第79話 抗う者達





 その男はクリプットの様で、クリプットではないとセリナは一目見て感じた。

 以前とは異なる醸し出す強者の風格。先程までの気高きさは消え、獰猛さが身体中から溢れている様に見えた。それに、なによりも風貌が変わってた。


 セットされていた真っ赤な頭髪はボサボサに乱れ、青白い顔はそのままだが目が殺気を帯びている。上半身が内側から筋肉により盛り上がり清楚感を出していたタキシードも見るも無惨なボロボロな状態になり、下半身は獣の様な足に変わり、背中からは赤いマントの代わりか黒い蝙蝠の様な翼が生えていた。持っていたロッドも今は持っておらず。


(────どうする?どうする?……どうするも何も私がやらないでどうするの。リーダーがやられた事と、クリプットアイツプレッシャーに当てられてかみんな萎縮しちゃってるわ。こんな中、戦うなんて得策じゃないわ。それに戦ったとしても勝てないと、確信が持てちゃうし、ね)


 千堂がやられたという絶望感はあったが今、その事で考えている暇はなさそうだ。

 なので、内心でそう思うセリナは生き残る為にも今はなんとか時間を稼ごうと目の前にいるクリプットに話しかける事にした。


 その時に凛に向けて「千堂さんを治療して」とアイコンタクトをするのは忘れない。凛が気付いてくれたかは分からないが、セリナはそれでも行動に移す。


「────随分面影が変わっているけど、イメチェンかしら?私的にはさっきの高貴さが溢れている姿の方が良いと思うわよ?」

「この姿がイメチェンとやらに見えるならお前の目はイかれているのだろうな。それに、お前が今時間稼ぎをしようとしているのが分からないとでも思ったか?」


 そんなセリナの話に取り合う事なくクリプットは小馬鹿にした様に鼻で笑うと返事を返す。


「────はぁ、分かるわよね。ただ貴方のその変化について少し気になるわ。いつの間にその姿に?それに、私の「凶ツ星まがつほし」を直撃した筈よね?」

「…………」


 セリナが言葉にした「凶ツ星まがつほし」という単語を聞いたクリプットは少し眉を動かすとそのまま、無言になる。


(────あら?今の言葉が何かに触れたなら、この調子で時間稼ぎをできるかしら?それに……凛も分かってくれたみたいでリーダーを治療してくれているみたいだし、これで少しでも良くなれば────)


 クリプットの反応、それから横目で見た時に凛の千堂への治療を確認するセリナ。


 ただ、セリナはそんな事を考えているが、クリプットの言う通りただの時間稼ぎにしかならない。治ると分からない千堂の怪我。それに加えてセリナも身体の疲労と魔力の欠乏から本当は今、立っている事がやっとなのだ。そんな満身創痍の中どうにかしようと思っていた。


 でもそんな中、クリプットは────


「────貴様が先程俺に喰らわせてきた技は気になるが、お前達を殺せばじき忘れる事だ。だから────」


 クリプットがそう言いながら左手をセリナ達に向ける。その向けてくる左手からはあり得ないほど異常な量の魔力が集まっていく。その事に「何かが、来る!」とセリナが身構えると共に。


「────とく、失せよ」


 クリプットは無情にもそう呟くとただ、左手を無造作に振るう。そこから発生した赤色の暴風がセリナ達を襲う。

 クリプットは詠唱を破棄して魔法を行使したのだ。


 でもセリナは────


「────くうっ!最後の魔力、持って!!────「我が慈悲深き主よ貴方に告げます その御力を今、一時、我が守護へ────光魔法 「光の盾ホーリーウォール」!!!」」


 セリナがそう叫ぶと両手を前に出しから溜めていた魔力を開放する様に詠唱をする。

 その直後、セリナ達を守る様に大きな光の盾が現れ、目前に近づいてくる赤色の暴風を防ごうとする。


 そんな時────


「『『────汝、我等を守らんと、塞ぎ、守護せよ────「結界プロテクション」!!』』」


 パーティメンバーの補助魔法使いバッファー達もセリナに続く様に暴風を防ぐ魔法を使う。その二つの防壁がクリプットが出した赤い暴風と衝突する。


 ────ギャギャギャギャッッッアァァ。


 衝突すると共にそんな何かを鋭利な刃物で切り裂く様な音が鳴り響く。一時、拮抗する様に攻めぎ合う矛と盾。


 クリプットの一撃を止められた事にセリナと補助魔法使いバッファー達は一瞬安堵の様な表情を浮かべるが、それでもクリプットの一撃を押し返す様に更に力を注ぐ。


「ハアァァァァァアッッ!!!」

『『ハアァァァァァアッッ!!!』』


 そんなセリナ達の懸命な抵抗が功を成しているのか徐々に暴力的な赤い暴風をクリプットに押し返して行く。

 だがそんな中、セリナ達は嫌な予感もしていた。自分の攻撃が押し返されているのにも関わらずクリプットは表情一つ変えていない事に。


 それでもセリナ達は今は押し返す事しか出来ず。


 ただ、そんなセリナ達の嫌な予感は的中する事になる。セリナ達の真剣な表情を見て、クリプットは薄く嘲笑う様に口角を上げると────


「────そこまでもして生を望みたいか。だが、それはならん。なに、俺と会った事を後悔しながら────消えろ、人間!」


 そう言いながらただ、少し力を込める様に正面に構えた左手に魔力を込める。それだけで押し返していたはずなのに一気にセリナ達の方に赤い暴風が迫る。


 クリプットからの力が強まった事により発生した圧力、強まる暴風に耐えられなかった補助魔法使いバッファー達が、一人、また一人とその場で声も出せず倒れ伏していく。

 

 そんな中、一人セリナだけが耐えるようにそれでもクリプットに尚も抵抗をする。


「────くっ!?うっ、アァァァッァァ!!!?」


 その事にクリプットは忌々しい者を見る様な目を向けながらも内心で舌を巻く。


(────やはり、この女は生かしておけん。俺に"死"を与えたというのもあるが、"あのお方"から聞いた話だと。この地球と呼ばれる世界にいる人間達に「スキル」などを渡したのは経った3年前と聞く。そんな短時間でこの強さ。いずれ我々に仇名す敵になるだろう。だから、今、必ず!)


 そう思ったクリプットは空いていた右手も翳すとそちらにも今出せる最大の魔力を込める。その事にセリナは悲鳴を上げる。だが、それでもクリプットはやめない。


「人間!辛いだろう?苦しいだろう?なら、諦めろ!!お前が今、俺の攻撃を止めたとしてもその先になにが待つ?生きたとしてなにが待つ?────助けなどない。勝利などただの一欠片も無い。だから、潔く────死ねェェ!!」


 クリプットはセリナを殺す為に最大の魔力を込める。


 ────パリッン。


 クリプットが魔力を込めると共にそんな硝子が割れた様な音が空間内に情けなくも鳴り響く。セリナがなんとか保てていた光の盾だったがついにクリプットの猛威に耐えられなくなった様で今、破壊された音だった。


「────ッ!?きゃっーーーーーー!!」


 その事が分かるとセリナは悲鳴をあげながら、なすすべなく────その暴力的な赤い暴風に仲間諸共飲み込まれる。


 その様子を見ていたクリプットは今回こそは完全に勝ったと勝利を確信したクリプットは、嗤う。


「────ハハハハッ!苦しむ前に潔く死ねば良いものを!力を付けた所で最強の一には勝てるはずがない!!貴様らがした事は、貴様が守ろうとした物は所詮ただの空虚だ。この俺がこの醜悪な姿になってまで手にかけたのだ!────無意味、無意味!無意味!!正に────無意味ィィィィ!!」


 クリプットはそう叫びながらも嗤う。セリナや千堂達、人間の抵抗を嘲笑う様に嗤い続ける。そんな中、暴風がセリナ達に襲いかかる音だけが空間内に響く渡る。



 ────残った物は──── ──── ──── ────


 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る