転校生

いろいろなところを探した。廊下、体育館、図書室…。だけど、どこにもいなかった。

「あとは、校庭だね。校庭は広いから、見つけるのが大変だね…。」

下駄箱について、雨海ちゃんが言った。そんなネガティブじゃだめだよ!

「絶対見つかるよ!」

雨海ちゃんは、軽くうなずいて、

「そうだね。」

と言って、靴を履き替えた。私も、絶対見つかると信じて、靴を履き替え、校庭に出た。私と雨海ちゃんは、

「雪菜ちゃーん!」

「どこー?」

と、叫びながら探した。いない。

「ねえ、もしかして、はぐくみばやしに入っちゃったんじゃない?」

はぐくみばやしというのは、うちの学校の代表みたいな木で、とても大きな木。実は、その奥にはちょっとしたスペースがあって、夏はすずしく、冬は北風を防いでくれる、とってもいいところらしいの。

 でも、そこには、フシギなウワサがある。そこには不良みたいなあばれんぼうの人がいて、なぜそこに入ったのか。みたいな質問をされる。質問と言っても、話し合いの時にするみたいな質問の仕方じゃないんだろうなぁ…暴力はないみたいだけど…。

 何年生かも知らないし、性別も分からない。でも、かなりの暴れん坊がいるらしい。と言う学校全体のフシギなウワサ。雪菜ちゃんが、ここに入ったら…。

「行ってみる?」

私が質問した。雨海ちゃんは、少し震えて、それでも力強くうなずいた。よし、行こう! 暴力はないみたいだし、何とかなるはず!

 私と雨海ちゃんは、おそるおそる木の奥に行って、中をのぞいてみた。そしたら、そこには、雪菜ちゃんと、誰かわからない、五、六年生くらいの男の子がいた。雪菜ちゃんに何か質問している。大変、助けなきゃ!

「あ、あの、雪菜ちゃんが何かしたの?」

雨海ちゃんは、私の少し後ろにいる。男子グループは、私たちの方を向いた。

ううっ、怖いっ。ここはあんまり日が入らないから、いつもの明るさが出せない…っ。

 私が少し怖がっていると、男子グループの中で、一番大きい子が、

「こいつ、雪菜っていうのか…。あのな、こいつはオレのナワバリに入ったんだ。だから、質問攻めにして、こいつの休み時間をつぶすんだ。」

と言った。堂々としたその雰囲気は、只者ではないような気が…ううう…怖い…

 そのとたん、風がビュッとふいた。それで木が揺れて、一瞬日がさした。私は、その光のおかげで、怖い。という気持ちが薄れた。私は、雪菜ちゃんを助けたい一心に、言った。

「この子、転校生だから、ここがあなたたちのナワバリだって、知らないの。転校してきて、いいところがありそうだと入ったところに悪そうな人がいて、訳も分からず質問攻めにされたら、もうこの学校に来たくなくなっちゃうでしょ? 最悪、大問題になるよ?」

と。男子グループは、しばらく悔しそうにしていたが、やがて、

「けっ、わかったよ。今日は見逃してやる。ただし、次に入ってきたら、その日の休み時間はつぶれたと思え。」

と言った。これでとりあえず一件落着! 私たちは雪菜ちゃんを連れて、はぐくみばやしを出た。

「ごっ…ごめんなさいっ! せっかく誘っていただいたのに、あんな失礼な行動を…。」

雪菜ちゃんは、思いっきり頭を下げて、あやまった。

「いいんだよ。私も、無理やり誘ってごめんね。」

雨海ちゃんが優しくいった。私も、

「顔上げて。知らなかったんだから、いいんだよ。」

と言った。雪菜ちゃんは、ゆっくりと顔を上げて、

「私のことを許してくれるのですか?」

と、おそるおそる訪ねた。そんなの、決まってるじゃない!

「雷君は…どう思ってるかわからないけど…。」

ほんとはもちろん! と言いたかったけど、雷くんのこともあるし、嘘はつけなかった。でも、そこに雨海ちゃんが、

「雷のことは大丈夫。私、一年のころから一緒だったけど、こういう時に、いつまでも『こいつは嫌いだ。』っていうタイプじゃなかったから。」

と言ってくれた。雨海ちゃん、ナイス!

「…それにしても、『休み時間がつぶれたと思え』って、全然かっこよくないし、怖くないんだけど。ふっ…あははっ!」

「ね。休み時間がつぶれたって…おっかしぃ…。」

あのセリフを聞いた時、吹き出しそうになったもん。怖かったけど。

 雪菜ちゃんは、顔を明るくしてくれるかと思いきや、まだ表情を和らげなかった。

「そんなに不安? 大丈夫だよ。私たちは、裏切るようなことしないから。」

雨海ちゃんが言った。雪菜ちゃんは、

「いっ、いえ、疑っているわけではないのですが、ただ、その…。」 

と、言葉をにごらせた。雪菜ちゃん、何かヒミツがあるのかも…。

「ねえ、雪菜ちゃん、何か言えないことでもあるの?」

まあ、答えてくれないよね…。雪菜ちゃんは、私が言うと、ギクッという効果音が出そうなほど肩をびくっとさせた。これで無理やり言わせたら、私、鬼だな。

「あ、言えなかったら全然いいよ。今日初めて会ったんだもん。言えないことの方が多いよね。」

私はこう付け足した。普通に考えたら、ヒミツくらい誰だって持ってるし、教えたくないことだってある。初対面ならなおさらだ。

「ごめ…

「私は!」

あやまろうとしたら、雪菜ちゃんがさえぎった。雨海ちゃんもおどろいてる。

 雪菜ちゃんは、私たちの方を向いて、少しはにかみながら、言った。

「私は、晴雨さんと同じ、ある能力を持っています。」

「えっ!」

私と雨海ちゃんは目を丸くした。何の能力だろう。もしかして、大変な能力なのかな…。

「この能力のせいで、私は、転校することになったのです。」

最後は消え入りそうな声で言った。そういえば、なんで転校したんだろう。

「そんなに大きな能力なの…?」

雨海ちゃんも、真剣な顔をして、雪菜ちゃんを見ている。雪菜ちゃんは、まるで悪夢を思い出したかのように、顔をゆがめた。それでも話そうとして、口を開きかけたときに、

「晴雨ー! 雨海ー! 雪菜ちゃーん!」

晴太君の声がした。声のする方を見ると、晴太君がこっちへ走ってくる。どうしたんだろう。

 晴太君は、私たちの方に走ってきた。私たちの方に着くと、息を切らしながら、

「どしっ、はあっ、じかっ。」

と、何か言っていた。

「どうしたの? そんなに慌てて…。」

雨海ちゃんが聞いた。しばらくすると、息が戻ってきた晴太君の言っていることがようやく聞き取れるようになった。

「どしたじゃっ、ねえよっ。じかっ、時間をっ、みろよっ!」

え? 時間?

 私が見ると、十時四十五分だった。いつも休み時間の終わりは十時四十分だから…。

「やばっ、遅刻じゃん!」

どうやら、色々話しているうちに、休み時間が終わってしまったらしい。

「急いで戻らないと。晴太君、ありがとう。ごめん!」

雨海ちゃんは言うと同時に、昇降口に向かって走り出した。私も行かなきゃ!

「雪菜ちゃん、晴太君、はやく!」

わたしもそういって走った。雪菜ちゃんの能力のことも忘れて…。

 私たちは、急いで教室に向かい、ドアを勢いよく開けた。みんなの注目が、私たち四人に移る。

「遅れてすみませんでしたあっ!」

私と雨海ちゃんが同時に頭を下げた。私たちの先生、森先生は、遅刻したら、まずあやまる。それから、何かどうしても言いたいことがあったら、言う。というルールになっている。

「転校生の中村まで一緒に巻き込むとは…。いや、中村にいろいろ聞きたくて、連れ出したのか…。って、そんなこと関係ない。とりあえず、座れ。」

「はぁい。」

私と雨海ちゃんは、一緒に返事をして、椅子に座った。晴太君は、ため息をつき、雪菜ちゃんは、気まずそうにうつむきながら、席に戻っていった。

「えー、気を取り直して、理科だ。ここは、教科書十ページを開いて。」

私は、教科書を開いた。

「さあ、十ページから十三ページまでを見て、この単元で習うことを見ておくように。その先は見ないようにな。結果が見えちゃうからな。」

私は、ぱらぱらっと見て、どんな実験をするのかを見た。でも、先生も、実験のことについて、教科書を使わなければいいのに。ずるができるもん。まあ、教科書を見ろって言われなくても、結果は先に見ちゃうけどね。ふふっ。

 私は、教科書を立てて、十四ページをひらいた。

「ふーん、こうなのか。結構予想できる結果だったな。ん? あっ!」


『……………は、………な力がある。』


力…


力…


能力…



あっ!!

 雪菜ちゃんの能力、聞いてない!! 放課後に聞こう!

 実は、今日は水曜日で、四時間授業なの。だから、学校が終わった後でも日が暮れないはず…

「雷雪!」

え? 何? 

私が前を向くと、先生がイライラした様子で、私の方を向いていた。みんなも、私の方を向いている。何?

「晴雨ちゃん、理科、実験二のとこ。」

後ろから雪菜ちゃんが小さな声で話した。あ、え? 実験二?

「雷雪…。転校生が来て、そんなにうれしいか? たとえうれしくても、授業はしっかり受けろ。教科書十二ページ、実験二ところだ。」

「は、はいっ!」

あ、授業受けてなかった! いっけない。十二ぺージ…。これか!

「えーっと…。」

それから、私は、実験二を読んで、実験をした。でも、頭の中は雪菜ちゃんのことしかなくて、結果は全然入ってこなかった。

 そして、理科の二時間が終わり、帰る時間になった。バッグの中に教科書や筆箱を詰めた。

「さあ、今日は転校生が来た。みんな、仲良くしてあげるんだぞ。では、さようなら。」

「さようなら。」

帰りのあいさつをして、みんなはぞろぞろと帰っていった。

 帰ろうとしていたお天気組のメンバーを引き留めて、私は言った。

「みんな、話したいことがあるの。雪菜ちゃんも、いい?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る