第6話
勢いよくダンジョンに突入したものの、肝心なことを忘れていたことに気づき、急いで足を止めた。
「ちょっと、待ってください!!」
銀花はその声に驚き、振り返ると、千優の方をじっと見つめた。
「どうしたんだい?」
「俺たち、自己紹介もしてないじゃないですか。それなのに、急にダンジョンに突入して…!」
銀花はにっこりと笑い、優雅に片膝を地面につけた。その手の甲に軽くキスをしてから、上目遣いで千優を見上げた。
「私の名前は、白川銀花(しろかわ ぎんか)。君の恋人さ。」
その言葉と仕草に、千優の心臓は一瞬で跳ね上がり、思わず声を上げた。
「まだ、恋人じゃないです!!」
「ふふ、そう焦らずに。」銀花は立ち上がり、優しく千優を見つめた。その瞳には、過去から続く深い絆が込められているようだった。「君と私は、前世でも愛し合っていたから…もう君を離さないと誓ったんだ。」
「…冗談はもういいです。」
銀花の真剣な眼差しに、千優の心はさらに揺さぶられた。彼の視線があまりにも熱く、好きの気持ちが胸の奥で抑えきれずに広がっていく。
「それなら、そんなに好きで無理やりデートに誘ったんですから、エスコートぐらいしてくれますよね。」
照れ隠しに目を逸らしながら千優が言うと、銀花は満面の笑みで頷いた。「もちろんだよ!」
「俺の名前は守宮千優(もりみや ちひろ)。職業は竜の巫女で、バフ系のジョブだ。まだ筋力アップ付与とシールド付与しかスキルがないけど、その効果は高いから役に立つと思う。」
「素敵な名前だね。」銀花は嬉しそうに続けた。「私の職業は竜騎士だ。スキルとしては、剣技・バフデバフ1.5倍・バフ変換チャージ・防護光鎧・バフ時間倍増・デバフ時間半減・竜筋・身代わりがある。」
「すごいですね、めっちゃ相性がいい気がします。」千優は驚きの声を上げた。
「じゃあ、1層から始めようか。」銀花はにっこりと笑いながら、剣を構えた。
二人はダンジョンの入り口から続く通路を進み、最初に遭遇したのはゴブリンだった。小柄で獰猛なその姿が、牙をむき出しにして襲いかかってくる。
「千優、ちょっと後ろに下がっていて。」銀花は冷静に言った。
千優は言われた通り、後ろに退避する。銀花が大剣を一閃すると、ゴブリンたちはたちまち吹き飛ばされ、床に散らばった。その豪快な戦いぶりに、千優は圧倒される。
「これが銀花さんの実力…!」千優はその光景に感嘆の声を漏らす。
「どんどん行くよ!」
「はははっ!」銀花は大剣を振り回し、周囲の魔物を吹き飛ばしながら笑っている。
今、俺達は5層にいる。
「バフが切れそうなんで、かけ直しますね。」
千優が声をかけると、銀花の剣が光り輝き、2体いたオークを一瞬で消し飛ばした。これはスキルのバフ変換チャージ。バフを消費し、剣気に変換して一撃に込めることができる。
「じゃあ、頼むよ。」
「はいはーい、ドラゴニックパワー・プロテクト・ヘイスト・ヒーリングループ。」
「ありがとう!!」
銀花は現れたオークに向かって走っていく。千優はその姿を見ているだけのエスコートによって新たに2つのスキルを手に入れることができた。どちらもバフ系で、この職業はソロでやらせる気はないらしい。
無双する銀花を見ていると、千優は爆速で駆け寄ってきた。
「あれ?どうかしました?」
「敵が周辺にいないんだ」
「狩りすぎましたか?」
「こんなぐらいで枯れるわけがないはずなんだけどなぁ」
「銀花さんが強すぎなんですよ、…こんなに強いとは思ってもいませんでしたよ。」
「ありがとね。」銀花は照れくさそうに笑い、千優にぐいっと顔を近づけた。「君がバフをかけてくれたおかげで、随分助かったよ。」
千優はドキッとして後ろに一歩下がる。「なくても変わらないですよ。」
「低層だとそうかもしれないが、もっと先に進めば君の凄さがもっと分かるさ。」
銀花が突如ピタリと足を止めた。
「敵ですか?」
「ああ、この先にイレギュラーがいるみたいだ。」
「ええ!?逃げますか?」
「いや、戦おう。」
「無理ですよ!」
銀花は深い息をつき、真剣な表情で千優を見つめた。「すまない、戦わないといけない理由があって。」
「理由ですか?」
「教えてもいいが、多分信じないと思うし、時間がかかる。ことが片付いたらゆっくり話そう。」
千優は問い詰めようとしたが、銀花の瞳に映る決意が本物であることが伝わり、言葉を飲み込んだ。
「…わかりました。」
「ありがとう。イレギュラーは5層の帰還ゲートとは違う道にいるから、先に地上へ戻ってて。帰還ゲートまでは送るから。」
千優はしばし黙考した後、顔を上げて銀花を見つめた。
「色々言いたいことはありますけど、今は飲み込みます。でも、条件があります。」
「条件?」
「そのイレギュラーとの戦い、俺も参加します。」
「危険だ!」
「それは銀花さんもですよね。ヘイストは自分にもかけられるので、邪魔はしません。お願いします。」
銀花はしばしの間、千優の真剣な表情を見つめた後、諦めたように頷いた。「うう、わかった。私も意地を通すから、君の意思も尊重するよ。」
「絶対死なないでくださいね。」
「ああ、君を残して死なないさ。」
「はあ、そんなことを言ってる余裕があれば大丈夫ですね。」
「私はいつだって本気さ。」
「じゃあ、行きますか。」
「うん、君にかっこいい姿を見せるさ。」
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