第84話 護りたいもの 






「────何故、抗う!何故、抵抗をする!既に取るに足りない存在!故に死に体!そんな人間を貴様が命を賭けてまで、何故守る!!!────精霊!!」


 血の刃をルーナに飛ばしながら叫ぶクリプット。そんな中、それでもルーナは血を流しながら、傷を負いながらもセリナを庇う様に光の膜を何度も貼り続ける。


『当たり前、の事を、何度も言わせないで!私はセリナの親友、なの!そんな私がセリナを守るのは、当然でしょ!!』

「それがわからないと言うのだ!その女はあと少しすればじきに死ぬ。なら、いっその事息の根を止めた方が良いだろうがぁ!!」


 ルーナの言葉をかき消すように叫ぶと血の刃を飛ばすクリプット。


『それが、駄目なの!!貴方は人間の強さを生への渇望を友情を努力を、何もわかっていない!!それに、セリナは────死なない!死なせない!!』


 ルーナは叫ぶと共にクリプットが飛ばしてきた血の刃を全て弾き飛ばす。

 だが、既にルーナも魔力が尽きる一歩手前の様で、顔を青白くしていた。


 ただ、そんなルーナを見たクリプットはやっと勝利を確信する。


(この精霊を倒せば、俺の勝ちだ。俺に敵対する人間などこの空間には存在しなくなる。その後は魔の軍勢を作り人間共にこちらから攻め入るか)


 クリプットがそんな事をほくそ笑みながら考えている時、ある異変が起きる。


 それは────


「な、何故、その女が光出す!!精霊!貴様、何かやったな!?」


 クリプットは顔を少し青ざめると喚き散らす。


 クリプットの言う通りセリナは以前と変わらず倒れ伏しているがその身体が光り輝いていた。それにその光はただ光っているだけではなくセリナ自身の傷も癒している様に見えた。

 そんな光景を見たルーナは満面な笑みを浮かべる。さっきからクリプットが「訳を話せ!」と言ってくるがそんなものに構っている暇は無かった。


 何故なら────


(────やっと、漸くセリナは殻を破いたみたいね。ただ、ここからが始まり。本物の星霊同化ユナイトなんて私も見たことはない。けど、セリナ自身が自分自身を説得して辿り着いた応えなんだから私はただ、彼女に寄り添うだけ)


 セリナが何かを成そうとしている。それは本物の星霊同化ユナイトだった。

 初め、セリナがクリプットに見せた星霊同化ユナイトは不完全な代物に過ぎなかった。

 ただ、今のセリナなら完全版の星霊同化ユナイトが出来るとルーナは踏んでいた。


 なので、後はセリナを守り抜き死守するだけだった。ただ、それが一番の難問だ。自分には既に魔力はそんなに残っておらず、クリプットの攻撃を防げてもあと一、二回が限界だろうと踏んでいる。


 そんな中────





「────リー、ダー。私の魔力は全て、貴方に渡しました。出来る限りの治療も施しました。なので、なので────セリナちゃんを、私の親友を助けてよぉぉ」


 凛は最後の力を振り絞り近くにいた千堂に出来る限りの事を尽くしていた。ただ、未だに千堂は目を覚さない。


 そんな絶望に思えたが────




  ピクッ




 一瞬だが、千堂の左腕が動いたのを凛は見逃さない。その事に涙を浮かべた凛は自分達のリーダーに後を託す。


「お願い、しますね。リーダー」


 そのまま凛は意識を手放す。




 ──── ──── ──── ──── ──── ──── ──── ────




(──── あぁ、しくじった。完全にしくじった。凛嬢ちゃんのお陰でなんとか、意識は取り戻したが、どうしたものか)


 動かない身体に千堂は苦笑いを浮かべる事もできない。そんな中、千堂はまだ諦めてなどいなかった。


 千堂はずっと気配で感じていた。セリナ達が自分の仲間達が身体を張って魔族と交戦していた事を。それを知っている千堂はここで簡単にくたばる訳にはいかなかった。

 それに、一瞬チラッと見たらセリナの身体が光っていて何かをしようとしている事がわかる。なので、なんとしてでもセリナが起き上がるまで耐えようと思った。


(────ただなぁ。今のこのちっぽけな魔力や動かない身体じゃ、どうにも出来ねぇぞ)


 ただ、千堂はやる気はあっても身体にガタが来ているからか普段の闘士が見えず心が既に負けていた。 


 そんな時、千堂はふと走馬灯の様にある記憶を思い出す。


(────はぁ、俺もヤキが回ったもんだ。そう言えば俺も昔────"正義の味方"なんてものに憧れた時期があったっけ)


 そんな事を懐かしくも思い浮かべると千堂は戦いの最中、記憶を蘇らせる。







 ◇閑話休題護りたいもの



 俺は、正義の味方に憧れた。


 なに、一端の子供が考えるありきたりな願いに過ぎない。

 万人を助け、万人に愛され、"みんな"の"ヒーロー"であろうと憧れる、実に子供じみた考えだ。

 出来る限りの人助けをして、思う限りの善行を行った。その時に褒められたり、応援してくれる人も中にはいた。


 ただ、次第に周りから馬鹿にされる様になった。「正義の味方なんていう子供の考えなどダサい」や「叶えられない夢を追い続けるのなど馬鹿らしい」と。


 でも、それでも俺は自分の思いが間違いじゃないと正義の味方を続けた。


 だが、蓋を開ければどうだ?社会に出れば自分の事や仕事の事で精一杯でそんな事を考えたりする時間すら無くなる。次第に自分でもそんな"子供じみた願望"を恥じ。そんな考えに蓋を閉めて、いつしか考える事も無くなった。


 そんな中、何も刺激がない変わらない生活はいつも通りに時が流れるのに任せて進んでいく。………行くように見えた。


 ──── 世界が一変するまでは。


 一夜にして世界に「ダンジョン」というものが現れた。それと共に「スキル・ステータス・レベル」という如何にもファンタジー的な物が現れた。


 その時に俺、含めるほとんどの人間が驚き、恐怖を覚え、世界はもう終わりかと思ったが………そんな事はなかった。


 始め、暴動の様な物が起きそうになったが、政府の迅速な対応でなんとか納まりがついた。そんな時、「スキル・ステータス・レベル」を手に入れて自分達がになった事を知った人々は人が変わるように醜悪な生き物になり変わった。「スキル」至上主義な世界に変わってしまった。

 「スキル・ステータス」が強力な者は下を見下し、「スキル・ステータス」が弱い者は上に媚び諂う。


 俺は「スキル・ステータス」に溺れる事なく真っ当な人間のままでいられた、と思う。それは、根本に残っていた"みんなを守る正義の味方"という思いを忘れられなかったからだと思う。体格も良く、体力もあり。なによりも………「スキル」が強力だった事もあり、以前働いていた会社を辞めると直ぐに冒険者協会に入った。そんな俺は「ダンジョン」に潜ってからはどんどんと成長していった。それに人望があったかは分からなかったがこんな俺についてきてくれる仲間も増えた。


 そんな中、ある噂が広まった。


 この世界に一人、「スキル無しウァースリィス」という「スキル」を一つも持たない存在がいると。その上、その「スキル無しウァースリィス」はあろう事か自分の父親を手に掛けた、と。そんな噂が広まった。


 俺は当初馬鹿馬鹿しいと思い、そんな話など直ぐに忘れると思った。ただ、その「スキル無しウァースリィス」と呼ばれる存在が俺が在籍している「東京支部」の近くにいると知り、仲間内で一度見にいって見る事にした。


 その「スキル無しウァースリィス」と呼ばれる人物は平日の午前10時頃に一人、犬間公園のベンチに座っているという噂だった。なのでそこに行くと………本当にいた。

 ベンチに一人腰掛けながらポカーンと覇気のない顔で空を見ている………小学生か中学生ぐらいの幼い男の子だった。その男の子が本当に「スキル無しウァースリィス」なのか?と話が上がり、「鑑定」をしてみた結果。本当に何も持っていなかった。何度見ても「スキル・ステータス・レベル」の空間が全て────空白だった。


 その事に周りは微笑していた。ただ、俺はそんな男の子のから何故か視線を離せなかった。

 こんな世界の中、「スキル無しウァースリィス」などという不名誉な名を付けられた上に馬鹿にされているのにも関わらず、その少年の目は死んでいなかった。それどころか、とても澄んでいる目をしていた。それに何かを為そうとしている目をしていると思った。なので俺は正直に凄いと感じた。


 そんな少年が昔の正義の味方であろうとした自分と何処か重なる様に感じた。なので、その少年の為になると思ってある事を広める事にした。


 俺が広めた事は………「」次第で「スキル」が現れると、いうことだ。


 ただ、それは嘘などではなく本当の事だ。それどころか自分で証明して見せたのだからこそ、俺は少年の為にと思い広めてみた。

 本当は自分がなれなかった事をその少年に託したかったのかもしれない。ただ、それで少年が自分の様に諦めてしまうのならしょうがないと思った。


 だって、自分がそうだった様に。


 そんな中、少年は俺の流した噂を聞いたのか"誰にも頼る事なく"修行を始めた。「スキル無しウァースリィス」の自分に現れる証拠などないのに彼は………工藤幸太は血反吐を吐きながらも、周りから馬鹿にされながらも修行をやめなかった。

 三日、行っても半月そこらで飽きて辞めるものだと思っていたが既に2年間もの長い年月を自己流で修行をしていた。


 俺もそんな工藤の修行風景を何度か見て本当に凄いと感心した。ただ、感心してそんな工藤少年に憧れると共に俺は浅ましくも────嫉妬した。 


 2年もの間、修行をして「スキル」が現れないのに何故諦めないのかと、何故抗うのかと………何故、そんなにも頑張れるのかと。だから、浅ましくも嫉妬した俺は噂を流した張本人という負い目もあり、初めて工藤少年の目の前に行き、話しかけた。


「────君は、いつもここで修行?をしているね?何か強くならなくちゃいけない理由でもあるのかい?」


 そんなありきたりな事を聞いてみた。


 工藤少年はいきなり大人に話しかけられた事により、驚き、警戒していたが俺の聞き方が良かったのか警戒を直ぐに解くと口を開いてくれた。


「あ、えっとぉ、そんな凄い事ではないんですが────俺には守りたい人達がいるんです。そんな人達を守る為に強くなろうと、してます。まぁ、その人達の方が今の俺よりも何倍も強いし、俺なんていても意味がないのかもしれないんですが、ね」


 そう言った工藤少年は少年さを全く感じさせない様な口調、雰囲気で皮肉げに笑うと伝えてきた。


 それが俺と工藤少年────工藤幸太との初めての会話だった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る