第95話 フオン・シュトレイン





 千堂達が罪悪感からか何も発言できない中、フオンは一人「ダンジョン」の天井を見上げる。



「────難しいな。全ての人を救う、ということは。いくら強くなっても間に合わなければなんの意味もない。気付いた時には既に遅く。結局俺は、か」



 ────そんな事を千堂達が聞き取れないぐらいの声量で小声で、呟く。



 フオンの言葉を聞き取れなかった千堂達は何を言ったのか気になっているような顔をしていた。


 だが、千堂達が何かを聞く前にフオンが先に口を開く。


「────安心しろ。アンタ達は、死なない」


 そんな事をフオンは安心をさせる様に千堂達に伝える。


 目深に被っているフードのせいでフオンの表情はわからなかったが、千堂達は何故かフオンが"寂しそう"な表情を浮かべていると全員が感じた。そのことも相まって何かをフオンに伝えたかった千堂達だったが、さっきの自分達の間違いからかうまく口が動かない。


 千堂達が先程の自分達の浅慮な考えに葛藤している中。


「────そうだ。これは、ただの気休めだがポーションを渡すから千堂さんを含める負傷者は使うといい」


 自分の腰に吊るしているポーチをガサゴソと"何かを探すフリ"をすると「アイテムボックス」となっているズボンのポケットからポーションが沢山入っている布袋を取り出す。


 そのまま千堂に向けて軽く投げる。


「うわっと!?────って、コレ、全部ポーションかい?」


 千堂は危なかしげにフオンが投げた布袋を受け取るとそう、聞き返す。聞かれたフオンは一つ頷く。


「────足りなかったら言え。あと、一袋ある」


 フオンはそう言葉を返しながらも今も壁にめり込んでいるクリプットを見る。


 千堂はフオンにありがたいと思いながらも布袋の中身を確認すると────


「────なっ!?!」


 驚愕の表情を浮かべながらもそんな声を零してしまった。そのことに見ていたセリナ達が気になったのか近付いてくる。


「リーダー。どうかしましたか?フオン君がポーションと銘打って変な物でも渡してきましたか?」


 そんなセリナの言葉に千堂は首を振る。


「い、いや、違う!逆だ!彼が渡して来たポーションは────全てが、"エクストラポーション"なんだよ!?」


 持っている布袋を震えた手で持ちながらそんな事を叫ぶ。布袋の中身の価値がわかった千堂はどこか青ざめた表情を浮かべていた。


 そんな千堂の言葉を聞いた他の人々は千堂が何を言っているのかを一瞬理解ができず、辺りが「シーン」となってしまったが────

 

『『『ハァッーーーーー?!?!』』』


 みんなしてそんな悲鳴じみた声を上げてしまう。


 ただ、それは当然だった。フオンが千堂に渡した布袋に入っているポーションは全てが"エクストラポーション"と呼ばれる代物で、効能がとてつもないものだった。

 その効能は────"死"意外のものを全て完治させてしまうと言われる代物だった。勿論、病気や部位の欠損すらもその人物が"亡くなって"さえいなければ治せる。


 その値段も桁外れだ。一本で一億円は簡単に飛ぶものだ。オークションに出せばもっと値が上がるかもしれない。そんなポーションが布袋の中に30本ほども入っているのだから。


 それに千堂は「鑑定」待ちなので間違えるはずもなかった。なので、尚更セリナ達はその事実に驚くとともにそんなものをポンと渡してくるフオンに驚きを見せた。


 ただ、フオンは千堂達に奇異な視線を向けられながらも特に気にした様子はない。それよりも今も尚、クリプットを見ていた。


「そ、その!!フオン君。ポーションは嬉しいのだが、流石にこんな価値のあるものは貰えないよ!!」


 流石の千堂も恩を仇で返すのはやりたくはなかったがフオンに返却することにした。それはセリナ達、他の人々も同意見だった。


 だが、フオンは────


「────気にするな。そんな物でも人一人の命が救えるのなら好きなだけくれてやる。勿論、見返りなどいらん」


 千堂を問答無用で突っぱねる。


「だと、しても、こんな価値のある物を沢山も────」

「なら、それはアンタ達への報酬だ。自分達よりも強い敵に負けるとわかっていながらも生きる為に、護る為に戦った報酬だ。俺は何よりもその「努力」や「想い」を素晴らしいと、称賛する」

『『『…………』』』

 

 そんな事を正面から言われてしまった千堂達は────自分達が折れるしか無かった。


 なのでせめてお礼を伝えようと思った。


「────わかった。君の気持ち、頂くよ。だから────『貴様は何者だ』────ッ!?」


 千堂がフオンにお礼を伝えようとした時、千堂のそんな言葉を遮るように────クリプットが間に入ってくる。クリプットが未だに動ける事を知ってか千堂達は身構える。


 クリプットに問われたフオンは────


「────その質問に何か意味があるのか?」


 特にクリプットが生きていることになど興味が無いのか淡々に聞き返す。


『────ある。戦ってわかる。目前にして尚、わかる。貴様────"人"ではないな?」

『『『────ッ!!?』』』


 そんなクリプットの言葉の内容を聞いていた千堂達は息を呑む。それはそうだ。"魔族"だと自分のことを呼ぶクリプットがフオンのことを自ら人とは違う"何か"と聞いているのだから。


 それに、千堂達もなんとなくは「フオンは自分達とは違うのでは?」と思ってしまうところもあった。クリプットの言葉を鵜呑みにするわけではないが────その強さ。先程に見た途方もない量の貴重なポーションを簡単に渡す度量から見ると………どうしても自分達と同じ人の行う範疇を超えていると思ってしまうのだ。


 なので、千堂達も緊張した様な面持ちでフオンの次の言葉を待ってしまう。


 そんな中、フオンは────


「────は?お前は馬鹿か?俺が人ではない?────笑わせるな。正真正銘の人だ。勝手に変な生物に分類するな」

『────へ?』

『『『────え?』』』


 フオンのその「何を当たり前の事を聞いてやがる?」と言った反応にクリプットを含む千堂達は素っ頓狂な声を上げる。


 そんな中、フオンは言葉を続ける。


「俺が他の生命体だとでも思ったか?────寝言は寝て言え。道化が」


 フオンはそう吐き捨てる様にクリプットに伝える。


 ただ、自分の考えが間違っていたと気付いたクリプットは血相を変える。


『なら、貴様はなんだというのだ!?"霊体"であるはずの俺に攻撃を当て、その強さ!ただの人の訳が無いだろうがァッッ!!?』


 そんなクリプットの叫びに────どうでもいいようにフオンは頭を掻くと。






「────はぁ、通りすがりの初心者冒険者ですが、何か?」


 フオンは少しふざけたようにそんなことをニヤリとフードの中で笑うとクリプットに伝える。


 そんな言葉を聞いたクリプットは激昂する。


『ふ、ふざけるな!!貴様のような訳の分からない人間がただの初心者冒険者なわけが、あるか!!?』


 クリプットが叫ぶとその声に呼応するようにクリプットがいる周りから沢山の魔物がまた現れる。


 ただ、現れると共に。


「────同じことばかりではつまらないぞ?芸を見せるなら少しは観客こちらを楽しませろ、道化────「射貫けシュート」連射」


 フオンはその魔物達とクリプットに両手を向けるとピストルの形に変える。そのまま標準を合わし────射抜く。

 

 フオンが放った圧縮された氣の弾丸は容赦なく魔物達やクリプットを襲う。


 パン、パンパン、パパパパパンッ────


 そんな発泡音が空間内に響き渡る。


 フオンの氣の弾丸の雨を喰らったクリプット達は────


『グワッーーーーー!!?』

『『『ギャワッァッッッーーーー!!!?』』』


 フオンの攻撃で一瞬で一掃される。ただ、魔物達は死んだが、クリプットは瞬時に身体を再生させるとフオンを睨む。


『────なら、なら!貴様は誰だと言うのだ!人なら"名"を名乗れェェッ!!?』


 蝙蝠の身体のまま、唾を飛ばすとフオンに自分の名を名乗るようにヒステリックに喚く。


 そんなクリプットの話を聞いたフオンは少し肩をすくめる。


「────はぁ、そう言うなら自分から先に言え。と言いたいところだが貴様のような矮小な蝙蝠風情にそれは無理なこと、か」


 クリプットを馬鹿にした様な言い方。そのことにクリプットは何かを言いたかったが、なにを言ったところで今は無駄だと悟った。


 そんな中、フオンは────


「良いだろう。心して聞け。俺の名は、フオン・シュトレイン。強さへの渇望を願った傍観者。に────死の引導を渡す者の名だ。夢夢忘れずに、死ね」


 今も尚、緑色のローブ姿に包むフオンは顔を目深に被ったフードで隠しながらもクリプットを馬鹿にしたようにそう、名を告げる。


 そんなことを告げるフオンはクリプットを完全に消す為に手に氣を溜めるとクリプットに向けて翳す。







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