしないから、先生が言った。

「私は、雪菜が…。」

「言い訳はしないで、ちゃんとあやまるんだ。」

何とか言いなさいって言われたから、本当のことを言おうとしただけなのに。

「はい…。」

これ以上言っても聞いてくれなさそうだから、とりあえず、はいと言った。

「しっかり反省するんだぞ。」

先生はそう言って、去っていった。

間弓たちは、雪菜を無理やり連れて、学校を出た。

「くっ…うっ。」

泣きそうになるが、ぐっとこらえる。こうしていても、何にもならない。教室に戻らないと。



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