第21話
その日は、千優が一人で買い物をしている時だった。街中を歩いていると、背後から急に襲われ、意識を失った。気がつくと、彼は冷たい石の床に倒れていた。手足は何かに拘束されており、身動きが取れない。
「ここは…どこだ?」千優は頭を振り、状況を理解しようとしたが、すぐに目の前に現れた影に気づいた。
「やっと目が覚めたのね、千優。」その冷たい声は、銀色の髪を持つ少女のものだった。
千優はその姿を見て、言葉を詰まらせた。「お前は…あの時の…」
少女は微笑みながら、千優を見下ろしていた。「ふふ、君をこうして捕まえるのは簡単だったわ。」
「何が目的だ…!?」千優は怒りを込めて叫んだが、少女は冷たく笑うだけだった。
「目的?そんなの簡単よ。銀花をここに呼び寄せるためよ。」
その言葉に千優は驚いた。「どうして…」
「彼女が来なければ、君をここで無残に殺すだけの話。」少女は冷淡に言い放ち、千優を嘲笑った。
千優は必死にもがき、拘束から逃れようとしたが、まったく身動きが取れない。「くそっ…!」
その時、遠くから足音が聞こえてきた。銀花が来たのだと分かり、警告のため叫ぼうとしたが意識が飲まれたように気を失った。
銀花が千優の元にたどり着いた時、そこにはあの少女が立っていた。彼女の冷たく鋭い目は、銀花を見つめながら笑みを浮かべている。千優は気を失い、無防備に地面に横たわっているが、どこにも傷は見当たらない。その首には奇妙なチョーカーが巻かれており、かすかに光を放っていた。
「千優…!」銀花が駆け寄ろうとした瞬間、少女がその手をかざし、冷たい声で制止する。
「待ちなさい、銀花。この瞬間をずっと待っていたのよ。お前には私と楽しんでもらわなければならないわ。」
そう言うと、少女は自身の影に手を伸ばし、何かを引きずり出すような仕草を見せた。次の瞬間、地面が揺れ、巨大な狼が現れた。銀花は驚き、剣を構えながら身構えた。
「この狼…前とは違う…!」銀花はすぐにその異変に気づく。かつて戦った狼よりも遥かに巨大で、その目には狂気が宿っている。そして、黒いオーラが狼の体を包み、まるで周囲の空気さえ歪ませるような威圧感を放っていた。
「見て、銀花。これは私がお前のために用意したプレゼントよ。この狼を倒してみせて。」少女は不敵な笑みを浮かべたまま、冷ややかに言い放つ。
銀花は剣を握り直し、視線を狼に固定した。「千優は絶対に守る…!」
狼が低い唸り声を上げると同時に、銀花に向かって一気に突進してきた。巨大な体とは思えないほどのスピードに銀花は驚愕しながらも、冷静に横へ回避する。狼の爪が地面をえぐり、石畳が粉々に砕け散る。
「こんな速さと力…!前よりも遥かに強くなってる…!」
銀花は狼の動きを観察し、次の一手を考える。狼はすぐに次の攻撃に移り、その鋭い牙を剥き出しにして銀花に迫ってくる。銀花はその牙をギリギリでかわしながら、狼の側面に素早く移動し、剣を振り下ろした。
「これでっ」剣は狼の背中に当たり、火花が散る。しかし、その厚い皮膚は銀花の攻撃を弾き返した。
「くっ…!」銀花は狼の異常な耐久力に驚きながらも、攻撃の手を緩めない。素早く体勢を整え、再び狼に向かって飛び込んだ。彼女は剣を水平に振り、今度は狼の足元を狙った。
しかし、狼はその動きを予知しているかのように鋭く体を回転させ、銀花の剣を再び回避する。巨大な爪が彼女の目の前に迫り、銀花は瞬時に後退して距離を取る。
「絶対倒すっ」
銀花は息を整え、さらに攻撃の機会を伺うが、狼の動きは衰えることを知らない。次々と襲いかかる攻撃をギリギリで回避しながら、銀花は頭の中で次の策を練り始めた。
「魔法を使わないと…!」
銀花は集中し、手の中に魔法の力を集め始めた。彼女の手のひらに火の玉が現れ、その熱が周囲の空気を震わせる。
「これで…!」銀花は火の玉を狼に向けて放った。火の玉は一直線に飛び、狼の体を包み込んだ。黒い煙が上がり、狼の姿が一瞬見えなくなる。
「これで少しは…!」
だが、炎が消えた後、再び現れた狼はほとんどダメージを受けていないかのようだった。その体にはわずかな焦げ跡が残っているだけで、怯む様子も見せない。
「効いてないか」
狼は再び銀花に向かって突進してきた。彼女はその攻撃をかわしながら、攻撃の隙を探していた。しかし、狼は一切の容赦なく連続で爪を振り下ろし、牙を向けてくる。
「これじゃ時間の問題だ…!」
銀花は追い詰められながらも、なんとか反撃のチャンスを掴もうと必死に動き続けた。その時、背後からかすかな声が聞こえた。
「銀花…!」
千優の声だ。彼は気を取り戻し、銀花を見つめていたが、体は依然として自由が利かない。チョーカーのような装置が、彼の力を完全に封じている。
「千優…!」銀花は一瞬だけ彼の方を見た。
少女はその様子を見て嘲笑う。「彼は動けないわ。無力なまま、君がこの狼に倒されるのを見ているしかないのよ。」
「そんなことはさせない…!」
銀花は力強く言い放ち、再び狼に向き直った。狼は再び咆哮を上げ、彼女に突進してくる。
「今度は私が…仕掛ける!」
銀花は素早く前方に駆け出し、狼の懐に飛び込んだ。剣を振り上げると、今度はその足元を狙い、斜めに一閃を放つ。剣は深く食い込み、黒い血が勢いよく噴き出した。
狼は激しい咆哮を上げながらも、依然として銀花に襲いかかる。彼女は何度も何度も剣を振り下ろし、ダメージを与え続ける。
「これで…終わりだ!」銀花は剣に全力を込め、最後の一撃を振り下ろした。その攻撃が狼の喉元に深く突き刺さり、巨大な体が揺れ、地面に倒れ込んだ。
銀花は息を切らしながら、倒れた狼を見つめた。「やった…!」
しかし、安心する間もなく、少女の声が冷たく響く。「まあ、よくやったわ。だが、余興はこれで終わり。次が本番よ。」
少女が手を振ると、千優の体が壁に貼り付けにされ、銀花は驚いて叫んだ。「千優!」
少女は笑いながら続ける。「さあ、今度こそ、全てを終わらせてあげるわ…!」
次の瞬間、少女の体が邪悪な竜へと変身し、圧倒的な力が銀花を襲い始めた。銀花は剣を構え、再び戦闘態勢に入る。
「絶対に…負けない!」銀花は決意を込めて叫び、竜となった少女に立ち向かう準備を整えた。
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