第22話

銀花の目の前で、少女の姿は邪悪な竜へと変わり果てていた。漆黒の鱗に覆われた巨大な体は、恐るべき圧力を放ち、まるでその存在そのものが空気を歪ませるようだった。竜の瞳は冷酷で、無限の憎しみが込められている。


「銀花、ここでお前も終わりにしてあげるわ。すべてが、私の手で…!」


竜と化した少女の声は低く、重々しい。それは、まるで何百年も生きてきた古代の怪物が語りかけるような、底知れぬ恐怖を伴っていた。彼女は銀花を見下ろしながら、鋭い爪を地面に突き刺し、その力で周囲の地面を裂いた。


「チー!、あいつがここで無惨に消え去るのを見ているといい…!」竜は嘲笑を浮かべながら、鋭い牙をむき出しにして、銀花に襲いかかった。


銀花は咄嗟に横に飛び、竜の攻撃をかわした。その瞬間、竜の爪が地面に深く突き刺さり、石畳が粉々に砕け散る。その威力は圧倒的で、銀花の心に不安をかき立てる。


「これほどの力を持つ相手を倒せるのか…?」銀花は一瞬だけ迷いが生じたが、すぐに自分を奮い立たせた。「負けるわけにはいかない…千優のために、ここで終わるわけにはいかない!」


銀花は剣を握り直し、竜の足元に向かって一気に駆け出した。竜の巨体に対して、攻撃の隙を突かなければ勝ち目はない。彼女は竜の動きを冷静に見極めながら、その鋭い爪や尾の攻撃を避け、反撃のタイミングを探した。


「銀花、無駄だわ!お前の攻撃など、私には通じない…!」竜は再び咆哮を上げ、その巨大な尾を振り回した。


銀花はその攻撃を間一髪で避け、竜の腹部に向かって剣を突き立てた。しかし、彼女の剣は竜の厚い鱗に弾かれ、全くダメージを与えられない。


「くそっ、硬すぎる…!」銀花は焦りを感じながらも、再び剣を振りかざし、竜の脚を狙った。今度は動きを制限するために、足元を狙った攻撃だ。しかし、竜は軽々とその攻撃をかわし、銀花に向かって火の玉を吐き出した。


「これで終わりよ!」


銀花はその火の玉を必死で回避したが、熱風が彼女を包み、ダメージを受けた。その熱さに一瞬身をよじらせながらも、彼女は立ち上がり、再び竜に向かって突進した。


「負けるわけにはいかない!」


銀花は、竜の次の動きを見極めながら戦闘を続けた。竜の攻撃はますます激しさを増し、銀花を追い詰めようとしている。だが、銀花は素早い動きで竜の攻撃を避け続け、反撃の機会を待った。


「次の一撃で…決める!」


銀花は剣に全ての力を込め、竜の目を狙って一気に突進した。竜はその動きを察知し、再び爪を振り下ろそうとしたが、銀花はその攻撃を華麗に回避し、竜の顔のすぐそばまで迫った。


「これで終わりだ!」


銀花の剣が竜の目に向かって振り下ろされ、その鋭い刃が竜の瞳を貫いた。竜は苦痛の咆哮を上げ、巨体を震わせながら後退した。銀花の一撃は確かに命中したが、それでも竜は倒れない。


「まだ終わってない…!」


竜は怒りに燃え、その体全体から黒いオーラを放ち始めた。そのオーラは空気を歪ませ、周囲の空間すらも不安定にしていく。銀花はその圧力に一瞬たじろいだが、決して後退することはなかった。


「銀花…お前はまだ理解していないのね。この戦いは、ただの決着ではないわ…私は、世界そのものを消し去るつもりなのよ!」


竜はその言葉と共に、さらに力を解放し、漆黒のエネルギーを空に放った。空が暗く染まり、大地が震え始める。銀花はその光景を見て、竜がただ自分を倒そうとしているのではなく、もっと恐ろしい目的を持っていることに気づいた。


「竜魔法!」


銀花は竜が自分ごと世界を滅ぼそうとしていることを悟り、強烈な焦りを感じた。彼女は千優の方に目を向けた。彼はまだ壁に貼り付けにされ、無力な状態だ。しかし、その目は銀花を見つめており、何かを訴えかけているようだった。


「千優…ごめんね。でも、これで終わりにするしかない…!」


銀花は剣を握りしめ、これが最後の戦いになることを覚悟した。彼女の心には、今までの千優との思い出が次々と浮かび上がり、その胸を熱くさせた。


「千優…あなたに出会えて、本当に幸せだった。」


彼女の心は、戦いではなく、彼との時間に満たされていた。その感情が、銀花の中で確かな決意を形作っていく。


「だからこそ、私はあなたを守るために、ここで終わらせる…!」


銀花は竜に向かって叫んだ。「君が何をしようとも、私はこの世界を守り、千優を守る!」


竜は冷たい笑みを浮かべ、「それが君の最後の言葉か…?なら、私も全力で応えよう。すべてを終わらせる時が来たわ…!」


次の瞬間、竜は全身から溢れる漆黒のエネルギーを集め、その力を解放しようとした。その圧倒的な力に、銀花は強い決意を込めて最後の一撃を放とうとするが、その体が徐々に重く感じられる。


「千優…君を守るために、私はすべてをかける…!」


銀花は涙をこらえながら、剣を握りしめ、竜に向かって突進した。

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