転校生はお金持ち!?

「ただいま!」

「おかえり。」

と返ってきた。なんかちょっと元気なくない?

 私は靴を脱いでリビングに行くと、お母さんがぐったりしてた。え? 熱?

「お母さん、大丈夫? 具合悪いの?」

私が慌てて駆け寄ると、ぐったりしたお母さんが、

「違うのよ。さっき、引っ越してきたお隣さんが、あいさつに来たんだけどね、すっごいお金持ちなのよ。だから、ずっとピシッとしてたら、意外と話が長くてね、子供の話になったらもう長くって。もうぐったりよ。具合が悪いわけじゃないから安心して。でも、悪いけどおやつは冷蔵庫あさってちょうだい。」

ああ良かった。具合が悪いわけじゃないのね。でも、雪菜ちゃんのお母さんがそんなにぺらぺら話すのなら、基本ずっと聞いてる側だった雪菜ちゃんは、お父さんになのかな。

 あ、そんなことより、その人の子供(雪菜ちゃん)にあって、友達になったって伝えなきゃ。転校生だもん。あ、でも、能力のことは、一応伏せておこう。雪菜ちゃんに聞かないまま言うのはまずいし。

 でも、やっぱり言った方がいいよね。友達のことだし。でもなぁ…。今のお母さんに伝えるのもな…。よし、おやつ食べてからにしよう。

 私は、冷蔵庫をあさり、プリンを見つけた。よし、これにしよう! プッチンする瞬間が大好きなんだ!

プチンっ!

 プルプルとお皿の上で踊るプリン…可愛いっ!

 ごめんねプリンちゃん…

 お皿の上で踊ってるプリンをそうっとすくって…

「あむっ。んー、おいしいっ!」

私はプリンが大好き! 冷蔵庫がないから、秘密基地に置けないのは、残念だよなあ。

「ふう、おいしかった。」

あっというまに食べちゃった。お母さん、どうなってるかな。

 私は、プリンのカップを片付けて、お母さんのいたソファーに行くと、お母さんは本を読んでた。お母さんが最近はまってる、『物語紳士と魔法』というお話。本当は、小学校中学年向けの、文庫本なんだけど…そんなことは置いといて、

「お母さん。あのさ、今日、隣のおうちの子にあったよ。転校してきたんだ。」

私が言うと、お母さんが本を閉じ、

「あら、そうだったの。名前はなんていうの?」

と言った。あ、もう大丈夫だ。

「雪菜ちゃん。おとなしくて、可愛かったよ。」

「それはよかったわね。」

「うん!」

お母さんに報告すると、リビングを出て、自分の部屋に行った。私はいつも、おやつを食べたら二階に行って、勉強をして、それからは自由時間って決めてるんだ。

「えーっと、これはこうで…それでそれで? えっと…。」

私はしばらく勉強をしていた。ふと、雪菜ちゃんのおうちの方の窓を見ると、ちょうど窓があった。もう日が暮れてるから、カーテンは閉まってたけど、カーテンの色が薄いピンクだから、多分、雪菜ちゃんの部屋だろう。

 今日はいい日だな。工事の時のうるさい音も、無駄じゃなかったってことか。ん? 何か聞こえる。

 雪菜ちゃんの方の窓から、ピアノの音が聞こえた。途中でつっかえたりしてるけど、とてもやさしい音色だ。わあ、こういう音楽なら、ずっと聴けるのにな。そういえば、雪菜ちゃん、ピアノ習ってるって言ってたな。確か…明日、おけいこだって言ってた。練習熱心だなあ。

 私が聴いていると、

「晴雨ー、夜ご飯、何がいい?」

お母さんの声が聞こえた。あーもう、こっちは聞いている最中なのに。でも、今日はハンバーグがいいな。

「ハンバーグ!」

私は一発でお母さんに聞こえるように、大きな声で言うと、また雪菜ちゃんのピアノの音に耳を澄ませた。まだ弾いている。熱心だなあ。

 それから雪菜ちゃんは、ピアノを三曲くらい、交互に弾いていた。それを私は悪いと思っていながらも、ずっと聴いていた。

 しばらくして、雪菜ちゃんのピアノの音が無くなった。あ、雪菜ちゃんの音楽を聴いてたから、勉強が進んでない! 急がないとごはんになる!

 私は慌てて勉強を始めたけど、間に合わず、

「ごはんよー!」

という、いつもならうれしくなるお母さんの声も、今日は悲しく思えた。私は、

「はーい。」

と言って、トボトボと階段を降りて行った。

 それから、悲しくてもやっぱりおいしいご飯を食べて、お母さんに雪菜ちゃんの部屋の窓が、私の部屋の窓から見えることを言った。そのことを聞いたお母さんは、

「じゃあ、明日は早起きしなさい。」

と、謎のことを言った。

 なんでだろう。と思いながら、私は食べ終わり、お勉強の続きをやった。そして、お風呂に入って、寝る準備をした。

「おやすみー。」

と言って、二階に上がり、寝ようとしたときに、お母さんの言ってた、早起きしなさい。という言葉を思い出した。

 まあ、こういう時のお母さんのカンは当たるから、一応、目覚まし早めにかけておくか。

 私は、いつもより早めに目覚ましをかけ、眠りについた。


 ピピピピ ピピピピ ピピピピ

「う…ん。」

私は起きた。あれ?まだ少し暗い。なんでだろ…。

 私は、とりあえず目覚ましを止め、時間を見た。

「六時…あ、昨日、お母さんに早めに起きなさいって言われたんだっけ。何があるんだろう。眠い…。」

私は、寝ぼけまなこをこすりながら起き上がり、顔を洗った。

「ふぅ。何があるんだろう。」

私が部屋に戻ると、かすかに、シャーっと音がした。

 雪菜ちゃんが起きた音かな。

 カーテンを開けてみると、雪菜ちゃんが窓の奥で伸びをしていた。雪菜ちゃん、起き方もきれいだなあ。って、私はヘンタイかっ!  

…あ、もしかして、お母さんが言ったのって、このためなのかな? だとしたら、このチャンス、逃すわけにはいかないっ!

私は急いで窓を開け、

「雪菜ちゃん!」

と叫んだ。伸びをしていた雪菜ちゃんは、どこから聞こえたのかと、あたりを見回した。私は懸命に手を振る。気づいて! 雪菜ちゃん!

 すると、この気持ちに気づいてくれて、雪菜ちゃんはこっちの方を見た。雪菜ちゃんは、窓を開けて、

「おはようございます!」

と言った。私は、

「おはよう!」

と返した後に、

「今日一緒に行こう!」

と言った。雪菜ちゃんは、一気に顔を明るくさせ、

「うん! 何時ですか?」

と、丁寧語が混じりながら言った。うーん、学校まで四十五分だから、早めに待ち合わせた方がいいな。じゃあ、

「六時半に、家の前に集合しよう!」

八時半にチャイムが鳴るから、ゆっくり歩いても小一時間。いい時間なはず。 

「はい!」

雪菜ちゃんもいいって言ってくれたし。よし、急がなくては。

「じゃあ、またあとで!」

私はそう言い、窓を閉めた。そして、さっと着替えて、髪を整えた。髪を結び終わったと同時に、

「ごはんよー!」

お母さんの声が聞こえた。あ、行こう。今日のご飯は何かなっ!

 下に降りると、目玉焼きパンが、お皿に乗っていた。やった!

「さっさと食べちゃいなさい。」

いつもの会話が流れる。私はいつものようにテレビをつける。

『今日は午後から雨が降るでしょう。気を付けておでかけください。』

私はご飯を食べながら、ニュースを見た。

「ふぁ、そーなんだ。」

「いつまで食べてるのー、遅刻するわよ。」

あ、急がなきゃ。

 いつものように、私がかばんを持って家を出ようとすると、テレビから、こんなニュースが流れた。

『必要な時に雨を降らす、雨雲メーカー、ついに誕生! 干からびた土地にも雨を降らす! 今夜、気象庁が室内で試し、成功すれば、必要に応じて使っていく方針です。』

え…? 雨を降らす? そんなことしたら…もし壊れたりして、暴走したら…。

 背筋がゾクッとした。

「晴雨、速くいきなさい! 遅刻するわよ!」

「あ、うん。」

私があまりにも出発しないので、お母さんが台所から顔を出していった。あ、雪菜ちゃん待たせてるんだった。行かなきゃ。

「行ってきます。」

私は靴を履いて、家を出た。

 外は、青空が広がっていたけど、太陽は雲で隠れていた。ああ、肝心の太陽が出てなかったら、私の体、曇りだと勘違いしちゃうよ。とりあえず、あのニュースのことは忘れよう。私が知ってても何もできないし。

「晴雨ちゃん、おはよう。」

私が出ると、雪菜ちゃんが、私の方を向いて言った。雪菜ちゃんのお母さんらしき人もいる。よし、今は考えないようにしよう!

「おはよう! 遅れてごめんね。」

「いいよ。」

雪菜ちゃん、優しいな。

「あなたが、雪菜お嬢様のお友達ですか?」

雪菜ちゃんのお母さんらしき人が言った。あ、でもお嬢様って言ってた。雪菜ちゃんのお母さんじゃないのか。じゃあ、誰だ? 親戚? でもお嬢様って…

「ああ、この人は、家政婦の真子さん。」

あ、家政婦なんだ…って、家政婦⁉ すごい。家政婦とか、物語の中にしかいないと思ってた。まさか、お隣さんに、家政婦持ちのお家ができるとは…。

「は…初めまして。ら、らら、雷雪晴雨と申しますです!」

緊張しちゃった。すると、雪菜ちゃんが、

「ふふ…。」

と笑った。うー、恥ずかしい。

「そんなに緊張しないでくださいな。それより、ぜひともお嬢様と遊んでやってください。まさか、あんなに暗かったお嬢様が、あんなに明るい顔で帰ってくるとは…。それから…」

真子さんは色々と話したいようだったけど、雪菜ちゃんが、

「真子さん、遅れるので、もう行きますね。」

と言ったので、真子さんは、はっとして、

「あ…そうでしたね。では、お嬢様とそのお友達の方、行ってらっしゃいませ。」

と、見送ってくれた。私と雪菜ちゃんは、

「行ってきます。」

と言って、歩き出した。

「雪菜ちゃん、家政婦さんいたんだね。すっごいね。」

「いや…そんな…お母さんがすごいだけだから。」

「わあ、雪菜ちゃんって、いい子だね。」

歩いてる途中は、家政婦さんの話に盛り上がっていた。それでも、頭のかたすみには、あのニュースのことがあった。

「どうしたの? 具合、悪いの?」

どうやら考え込んでいたらしくて、雪菜ちゃんが、心配そうに話しかけてくれた。あ、考えない考えない。どうせ失敗するんだから。

 私は、できる限り明るく、

「大丈夫だよ。」

と言った。それでも雪菜ちゃんは顔を明るくしない。何とかごまかさないと。

「き…今日は曇りだから。っていうか、太陽が隠れてるから、少し元気ないのかもしれないな。」

よし、我ながら言いごまかし方だ。でも、それでも雪菜ちゃんは顔を明るくしない。そろそろ信じてよ。

 雪菜ちゃんは顔を明るくしないどころか、怪しい。とでもいうように見てきた。

 そのあとに、なぜか心配そうな顔をして、

「今日のニュースにあった、雨を降らす機械のことが心配なの?」

と言った。あ、雪菜ちゃんも、ニュース、見てたんだ。わかってるなら、話しちゃった方がいいかな。

「そうなんだよね。機械、怖くて。私もだけど、ずっと雨だったら、って思うとさ…私だけが被害者でもなくなるじゃん。」

そう。私のことも心配だけど、もし、ずっと雨になるようなことが起きたら、植物が育たなくなったり、木が腐ったり…そっちも心配なのだ。

「そうだね…。でも、そんなことをして、ずっと雨になったら、それを作った人も困るだろうし、そのくらいは分かってると思うよ。」

「うん…ありがとう。そうだね。そうだよね。」

雪菜ちゃんがいてよかった。そうだよ。困るのはみんな同じだよね。うん、一回忘れよう!

「あ…そういえばさ、ほかの天気のこと、教えてなかったね。私はね、今みたいな天気の時とか、曇ってるときは、少し暗めになるんだ。晴れの時は見たよね。雨の時は…。」

私は話を変えて、天気の時の性格を雪菜ちゃんに説明した。そうしているうちに、

「あ、学校が見えてきたよ。間に合ってよかった。また雪菜ちゃんを巻き込むのはいけないからね。」

「ふふっ、いいのよ。」

そうして、私たちは学校に着き、教室に行った。すると…

「おはよう、雪菜ちゃん、昨日話せなかったから、今日は一緒に話そ!」


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