第96話 クリプットの悪足掻き
フオンは名を告げると共に今もまたクリプットに"最後の死"を与えようとしていた。
『────ククッ、クククッ!!!!』
だが、フオンを目前にしてクリプットは何故か嗤う。
「…………」
そのことにフオンは眉を少し上げると無言ながら「頭でもやられたか?」と思った。
ただ、千堂達は違かった。その余裕の笑みを見せるクリプットの姿を知っていた。何かをする時の伏線のように。
「────フオン君!そいつは何かをするきよ、気をつけて!!」
クリプットの不気味さに気付いたセリナはフオンに気をつけるように伝える。
ただ、フオンは何を気をつけるのかも分からない。
そんな中、クリプットは一層深く嗤う。
『クハッ!今更気付いたとしてももう、遅いわ!!────そうだ、俺の敗北は
クリプットはそう言うとその蝙蝠の羽を広げると大きな声を出し、告げる。
『────告げる!各階層に集う魔物共よ、地上への侵攻を開始せよ!!自分の欲望、本能に従い人間供を駆逐せよォォッ!!!!』
クリプットはそんな地獄の報せを伝える。
それと共にブーブーブーと警報のような音がフオン達がいる空間内に響き渡る。その警報を聞いたクリプットは自分の思い通りにことが進んでいることに笑みを濃くする。
────侵入者 侵入者 ダンジョン内に侵入者アリ 直ちに、駆除せよ────
そんなフオンが何処かで聞いたことのあるような女性とも男性とも判断のつかない機械的な声が響き渡る。
『────は?』
ただ、それはクリプットが思っていたような内容ではなかった。本来なら警報が響き渡ると共にさっきの機械的な声が響き渡ると────「魔物達の侵攻を開始しました」と警報から伝わるように設定」していた。
────はずなのに今はどうだ?何故か「侵入者がアリ」などと告げてくる。そのことにクリプットは「何かエラーでも起こっているのか?」と思ったが、直ぐに違うことに気づく。
何故なら────千堂達が警報の声を聞いて騒いでいる中、一人肩を震わせて笑っているフオンの姿があるのだから。
なので────
『き、貴様ーーー!!何か、したなァッ!?』
フオンに向けて憤怒の表情を浮かべたクリプットは叫ぶ。
「────あぁ、やった。だが、何故今から死にゆくお前如きに教えなくてはいけない?それに人に楽に教えてもらえると思うなよ、間抜けが」
完全にクリプットを馬鹿にしているのかフオンは取り合わない。
『なんだと、貴様ッ!俺は魔族の────「あぁ、そういうのはいい。そもそもお前の名など知りたくもないわ」────ギ、貴様ッッッ!!?』
クリプットは自身の名をフオンに伝え、威厳を出そうとしていたが、フオンに遮られてしまう。
そんなフオンに手玉に取られているクリプットの姿を千堂達はただ、見ていることしかできなかった。それにもう、わかった。フオンは自分達が心配する必要がない存在だということを。
そんな中、フオンは怒り浸透のクリプットを宥めるわけではないが話しかける。
「まぁ、俺も鬼ではない。お前の今思う疑問を俺から少し答えてやろう。簡単に話すと────貴様が「"どんな策を労しようと無駄だ"」、ということだ。確か、楽しそうにさっきお前は千堂さんに話していたよな?」
『────ッ!?そ、その言葉は………』
流石のクリプットもう自信が言った言葉でマウントをとられると思っていなかったのか動揺を見せる。
ただ、そんなクリプットにフオンは追い討ちをかける。
「それに、まだ気付かないのか?さっきの"警報"に加えて"他の階層で魔物達が出現"したというのにも関わらず、俺が何も行動を起こさない理由に?」
『────ッ!?ま、まさか────!?────システムコンソロール!!!』
フオンの口から発せられたヒントに漸く何かがおかしいことに気付いたクリプットは「システムコンソロール」そんなことを呟く。
すると、クリプットの目前に半透明な画面が出現する。出現すると共にその画面を見たクリプットは────顔を青ざめる。
そんなクリプットにフオンは楽しげに話しかける。
「漸くわかっただろ?お前の今の置かれている現状に、お前は自身の首を締めていたという状況に────貴様が考えるようなものなど既にこちらに筒抜けだ。だから言ったんだ。"間抜け"だと」
フオンは興醒めだと言うようにクリプットにそう吐き捨てる。
クリプットが出した半透明の画面には────クリプットが各階層に出現させたという魔物達の軍勢が映っていた。
ただ、少しおかしいところがある。その魔物達は地上になど出ずに何者かと交戦しているのだ。それもどの画面にいる魔物達もその人物達────一人ずつに押されていた。
その画面に映っていた人物達は────魔法のステッキを振り回し、何故か笑いながら嬉々として魔物を殲滅するネロ、小刀を片手に持ち魔物を屠る服部、両手に剣を持ち魔物を切り裂く諏訪部、の三人だった。
三人ともフオンに着いてきたクリプットの計画を破綻させるための心強い精鋭達だった。そのことを確認できた千堂やセリナ達も喜び合っていた。
『…………そんな、馬鹿な』
完全に意気消沈してしまったのかクリプットは下を向きながらそんなことを呟いていた。
ただ、フオンは自分の敵には容赦はしない。
「────自分が強者だと錯覚し、楽しんでいた短い時間はどうだった?いや、さぞかし楽しかっただろう。だが、今はどうだ?狩る側だったはずが突如として狩られる側に変わった気分は?────そんなお前にプレゼントだ」
『────ヒッ!!?』
フオンがクリプットにそう伝えた瞬間、フオンの雰囲気が変わると共に空気も一変した。そのフオンの雰囲気に当てられてか近くにいたクリプットは情けなくも悲鳴を上げる。
ただ、そんなクリプットの様子などフオンには関係はない。
「────今から始まる殺戮という名のショーをお前にプレゼントしよう。何、焦るな、直ぐに終わる。安心しろ、お前の身も心も全て尽くを凌駕して────消してやる」
フオンがそう口にした直後────フオンの身体全体から千堂達でも目で認識できる程の半透明な色の氣が溢れ出す。
そんなフオンの様子にただ、クリプットは身体を震わせていることしかできない。
◇
フオンは蔵達に千堂達の救出もとい、「ダンジョンマスター」の討伐を直ぐ様に向かおうと思った。ネロはフオンから離れられないからか無言で着いていく。
ただ、そんなフオン達に声をかける者がいた。
それは────
『────フオン殿、ネロ殿。水臭いですぞ、拙者も勿論お供するでござるよ。なに、何が起きるかわからん。ですが「ダンジョン」の案内人は欠かせないでしょう?』
お腹をぽっこりと出した忍び収束に身を包んだ服部は笑いながら話しかけてきた。
それと共に────
『────俺も君達に同行をしよう。これでも俺は「A」ランク冒険者だからな。君達の足手まといにはならないだろう。それに、「ダンジョン探索」のベテランが一人はいた方が良いだろう?』
「東京支部」の室内の柱に身を置いていた諏訪部が服部と同様にフオンとネロに話しかける。
そんな二人にフオンは────
『────勝手にしろ。ただし、お前らが死のうが知らんからな』
フオンは二人にそう告げる。ただ、今までのフオンの口振りからすると遠回しに────「危ないから待っていろ」と、伝えたいのだと服部達は思ってしまった。
フオンが本当に伝えたい事など服部達にはわからないが、それでも────
『勿論!』
『わかっているさ』
二人はそう告げる。
そんな二人の揺るぎない意志を感じたのかフオンは諦めていた。それと共にフオンは最後に蔵にあることを確認する。
『────そうだ、蔵さん。一つ、良いか?』
『────ひょっ!!あ、あぁ、別に良いけど、何かあったのかい?』
いきなり話を振られると思っていなかった蔵は始め、変な声を上げるが普段通りに取り繕いフオンに返事を返す。
『あぁ、最後に確認を、な。まず、俺達が千堂さんを助けに行ったとして………「東京ダンジョン」が崩壊してしまったとしても、問題はないか?』
『そ、それは………』
フオンからの問いに蔵一人での一存では決めかねないのか、協会長である静香に視線を向ける蔵。
蔵からの視線に気付いた静香は一つ頷く。
『フオン君。それは私から答えるわ。まず、本来なら「東京ダンジョン」はここ東京でのシンボル、人々にはあってはならないモノになっていて「東京ダンジョン」が無くなるのは非常に困ります、が────今回はそんなことを言っている場合ではないわ。なので────「東京支部」の協会長、工藤静香の一存で「東京ダンジョン」の消滅を許可します!!』
『『『おおっ!!!?!!』』』
そんな静香の一言に支部内にいた人々は驚く。ただ、誰として非難の声を上げる人はいない。
蔵も蔵で静香がどんな指示を出すのかはわかっていた為、苦笑いを浮かべるだけに留める。
そんなみんなの想いを確認したフオンは────
『────わかった。出来るだけ「ダンジョン」の消滅は回避するが、後は全て任せろ』
そう、一言残すと踵を返す。
『まぁ、お兄ちゃんもやる気みたいだし、本当に後はこちらに任せてくれて良いよ〜帰ってきたら美味しいご飯頼むね!蔵さん!!』
そんなフオンに着いていくネロは蔵達に顔を向けるとそんなことをウィンクをしながら告げる。
服部と諏訪部はそれぞれ無言で二人の後に着いていく。
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