第7話

銀花がリードし、千優はその背後をしっかりとついていく。イレギュラーモンスターがいるとされる場所へと向かう中、二人の緊張感が次第に高まっていく。通路を進むたびに、空気が徐々に冷たく感じられ、薄暗い道の先からは何か不気味な気配が漂っていた。


「ここが…イレギュラーのいる場所か。」


銀花は剣を構え、慎重に一歩を踏み出す。千優も自分の杖を握りしめ、彼女に続く。


「銀花さん、準備はできてます。」


「よし、君がスキルをかけてくれたら、私は突っ込む。」


千優は頷き、バフを発動させた。銀花の身体に淡い光が包み込まれた。


「いい感じだ。行くぞ!」


銀花が掛け声を上げると同時に、目の前に巨大なモンスターが現れた。それは、通常の魔物とは明らかに異なる存在感を放っている。体長は5メートル以上もあり、黒い鱗で覆われたその姿は、まるで竜そのものだ。


「こいつが…イレギュラーモンスターか。」


千優はその圧倒的な威圧感に、一瞬言葉を失った。しかし、すぐに銀花が前に出て、大剣を構え直した。


「来い!」


竜のようなイレギュラーモンスターが咆哮を上げ、銀花に向かって突進してくる。彼女は冷静に光を纏った剣を振り下ろし、モンスターの頭部を狙った。だが、その攻撃は竜の硬い鱗に弾かれてしまう。


「くっ、固い…!」


銀花が後退しながら歯を食いしばる。千優はすぐに次のスキルを発動させ、銀花に再びバフをかけた。


「銀花さん、次の攻撃を!」


「分かった!」


銀花は今度は下段に構え、竜の足元を狙った。足元の鱗は他の部分に比べて薄いことに気づいたからだ。大剣が一閃し、モンスターの片足を切り裂いた。


「やった!」


だが、銀花の喜びも束の間、モンスターはその場で倒れ込むどころか、より一層激しい咆哮を上げて立ち上がる。その口から吐き出される炎が銀花に迫る。


「銀花さん、危ない!」


千優は反射的にプロテクションを何重にも発動し、銀花を炎から守った。しかし、その代償として千優は自分の魔力を大幅に消耗してしまう。


「くそっ…!これ以上は持たない…!」


銀花は千優の状況を察し、再び立ち向かうために力を振り絞る。だが、モンスターはその巨大な尾を振り上げ、銀花を吹き飛ばした。


「銀花さん!」


千優は倒れた銀花のもとに駆け寄り、その手を握った。


「ごめん…千優。君を危険な目に合わせてしまって…」


「そんなこと、弱気なことを言わないでください!」


千優の言葉に、銀花は一瞬驚き、そして微笑んだ。


「千優…ありがとう。君がいてくれて、本当に良かった。」


その時、千優の心の中に、再びあの懐かしい感情が湧き上がってきた。まるで、遥か昔から銀花と一緒にいたような、強い絆が…。

ズキンと心が痛む。どこからか鈴の音のように清らかな声が聞こえてくる。

『・・・信じて・・・・その力を・・・その思いを・・・』

溢れてくるのを感じる。魔力では無いなにかが。

その瞬間、自分の声と清らかな声が重なる


「『起きて、置いてかないって約束したでしょ』」


千優は自分の手を銀花の手の上に重ね、心の中で強く願った。そして、再びバフを発動させると、その力はこれまで以上に銀花に注ぎ込まれた。


「千優…!」


「さあ、銀花さん…今度こそ、終わらせましょう!」


銀花は力強く頷き、その体に新たな力が満ちていくのを感じた。千優のバフはただのバフではなく、二人の絆から生まれる真の力となっていた。


「ありがとう、千優。今度こそ…!」


銀花は再び大剣を構え、全身に力を込めた。モンスターが再び突進してくるが、銀花は恐れることなくその動きを見据えていた。彼女の剣には千優の想いと共に、新たな力が宿っている。


「これで…終わりだ!」


銀花は渾身の力で剣を振り下ろし、今度こそモンスターの硬い鱗を切り裂いた。剣先が竜の体に深く食い込み、金色の光が放たれる。それはまるで竜そのものが輝きを放つかのようで、その光は瞬く間にモンスターの体全体を包み込んだ。


モンスターは咆哮を上げるが、その声は次第に弱まり、やがて光の中に消え去った。銀花の剣がそのまま地面に突き立ち、モンスターの残骸がキラキラと光る欠片になり、銀花の胸に吸い込まれていった。


「やった…!本当にやったんだ…!」


銀花は肩で息をしながら、戦いが終わったことを実感していた。千優も同じように息を整え、安心したように微笑んだ。


「銀花さん、お疲れ様でした。」


「君もね、千優。君のおかげで、勝てたんだ。」


銀花は千優の手を取り、その手を優しく握った。二人の手が触れ合う瞬間、まるで長い間離れていた二人が再び出会ったような感覚が胸に広がった。


「銀花さん…俺、やっぱりあなたと一緒にいると、すごく安心するんです。」


千優の言葉に、銀花は優しく微笑んだ。「それは私も同じだよ。ことが片付いたら理由を説明するって言ったよね。信じなくてもいい、でもこれから話すことは真実だ。」

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