第82話 在りし日の記憶③



 

 そんな幸太君の話しを聞いて私は驚愕の表情を浮かべる。それはお父様やお母様も同じだった。


 でも、それは当然だ。大人に言われたという事もあり、普通の子供だったら言う事を聞くのが当然だ。

 それに、セリナの両親からしたらな娘を不良の様な子に唆されている可能性があるのだからそんな状態からのが普通だろう。


 だが、目の前の男の子はどうだ?────話が理解できないだけなのかもしれないが、笑顔で「無理です!」と言ってくる始末。


 なので、セリナの父親は────


「君は、子供だからまだ分からないかもしれないが君の存在で家の大事なセリナに悪影響を及ぼしているのだよ。どうしてくれる?君のせいでセリナまで不良になってしまったら?そしたらどう責任を取るつもりだ?君の親御さんに弁明させるか?だが、それは無理だろうな、君の様な底辺の子供の家などが家の"お金"をかけたセリナの事で償える筈がないのだからな!」


 お父様は幸太君に言いたい事を伝えられたのか肩で息を吐きながらも忌々しい目で幸太君を見ていた。


 ただ、私はお父様のお話を聞いていて………寂しい、悲しい気持ちになってしまった。


 だって、さっきから家の"格"だったり私にかけた"お金"の話だったりと私の事などなんにも考えてくれていないのだから。やはり、私は"モノ"だと思われているのかもしれない。


 そんな事を考えていた私に幸太君は「任せろ!」と言うようにウインクをしてきた。

 なので、幸太君を信じてみる事にした。だって、彼は唯一私の気持ちをわかってくれた人なのだから。


「────そうですね。正直、僕には難しい事はわかりません。ですが!これだけは分かる。────貴方達がセリナさんの事を"何も"理解していない事に、ね!」

「なんだと!?」


 そんな幸太君の言葉に怒りの表情を浮かべるお父様。ただ、幸太君は動じない。


「だってそうでしょ?さっきから聞いていたら、全て自分達の事ばかりでセリナさんの事など一つも考えていない。家の格?お金?才能?────そんな物セリナさんは望んでなどいない。それとセリナさんの事を理解しているのかはまた別の問題ですよね?」

「────知った様な事を!それに、これは我が家の問題だ!部外者の君にどうこう言われる筋合いなどない!!」


 お父様は幸太君に怒鳴る。ただ、幸太君はそんなお父様相手に初めて"怒り"という感情を見せる様に表情を変える。すると喰ってかかる。


「────なら!に言われたくないなら、ならちゃんとしろよ!子供の"俺"にこんな事を言わせるなよ!!として恥ずかしくねぇのかよ!!」

「────ッ!?」


 そんな幸太君の剣幕にたじろぐお父様。ただ、幸太君はそのまま話しを続ける。


「俺の事を悪く言うのは構わない。それにこれ以上セリナに構うなと言うならそうする。けど、少しでも彼女の、セリナちゃんの気持ちを考えてやってくれよ!!」

「なにを、言っている。私達はセリナの事を第一に────「なら、この頃セリナちゃんが思っている事、感じている事────ずっと前から寂しいと思っている事をアンタ達は少しでも理解してるのかよ?」────それは………」


 幸太君はお父様の話しを遮る様に伝える。そんな幸太君の話しを聞いたお父様は口籠る。


 そんなお父様に幸太君は近付くと────何故か土下座をする。


 そんな幸太君の不可解な行動に「なっ!?何をして………」「なんで土下座なんて」と、お父様とお母様は呟く。


 ただ、その幸太君の行動の意味がなんとなく私は分かる。それは、私の事を思って身体を張ってお父様とお母様に伝えようとしてくれている事を。


「────彼女は言った。辛かった。悲しかった。誰かに助けて欲しかったと。彼女は泣きながらも言った。愛して欲しかった。褒めて欲しかった、と。彼女は、橋本セリナちゃんはごく普通の女の子だった。そんなセリナちゃんはただ、ごく普通の家庭の様に両親から愛情を注がれて笑い、泣き、悲しみ、苦しみ、怒り────それでも普通の生活を送りたかった」

『…………』


 そんな幸太君の話しを聞いていたお父様とお母様は思い当たる節があるのか反論などできず、ただ土下座をする幸太君を見ていることしかできません。


「ただ、ただ。────「」「」「」────そんなありふれた言葉を彼女は伝えて欲しかっただけなんです。本当は内心で貴方達も分かっていたはずです。それに、家族が近くにいるなら、伝えてあげる時に伝えてあげてくださいよ。俺は家族とは切っても切れない絆で結ばれているとても素晴らしい存在だと思います。────そんな中、既に家族とも逢えない、人もいるのですから。だから、お願いです。セリナちゃんに向き合ってあげてください!!こんなの寂しいじゃ、ないですか!!」

 

 幸太君はそう言うと己の葛藤を伝える様に私の想いを代弁してくれる様にお父様とお母様に一生懸命に伝えてくれます。


 ただ、幸太君の話しを聞いていたお父様とお母様はある事に気付きます。幸太君の話の内容がどうも"リアル"な事に。


「まさか、君は────」

「俺の事は良いんです!今は貴方達の娘さんの事を第一に考えてあげてください!!セリナちゃんは"モノ"でも"機械"でもない────一人の、大切な貴方達が愛する人間なんですから」

『…………』


 幸太君の話が終わるとお父様とお母様は無言でただ、辛そうな表情を浮かベ下を見るだけだった。幸太君はそのまま、土下座をしたままだ。


 ただ、そんな中、私はある決心を決めた。私の為を想って動いてくれた人がいた。

 たった一人、私の幸せを願って大人に啖呵を切る子供ヒーローがいた。


 だから、私はもう何も諦めない。


 小さなヒーローが私の背中を押してくれたのだから。


「────お父様、お母様────いや、違う。!私ねずっと辛かったよ、悲しかったよ、私の事を見て、欲しかったの!!」

「セリナ」

「────セリナちゃん」


 私がそう伝えると、お父さんとお母さん話が初めて私の名前を目を見て呼んでくれた様に思えた。


「お父さん達に迷惑がかかると思って言えなかったけど。"幸太君"に言いたい事は全部言ってもらったけど、これだけは言わせてよ!────私は機械やモノなんかじゃないの!貴方達の娘の────"橋本セリナ"なんだから」


 私は涙を抑えることができず、そのまま両親に思いの節を全て伝える。でも、伝えて初めて気付いた。心の内にあった痼りの様な物が消えていくのが。


 ただ、そんな事を思っていた私の方に両親は────


「今まですまなかったセリナ!!君の想いに感情に気付いてあげられなかった!!」

「私の方こそごめんなさい!セリナちゃんが寂しい想いをしているのに良かれと思ってセリナちゃんに色々とやらせてしまったの。こんな私なんて………母親、失格よ」


 近付いてくると二人とも涙を流して私を抱きしめてきた。そして、今まで伝えられなかった事を今、全て吐き出す様に伝えてくる。


 そんな中、負けじと私も両親に想う事を全て伝える。その私達の抱擁は30分程続いた。そんな中、いつの間にか立っていた幸太君が一人私達の元を後にしようとしているところが見えた。


 なので、私は────


「幸太君、ありがとう!私、私!貴方のお陰でお父さんとお母さんと仲直りできたの!それに、今度から変われそうなの!だから、ありがとう!!」


 私はそう言うと幸太君に向けて頭を下げる。


「俺の方からもです!さっきはキツく当たってしまってすまなかった!君のお陰で目が覚めたよ。君の様な子供がいるのだな」

「私もです。長谷川君のお陰で母としての親としての自覚を再確認を出来ました。君のお陰でこれ以上の過ちを犯さないで済みました」


 お父さんとお母さんも言いたい事を幸太君に伝えると私と同様に頭を下げます。


 そんな中、幸太君は足を止める。


「あぁー、俺の方こそ生意気な事を言ってすみませんでした。ただ、仲直りできたのなら俺からは何も言いません。セリナちゃんも良かったね!」


 幸太君はそう笑顔で言うと帰路につこうとした。ただ、お父さんが幸太君に声をかける。


「君は、長谷川君はなんでまだそんなに幼いのに、人の為に行動ができるんだい?」


 お父さんがそう聞くと、幸太君は足を止める。そのまま振り返りながらも最初から決まっていた事だと言うように────


「────俺は、人の幸せをただ願っているだけですよ。これでも────"正義の味方"に憧れているんで!」


 そんな事を伝えてくる幸太君は先程からの大人びた雰囲気はなく、今は夢を追いかける様な子供の様だと思えた。

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