終焉を告げる鐘の音
第73話 最下層に潜む怪物
◆
ネロ達が「埼玉ダンジョン」のトラップに囚われている同時期、千堂達「夕凪の日差し」は誰も欠けることなく「東京ダンジョン」の30階層──最下層への扉の前に来ていた。
そんな千堂を含める人々は誰一人として無傷では無い。アイテムも消耗し長い「ダンジョン」探索による身体の疲労が隠し切れないほど出ていた。
「────千堂さん。一度、引き返さないですか?ここ30階層以外は特に不自然な所は無かった。でも逆に考えると30階層には"何か"があると決まってると俺は思うんですよ。それに、なんだか嫌な予感がします」
「ダンジョン」のゴツゴツとした壁を背にしている隼也が近くで同じく休憩をしている千堂に話しかける。
「────隼也の言いたい事も分かる。だが、ここまで来たんだ、中を拝むぐらいはしても良いだろ?危なければ引き返せば良い。それに上手くいけば行方不明になっている冒険者達も見つかるかもしれない。だから最後まで進もう」
そんなリーダーの話を聞いた隼也は目頭を押さながらも立ち上がる。
「────あぁ、もう!分かりましたよ!!ただ、少しでも危ないと思ったら離脱しますからね?その時はフオン君とネロちゃんや他の精鋭を呼んで来ますからね!!」
「分かってる。俺一人じゃ無いんだ、無茶や無謀な事はしない」
千堂はいつにも増して真剣な表情を浮かべると呟く。周りで聞いていた他のパーティメンバー達も千堂のその決意の言葉を聞いて再度気合を入れる。
「────しっ!大分皆も休んだから動けるだろ。ただ、まだ、厳しいという人は挙手をしてくれ。その人に合わせるからな!」
『『『…………』』』
千堂がそう聞いても誰一人として弱音を吐く人はいなかった。あの隼也ですら自分の武器であるナイフを腰につけているポシェットから取り出すとやる気を出す様に刃を眺めている。
メンバーの様子を見た千堂は笑みを浮かべると
「まず初めに
『『分かりました!!────汝らに
千堂が声をかけると白色のローブを着た人々が声を上げると詠唱をする。詠唱が終わると「夕凪の日差し」のメンバー全員の身体が淡い緑色に発光する。
その光景を見ながら各自自分の「ステータス」が上がっている事を確認する。
「────これでなんとか。
千堂は自分の強化を確認するとそう呟く。その話を聞いた他のパーティメンバーは各自いつでも乗り込める様に支度をする。
「みんな、今から想定通り30階層に入る。俺達は他の「ダンジョン」やこの「東京ダンジョン」も以前何度か最下層に入った事はあるが、各自油断はしない様に!!」
『『『はい!!!』』』
その言葉に応えるパーティメンバー。みんなの意志を感じた千堂は最後の言葉を放つ。
「今回は「ダンジョンマスター」を討伐するなどの攻略では無い。今回の目的はあくまでも拐われたであろう人々の救出、後は何が起きているかの解明だ。戦わなければいけない状況になればいかしかたないが………出来るだけ戦闘は避ける様に!それにヤバイと少しでも思ったら各自自己判断で撤退しろ、その時の殿は俺が務める。と、戦闘になった場合は事前に話していた通り俺とセリナ嬢ちゃん達が前衛をする。他のみんなはサポートを、少しでも怪我を負ったら一旦下がり
『『『おう!!!』』』
千堂の鼓舞に他のパーティメンバー達も先陣の狼煙を上げる。
千堂が30階層の扉に両手を翳すと────
────承認 最下層に入る資格を持つ者よ 己の強さを示せ────
「ダンジョン」を攻略する際に1階層〜29階層を攻略した者が最下層の扉に触れると最下層の扉が自動で開く仕組みになっているという。その理由は解明されていない。
そんな機械的な声が聞こえたと共に扉が「ギィーーー」という音を立てながらゆっくりと開く。
(────さて、鬼が出るか蛇が出るか。一度ここの中に入った事があるといっても今回も同じとは限らねぇ。もし、危なかったら俺が………)
そんな事を考えている千堂は最下層の中に足を進めようとしたが────思わず自分の脚を止めてしまった。それは千堂の後に続こうとしていたセリナ達も同様だった。
何故みんな足を止めたしまったというと理由もあった。湿った空気、密閉された事によるカビの香り、それと共に────鼻を劈くような鉄の臭いが部屋のそこら中からするからだ。まぁ、要するに────血の匂いだ。
そんな階層中に充満する様な濃厚な血の匂いのせいか他のパーティメンバーは嗚咽をしていたり、顔を顰めたりとそれぞれだった。
「────これは、中で何が起きてやがる。この血の匂いは尋常じゃねえぞ。みんな、作戦変更だ。俺だけが中に入る。俺が手で合図するまで絶対に入ってくるなッ!!」
『『『────ッ!!』』』
そんな千堂の判断に何かを言いたそうにしていたメンバーは何人かいたが、千堂の冷汗を垂らしている顔を見たら何も言えなかった。それ程、異常な事態だと思ったからだ。
(みんなが俺の事を見て案じている事はわかる。だが、これは完全なる異常事態だ、だから────)
そう思い一人、中に入る千堂。
そこで千堂が見たものとは────
「────ッ!!?ゔぇっ、これは、馬鹿げてやがる、イカれてやがる。マジで何が起きてやがる?」
千堂は最下層の中に入り、見回すと直ぐに自分の"口"を"手"で押さえる。押さえると再度周りを見る。
────そんな千堂が見たものとは自分の口でも言った通り馬鹿げている、ありえないといった代物ばかりだった。
最下層の部屋の中は何処も同じなのかとても広い空間で、他の階層とは違く人の手が加わっていると思われる程に小綺麗にされていた。そんな空間を壁に付いているトーテムの光が空間を照らす。────はずだった。
普通はそうだ。だが、今はどうだ?
最下層の部屋の真ん中にある小さなコロッセオ。そこで雄叫びを上げて戦う沢山の魔物と"人の形"をしたナニか。「ダンジョン」の壁に杭の様なもので貼り付けにされたナニかの赤黒い肉片。最下層の扉直ぐ右にあるナニかの赤黒く変色した肉片の山。そこらかしこに転がる白骨の数々。
その異常とも呼べる禍々しい光景の数々を見た千堂が取った行動は────
「みんな、逃げろォ!!そして、早く、速やかに、ここから────離れろォォッ!!!?」
直ぐ近くにある扉に向けて叫ぶ。化け物達に気付かれても良いからみんなを撤退させる事が優先だった。怒号を上げると自分も外に出る為に動く。
だが、そんな事はこの部屋の"主人"が許さなかった。千堂がみんなに声をかけたと同時期、扉の外にいた筈の「夕凪の日差し」のパーティメンバー達全員が何か引力に引かれるように千堂の元へと無理矢理連れてこられたのだから。そのまま扉は「バタンっ!」と勢いよく閉じてしまう。
「────くっ!?マジか!閉じ込められた!!この扉、びくともしないぞ!!?」
最下層の扉の中に無理矢理連れてこられた瞬間、隼也が瞬時に扉を開けようとしたが、開けられなかった。
他のみんなは中の現状を見て悲鳴をあげたり、顔を青くしている人が大半を占めた。そんな中、千堂はそれでも打開策を出そうとした。
────が、ある者の介入によってそれ以上の考えを出来なかった。
自分達や"あの"人の形をした怪物達や魔物達の他に千堂達の元に向かってくる誰かがいるのだから。
────コツ、コツ、コツ、コツ────
そんな誰かの靴が「ダンジョン」の床を踏む音だけがやけにこの空間内に響く。
「────やあやあ、これは大勢で来てくれた者だ。私は嬉しいよ、こんなにも人が同時に来たのは初めてだからね、本当に嬉しいさ。さて、そんな諸君を歓迎しよう!勿論、死のエンターテイメントを添えて、ね?」
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