第86話 この命に代えても




 ただ、俺はそんな中、考える事があった。こんな愚かなことをしてしまった男がのうのうと生きていて良いわけがない、と。


 だから、工藤少年の意志を継ぐことにした。まだ、工藤少年が亡くなったと決まったわけではなかった。でも、それでも俺には何もやらないという選択肢は無かった。

 意志を継ぐと言っても彼が全うしようとした正義の味方を代わって代行者となりやろうなどとは思わない。俺がするのは俺の手が届く範囲を護ることだ。それもセリナ嬢を第一に護る事だ。


 工藤少年の願いは自分の幼馴染である橋本セリナ嬢を────護る事だったのだ。なので俺は代わりにやろうと思った。これは償いだ。贖罪だ。

 それを全うした後は俺が工藤少年にやってしまった事を公に出しみんなに話す。そして、俺は人々に裁かれるだろう。だが、それで良い。こんな醜悪な体現者の最後は、為れの果てはそれで、良かった。




 ──── ──── ──── ──── ──── ──── ──── ────




(────あぁ、忘れていた。俺がやらなくてはいけない事は直ぐそこにあるだろ。忘れていたとか本当に俺は救いようのない愚か者だよ、本当に)


 千堂はそう考えると皮肉げに笑う。


 ただ、そんな事で立ち止まっているほど千堂には時間はない。刻一刻とクリプットが自分の守るべき存在に手をかけているのだから。


 あぁ、もう!ウダウダ考えるな!お前が為そうとした事はなんだ?魔族に勝つ?違う!仲間を守る?当たり前だ!!────なら、俺に許されたことは──── ────ただ、人々を事だけだった。


 そうだ、俺の想いは。俺の「スキル」は勝つためのものじゃなかった。それは、護る為のものだったんだよ!


 そうだ、そうだ。間違えるな!履き違えるな!!俺がやるべき事は────相手を倒すんじゃない!味方を、護るんだよ!!


 千堂がその理想に辿り着いた時────




 ────ガチャリ────




 そんな鍵が回された様な音が聴こえた。


 それと同時に奇跡も起こる。




 ────承認 対象者の「」を確認────「    」────




「な、なんだ?」


 そんな声が千堂の脳内に聴こえたからか思わずかすれた声を上げてしまう千堂。ただ、それと共に違和感も感じた。先程までは全く動かせる事も出来なかった手足が動くのだ。身体は痛む。でも、動く。それと共に身体の奥底から力が漲ってきた。


「────ははっ、神様って本当にいるのかね?いや、今はそんな事は関係ねぇ」


 千堂はクリプットに気付かれない程度の小声で呟くとセリナ達を護る決心を決める。それと共に先程、脳内に聴こえたも試してみる。 

 

 時間がない、だから今はなりふり構ってられない。


 だから────


「────ふぅ、これが俺の贖罪のチャンスだ。"千堂剣夜"に許された最後の戦いだ。──── ────「剣生成」いや────」


 未だに地に伏せながらもクリプットに襲われているルーナを護る為に千堂が最後の言葉を紡ごうとした時────


『キャッァァァァッ!!!』

「はははっ!死ねぇ!死ねぇ!死に絶えろ!!!」


 今、まさにルーナの防壁を突破したクリプットがルーナ諸共セリナにその凶悪な爪で手に掛けようとする。


 だが、この覚醒した守護者がそんな事を許す訳が無く。


「──── 「「物質模倣・開始」オブジェクトレース・オン」!!!」


 この空間内全てに響き渡るように千堂は最後の言葉を紡ぐ。

 

 その言葉と共に────




 ──── ガキッンッ!!!!


 そんな金属と金属が勢いよくぶつかり合う音が響く。そんな中、クリプットは自分の爪が弾き飛ばされた事に驚愕な表情を浮かべながらも己の攻撃を防いだを憤怒の目で見る。


 セリナ達の方をよく見るとセリナとルーナを護る様にに出した歪な形をするただの盾が宙に浮いていた。先程までは何もなかったはずなのに。

 その盾はよく見ると幾つもの剣が折りなりただの無骨の盾となっていた。ただ、それはされど盾。盾でもが出現させた盾であり。と想いが込められた盾なのである。

  

 そんな盾をクリプットが破壊できる訳がなく。


「──── ようよう!奴さん、大分面影変わったな!ひょっとして、メイク、変えた?」


 そんなクリプットを馬鹿にする様に煽てる様に千堂は歩きながら近付くと笑いながら声をかける。


 そんな千堂に────


「き、貴様は!!?ふ、ふざ、ふざけるなぁ!!貴様は完全に殺した。アレは致命傷だった!!何故!その貴様が生きてる!!?」


 クリプットは唾を飛ばしながら血相を変えながらも千堂に問いただす。


 そんな、クリプットの質問に。


「あぁ、悪りぃ!俺もわかんね!!」


 そんな軽いノリで答える。その時に顔の前に「ごめん」と片手を持ってくるのも忘れない。

 

 千堂が生きているのは凛が命を繋いでくれたからだ。だが、立てているのは自分自身でもわからなかった。ただ、そんな事はどうでも良い。自分が誓った約束を叶えられる。工藤幸太の代わりに少しでもなれるのだから。


 そんな中、クリプットは顔を手で覆うと肩を揺らして────嗤っていた。


「────クククッ!アハハッ!良いだろう!死に損ないの貴様が一人増えたところで俺の勝利はなんら変わらん。それに、また貴様を殺せば良い訳だし、なぁ!!」


 そう言いながら千堂の元に攻撃を仕掛けてくると思ったが────尚もセリナとルーナを狙うクリプット。ただ、なんとなくクリプットの行動が読めていた千堂はセリナ達を護る様に盾を操作してクリプットから護る。


「…………」


 無言で自分の攻撃を防ぐ千堂に忌々しい表情を浮かべたクリプットは────


「不思議な盾で護るばかりではないか。さっきの剣の攻撃はどうした?ほら、またやってみろ。やったところで意味はないがな」


 千堂を煽る様に手で駒ねると言ってくるクリプット。


「…………」


 それでも千堂は何も言わない。


 その事に流石に苛つくクリプットは────


「貴様!人間!!それで、守って。英雄にでも勇者にでも、ヒーローにでもなったつもりかぁ!!」


 クリプットは千堂を動かす為にわざと煽る様に伝える。


「────ッ」


 ただ、クリプットが「ヒーロー」と言った時に千堂の心が少し揺らいでいたと感じた。なのでそこを突く。


「お前如きがにでも本当になったつもりか?────自分の仲間も守れず、自分の手で殺し、今も盾で守る事しかできない情けのないお前が?そんなお前に、他に何ができる?」

「…………」


 それでも何も言わない千堂。


 なのでクリプットは言いたい事を言い続ける。


「さっきの威勢はどうした?守るんだろ?助けるんだろ?ほら、やってみろよ!ヒーロー!?」


 そう言いながらクリプットは自分の左腕を振るう。すると、そこから音もなく血の刃が生成され、千堂の元に飛来する。


「────ッ!」


 それを千堂は自分を守る様に不可視の盾を発動し、防ぐ。そんな千堂を見たクリプットは尚も問いただす。


「お前ら人間は────まったくもって見るに耐えない。お前らが掲げている信念など無意味だ。友情?努力?勝利?そんなものに何の意味がある?そんなものはただの捏造、頭の悪い願望だ!!お前達が思う正義の体現者即ち────"正義の味方"など存在などしない!!お前の考えなど既に破綻しているのだよ!!!」


 クリプットは嗜虐的な表情を浮かべると千堂の信念を否定する様に叫ぶ。


 だが、そんなクリプットの話を聞いていた千堂は────初めてここで怒りを露わにする。


 ただ、その怒る理由は────


「────はっ!俺がヒーロー?勇者?英雄?それを事欠いてか────正義の味方、だと?舐めるなよ?本物の────工藤幸太正義の味方を侮辱するな!!」


 ────千堂の怒る理由は自分が何かを言われたからではなかった。自分が憧れた。今も自分の依代になっている"工藤幸太"という正義の体現者を冒涜され、否定され、侮辱されるのが、何よりも許せなかった。


 なので、クリプットに喰ってかかる。


「────ッ!?」


 いきなりの千堂の代わり様に、その気迫にその剣幕に、クリプットは押される。


 そんな中、千堂は話を続ける。


「────そうだ。わかっている。俺は正義の味方に憧れた。だが、そんなものになれないし、なれるわけがないと、俺が一番わかっている。そんな俺は紛い物、不完全、出来損ない………俺の想いが、この「スキル」がただの偽物だとわかっている。でも、俺にはそれでも人々を"護る"という意地があった。いや、意地が────できた。だから、俺はこの力で護れればそれで────よかった!」


 千堂は己の心を露わにする様に叫ぶ。


 そんな千堂を見たクリプットも叫ぶ。


「なら、なら!護って見せろ!!その力とやらで護って見せろ!!俺の本気をもってして貴様の想いも、信念も全て骨すら残らずに消し飛ばしてくれるわ!!」


 クリプットはそういうと両手に禍々しい魔力を貯める。


 それを見た千堂も交戦する。


「────当たり前だろうがぁ!!護るんだよ、助けるんだよ。今度こそ俺が、俺自身が!────俺が負けていたのは俺が諦めていたのは俺の弱い心だった。俺が例え偽物だとしても!!」


 千堂は自分の想いを叫ぶと集中する様に目を瞑る。

 


 



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