第100話 誰かのための物語
フオンから「ダンジョンコア」の破壊の許可を受けた3人。
・ネロ
「さて、と。お兄ちゃんからの許可も貰ったし、魔物の相手ももう飽きたから………全部やっちゃうか!!」
そんなことを一人呟くネロの周りには夥しい魔物の亡骸が転がっていた。それは、フオンに「行動の自由」を知られてしまったネロの八つ当たりにあった哀れな魔物達の残骸だった。
ネロはそんなモノに目もくれずに持っている魔法のスティッキに今日一の魔力を溜めると────「ダンジョンコア」に標準を合わせる。
「────んーん、他の人との間だと目立たないために"無詠唱"がバレないために詠唱をしているけど………今は誰もいないし、良いか!────」
そう言うと魔法の詠唱を破棄して、魔法の名を告げようとするネロ。
・服部
「────準備は万全。あとは開始許可だけでしたが、今、降りたので拙者、本気を出しまつる。被害は気にしなくても良いでしょうな。どうせ、この「ダンジョン」ごと破壊するのですからなぁ〜」
そう言うと最後の丸薬の様なモノ────"魔石"を「ダンジョンコア」の近くに全て投下する。すると共に「瞬歩」で一瞬で「ダンジョンコア」から十分な距離を離れると────大魔法を行使する。
「────火遁・風遁・雷遁 合わせ技────擬似魔法────」
そう詠唱?をしながら印を結んだ右手を上に向け、左手を腰につける少しカッコつけた?様な格好をすると今できる全開の氣を送りながら魔法?の名を告げようとする服部。
・諏訪部
「────さて、魔剣の極意しかと見せよう」
そう呟く諏訪部の両手にはさっきまで使っていた片手剣はなく、赤と青の色鮮やかな両手剣が収まっていた。その両手剣は諏訪部の魔力を帯びてか薄く発光している。
その両手剣を持ちながら少し感慨深げに呟く。
「それにしても「A」ランク最強、時期「S」ランクになれる逸材、か。今となっては些か笑えてくるな。実力を認めてくれるのは嬉しいが、世の中にはランクでは「スキル」では測れない最強がいるのだから、な。………愚痴を言っていても終わらないな。俺も始めよう」
手に持つ本来の
「────行くぞ、
諏訪部が自分が持つ魔剣の真名を呟くとその魔剣も諏訪部の声に呼応する様に発光を強くする。
「────全てを燃やし尽くせ、武気────」
己が魔剣に全魔力を注ぎ、先にある「ダンジョンコア」に向けて構えると────
・フオン
「────お前の敗因を教えてやろう。お前の敗因は三つある。────一つ、人間を侮った事」
フオンはそう呟くと共に一歩前に出る。それと共に左手の氣が高まる。
『ま、待ってくれ!』
クリプットは喚くが止まらない、フオン。
「────二つ、自分が強いと錯覚した事」
言葉と共にさっきよりも左手の輝きが増す。
『────あぁ、あ、あぁーーーー』
言葉にならない声を漏らすクリプット。
固唾を飲んで見守る千堂達。
そんな時、最後の言葉が紡がれる。
「────三つ、俺と出会った事」
完成された氣の撃破をクリプットに喰らわすために構えるフオン。
そんな時、クリプットは思いがけない行動に出る。
『キ、消えたくない!消えたくないィィィィ!!!?』
既に死んでいるのにも関わらずそんなことを卑しくも叫ぶと逃げられないと知っているのにも何処かへ逃亡しようとする。
ただ、そんなクリプットに向けて何処から現れたのか白い炎が現れ、クリプットの身体に巻き付き、身動きを止める。
『あぁッァ!!?こ、この、炎は!?』
クリプットはその白炎を見て驚き、千堂達はその白炎を見て涙する。
その白炎は隼也が残した最後の命の灯火なのだと分かったのだから。今も尚、自分達を護るために動き、白炎は燃え盛りクリプットの逃亡を許さないために拘束する。
その様子を見ていたフオンは────満面な笑みを始めて浮かべた。そんなフオンの表情などクリプットも千堂達も見たことがなく、みんな驚いていた。
そんな中、フオンはいつもと違う口調で話す。
「────それは、手前が馬鹿にした人間の想いだ。これは手前が殺していった人間の悲しみだ。だから、しかと、受け取れやぁ!!!」
フオンは────幸太の時の様な口調になると────叫ぶ。
そのまま一瞬でクリプットの目前に移動したフオンは。
「────
言霊と共に氣をこれでもかと溜めた左手に灰色の覇気の様なものが収束する。そんな拳を隼也の白炎で身動きが取れないクリプットの胴体に這わせる。
「────「
躊躇いなく左手の一撃を穿つ。
リィィィィィィィィィーーーーン!!!!
耳を劈く様な鐘の音の音が響き渡ると、瞬発的に発生した爆音と共にクリプットは吹き飛ぶ。
『────アッァォォォォォオォァァォ!!?!?!』
吹き飛んだあとに遅れて不気味な叫び声を上げるクリプット。フオンのがクリプットに当てた一撃は「ダンジョン」の壁をもいとも簡単にブチ破り。クリプットの真後ろにあった「ダンジョンコア」も難なく壊し、その一撃は止まる事なく────「ダンジョン」の壁を全て粉砕して地上へと、到達する。
フオンがクリプットに向けて放った一撃はド派手な攻撃のモーションも人を魅せる様な華やかな攻撃もいらなかった。それはただ、生物を確実に仕留める為の一撃だった。
腰を落として正拳突きを放ったままの体制で、フオンは終わりを待つ。
そんな中、他のみんなもフオンに合わせる様に「ダンジョンコア」を破壊していた。
「────「
溜めていた魔力を放出するとともに魔法を完成させたネロは自分がいる空間以外を重力で全てを文字通り押し潰す、魔女。
「擬似魔法────「
戦いの最中、撒いていた「火遁・風遁・雷遁」の忍術が込められた沢山の魔石を自身の氣を媒介に発動させた魔物&「ダンジョンコア」を破壊する擬似魔法。
「────武気────「
魔剣を水平に構え、魔力を纏った諏訪部は一瞬で動き「ダンジョンコア」の奥に移動する。それと共に「ダンジョンコア」は呆気なく砕ける。遅れて魔物達の断末魔が響き渡る。
魔剣に溜めた全魔力と斬撃の一撃。その一撃はネロや服部ほどの広範囲の威力は持たないが、一点集中の火力で周りの魔物や「ダンジョンコア」諸共全てを粉砕して見せた。
フオンが「ダンジョンコア」を破壊したと共に────3人のいる階層の「ダンジョンコア」も────「パリンッ!」。一斉にそう、音を立てて呆気なく割れる。
それと共に────
────警告 警告 「ダンジョンマスター」及び「ダンジョンコア」の破壊を確認 「ダンジョン」内にいる人々を地上へ送還します それと共に 崩壊、開始────
そんな女性か男性かわからない機会的な声が響くとフオン達の身体が光る。
そんな「強制送還」のアナウンスを聴いたみんなは────身体を抱き合い、喜びあった。もう、完全に戦いは終わったことがわかったからだ。
フオンはさっきまでの正拳突きの体制をやめる。そのまま近くにある今も残る白炎の残滓を屈んで手で覆う────
「────緑矢さん。仇は取った。だから、貴方も心置きなく休んでくれ。貴方はみんなを護ったんだ。誇っていい」
フオンは元に戻した口調で呟くと自身で開けた夜の風景が見える「ダンジョン」の大穴を見ながら「フッ」と笑みを浮かべる。それと共に白炎の残滓も為すことを果たしたからか、薄く徐々に消えていく。
その中、「あばよ、隼也」────そんな千堂の声が小さく聴こえた。
他のみんなは目尻に涙を溜めながらそんなフオンの姿を見る。今のフオンの姿は「
そんなフオンの勇姿を男性達は「英雄」や「ヒーロー」を観る様な面持ちで見て、凛を含む女性陣はみんなして赤面する。
そんな中、一人セリナだけがフオンのことを驚愕とした面持ちで見ていた。
ただ、そんなみんなの気持ちなど知らないフオンはみんながいる真後ろに振り向くと────
「【────さぁ、任務達成だ。みんなが待つ場所に、帰ろう】」
右手を頭に翳しながら「共鳴」を使い、ネロ達と千堂達にいつもの飄々とした顔と声で同時に告げるのだった。
それと共にフオン達の身体の光の量も増す。
2035年4月13日 21時51分「東京ダンジョン」崩壊。
「隠しダンジョン」通称────「川越ダンジョン」が崩壊してからの経った1週間後の出来事だった。
『ハァ、ハァ、ハハ、ハハハッ!────爪が甘い。そう、言っただろう。それに、奥の手は最後まで残すのが、セオリーだろぉ?』
「東京ダンジョン」から少し離れた林の中、月明かりが照らす路上でそんな声が聴こえる。
フオンの手により地上に吹き飛ばされ、完全に消滅させられたと思われたクリプットは生き延びていたのだ。
生き延びられた理由は異世界の女神「ノクナレア」から恩恵を授かっていたおかげだ。クリプットが女神「ノクナレア」から貰った能力は────"一度だけどんな攻撃でも防ぐ"と、言われるモノだった。他の魔族の幹部と比べると微妙な能力だったが、それのおかげで今も一応、生き延びられていた。
そんなクリプットは誓う。
『はは、はははっ!今、勝てなくてもいずれは、それに他の幹部達を奴に当てるのも良いかもしれない。単体では勝てなくても魔王様を含める全員でぶつかれば………』
そんな邪な考えを持つクリプットは惨めに地面を這いつくばっていた。
ただ、運が良いと思っていたクリプットだったが、もう既にクリプットの運命は────途絶えていた。
それは────
「あら、あらあらあら。まあまあまあ。貴方、魔族側のクリプットよね?そんなに惨めな姿になってしまって、お可愛そうに」
『────ッ!?』
女性の声が聴こえた瞬間、クリプットの背筋にフオンと対峙した時とは違う悪寒を感じた。
恐る、恐る、上を見上げると────そこには金色の刺繍が所々に入っている真っ白なドレスを着た女性が立っていた。顔を真っ黒なベールで隠しているため、素顔は見えない。
でも、クリプットには目の前にいるその人物が誰なのか直ぐにわかった。隠し切れないほどの神威、霊圧、そしてなによりも────生物として頂点としての存在感。
『────あ、貴方は、貴方様は────』
ただ、クリプット何何かを口にしようとすると突如として物理的に口が動かせなくなる。
(────ッ!?これは、干渉されたことで俺の口、いや、身動き全てを止めた、のか?)
そう考えたクリプットだったが、他にもあることを考えた。
それは────
自分が目の前の人物の名前を軽々しく口にしようとしたから、だ。
「貴方は良い駒だったのだけど。私、面白そうでとても素敵な殿方を見つけてしまったの!うーん!彼は良い!彼は素敵よ!!」
『…………』
その人物は恋する乙女の様に甘い声を出すとその場をクルクルと回る。そんな姿を見たことなかったクリプットは内心で驚く。ただ、クリプットには目の前の人物が気になる男など一人しか思い浮かばなかった。
それは、フオン・シュトレインただ一人だと。
そんなことを考えていたクリプットだったが、突如として動きを止めた目の前の人物が気になり、そちらに目を向けると────こちらに冷たい目線を向けながら見ていた。
「────ただ、そんな私の彼に手を出そうとする愚か者には、死、あるのみよね?」
『────ッ!?!?』
その言葉を聞いたクリプットは漸く、何故そんな冷たい目線を向けられているのかな気付く。ただ、気付いたとしても何も助かる手立てなどない。
「貴方はもう用済みよ。だから、消えなさい」
目の前の人物がそんなことを呟く。ただ、呟いたと共にクリプットの身体は音を立てて崩れていく。
『────!──── ────!!?』
声を上げれないクリプットは呻きながらもなすがままにこの世から消えていく。
(────み、私は────あぁ、────あぁ、終わ──── ────)
そんな途切れ途切れのか言葉を内心で残すと────クリプットは完全に消滅する。
クリプットが消滅したのを確認したその人物は消えゆくクリプットなどに目もくれず。
「────世界でただ一人、神々に愛されなかった人の子。あぁ、
右手を自身の頬に近づけると火照る顔を覚ます様に仰ぐ。そのまま少女の様な乙女の様な表情を真っ黒なベールで見えないながらも歪める。
「早く、逢いたいなぁ〜。私の王子様、私の夫になるべく存在。確か名前は────工藤幸太君。いえ、今は────フオン・シュトレイン様。あぁ、貴方と逢える日を待ちわびております────」
そんな言葉を残し、その人物は姿を蜃気楼の様に消す。
その後に残るのは夜風が吹く、ただの森の中だった。
2035年4月13日 22時03分 異世界「ノクナレア」魔族サイド──── 魔王幹部第三席────始祖の
、
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