第23話

銀花の剣が再び竜の体に向かって突き進んだ。彼女の全身から放たれる光は、まるで自身の魂そのものを燃やしているかのようだった。竜の漆黒のオーラがその攻撃を阻もうとするが、銀花の強烈な決意がそれを突き破り、剣先が竜の胸元に迫る。

剣が触れる瞬間、竜は笑みを浮かべながら、さらなる力を解放した。彼女の剣は竜の身体に触れたが、衝撃が銀花の体全体に走り、彼女は一瞬の隙を突かれて吹き飛ばされた。


「ぐっ…!」


銀花は地面に転がり、痛みに顔を歪めながらも、再び立ち上がろうとした。しかし、その体は限界を迎えつつあった。竜の圧倒的な力を前にして、彼女の意識が次第に朦朧とし始めていた。


「銀花…もう終わりにしよう…」


竜は冷たい声でそう言い放ち、再び攻撃の準備を始めた。漆黒のエネルギーが集まり、今にも爆発しそうな勢いで膨れ上がっていく。


「…これじゃ…勝てないのか…」


銀花は立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。彼女の体力は限界に達し、戦う力が次第に奪われていく。だが、彼女の心はまだ折れていなかった。


「まだ…終わらせるわけには…」


彼女の目に浮かんだのは、千優の姿だった。彼がそこにいる限り、彼女は諦めることなどできない。どんなに絶望的な状況でも、銀花は最後まで千優を守り抜く決意をしていた。


「千優…」


その時、銀花の心に一つの決意がよぎった。それは、自分自身を犠牲にすることで、この戦いを終わらせるというものだった。


「君は…生きてくれ…」


銀花は静かにそう呟きながら、千優を見つめた。彼女の目には涙が浮かんでいたが、それは後悔や恐怖からくるものではなかった。むしろ、それは千優とのこれまでの時間に対する感謝と、彼を守るための覚悟の証だった。


「銀花…?」


千優はその言葉に気づき、彼女の様子が普通ではないことを悟った。彼の目には銀花が何か重大な決意をしたことがはっきりと見えていた。


「やめてくれ…そんなこと、しないで…!」


千優は必死に叫んだが、銀花は静かに首を振った。


「千優…これしか方法がない…」


「嘘だ!そんなの…僕は嫌だ!」


千優は涙をこらえきれず、叫びながら必死に銀花に向かって手を伸ばした。しかし、彼の体はまだ竜の力で封じられており、動くことができない。


「お願いだ、銀花…僕を置いて行かないでくれ…!」


千優の声が響くが、銀花は微笑みながら最後の言葉を口にした。


「千優…君は私のすべてだった。君と過ごした時間は、私にとってかけがえのないものだった。だから、君だけは生き残って…その先の未来を生きてほしい…」


彼女の目には強い決意が宿っていた。その瞬間、彼女は剣を構え、竜に向かって最後の突進を開始した。


「本当にこれで終わりだ!」


銀花の体がまばゆい光に包まれ、周囲を圧倒的なエネルギーが駆け巡った。竜は驚いたように目を見開いたが、すぐにその体も光に飲み込まれていった。


「なに…これが…!」


竜の声が絶望に染まり、その体は次第に消えていく。しかし、その光の中心にいた銀花もまた、竜と共に消滅しようとしていた。


「銀花ぁぁぁぁぁぁ!」


千優の叫びが響くが、その声も銀花に届くことはなかった。彼女の姿は光の中に溶け込んでいき、やがて竜と共に完全に消え去った。


その場には、光が雪のように降り注ぎ、光の輝きが静かに地面に落ちては消えていった。その時、竜により施された拘束が解け、千優はようやく自由の身となった


「銀花…どうして…どうしてなんだ…!」


千優は泣き崩れ、銀花との思い出が次々と頭をよぎる。彼女の笑顔、彼女の言葉、彼女との冒険の日々。すべてが過ぎ去った今、千優には何も残されていないように感じられた。


「ああ、あぁぁぁぁ」


彼の胸には後悔と絶望が渦巻き、涙が止めどなく流れ続けた。千優はその光景を見つめながら、ただ無力にその場に崩れ落ちた。

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