第94話 救いたかったもの
◇
そんなこんながあり、当初フオンが蔵達の話を"断る"と思っていたがそれは杞憂に終わった。
クリプットや魔物達を一瞬で倒したフオンは戦闘態勢を一行に崩さない。今も尚、何かが潜んでいることを知ってか千堂達を守るように周りを油断なく見回す。
そんな中、フオンは何かに気付いたのか何もいない空間に向けて右手を向ける。
「────まだ、いるな。──── 「
空間に向けたまま右手を上に向けるとその右手の親指と中指をスライドさせる。そのまま────「
フオンの「
ただ、そんな絶大な威力を持った風圧の一撃が当たった場所からは────
『ギギャアッッッッーーーーーーー!!?』
そんな断末魔のような叫び声が聴こえる。
それを確認したフオンは────
「────見え見えだ。隠れるなら隠れるでもっと真面目にやれ」
つまらなそうなものを見るような目を向けながらそんなことを呟く。
隠れていたがフオンに見つけられて風圧を直撃させられた人物────クリプットは避けることも叶わず、ただ悲鳴を上げることしかできなかった。
(────ば、化け物がッ!!!?何故、俺の居場所がわかる!それに、何故────"霊体"であるはずの俺に攻撃を当てられる!!?それに奴はなんだ?!何処から現れた!?誰だ!?誰なのだ!??────)
今の現状がわからないクリプットはただ、喚く。
クリプットは初め、気付いたら身体をくまなく全て切り刻まれ────死んだ。次に意識を取り戻した時、本能が「逃げろ!」と警鐘を告げるように逃げた。────はずだったが、"死神"に直ぐに見つかりセリナにやられたのと合わせて3度目の死を経験する。
"3度目"の死を体験し、蘇ったクリプットは混乱しながらもそんな事を考えていた。
フオンの姿を目で捉えているが、見たくは無いというように凄まじい量の脂汗を垂らしながら下を向く。
既にフオンという存在に身も心も畏怖してしまったのかさっきまでの威勢はどうしたのかというように体を震わせていた。
(────わ、わからぬ。わからぬ、が。目の前にいる化け物は俺を殺せる存在であって────俺がどう足掻いても倒せない怪物だというのはよく、わかる)
クリプットとて馬鹿ではない。自分も強者の端くれだった。そんな中、目の前の
生前の自分でも本気を出したとして太刀打ちできない相手だと直ぐにわかってしまった。
それに────
「────ふむ。中々、しぶといな。では──── 裂け────「
再生したクリプットに向けて容赦無くも無造作に持っている片手剣を振るう。
『ピ、ギャッァァッ!?』
フオンが振るった片手剣から不可視の刃がクリプットに命中すると共にクリプットの身体が四散する。
────このように"自動的"に再生されてしまう自分の身体に寸分の狂いも無くわけのわからない攻撃を当てて殺してくるのだ。
いつ攻撃しているのか見えない動作。不可視な刃。その人物の不気味すぎる強さ。そんな人物に勝てないとクリプットは悟った。
霊体である自分は既に死んでいる為、どんな攻撃も受けない──── はずだった。だが、今はどうだ?何故か霊体である自分にダメージを喰らわせてくる訳の分からない存在がいる。
そんな化け物に勝てるはずがない。
────だから、平伏しようと思った。
『わ、わかった!俺──── 裂け────「
口を開いたクリプットの元に不可視の刃がぶつかる。
どうやらクリプットが思っていた以上に目の前の化け物──── フオンは傍若無人だったようだ。
ただ、それでもクリプットは諦めない。
『待て!待ってく────「
クリプットが諦めないと思ってもフオンもクリプットを殺すのを諦めないし、手心を与えるなどという容赦もしない。
そんな中、フオンは何処からともなく不可視の刃をクリプットに当てる。
『わかった!────「
それでもクリプットは話を聞いてもらうために再生すると共にフオンに話そうとリトライするが、何かを言う前に殺される。
そんな中、クリプットはそれでも諦めずに何度もフオンに話しかけようとした。
ただ────「
殺され、粉々にされ、八つ裂きにされ、粉砕され、殺され、殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され────永遠にクリプットはフオンに心身共に殺される。
気付くとクリプットは見るも無残に何も抵抗も出来ずにボコボコにされていた。
そんな戦いとも呼べないものは5分ほど続いた。
フオンとクリプットの交戦?を見ていた千堂達は初めは「流石、フオン!」や「強すぎる!」などと叫んで応援しながら観戦していたが────今はみんながみんな顔を青ざめて今も続いているクリプットの虐殺シーンを身体を震わせながら見ていた。
「────だ。くたばれ」
『アギャァァァアッ!?!!!?』
今ではフオンは「スキル」名を言うのもやめてただ、クリプットを氣を纏わせた拳で殴り付けていた。殴りつけられたクリプットはその威力に逆えられず物凄い速さで吹き飛ぶとそのまま「ダンジョン」の壁に────めり込む。
どうやら、フオンは"「ダンジョンマスター」を討伐"する事、"千堂達を救出"をするということを完全に忘れ。クリプットという優秀なサンドバッグで氣の練習をするという趣旨に変わってしまったようだ。
そんな中、見ていられなかったというかクリプットが少し可愛そうに見えてきた少し動けるようになった千堂がなんとかフオンに話しかける。
「あ、あのー、フオン君?楽しんでいるところ悪いけど、ちょ、ちょっと良いかい?」
少し怯えながらも話しかける千堂だったが、フオンが気付いてくれたようでクリプットへの追撃をしようとしていた手を一旦止めると顔を向けてくる。
「────なんだ?」
「あ、その、あれだ」
そんなフオンに千堂は口籠る。フオンの見えない顔や緑色のローブに付着するクリプットの血だと思われるものを間近で見てしまい千堂は一歩後退すると萎縮してしまった。
そんな千堂を見たフオンは「何が言いたいんだ?」と、何も言わない千堂に疑問を持っていた。
ただ、千堂もこのままでは負傷している仲間達も助からなくなると思ったのかなんとか声を張り出してフオンに伝える。
「────そ、その!フオン君に助けられている側で言い難いのだが、もう、戦いはその辺で良いのでは?なんか、相手も完全に伸びているし………」
今も壁にめり込み戦意を損失しているクリプットを指を指しながら千堂は伝える。
少し冷静になったフオンは千堂が指を指す先を見たら────
「…………」
"少し敵討ち"に夢中になりすぎたと思ったのか無言になるフオン。
「そ、それに俺のパーティーメンバー達も負傷者がいるからできれば、早く地上に戻りたいな〜なんて?」
千堂がそうフオンに伝えると聞いていたセリナ達も首を縦に振る。フオンに自分が伝えたいことを千堂は伝える。
すると、フオンは────
「──そう、だな。すまない、感情的になりすぎた。緑矢さん達の敵討ちと、思ってな。動けない千堂さん達の代わりにと、思ったのだが、結局俺は自分のことばかりで──少し、やり過ぎた」
フオンはそんな事を申し訳なさそうに呟く。
『『『────ぁ』』』
ただ、そんなフオンの話を聞き、千堂達は自分達が間違っていたことに気付く。自分達はフオンが自分の衝動のままクリプットを痛めつけていると思った。だが、それは何一つとして間違いだった。
救出とかを完全に忘れ破壊の限りを尽くしているものだと思っていた。だが────本当はフオンは自分達が出来なかった隼也達の敵討ちをする為にクリプットを許さず、殺し続けていた事に。
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