第76話 魔族という厄災
千堂は「東京ダンジョン」の最下層に足を踏み入れた瞬間から誰にも気付かれないように自分の最強の「スキル」である「剣生成」を至る所に設置して自分の合図一つで発動出来る様に細工していた。
血の匂いが酷いと言い"口を手で"押さえた時から小声で発動をしていた。その後もなにかとクリプットの気を引いたりと演技をして「剣生成」を発動しては現状をどんでん返しできる機会を窺っていた。
その間に稲荷が亡くなったのも何故か他のパーティメンバー達には何も伝えていないはずだが、千堂が何かをやろうとしていた事は気付かれていたのは予想外だったが勝利には変えられないと無理矢理ポジティブに考えるしか無かった。
そんな中、今も魔法剣の雨がクリプットや魔物達に降り続けている。魔法剣の雨でできた土埃でクリプットがどうなったかは分からなかったが夥しく聴こえてくる魔物達の悲鳴から魔物や
他のパーティメンバーには今、大技を使った事で千堂が動けない為、護衛をお願いし、他のみんなには警戒を頼んでいる。これでクリプットを討伐できれば良いのだが、そんなに上手くいかないのが現実だとわかっていた。
(────ふぅ、にしても
そんな事を内心で考えて、自分の汚れてしまった手を見つめていた千堂は先程のセリナからの小言を思い出し、苦笑いを浮かべる。
ただ、そんな時、千堂の元にある人物が近付いてくる。
「────リーダー。やはりまだ動けそうにないですか?」
「おぅ、セリナ嬢ちゃんか。そうだなぁ、ちと厳しいな。この「スキル」は強力なんだがいかんせん燃費も悪いわ、使うと反動が腰にきて、な。すまないが────」
「────安心してください。まだ、あの魔族が生きていたとしても私が始末します」
千堂が何かを伝える前にセリナが先読みして答えてしまう。なので千堂は口を開けたまま、頼りなく口を曲げていた。
そんな時、千堂はある事を思い出したのか、セリナに聞く。
「────その、稲荷の埋葬は……どうだ?」
「────稲荷さんの埋葬は既に済ませてます。なのでご安心を」
仲間の死を間近で見ていながら一つも表情を変えないセリナを少し悲しい顔で千堂は見ながら「………そうか」と相槌を打つ。
「だけど、本当に悪かった。俺の勝手な判断で稲荷を────「それは違います」──………」
千堂が稲荷の死についてセリナに謝ろうとした時、セリナは千堂の話を遮るように言葉を挟む。なので千堂は黙ってセリナの考えを聞く事にした。
「あなたは正しかった。あの時のリーダーの判断が無かったらもしかしたら、いえ。必ずこちらに多大な被害は出ていたでしょう。それに、私含めて────誰一人として、人を
セリナがそう自分の考えを話すと千堂に頭を下げる。謝罪をされた千堂は頰をポリポリと掻く。
「はぁ、この話は今はよそう。まだ戦いは終わっていないし、アレは誰も悪くねぇんだよ。勿論、
「────そう、ですね」
そんな少ししんみりとした雰囲気になってしまった時──
「────千堂さん!セリナちゃん!奴が、魔族がまだ、生きています!!」
ただ、セリナは────
「では、リーダー。行ってきます。魔族を私が倒してしまったら────すみません」
そんな事を千堂に冷静に伝えると────千堂がギリギリ目で追えるような速度でセリナは魔族────クリプットの元へと向かう。そんなセリナの姿を見ていた千堂は舌を巻いていた。
「────ハァ、出会った時からセリナちゃんは心身共に強かった。けど、今は────というか、フオン君とネロちゃんと会ってから強さが美人さが増したような?」
そんな事を声に出してセリナの背を見ながら考えていると凛が近付いてくる。
「リーダー。恋する乙女は何よりも強いんですよ?それをセリナちゃんが証明してくれますよ。それに、
「ふっ、かもな。でも、やっぱり若いって良いよなぁ〜俺もあと何年か若ければなぁ〜」
凛の方をチラリと見た千堂はセリナの事を考えてか羨ましそうに呟く。ただ、凛はそんな千堂にはある事を伝える。
「何、言っているんですか?リーダーだってまだまだじゃないですか?」
「────そうか?じゃあ、今度俺とどうだ?」
手で酒を飲むようなジェスチャーをする千堂は凛の大きな胸を鼻の下を伸ばして見ていた。でも凛はそんな欲まみれな千堂をゴミでも見るかのような目線を向けていた。
「────冗談は顔だけにしてください。私にはフオン君がいるんですからね!」
「ありぁっ!フラれちった!!」
そんな千堂と凛の話を聞いていた他のパーティメンバー達から笑いが起こっていた。
ただ、それは一瞬で────
「────セリナ嬢ちゃん。無理だけはしないでくれよ」
千堂はそう小声で呟くとセリナが向かった場所へと目線を向ける。凛や他のパーティメンバー達も同様に目線を向けていた。
◇
セリナは一人魔族の元へと来ていた。魔族は身体中に風穴を開け血を流しながらも立っていた。
ただ、その目には憎しみが込められていた。そんな目線でセリナを睨んでいる。
────傷も徐々に治ってきていた。
「────その姿のまま、生きているとは。リーダーの「スキル」は直撃だったはずなのに………魔族はみんなそうなのかしら?」
「黙れ、人間のメス如きが。それよりもお前ではなく、あの男を出せ!」
自分の話を全く聞いていないクリプットを見たセリナはため息を吐く。ため息を吐くとともに一応訳を話す。
「リーダー────千堂さんは今、先程の「スキル」を使ったせいか動けない状態にあるわ。なので私があなたの相手をする為に来たのよ。なので、宜しく頼むわ」
「────私も舐められたものだな。それともお前らはふざけているのか?お前如きで私に勝てるとも?」
「やってみないと分からないわよ?そんな減らず口を叩かないで早く、戦いましょう?」
クリプットの話に普段通りに返すセリナは自分の腰に吊るしている銀色の
「はっ!その潔さ、よし。後悔をするなよ、女!」
完全では無いが、ほとんど傷が完治したクリプットは自前のロッドを構えると素早い動きでセリナに切迫する。
そんな中、セリナは────
「────私が後悔する前にあなたを切り刻んであげるわ」
そう言うと全く動じていないセリナは腰に吊るしている銀色の
「ははっ!その細い頼りない剣を構えているだけではないか!!────死ねェ!」
「私も舐めないで頂戴────「加速」」
クリプットが既にセリナの目前に来ていてその持っているロッドで殴り飛ばそうと思った時、いきなりセリナが「加速」と呟くとその姿が蜃気楼のように掻き消える。
クリプットがその状況に少し困惑しながら周りを見回していると────
「────後ろよ」
そんなセリナの声が聞こえたと共にクリプットの左肩に何かで抉られたような痛みが襲う。
「────ぐっう!?そこか!」
「残念、こっちよ」
「がはっ!!?」
セリナの
ただの魔物だったらセリナのこの早技の剣技で終わっているがクリプットは違う様だ。
心臓を突かれたクリプットはそのまま、ヨロヨロと一歩、二歩後退をすると目の前にいるセリナを睨む。
「────心臓を確実に射抜いたのにやはり効かないのね。
自分の事を睨んでいるクリプットなど気にしていないのかどうやって目の前の敵を倒すのか考えていた。そんなセリナの態度が気に食わないクリプットだが、自分を殺せない事が分かってか、それとも"本気"を未だに出していないからか余裕の笑みを浮かべる。
「────ふふっ、女。今の一撃で分かった。お前では私は倒せない。絶対な。それにお前は速いようだが、ただ速いだけだ。疲れたところを突いてやろう。反則だとは言うなよ?あの────千堂という男も不意打ちで私に攻撃を喰らわしたに過ぎんのだからな」
そんな事を言うとクリプットは嫌な笑みを浮かべていた。
ただ、セリナは────
「────なら、私があなたを細切れにしてあげるわ。それで生きていたらその次を考えるわ」
「はっ!やってみろ!!」
「────望むところ」
セリナとクリプットは両者共にそう話すと自分の武器をぶつけ会う。
二人の間には火花が散る。
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