第99話 神の存在





 ◇閑話休題閑話の終わり



 そんなこんながありフオン達は各階層に別れた。そして今、その「ダンジョンコア」の破壊の時が今、訪れた。


 身体全体から氣を放出していたフオンはそのままの状態を維持すると────


 臍を起点に全身に流すようにしていた氣を一か所に込めようとする。臍から胸を通り、肩、腕、そして────左手の拳へと氣を流すイメージを作る。


 それと共に一呼吸を入れる。


「────ふぅ」


(────コイツを完全に消す方法はさっきの"遊び"で大体は掴んだ。コイツは自分のことを"霊体"と言った。ただ、俺の氣ならばその霊体すらダメージを通せる。恐らくだが、コイツは霊体────要するに魂だけの状態ということだ。なら、その魂の根元から断てば良い。なら────容易い)


 フオンはそう考えると目を瞑る。そのまま左手に氣を溜め続ける。


 そんなフオンの行動がわからないクリプットだが、フオンに当てられている圧のせいか動けないでいた。


(────俺は、馬鹿だ。私は阿保だ。目の前の化け物が強い?笑わせるな。人間?ふざけるな!────こんな奴、"あのお方"達じゃないと勝てるわけがないだろ!!?は、ははは、他の魔族の幹部?魔王様?────無理だ。絶対に勝てない。この男はこんなにも強いのに、本気すら一欠片も出していない上に俺との戦いで遊んでやがる………)


 そんな事を考えたクリプットは………考えるのを辞めた。フオンから逃げれるのも辞めた。そもそもが物理的に逃げられなくされていた。それにフオンの言う通り、自分が何をやってもどんな策を労しようと────無駄になるのだから。


 そんな中、フオンの左手に異変が起きる。さっきまでは鈍く輝いていたフオンの左手だったが、今は眩いほどの白い灰色の輝きを灯していた。


 それと共に目を開けるフオン。


「────完成、だな。さて────」


 フオンはそう一人呟くと、右手を徐に上げる頭に翳しながら、話しかける。



【こちら、準備完了。そっちはどうだ?】


 フオンが話しかけるように呟くと。



 自身が持つ魔法のスティッキの様な杖に無尽蔵な魔力を溜めて魔物を嬉々として屠っていたネロは。


【こちらオッケイだよ!魔物、殲滅!!】


 ネロからそんな陽気な声が聴こえ。



 何かをしようと考えているのか小刀をしまった服部は腰から取り出したポーチから丸薬の様な物を先程から「ダンジョンコア」の周辺にばら撒いていた。そんな服部は。


【フッフッフ!こちらも準備万端でござるよ!本物の魔法をお見せしましょう!!】


 ハイになっている服部からそんな言葉が返される。 



 一人、自分の武器である二本の片手剣を両手に持ち戦っていた諏訪部は魔力をあることのために温存していた。そんな諏訪部は。


【こちらも完了だ!魔力を回す!!】


 諏訪部からはそんな声が聞こえると共に凄まじい風音が響く。



 そんな三人の声を聴いたフオンは、左手で握り拳を作ると自身の顔の真横まで上げる。それと共に氣で発生した波動によりフオンの顔を隠していたフードが外れ、ここに来て初めてフオンの顔が見えた。

 

 氣の波動で揺れる茶髪。優しそうな薄緑色の瞳。何故か口角が上がった口元。


 その顔は────笑っていた。


 目の前の敵を漸く倒せるからか満面の笑みだった。


 そんなフオンの顔を見たセリナ達、女性陣はみんなして下を向き、赤面する。男性陣は「おぉ!!」と、叫ぶ。


【じゃあ────『ま、待ってくれ!』────】


 最後の仕上げを伝えようとしたフオンにクリプットは声をかける。邪魔されたフオンは念のためにクリプットの方に顔を向ける。


「────なんだ?」


 不機嫌を隠しもしないフオンは告げる。


『そ、その!俺を今、殺すのは得策じゃない!!何せ、俺は"ある情報"を知っているからだ!!お前も知りたいだろ?』

「…………」


 クリプットにそんなことを言われたフオンは尚も無言で左手に力を込める。



『待って!聴け!いや、聴いてください!!』


 クリプットのそんな必死さがフオンに伝わったのか、一度、左手を下げた。その事に安堵のため息を吐くクリプットだが────


「早く、話せ。手短に話さないと………」

『わ、わかりました!ただ、俺の話を聞けば、俺を殺すのは辞めたほうが良いと思われます!』


 完全に目の前のフオンに畏怖してしまったのか、敬語で話すクリプット。その姿を千堂達はジト目で見ている。


「────それは聞いてから俺が考える事だ。早く、話せと、言っている」


 左手を上げて脅すフオン。


『は、はひっ!!俺達は────』


 フオンに脅されると直ぐに話すクリプット。


 その内容は────


 クリプットが話した内容はフオンからしても少し、というかありえない内容だった。


 その内容とは────






 なんと、地球に「ダンジョン」や「スキル・ステータス・レベル」が現れたのは────のせいだという。


 もう少し詳しく話すなら、異世界の神「ノクナレア」という女神と地球の神「テルス」という男神が遊戯で遊んだ事で地球の神「テルス」が異世界の神「ノクナレア」に負けた為、賭け事の勝者である異世界の女神「ノクナレア」の提案で地球に魔物や「ダンジョン」といったものを送ることになってしまったという。


 その時に、異世界の「魔族」、「スキル・ステータス・レベル」を手に入れた「地球人」のどちらが上か勝負をしようと話が出た。この事により、魔族達────クリプット達は異世界の神「ノクナレア」に少し力を授かりこちらの世界、地球に来たという。


 「ダンジョン」は地球人を鍛えるために用意したという。元々異世界「ノクナレア」にあったものをそのまま地球のあちこちに転移させたと告げる。


 だから、根本的に地球こっちの世界がおかしくなったのは神のせいだという。それにクリプットはその神「ノクナレア」のお気に入りだそうだから、殺すのは得策ではないらしい。


 ただ、この話を聞いたこの場所にいた人々は「そんな話嘘だろ!!」などと一笑に付す事はできなかった。事実として「ダンジョン」や「スキル・ステータス・レベル」や魔物それも「魔族」などといった生物が現れているのだから。それもその「魔族」から神の実在について話されているのだから。



『────だから、俺をこのままに留めてくれ。もう、悪さはしない!絶対だ!』


 そんなことを話したクリプットは助かると思っているのかハキハキと話してくる。


 ただ、嘘か本当かわからないフオンは────


「…………」


【ネロ、お前も今の話聞いていただろ?コイツは嘘を付いていたか?】


 口でしゃべらずに右手を頭に添えると脳から直接ネロだけに話しかける。「共鳴」をずっと接続していたネロは────



【うん。彼?の言い分はほとんどが正しい様だね。ただ、彼が異世界の神「ノクナレア」のお気に入り、あとは「今後何もしない」という事は全て嘘ぱちさ。まぁ、だよ】


 「妖精眼」で全てを見ていてくれたのかそんなことを返してくれる。


 ネロからの返答を聞いたフオンは────



【そうか、助かった】



 一言、そう念じると────



「【お前ら、全力だ。「ダンジョンコア」の破壊、開始!】」



 わざと声に出してそんなことを告げる。



『な、何故だ!?』


 クリプットは何かを叫んでいるがフオンは既に聞く耳を持たない。



 それに、告げられたみんなは────



【了解!】

【任せるてござるよ!!】

【直ぐに出来る!】



 3人からそんな言葉が帰ってきた。


 返事を確認するとフオンは氣を溜めていた左手に力一杯に力んだ拳を作り、腰を落とす。そのまま標準をクリプットに合わせる。


「────知ってるか?俺は嘘をつく奴が一番嫌いなんだ。それに、お前が話す内容が本当だとしよう。だとしてそれがどうした?神?そんな者お前と同じで────倒してしまっても構わないのだろう?』

『なっ!?貴様は、神々の凄さを、恐ろしさを知らないからそう言える!』


 敬語を辞めたクリプットはなんとか生きる為に惨めに生き延びようとする。


 ただ、目の前に話すフオンは理不尽の権化の様な存在であり────


「────知らんな。ただ、今後知れば良いだろう。戦う機会もあるかも知れんしな」

『────狂って、やがる』


 自分の話を聞いてくれないフオンを目前にしてクリプットは嘆く。

 




 









  

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