転校生の過去と能力

「……ねえ、話って何? そろそろ言ってくれない?」

風香ちゃんが、私が下駄箱に着くまで一言も発さなかったから、ついに言った。ああ、風香ちゃんだったら、そうなるよね。

 雪菜ちゃんの能力について、雪菜ちゃんに教えてもらおうと思ってるんだよな。でも、今言ったら、雪菜ちゃんが何か能力を持っているって、ほかの人にもばれちゃうし…。  

「木野節神社に行ったら教えるから、ちょっと待って。」

私はとりあえずこう言った。木野節神社は、学校のすぐそばにある小さな神社で、入ってもいいんだけど誰も入らない。だから、そこを私たちは秘密基地にしているんだ。

 それから私たちは、靴を履いて、校門を出て、木野節神社の奥の方にある秘密基地に着いた。その間、雪菜ちゃんは何も話さなかった。私たちのこと、どう思っているのかな…。

 私たちの秘密基地は、秘密基地の中でも、結構立派な方だと思う。他の秘密基地はどうかは知らないけど…。

 大体の秘密基地の説明をすると、六畳(畳六つ分くらい)のスペースに、みんなが持ってきた座布団があって、いつもお菓子が中にある。え? 普通だって? そのくらいある? でもね、まだまだすごいのがあるんだよ。

 私たちの秘密基地には、親が使い古したものでいっぱい。まだ使えるけどそろそろ買い替えたい。っていうものは、このの中にあるの。雨海ちゃんのお父さんが使っていたクーラーボックスを、アイスを入れるために置いたり、うちが最近新しいのを買って、いらなくなったカーペットを敷いてあったり、みんなのおこづかいで買った貯金箱や時計を、学校の古くなった机の上に置いたり…。少し狭く感じるけど、一つのお部屋みたいなんだよ。

 部屋の中もすごいけど、本当にすごいのはドア! すっごーーーーくすごいの! 

 ドアはさすがに使い古し…とはいかないけど、これぞ、秘密基地って感じのドアなんだ。本当に。

 どういうことかというと、神社の周りに生えていた草を使ったドアなの。風香ちゃんと雨海ちゃんの特技を生かしたドア。

 実は、風香ちゃんのお父さんは鑑定士として有名で、その血を受け継いだ風香ちゃんは、いいもの悪いものを見分けられるんだ。そして、雨海ちゃんのお母さんはキーホルダーを作っていて、手先がとっても器用なんだ。その力を受け継いだ雨海ちゃんも、手先がとても器用で、編み物とかが特に上手なんだ。その二人が一緒に作った、草で編んだドアなんだ。すごいでしょっ!

 あ、秘密基地のことは置いといて…。雪菜ちゃん…。秘密、話してくれるかな。話してくれるよ…ね。

「雪菜ちゃん、好きなところに座って。」

とりあえず、みんなを座らせて、落ち着いた。ここからが本番だ。

 私が話そうとすると、

「あ、あの。ここは…?」

雪菜ちゃんがおずおずと聞いてきた。あ、ここの説明してなかったね。

「ここは、木野節神社。そして、私たちの秘密基地。」

私はそう言った後に、

「さあ、ここに集まってもらったわけだけど、さっき、雪菜ちゃん、何か能力があるって言ったじゃん。その話、みんなにも知ってもらいたいなって。雪菜ちゃんさえよければ…。」

と言った。この言葉に、晴太君と雷君と風香ちゃんは、

「ええっ!」

と驚いた。そりゃそうだよね。

「いいですよ。」

断られるかもしれなかったから、ドキドキしながら待っていたら、雪菜ちゃんがうつむきながらそう言ってくれた。

良かったぁ…まったくもって信用されてないわけじゃなかったんだ。

「私の能力についてと、転校してきた理由について話しますね。私の能力は、少し先の未来が見える能力です。先に読んだことは、必ず当たります。その能力を話した日から、少し先はどうなってる? と、毎日のようにみんなから能力でのぞいたことを、質問されるようになりました。」

雪菜ちゃんは一回ここで話を止めた。あたりはしーんとしている。いつも、この空気がいやで何か話を持ち込む風香ちゃんですら、驚き、何もしゃべらない。すると、雪菜ちゃんが話を進めた。

「私の能力でみられるのは、どんなに頑張っても、五分後まで。しかも、私のいるその場から半径一メートル以内のところまで。それ以上のところは、あたりが真っ暗で、どうなっているのかわからないのです。ある時、一時間後の未来を教えてって言われたときに、わかりました。でも…。」

雪菜ちゃんは、一回話を止めた。早く続きが聞きたくてしょうがなかった私が、

「でも?」

と、迷惑だろうけど話を促した。

「でも、一時間後は見られないと話すと、その人たちが、使えない子だと言ったのです。それから、私をいじめるようになりました。そのいじめはだんだんエスカレートしました。先生も味方してくれませんでした。でも、ある時、顔をたたかれて、あざができました。そのあざを、お母さんが見つけて、学校に連絡したのです。それでも知らん顔をする先生方に、お母さんが怒って、『こんな学校に、うちの子供をあずけられません!』と言いました。先生たちはあやまりましたが、お母さんの怒りは止まりませんでした。あやまる先生を無視して強制的に、一軒家にお父さんを残し、お母さんの実家のあるこの街に引っ越してきたというわけです。」

そんなことが…。

 私を含め、みんなが深刻な顔をして、雪菜ちゃんの方を見ていた。雪菜ちゃんは、思い出してしまったのか、つらそうな顔をしていた。言いたくないことまでいわせちゃったかな…。

「ごめんね。私が余計なことを言っちゃって…。」

私があやまると、雪菜ちゃんは優しく笑い、

「いいんです。あなたたちは、いい人だって思ったから、自分から話したのです。」

と言った。大丈夫なのか。なんか無理をしている気がするな…。

 すると、風香ちゃんが、何かを探るような言い方で、

「本当に、大丈夫? 普通なら大丈夫で終わらないと思うけど。」

と言った。雪菜ちゃんは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに笑顔になり、

「大丈夫ですよ。大丈夫。」

と、まるで自分に言い聞かせるように言った。

 …これ、絶対無理してるな。

「無理しなくていいんだよ。私たちはいじめないから。」

私がそういうと、雪菜ちゃんはうつむき、だんだん顔をゆがめて、涙を流した。

「無理してんじゃん。俺たちはいじめないって言ってるじゃん。無理すんな。」

雷君が、泣いた雪菜ちゃんを見ていった。雪菜ちゃんは、とうとうこらえきれなくなり、大粒の涙を流し、泣いた。

「…っ、ありがとうございます、ありがとうございますっ……ふぁぁぁぁぁぁぁん!」

雪菜ちゃんは、ありがとうと言いながら、声をあげて泣いた。私たちは、泣いている雪菜ちゃんの背中をさすりながら、雪菜ちゃんが泣き止むまで、何も言わなかった。

雪菜ちゃんのこと、聞けて良かった。雪菜ちゃんが無理をし続けなくて良かった。




 

 雪菜ちゃんは、涙が枯れるんじゃないかってくらい、泣いた。いつまでも泣き続けるから、雷君が

「もういいんじゃないか?」

と言って、泣き止ませた。

「あ…ごめんなさい。ちょっと泣きすぎてしまいました。」

雪菜ちゃん、目が腫れぼったくなってる。それでもかわいいんだよなあ。なんでだろ。

「いいよ。つらかったもんね。雪菜ちゃん、強いよ。」

雨海ちゃんが言った。その通りだよ。雪菜ちゃん、強いよ。

「いっくらなんでも泣きすぎだったと思うけどね。」

風香ちゃんがため息をつきながら言った。

「まあまあ風香。いいじゃないかよ。雪菜ちゃんは頑張ってたんだぜ?」

「そうよ。」

晴太君と雨海ちゃんが、風香ちゃんに言う。私も言おうと思ったけど、さすがに三人で一人に言うのはね…。

「まあ、これで一件落着って感じでいいかな?」

私はとりあえず話をまとめることにした。みんなが私の方を向く。みんなしばらく何を言うか迷っていたけど、雨海ちゃんが手をたたいて、

「そうだ。私たちと一緒に遊ぼうよ。これから友達になろっ! 雪菜ちゃん。」

と言った。

「それがいいよ!」

私も賛成! ほかの三人も、

「うん。」

「いいな! もう友達だ!」

「はあ。わかったよ。」

みんな賛成してくれた。雪菜ちゃんはとてもうれしそうに、

「ありがとうございます!」

と言った。よっしゃあー! 雪菜ちゃんも仲良くしてくれる! お天気組のメンバーがふえる!

私もみんなも喜んでいると、雪菜ちゃんが、おそるおそる、

「あ、あの…。私って、どっちにするかすっごく迷って、さっきの休み時間みたいなことがよくあるのですが…。迷惑じゃ…。」

遠慮がちにいった。雪菜ちゃんは、さっきの雷君のことを気にしているみたい。

 大丈夫だよ! って言いたいけど、雷君本人がいるから、言えないな…。

「大丈夫!」

雷君じゃない。雷君じゃない誰かが、雷君がいる中で、雷君のことを話せるのは…

「風香ちゃん!」

風香ちゃん、ただ一人。どんな男子も、雷君には対抗できない。風香ちゃんだけが、怒った雷君に一歩も下がらずに話せる。

「大丈夫。ほら、雷。あやまりなさい。」

もはや風香ちゃんが、雷君より上に立ってる気がする…。上とか下とか関係ないけどさ…

「わかったよ。ごめん。」

雷君はしぶしぶあやまった。雪菜ちゃんは、

「いっ、いえ、私の方こそ…。」

と、戸惑いながらも、ほっとしていた。ふぅ。これで本当に一件落着!

 それから私たちは、しばらくお互いのことについて話したり、雑談をしたりして、楽しく話していた。雪菜ちゃんも、しばらくしてから、丁寧語じゃなくなった。

 キーンキーンカーンコーン

 五時のチャイムが鳴り、私たちは帰ることにした。

「じゃあ、またね。」

「明日な。」

「うん、またね!」

風香ちゃんと雷君は、方向が違うから、先に別れるんだ。

「雪菜ちゃんはこっち方面なの?」

「うん。」

雪菜ちゃんは、こっち方面らしい。そういえば、四か月くらい前から、私のおうちの隣に、すっごい広い土地に、工事をしてたな。もしかして、あそこかな…。まさか…ね。あそこは超豪邸っぽかったもん。いや、でも、すぐに引っ越したって言ってたな。あそこのおうちも、売ってからすぐに買った人がいるって聞いた。もしかして、雪菜ちゃんのおうちって、超お金持ちなんじゃ…。

「雪菜ちゃん、晴雨ちゃん、じゃあね。」

「また明日!」

色々考えてるうちに、あの心霊スポットのとことろまで来た。心霊スポットのところは、道が二つに分かれてて、雨海ちゃんと晴太君は、私と違う方向から行くんだ。

「ああ、うん。じゃあね!」

雪菜ちゃんは、私の家がある方と同じ方みたい。やっぱり、あの豪邸じゃ…。

 私はそんなふうに考えながら、おうちの方へ歩いて行った。

 おうちが見えてきた。雪菜ちゃんはまだ一緒にいる。

 どうやら私の予想は当たっていたようだ。雪菜ちゃんは、超、お金持ち。

「あそこが私のお家だよ。晴雨ちゃんは、まだ先?」

おうちまであとちょっとというところで、雪菜ちゃんが豪邸を指していった。やっぱりか!

「私はその隣だよ。」

私は、やっぱりそこか! と言いたいのをこらえているので精一杯。

「あ、そうなんだ。お隣の家に友達がいるって、いいね。」

雪菜ちゃんが驚きながら言った。驚いてるのはこっちだよ。でも…

「うん! 今までは、ここらへんで一番近いお家、晴太君のうちだったもん。」

これは本当に思ってる。晴太君のおうち、家から学校まで位の距離があるから、なかなかおうちにお邪魔させてもらう機会も、うちに遊びに来てくれる機会もないから。別に雪菜ちゃんのおうちにたくさん遊びに行こうって思ってるわけじゃないけど。

「じゃあ、またね。仲良くなってくれて…ありがとう。」

いつの間にか家の前まで来ていて、雪菜ちゃんが言った。

「うん! こちらこそ、ありがとう! また明日ね!」

私も返した。雪菜ちゃんと別れて、家に帰った。

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