第19話

銀花は剣を振るって道を切り開きながら、大群を押し分けて進んでいく。しかし、奥に進めば進むほど、敵の数は次第に減少していった。


やがて、二人はダンジョンの最深部に到達する。そこには、黒いオーラが渦巻く水晶玉が浮かび上がっていた。その存在感は圧倒的で、まるで生きているかのように脈動し、周囲に不気味な波動を放っていた。


「これが…すべての元凶か…」銀花はその光景に圧倒されつつも、剣を構え、全力で水晶玉に斬りかかる。


しかし、その瞬間、水晶玉が強烈な光を放ち、二人を弾き飛ばした。


「硬い…!」銀花は驚きつつも、再び立ち上がり、剣を構え直す。


すると、水晶玉の黒いオーラが形を取り、巨大な亀の姿となった。千優と銀花はその圧倒的な存在感に圧倒されながらも、戦闘態勢を整える。


「まずは一撃、試してみる!」銀花は素早く距離を詰め、剣を振り下ろす。


しかし、銀花の剣が亀の甲羅に当たった瞬間、鋭い金属音が響き渡り、剣は跳ね返されてしまった。彼女の手に衝撃が走り、思わず後退する。


「なんて硬さだ…!普通の攻撃じゃ、全然効かない!」銀花はその硬さに驚愕する。


「銀花、バインドで亀の動きを封じるから、その間に攻撃を仕掛けて!」千優は杖を輝かせながら指示を出す。


千優のバインドが成功し、亀の動きが一瞬止まる。その隙をついて銀花が再び剣を振り下ろすが、またしても甲羅に弾かれ、亀に傷をつけることができない。


「くそっ、効かない…!」銀花は歯を食いしばりながらも、懸命に攻撃を続ける。


亀は再び動き出し、その巨大な爪を振り下ろしてきた。銀花は間一髪でその攻撃をかわすが、地面には深い傷跡が残る。亀の攻撃力は桁外れで、一撃でも受ければ致命傷になりかねない。


「銀花、このままじゃじり貧だ!何か打開策を考えないと…!」千優は焦燥感を募らせながら、銀花に呼びかける。


「分かってる…でも、この亀、甲羅が硬すぎて…」銀花は何とか弱点を探ろうとするが、亀の動きは鈍重ながらも巧妙で、なかなか隙を見せない。


「亀が動くたびに、腹部が少しだけ露出する…そこを狙えば…!」銀花は亀の動きをじっくり観察しながら、攻撃のチャンスを伺う。


「千優、攻撃した瞬間、亀の動きを封じてくれ!その間に全力で攻撃する!」銀花は再び剣を構え直した。


再び亀が攻撃を仕掛けた瞬間、千優のバインドが発動し、亀の動きが止まる。その隙に銀花は全力で突進し、剣を亀の腹部に振り下ろした。


しかし、剣は深く刺さることなく、亀の体表をかすめる程度だ。さらに、亀はその巨大な尾を振り上げ、銀花を弾き飛ばした。


千優はプロテクションで防いだはずだが、一瞬で砕かれ、動揺しながら叫ぶ。


「銀花っ!」急いで彼女のもとへ駆け寄る。銀花は辛うじて立ち上がったが、その顔には痛みと焦りが浮かんでいた。


「くそっ、またダメなのか…」銀花は苦しげに呟いた。


「諦めちゃダメッ!」千優は全力で回復スキルを発動させる。


「あの時とは違う!僕たちは成長したんだっ!」千優の掛け声とともに銀花の怪我が一瞬で治る。


「助かった!」


治った瞬間、銀花はすぐさま亀に向かって走り出す。亀はその動きに反応し、巨大な爪を振り下ろしてきたが、銀花はギリギリでそれを避ける。


「銀花、落ち着いて。僕が支援するから、その隙を狙って!」千優は必死に冷静さを保とうとしながらスキルを使って支援する。しかし、亀はその攻撃をものともせず、銀花の焦燥感は募る一方だった。


銀花は再び剣を構え、亀の腹部を狙って突進した。千優のバインドが成功し、亀の動きが一瞬止まる。その隙に銀花は全力で剣を振り下ろすが、その剣はまたしても甲羅に弾かれ、ほとんど効果がない。


「こんな硬さ…普通じゃありえない!」銀花は再び後退し、息を整えようとするが、心の中には絶望が渦巻いていた。


「銀花、このままじゃ…」千優もまた、その限界を感じていた。亀の反撃は苛烈で、銀花も千優もその度に防御や回避に限界を感じる。


そして、次の瞬間、亀が大きく口を開けた。その内部には光が集まり、次第に強烈なエネルギー波が形成されていく。


「危ない、銀花!」千優が叫ぶ。しかし、そのエネルギー波は圧倒的なスピードで銀花に向かって放たれる。


千優は咄嗟にプロテクションを発動するが、その防御はすぐに突破されることを直感し、何度も重ねて発動させるが、それでも亀の攻撃は圧倒的だった。


「もうだめか…」


千優の脳裏に、二人で過ごした時間がフラッシュバックのように浮かんでくる。失いたくない、離れたくない、二度と触れ合えないなんて…


心の中で何かが共鳴し、知らない記憶が混ざる。


『諦めないで…ボクの魂を感じてっ!』


今までにないほど強く彼女の存在を感じる。心が共鳴し、何かが一体化する。いつもなら彼女の記憶を見ると頭痛が襲ってくるが、今はそれが心地よさに変わっている。それが当たり前だったかのように。


「プロテクション!!」


あの時以来、感じなかった何か――魔力ではない、神聖な力が体を満たし、プロテクションが黄金色に輝き始める。その輝きが亀の攻撃を防ぎ切る。


「千優?」銀花が目を見開きながら驚く。


「銀花、ボクを信じて」千優の目には、今までにない力が宿っていた。


「ああ、わかった。君が信じてと言うなら、地獄にだってついていくさ!」


銀花は全力で亀に接近する。千優がバフをかけると、銀花の周りが黄金色の光に包まれた。


亀が爪を振り上げる。


「バインド!」


黄金色の鎖が亀に絡みつき、その動きを止める。銀花が疾走し、腹部を切り裂こうとする。すると、光が剣に収束し、亀の胴体を吹き飛ばした。


亀は巨大な咆哮を上げ、その場に崩れ落ちた。しかし、その直後、水晶玉が強烈な光を放ち始める。亀の体が再び動き出し、まるで再生しようとしているかのようだった。


「まだ終わっていない…!」銀花は水晶玉に攻撃を仕掛けるが、それもまた弾かれてしまう。


「これでもだめなのか…」


「いや、これで終わりだ!」


千優が両手を合わせ、水晶玉に向かって黄金色の光を放つ。黒く禍々しかった水晶玉は、白く美しい水晶玉に変わり、それと同時に亀の巨体が消え去り、光が銀花の胸に吸い込まれる。


千優は地面にへたり込み、深いため息をついた。銀花も剣を収め、静かに千優の隣に座り込んだ。


「なんとか倒せた。」銀花が息を整えながら言う。


「うん、大変だったね…」千優は疲労感と安堵感が入り混じった表情を浮かべた。


「よし、戻ろうか。地上がどうなってるか、確かめなきゃ。」千優が立ち上がり、手を差し伸べる。


「ああ。みんな無事だといいんだけど…」銀花はその手を取り、立ち上がる。


二人は疲労を感じながらも、力強く一歩を踏み出した。やがて、薄暗いダンジョンの奥から光が差し込む出口が見えてきた。二人は疲れた体を引きずるようにして、その光に向かって歩みを進めた。




またしても、その少女はその終わった場所へ現れた。


「ふーん、まあまあ強くなったのね。想定内だけど、問題はチーが力を取り戻しつつあることと、そのせいで魔法水晶があいつらの手に渡ったことかしら」


少女の影から巨大な狼が現れる。


「あら、アナタも早く戦いたいのね…ふふ、私もよ。次が終わりだから安心して、あいつらに後はないわ」


闇に少女と狼が溶けるように消える。

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