第83話 希望の星






 あの後、幸太君と別れた私は家の中に入ると一旦落ち着き、一から両親と話し合った。その時に学校で"虐め"にあってたことも幸太君が連れ回したと"嘘"をついていたことも嘘偽りなく話した。


 その時に私を虐めた人達に憤慨していた両親だったが、私の説明と幸太君が解決してくれた事を話すと落ち着いてくれました。ただ、また、幸太君の印象が上がる。お母さんなんて「家の子供にできないかしら」などと言っていた。


 ただ、私はそれを拒んだ。勿論、幸太君と一つ屋根の下で暮らせるのは最高だと思う。でも、義理だとしても兄弟になってしまえば────安易にお付き合いができなくなってしまうからだ。

 その話しをするとお母さんは「あらあら」と手を口にやりながらも笑っていた。お父さんからは何か反対をされると思っていたけど………「幸太君が息子か、それは良いな」と何故か嬉しがっていた。


 そんな事があったが、次の日もその次の日も学校があるので私は通う。ただ、通う中で変わったこともある。それは幸太君と本当の意味で友達になれたことだ。その他にも私の表情が和らいだという事で意図せずに幸太君以外の友達も沢山出来た。

 自分ではあまり変わっていないと思ったけど周りからは違く見えるそうです。ただ、これだけは言える、それは幸太君のお陰だと。


 そんな中、幸太君と出会い周りも変わり、楽しく学校生活を過ごしていく中、幸太君のある噂を聞いてしまったのです。


 それは────「幸太君には両親がいない」「何もしなくても天才」「本当は中身が大人」などなどと沢山の噂がありました。ただ、そのほとんどが嘘だと私は直感でわかりましたが、「幸太君の両親がいない」という噂だけには何処か信憑性がありました。

 それに、一つだけ気になる事があったのです。なんでも答えてくれる幸太君ですが、唯一自分の両親や家の事を一度も話してくれないのです。


 小学3年生に上がった時に丁度幸太君と同じクラスになりました。なので、一緒に下校をする時に思い切って聞いてみる事にしました。


「幸太君」

「どうしたの、セリナちゃん?」


 助けを求めている人を探す様にキョロキョロと周りを見ていた幸太君に話しかけると以前と変わらない笑顔を向けてきました。その時に、幸太君の顔を見てドキリとする私でしたが、平静を保ち、あの事を聞いてみました。


「その、ね。この頃、幸太君の噂が流れていてさ。それがほとんど嘘だと分かるんだけど………「幸太君に両親がいない」という話しを聞いた時、何故かあり得ると思っちゃったの。あ!べ、別に幸太君の事を悪く言いたいわけじゃなくて、その!────あぅ」


 幸太君の少し暗い顔を見た私はその事が"本当の事"だと分かってしまいその先を言えなくなってしまいました。


 ただ、幸太君は別に私に嫌な顔を向ける事などしなかったのです。近くにあったベンチに座る様に目線で伝えてきた幸太君に私は従いました。幸太くんもベンチに座ると隣に座る私に幸太君は自分の話を聞かせてくれました。


「────別に、隠している訳じゃなかったんだよ。先生も知ってるし。ただ、話して他の人に同情されるのがちょっと、嫌でさ」

「────じゃあ、幸太君のお父さんとお母さんは本当に、いないの?」


 私がそう聞くと、夕暮れに染まる空を見上げながら幸太君は淡々に話す。


「そうだね。俺には両親がいない。俺が4歳ぐらいの時に、仕事先の事故で亡くなったんだってさ」

「…………」


 幸太君のその淡々と話す内容が聞こえているのに何故か頭に入ってこなかった。多分それは、幸太君が話しながらも表情を一度も崩さないからだと思う。

 普通だったら小学生のうちに両親が亡くなっていれば少なくとも悲しい表情をするはずだ。でも、幸太君はそんな感じは微塵もしなかった。なので、私は聞いてみる。


「幸太君は、寂しくないの?悲しくないの?私だったら多分、立ち直れないよ」


 私は自分の両親がと考えてしまい涙を少し目頭に溜める。ただ、そんな私の頭を幸太君は優しく手を置くと撫でてくれる。


「そうだね。俺も昔は寂しかったし、悲しかったよ。ただ、そんな事でいつまでもクヨクヨとしていられなかった。だって、俺の両親は職務を全うして亡くなったのだから。悲しいと思う前に、誇らしかったんだ」

「幸太君のご両親は何を、していたの?」


 私はそんなことを思い切って聴いてみます。


 すると幸太君はどこか遠い目をしながら滔々と話します。


「────二人共、警察官だったよ。地域でも有名な、ね。そんな両親に言われた事を今も覚えている事がある。────『誰かの見方をするということは、誰かの味方をしないということだ。その逆もあって誰かの見方をしないという事は、誰かの見方をすると言う事だよ』────そんな言葉を聞いた俺は始め、何を伝えたかったのか分からなかったけど────"あぁ、救いを求めている人を誰でも守れる様な人間になれ"と言いたかったのかなと幼いながらに思った。そんな俺は両親の想いを引き継ぐ様に正義の味方になろうとしたんだよ」


 幸太君はそう言うと昔を懐かしむ様に目を細めていた。


 そんな幸太君を見た私は「幸太君は強いね。あぁ、だから貴方は貴方の想う道に進むのですね」と想うと共に尚、幸太君の事を好きになりました。


 ただ、私はわからない"フリ"をします。


「私にはよくわかんないや!でも、そうだなぁ。幸太君は既に正義の味方だよ!だって日の当たらない場所にいた私を助けてくれた私のヒーローなんだから!私達を照らす様な"希望の星"だもんね!!」

「ははっ、そんな存在になれたなら────良いなぁ」


 その時の幸太君の表情は今でも忘れない。何処か儚げで憂いを帯びている表情を浮かべていたのだから。


 そのあと、幸太君は新しい家族に会えた。その人達の名前は"工藤俊平"さんと"工藤静香"さんというとても優しそうな若い夫婦だった。その人達と家族になれた幸太君はとても楽しそうにしていて、見ているこちらも楽しくなってきました。


 そんな長谷川幸太君、改めて"工藤幸太"君は私達を導いてくれる希望の星だった。

 ある時は難問を覆し、ある時は私達を何度も助ける。そして、何よりも弱気を助け、強気を挫く、と言った本当の"正義のヒーロー"の様な在り方をしていた。


 そんな中、幸太君にやっかみをする人もいて、「天才」だから「才能」があるからなどと僻んでいる人もいた。


 でも、私は知っている。幸太君が決して「天才」や「才能」がある人物ではない事を。言い方を悪くするならただの"凡人"なのだ、幸太君は。


 ただ、間違ってはいけない。彼は凡人だ。凡人だけど………「努力」を惜しまない人だった。出来ないなら出来るまでやり続ける根性があった。挫けても諦めない想いがあった。それは正義の味方で在り続けるという想いが幸太君を支えていた。


 そんな幸太君を私は────


 

 ──── ──── ──── ──── ──── ──── ──── ────




・後悔の私


「────あぁ、そうだったな。幸太君は昔から私達を導く存在で、私達のヒーローで、いつでも何処でも私達の希望だった」


「そんな彼の背中を追いかけた。いつか隣に立って支えたいと、貴方の為になりたいと、私達が君を支える存在になりたいと、誓ったじゃないの」


「でも、今はどう?彼が「スキル」がないからと言って迫害する様に追い込んで、彼の夢を絶った。彼の夢を踏みにじった。私達は自ら希望の星を────捨てた」


 これならいっそ、私達なんて────


 でも、あの光があったから。私を導く希望の光があったから私はなんとかここまでこれた。


「────会いたい。会いたいよ。また、貴方と会って、話をしたい………!」



 不安な時、私の頭を撫でてくれた。



 難問が襲いかかってきた時、二人一緒に乗

り越えた。



 どんな時も、私達を導く様に遠くで輝いていた"星の様"だった人。



「ここで、終わるなんてあり得ない。あり得る訳がない。だって、まだ、彼に────好きだって伝えてないもん!!」



 ──── いや、違う、違うな。好きとか嫌いとか今は、関係ない。そんな事、どうだっていい。どうだってよかった。




・幼い私


「そうだよ。そうだよ。私はただ、貴方の様な正義の味方に憧れた。貴方は夢半ばだった。けど、私はそうだった。貴方の様になる為に────強くなったんだよ。そう、私はそれだけ、だったのです」


「────多くのモノが怖くて、多くのモノを信じられなくて、誰にも助けを求められなかった私だけど────」


 ────貴方は見つけてくれた。あの誰をも照らし、瞬く様な希望の星に私は、何度も励まされた。


「あ────あ、怖いよ。助けてよ。愛してよ。悲しいよ。寂しいよ。誰か、私を、見つけてよ────」


 才能なんていらない。天才なんかじゃない。弱虫のくせに気付かないふりをしてきた。そんな私は強くなどない。こんな強気な表面なんてただのハリボテなの。私はただ、見つけて欲しかった。


 そんな貴方の様な希望の星を最後まで探していた。でも、それでも貴方は見つけて────


 その時、ラジオの様に「ザザザーーーー」と細波の様な音が鳴ると切り替わる視点。




・???


「君は俺なんていなくてももう、立派だ」


 違う。私は貴方がいないと駄目なの。


・???


「大丈夫だ、君は強い。俺の何倍も」


 違う。違う!こんなのはただの見せかけなの。


・???


「安心して良い。俺はもう、いない。けど、君の心の中に生き続けている。それに、君には仲間が、助けてくれる大事な相棒がいるだろ?」


 けど、けど、貴方が────幸太君がいない世界なんて────


・忘却の想い人


「大丈夫、大丈夫。きっと"俺"が君を助けるだろう。だから────セリナ、君は望むだけだ。君の在り方を、星のゆく末を見た星海の再来を────」


 ────うん。うん。わかった。私は君を、貴方を────幸太君を信じる!


 

・真意の私


「────そうだ、そうだよ。私にはいる。仲間も守るべく存在も!それに、幸太君は必ず────生きている!」


 こんな想いは他人から見れば取るに足りないなんら特別でもない事だけど。


 私と同じ在り方の存在がいた。


 貴方を忘れていた。私の、私自身の願いから生まれた存在。



 私の心自信。────その名は────ルーナ。



・ルーナ


『やっと、やっと見つけてくれた。言ったものね。貴方が自分のやるべき事を理解した時、本当の力が解放されると。それは"不完全"なものなんかじゃないと』


 そこには私が願った存在。あの目指した光り輝く希望の星。それの体現体がいた。


「そうだよ。「スキル」とは自分の心自信。そしてルーナ。貴方は私自信。私が願った事により存在した希望精霊。私の相棒、私の親友」


 希望の星ルーナは私に笑いかける。


『そうだね。ただ、これは賭け。本当の星霊同化ユナイトが成功するのなんて限らない。もしかしたらセリナの身体が持たなくて崩れ落ちてしまうかも、しれない』

「それでも、それでも!私は賭けたい。みんなを守る為に、幸太君とまた会う為に!」


 私の想いに呼応する様に希望の星ルーナは微笑む。


『だね、そうだね。君はそうだった。セリナはそうだったね』

「うん。だから、貴方の力を貸してルーナ!」

『勿論、君が望んだ力だ。君が辿り着いた応えだ』


 私達は二人、手を合わせる。


 手を合わせながら詠唱を始める。



 ──── その星は、希望の兆し────私達は二人で一つ────どちらが欠けようと輝き続ける星空へ────必ず星海を探すでしょう────されど ──── ──── ──── ──── ──── ──── ────


 そんな二人を星の光が包み込む。


 

 





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