第93話 最強な助っ人、その名は──
千堂達の目前にはいつの間にか一人、誰かが立っていた。その人物は自身の武器であろう片手剣を地面に刺すとその片手剣に右手を置き前方をただ、見据えている。
その立ち姿は千堂達を護る様に立っている様にも見えた。
そんな人物の服装は先程クリプットが死ぬ間際に見た通り緑色のローブを着た人物だった。緑色のフードを目深まで被っているので誰なのかわからないし、表情も窺えない。
だが、千堂達────というか、この場にいる人々は、その人物を"目"で見て「
そのままもう一度「はぁ」と、ため息を吐く。
ただ、それは決してため息から来るものではない。安堵から来るものだった。何故、千堂達が安堵をするかというとしっかりとした理由もある。
千堂やセリナ経由でこの頃、というか。ここ一瞬間その人物と接して雰囲気、声を僅かな短い時間だが何度も聴いていたからわからないはずが、間違えるはずがなかった。
そんな自分達の────知り合いの声を聴いた人々は初めて「ダンジョン」という空間の中で安心ができた様に感じた。
千堂は満面な笑みを浮かべると泣き顔を浮かべ。
凛は花が咲いた様に涙を浮かべながらも笑みを零す。
他の面々もみんな千堂や凛と似たようなものだが、みんながみんなその「"最強"の助っ人」が来てくれた事に喜んだ。
そんな千堂達の喜び様が分からないのなら魔物達の姿を見れば一目瞭然だろう。
先程まで、セリナや自分達に襲い掛かろうとしていた魔物達はその"助けに来てくれた心強い助っ人"のお陰で見るも無残に蹂躙し尽くされていた。
千堂達がいた最下層に突如現れた全ての魔物がその人物の"たった一撃"でブロック状に問答無用に裂かれ、ただの肉片にされていた。
それは────クリプットも例外では無かった。
それに、その人物は魔物達を裂くと共に物凄い風圧で後方の「ダンジョン」の壁へと魔物の血や肉片を吹き飛ばす。
それは千堂達に当たらないように配慮していることがわかった。
そんな人物を
「────幸太、君?」
セリナはその人物に目前にしてそんな言葉を漏らす。
ただ、話しかけられた人物は背後を向くことはなかったが、少し肩をすくめると初めて口を開く。
「────残念。俺は幸太などという奴ではないな。ちゃんと────"フオン・シュトレイン"という名前があるのだから」
そんな事を少し小馬鹿にした様に皮肉げにセリナに伝える。
ただ、それはセリナとその人物の恒例の絡みで────
「────ふふっ。そう、残念ね。じゃあ、────貴方は何をしに此処に来たの?」
そう、セリナは可笑しそうに笑うと聞く。
セリナが聞いた時何故だかその人物が"ニヒル"な笑みを浮かべた様に感じた。
その人物の顔を窺えないというのに。
「何をしに此処に来たか、か。────決まっている。強者と戦うために俺は此処に来た。だが、まぁ、あれだ。ついでにお前らも────助けてやる。ついで、だからな」
その人物は真っ先にセリナの言葉を否定したが、千堂達が今、一番聴きたかった言葉がその人物────フオン・シュトレインの口から紡がれた。
その人物は今は亡き緑矢隼也が未来を託した人物でもあった。
◇
『────断る』
「集団ダンジョン探索」から戻ったフオンは「東京支部」に着くと副協会長の蔵と、ここ「東京支部」の最高責任者の協会長である女性から千堂達の救出を頼まれたが────「断る」。
そんな短いながらもハッキリとフオンは断る意思を込めて伝えた。
そんなフオンの言葉を聞いた蔵達は断られた事を瞬時に悟り顔を暗くしてしまう。
フオン達の話を聞いていた周りのみんなからも────
『フオンが断るなら、無理だろ』
『もう、おしまいだ』
『千堂さん達………』
そんな悲観する声が上がった。
ただ、誰一人としてフオンが断ったことに威を唱える人はいなかった。それは当たり前だ。フオンは実質まだ初心者冒険者であり、自分達が理不尽に"お願い"をしているだけに過ぎない。
なのに断られたと言ってフオンを責めるのはお門違いだとわかっているからだ。でも、それでもなんとかしたいと思う人々達だったが、「S」ランクパーティが苦戦する相手など自分達が行ってもただ、邪魔になるだけだからとわかっていた。だから、唯一の救いであるフオンから断られ悲観すると共に不甲斐なさを覚える人々で溢れかえった。
そんな中、ネロと服部だけは何かを察しているのかフオンのことをただ、見ているだけだった。
そんな時────
『────お前達は何か、勘違いをしている。勝手に悲観し、勝手に諦めているようだが────誰も"やらない"などとは一言も言ってなどいない』
そんな天邪鬼とも言えるフオンの話を聞いた人々は顔を上げる。
その顔には何処か希望に縋るような表情がみんなして浮かべていた。
『じゃあ、じゃあ。やってくれるの?フオン君?』
一人、前に出て来た協会長である────工藤静香はフオンの顔を見ながら聞いてくる。ただ、静香の言葉には特にフオンは答えることなく口を開く。
『────俺には人を守るなどと言った立派な志も、お偉い方が考えるような崇高な思想も高尚な倫理観も、ましてや────"正義感"などただ一つも持たない』
『『『…………』』』
周りで聴いている蔵達は特に何か言葉を挟むわけでもなくそんなフオンの話をただ聞く。
『俺が願うのはただ一つ。俺が楽しめる敵と戦えることだ。そんな中、人助などといった何も生産性のない無駄な行為に価値は無し』
そんなフオンの態度に「やはり、無理か」と誰もが思った。
ただ────
『────ただ、そう、ただ、だ。千堂さん達が行っているところは「東京ダンジョン」の"最下層"と聞く。なら────俺が行く"価値"は、ある』
そんな事を頬をぽりぽりと掻きながら伝えてきた。
そんなフオンの話を聞いたみんなは同じことを考えた。最下層、即ち。そこには────「ダンジョンマスター」なる魔物がいる、と。
『じゃあ、フオン君!行ってくれるのかい??!?』
フオンの話を聞いた蔵は少し興奮気味に聞く。
そんな蔵にフオンは一つ、頷く。
『あぁ、でも勘違いするな。俺は「ダンジョンマスター」を討伐がしたいだけであって、千堂さん達の救出はその"ついで"だ。それでも良い『よっしゃぁーーーー!!これで助かる』────話を最後まで聞け』
フオンが最後まで喋りきる前に蔵を含めたこの場に集まっている人々は歓声を上げる。
中には互いに肩を組んだり、抱き合っている人達もいる。
その人々は何故か全員が涙目だった。
その光景を見たフオンは「馬鹿な奴ら」と呟く。
ただ、ネロと服部は見逃さない。その時にフオンが少し頬を緩ませて笑っていた事を。
『────お前達は』
だが、流石のフオンもまだ何も解決していないのに自分の話を聞かずに騒いでいる蔵達を見て少し怒気を含ませた言葉を零す。
『『『────ッ!!?』』』
そんなフオンの雰囲気を察したのか蔵達は話すのをやめると瞬時にフオンの方に顔を向ける。
その間、協会長の静香だけは少し困惑した様な表情を浮かべていた。
それもそうだ。フオンの実力は千堂と同格と静香は思っている訳でそこまで強いとなどつゆほども思っていない。
それに、フオンが思った通りまだ"何も解決していない"というのに蔵達のこの喜びようはなんなのか、と思っていた。
静香が疑問符を頭の上に浮かべている中、フオンは口を開く。
『────はぁ、いい。千堂さん達は………知り合い。いや、知人か?まぁ、多少の縁を作った。そんな奴らが俺の知らないところで死ぬのは、目覚めが悪いからな』
フオンはそう言い放つ。
その時、みんなは喜びたい感情はあった。ただ、またフオンに怒気を向けられると思ったからか静観している。
『わかった。なら、フオン君。頼む』
蔵が代表として前に出るとフオンに頭を下げる。それと共に協会長の静香や見ていた他の人々も急いで頭を下げる。
ただ、フオンはそんな蔵達の行動を止める様に手を前に出す。
『そんなものはいらん。これは"依頼"などではない。ただの知り合いとの"約束"だ。だから────ただ、任せろ。富とか地位などもいらんからな』
フオンは蔵達、全員に聞こえるように伝える。
今も尚、フオンの表情は目深に被っているフードで見えないが何処か希望の兆しのように感じられた。
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