第5話

「す、すみません」


千優は頭を全力で下げていた。


「初めて会うのに、突然泣き出してしまって」


最悪だ。一目惚れした相手に気持ち悪いところを見せてしまったとショックを受けながら自己嫌悪に陥っていると、イケメンはブツブツと少し俯きながら呟いた。


「そうか、君は覚えてないか...君はただの人だから当たり前か...でも、魂は覚えていた?...なぜだ?」


「気持ち悪かったですよね」


イケメンはバッと顔を上げた。


「いや、嬉しかったよ」


「嬉しかった?泣いてたのが?」


「いや、そういう意味じゃないんだ」


あまりにも不思議な回答だったため、千優は聞き返すと、イケメンはアタフタと必死に誤解を解こうとしていた。


「アハハ」


「むぅ、なぜ笑う」


「いや、なんかさっきと印象が違いすぎて」


「さっきまでどんな印象を持たれていたか知らないけど、まあ泣かれるより笑ってくれる方がいいか」


「アハハ、初めてこんなに笑った気がします……ふう、少し落ち着きました」


冷静になった千優は、なぜこのイケメンが突然手首を掴んだのかを思い出した。


「そういえば、俺に何か用事でもありました?」


「うん...」


イケメンは少し悩んだ表情を浮かべ、考え込み、覚悟を決めた顔をした。


「それは、その...あれだっ!君に一目惚れしたんだ!!」


「は?」


「うん、私を男だと勘違いしたか?こんな格好をして可愛い顔もしてないが、これでも女性なんだ」


確かに、少しカジュアルパンクファッションでパッと見だと男だと思ってしまう見た目だ。実際そう思った。


「いや、さすがに対面して女性だと気づいてますよ」


「ほっ、それなら良かった。それで、私はアリか?ナシか?」


アリ?ナシ?どういう意味だ?


質問の意味が分からず首を傾げると、イケメンは顔を赤くしながら千優の両肩を掴み、マジな目で見つめた。ちょっと怖い。


「君が私を恋愛対象として見れるかだ。もちろん、出会ったばかりと言うのも分かる。しかし、外見的な印象でもいい。もし、タイプではないと言うなら、タイプになるように君を変えてみせる!」


「.........えっ?」


かなり早口で一気に言われ、理解するのに時間がかかった。今、この人は自分が変わるのではなく、千優を変えると言ったのか?それって選択肢はないのと一緒では?


あまりの衝撃で頭がフリーズしていると、イケメンは勘違いしたのか胸を押さえ、膝から崩れ落ちた。


「うぐっ、答えないと言うことはやっぱりナシなのか...必ず好きにしてみせるとはいえ、心に傷が...」


「いやいや、違います、違います」


「まあ...アリかナシかで言うと...」


顔をバッと上げ、こちらを見上げる。


「言うと?」


「まあ、アリかなぁ?」


イケメンは素早く立ち上がり、手を握ってきた。


「本当か! 少し疑問形なのが気になるが、そんなことはどうでもいい! ああ、この出会いに神に感謝するよ! じゃあ、デートでもしようか、ダンジョンでどうだい?君が憧れていた冒険を一緒にしようではないか」


「え? なんで憧れてたって知ってr」


「さあ、行こう!」


握られていた手を引っ張られながら、千優はダンジョンへと向かうことになった。

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