第92話 完全勝利?
◆
セリナが「
あのあとはまた、クリプットが蘇り襲いかかってくると危惧して警戒していたセリナだったが一向にそんな様子はなかった。なので安心すると共にその場で倒れてしまった。
その時には既に「
セリナもセリナで千堂と合流したかったが、完全版の「
ただ、戦闘が終わった事とセリナが動けない事に気付いてくれたのかセリナの元に千堂は来てくれた。自分も身体が限界だというのに無理をさせてしまった様だ。
他のみんなはどうやら千堂と隼也とセリナの奮闘のお陰か多少の怪我はしているものの問題はないようだ。
ただ、一点セリナには気になる事があり────
「────隼也は、亡くなったよ」
「────そう、ですか」
隣に座る千堂にそう言われたセリナは少し暗い顔を作ってしまった。
今、セリナと千堂はどちらも完全に動けるというわけではなかったから「ダンジョン」の壁を背にしてクリプットとの戦いの話をしていた。その中でも自分達を護る為に命を懸けてくれた隼也の話をしていた。
意識を取り戻した他のパーティメンバー達にも隼也の訃報の話はしていたがみんな受け入れられないのか全員が暗い顔をしていた。
稲荷の時もそうだったが、隼也の時はそれ以上にみんなの心に負荷を与えてしまった様だ。隼也はこの千堂率いる「夕凪の日差し」の初期パーティメンバーであり、いつでもみんなを引っ張っていってくれた人物だったのだ。パーティメンバーの中では隼也の事を仲の良い兄の様な存在などと思っている程に色々な人物に慕われていた。
そんな人物が亡くなってしまったという事実を知ったみんなは受け入れられないからか暗い雰囲気になるのはしょうがない事だった。それは、セリナも同じ気持ちだ。
「────だが、これだけは言える。アイツは、隼也は俺達を守ってくれたんだ。なら、俺達はこの助けられた命を有意義に使わなくちゃいけねぇ」
『『『…………』』』
千堂の話を静かに聞いていたみんなはほとんどの人が泣いていたが、それでも千堂の言う通りこの命を大切にしようと誓った。
「────今、泣いてても終わらねえ。今は少しでも早くここから出て稲荷と隼也の弔いをしっかりとやろう。そしたら────目一杯、泣ごうっ!」
みんなに言い聞かせる様にそんな事を叫ぶ千堂だが、誰よりも泣いていた。
そんな千堂の姿を見たみんなは「自分達よりも誰よりも千堂さんが一番悲しいだろう」と思った。
なので前に進もうと決めた。
『────その短絡的で幼稚な考え、実に馬鹿馬鹿しい。呆れて物も言えないな。生きる?帰れる?そんなものは既に途絶えている。もう、お前らの"死"は確定している』
『『────ッ!!?』』
────千堂達の心に"生還"という想いが芽生えた時、それを塗り潰すほどの地獄に突き落とすかの様な悪意ある声が響き渡った。
千堂とセリナ以外はその聴きたくない悍しい声が聞こえた事により顔を青ざめたまま動けなくなってしまう。
千堂とセリナは震える体を振り絞ってその声が聞こえた真後ろをなんとか見ると────
────小さな蝙蝠が一匹飛んでいた。
ただ、その蝙蝠を見て気付くことがある。この蝙蝠からアイツ────クリプットの気配がする、と。
「────おいおい、嘘だろ。もう良いだろ。さっき、お前はセリナ嬢ちゃんにやられただろうが………」
千堂はそう言いながらも流していた涙をなんとか手で落とすと動かない自分の身体に悔しそうな表情をしている。
「────嘘よ。アレは、確実に止めを刺したはずよ。貴方が生きているわけがない!!」
クリプットが生きているのが信じられないのか顔を青ざめて自身の身体を抱きしめている。そんなセリナだがなんとか震える手で
だが、悲しいかな。
既に先の戦いで体が動かず、魔力も底を尽きた為反撃ができそうになかった。
だが、そんなクリプット?から意外な返答が返ってくる。
『まぁ、待て。そう早まるな、人間。俺はお前らの言う通り死んだ。そうだ、確実に死んだ。そんな今の俺は元の────クリプットだった頃のただの残滓のようなものだ。だからお前達人間に危害を加えられん。とても悔しい事に、な』
『────え?』
千堂とセリナが思っていた様な危機的状況ではないと拍子抜けしてしまい二人合わせて変な声をあげてしまった。ただ、二人は決して油断はしない。こう言ってクリプットが隙を付き反撃をしてくると思ったからだ。ただ、その蝙蝠の表情は特に変化が無い事から尚、警戒をしてしまう。
ただ、一向にクリプット?は攻撃を仕掛けてくる様子がなかった。
その事を不可解に思っている千堂とセリナだったがそんな中、クリプット?が口を開く。
『だから、言っているだろ。今の俺からは攻撃ができないと。お前達人間を殺せる手立てが無いと。俺の話を最後まで聴け。お前達の脳みそに詰まっているものは綿か何かか?』
千堂達を馬鹿にする様に蝙蝠は伝えてくる。
「────じゃあ、さっきの俺達の"死"が決まっているという言葉はなんだ?何故、あんな不吉なことを言った?」
『…………』
クリプットの事にイラッとしながらも千堂は初めに自分達に伝えてきた事を聞いてみたが、クリプットは無言で黙ってしまう。
(────なんでコイツは何も言わないの?それにこのわざと間を空けるような話し方。────何かを、待っている?────まさか!?)
違和感に漸く気付くセリナだったが、セリナが気付くとともに蝙蝠の口角が少し上がったように感じた。
『────ククッ、ククククッ、クハハハッ!その女は何かに気付いたようだがもう遅いわ!既に手遅れ!!そうだ!今の"俺"では何もできまい。そう、今の俺では、な。だが、俺はある準備をしていた。それは────お前達人間を全て消す準備をなぁッ!!?』
クリプットがそう言うと突如として魔物達の唸り声がそこら中から聞こえ始める。
さっきまでは千堂達しかいなかった事は確かだ。それが今はどうだ?────突如として沢山の魔物が現れたのだ。
その事実に魔力がなく怪我を負っている何も抵抗が出来ない凛達は「ヒィッ!」と声を揃えて悲鳴を上げる。
千堂とセリナも今の状況が理解できず、ただ呆然と魔物の群れを見ていることしかできなかった。
そんな中、奴は────クリプットは愉快げに話しかけてくる。
『お前達は覚えているか?生前の
『────ッ!?』
そんなクリプットからの話を聞いた千堂達は何かに気付いたのか息を呑む。
『────恐らくお前達が考えている事は当たっているだろう。────生前の
クリプットがそう叫ぶと、それが合図だったかのようにさっきまでただ唸り声を上げていた魔物達が一斉に千堂やセリナ達の元に顔を向けると────襲いかかってくる。
『『ヒイッ!!』』
その事実に千堂達は青ざめると共に何もできない自分達は悲鳴を上げることしかできない。
怯えている千堂達を見たクリプットは声を上げる。
『そうだ!!絶望しろ!絶望しろ、絶望しロォォォ!!?貴様らの行動ははなから何もかもが浅慮だったのだよ!!それに、俺に勝てた?で?それが?最後に生き残っていなければ意味がないのだよ!!────結局、貴様らは爪が甘い!!甘えェェぇんだよぉぉぉ!!!!それが、この結末だ!』
クリプットはそう叫びながらも魔物達に襲われる人間達を想像してか馬鹿笑いをしていた。
「────ッ!?」
(────動け、動けェ!今、動かないでどうする!!?護ると誓っただろ。隼也にこの命を託されただろう!!────頼むから、動いてくれヨォォォ!!!)
千堂はそう内心で思いながらもまったく動きそうにない自分の身体に絶望すると共に、不甲斐ない自分に涙する。
他のパーティメンバーもどうにかしてこの窮地を打開しようと模索するが────魔物達のその圧倒的な量に直ぐに絶望をし、諦めてしまう。
そんな千堂達人間を嘲笑う様にクリプットは尚も煽る。
『無駄!無駄!無駄なんだヨォ!どんな策を労しようと無駄なこと!!そんな貴様らには惨たらしい死を捧げよう!男は凄惨に皆殺し、女は自分達の欲を満たす様に苗床にしろ、魔物共!!そして、最後は地上に出て人類を滅亡させよ!!!!』
『『『ギャォォォァォァォッッッォ!!』』』
クリプットの号令に魔物達も呼応する様に叫ぶ。
「…………」
そんな中、セリナはただ一人自身の武器である
ただ、そんなセリナの浅ましい姿を見てクリプットは────
『ハハハッハハッ!そんなに早く死にたいか、女ァッ!!良いだろう!お前は特別だ!魔物達に蹂躙されながら泣き叫び、惨たらしく死ね!!!────運良ければ魔物達の親になれるかもしれないぞ!!!?』
そう叫び散らかしながらも汚い嗤い声を上げていた。
ただ、そんな中、セリナが取った行動は────
「────そんな、こと。こちらから願い下げだわ。この命が瞬く間に無くなろうと私は────諦めない!!」
身体を震わし、顔が青ざめ、息も絶え絶えの中、尚もセリナは挑む。
そんなセリナを嘲笑うかの様にクリプットは残酷な指示を魔物達に出す。
『────お前が願わなくても勝手にそうなるだろう!オーク!
『GOOOOOBUUUU!!!!』
『ブモーーーーー!!!!』
クリプットの指示に従う魔物達。
今、クリプットが選んだ魔物は女性を優先的に狙い、自分達の苗床にすることしか考えていない様な魔物達だった。そんな女の敵の様な魔物の軍勢がセリナ一人に押し寄せる。
その光景は恐怖を通り越して正しく────地獄だろう。
そんな光景を見たセリナも流石に怖気付いてしまったのか顔を今までの比じゃしないぐらい青ざめながら後退をする。だが、今、逃げたところでみんなを置いていく事になるし、きっと直ぐに捕まるだろう。
捕まった後のことなどセリナは考えたくなかった。
そんな中、セリナは────
「────幸太君、ごめんね。約束、守れそうにないや、愛してるよ」
目元に涙を作りながらもそんな言葉を残すと自身からこちらに物凄い勢いで襲いかかってくる魔物達に突っ込む。
やられるならいっそ最後まで足掻こう。そう願った為のセリナの行動だった。
それが例え────残酷な末路になろうとも。
「セリナちゃん!やめろォォォォ!!」
「嫌ァァァァァァッッッ!!!!」
『『セリナさん、待つんだ!!!』』
千堂が叫び、凛が顔を覆って悲鳴を上げる。他のパーティメンバー達がセリナを止める言葉を放つがセリナは決心がついている様で、止まらない。
『良いぞ!良いぞ!良いぞ!!自身から破滅への道に進むか!!実に滑稽、哀れこの上ないナァ!!!!そのまま嬲られ死ね!!女──── 「全てを吹き裂け────「
クリプットはそんな言葉を放ちながらも違和感を覚えた。空気?の様なものが過ぎ去って行ったと思ったら何故か"視界が二つにズレ"ている感覚がある。
それに、誰だ。今、自分が話している時に割り込みをしてきた奴は────
ただ、そんな考えをする前にクリプットの視界は暗転していく。
クリプットがその暗転していく視界の中、最後に見たのは────緑色のローブを着て顔を隠す右手に剣を持ち佇む亡霊の様な存在だった。
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