第72話 救済を願いし者





 車内でフオンと諏訪部は初めに「東京支部」に着く間「集団ダンジョン探索」の際に「埼玉ダンジョン」で起こった謎のトラップについてや魔法が使えない空間のことなどを話し合う。その時にネロと服部は軽い自己紹介を踏まえて別で話していた。

 そんな中、諏訪部はフオンの話を聞く度に驚いていた。


「────鳴金君からある程度は聞いていたが「埼玉ダンジョン」でそんな事があったとは。それに魔法が使えない空間の上、出てきた魔物は「S」ランク相当、と。はぁ、頭が痛くなってくるよ、ただそれを打倒するフオン君もおかしいが、ね………」


 おかしな事が起こっている事に頭を抱えていた諏訪部だが、フオンが「S」ランクの魔物をに討伐してしまったとネロから聞き、尚頭を抱える。

 諏訪部は事前に"ある人物達"からフオンとネロについて多少は話を聞いていた。なので耐性はあったが──"ここ"までも聞いていて非常識だとは思わなかった。だが、今のには非常に助かる。


「──「埼玉ダンジョン」で起こった事も勿論気になる。だが、今はそれよりも優先をしなくてはいけない事が、起こった。──多分聡いフオン君の事だ、薄々気付いているのだろう。それが………」


 諏訪部はそこで話を一白置くとフオン達の表情を一度伺う。そんな中、フオン達は黙って諏訪部の次の言葉を待つ。


「──「東京ダンジョン」の異変についてだ。元々俺は"蔵さん"と"千堂さん"と「東京ダンジョン」の異変について話し合っていた。そのついでにフオン君とネロ君の話も聞いていた」

「──やはり"ある人物"とはあの二人で合っていたようだな。それで?」


 自分が考えていた事が的中していたフオンは特に表情を変えずに続きを促す。


「──「東京ダンジョン」に向かっていた千堂さん達にの事があれば俺に蔵さんから連絡が入る事になってた。──いや、ここで話を渋っている場合では無いな。単刀直入に言おう── 「東京ダンジョン」の異変に向かっていた達「夕凪の日差し」との連絡が途絶えた、と今し方連絡があった」


 その話を聞いたネロと服部は驚愕の表情を浮かべていた。ただ一人、その事を"予想していた"からかフオンだけが普段通りだ。


「──千堂さん達の事だが今は何が起きているか、どんな状況なのか分からない。だから一度「東京支部」に帰って蔵さんと話し合うつもりだ」


 車内のフオン達に聞こえるように諏訪部は話す。


「それが懸命な判断だろうな」

「君もそう思うか。……もうじき「東京支部」につく頃合いだろう、車から降りたら直ぐに蔵さんの元に向かおう」


 その諏訪部の話を聞いていたフオン達は皆それぞれ無言で頷く。そんな話をしていると直ぐに「東京支部」に着いたのかフオン達を乗せていた車が止まる。

 運転手に諏訪部とフオン達が挨拶をすると、そのまま走って「東京支部」の扉へと向かう。


 フオン達が「東京支部」について直ぐに思った事が「何か騒がしい」という事だった。支部内からは外からでも分かる程に人々の飛び交う声がガヤガヤと聞こえてくる。その声はどうやらただ騒いでいるだけでは無いようだ。──何故なら怒声や鳴き声が聞こえてくるのだから。

 その事に、ここで立ち止まっていても意味が無いと判断した諏訪部がはやる気持ちを抑えてゆっくりと「東京支部」の扉を開く。すると、中では──


「──協会長!まだ、助かる見込みはあります!!それに、何もまだ手遅れと決まった訳では無いのですから!!」

「もう、無理よ!!大事な息子も帰ってこない。愛する夫も帰ってこない。それに加えて──私がお願いをしたばかりかセリナちゃんまで………私の、せいなのよ」

「──協会長」


 ──そこではアフロ姿の男性、副協会である蔵と、美しい長い髪黒髪を支部の床に付けて泣き崩れる美人な女性の言い合っている姿があった。その女性の事を蔵がと呼んでいる事から──「東京支部」の最高責任者である協会長の工藤静香である事が分かる。

 支部内にいる他の冒険者や職員達は遠くから様子をただ、見ているだけだった。


 そんな二人の様子を見ていたフオン達はどう介入して良いかと困っていた時、蔵が気付いてくれたようで──


「──!!フオン君達、戻ってきたのか!!それに諏訪部さんも!!」


 先程まで切羽詰まった様な表情をしていた蔵はフオン達の姿を見た瞬間、たちまち笑みを浮かべる。そんな蔵の声を聞いた静香以外の他の人々も希望を見つけた様に笑顔を浮かべたり、声を上げる人々が一瞬で溢れた。


「──あぁ、今、帰った。一応ここにいる諏訪部さんから大まかな話は受けている」


 フオンから話を振られた諏訪部は口を開く。


「蔵さん、こんにちは。今、フオン君から話があった様に「集団ダンジョン探索」の試験が終わった後、蔵さんからうちのメンバー経由で連絡があったのでフオン君達に話を通してここ東京支部に来ました」

「そうか、諏訪部さんもありがとう!」


 諏訪部の話を聞いた蔵は諏訪部の元に近付いてくると諏訪部と握手をする。その握手も一瞬で、蔵は真剣な表情になるとフオン達に顔を向ける。


「フオン君、ネロちゃんもそうだけど、今、危機的な状況が起きている。諏訪部さんからある程度聞いていると思うから俺からはかいつまんで話そう。まず──「君がフオン君なのね?」──協会長?」


 そう蔵からフオン達に話をしようとしていた時、さっきまで床に泣き崩れていた静香が危なかしい足取りでフオンの元まで近寄ると蔵の言葉を遮りフオンに問い掛けてきた。


 静香は蔵の話を無視して緑色のローブで今も顔を隠すフオンに真剣な顔を向ける。聞かれたフオンは──


「そうだが、貴女が協会長か──それで?俺に何か?」


 相手が協会長でも普段通りに接するフオン。そんな状況を蔵や諏訪部、他の人々がハラハラとした様子で見ていた。


 ──が、とうの静香は──


「──ふふっ、君、よく太々しいと言われない?でも、その性格私は嫌いじゃ無いわ。ただ、目上の人には態度を変えた方が良いかもね?」


 さっきまで泣いていたからか目を赤くさせながらもフオンの失礼な態度に怒る事なくやんわりと注意をする静香。その事にフオンと静香の会話を聞いていた人々は安堵のため息を吐く。


「──それもそうだな──ですね。これで良いか──良いですか?」


 慣れからか上手く敬語を使えないフオンは慣れないながらも敬語を使おうと努力をして静香に話しかける。その姿が静香のツボに入ったのかクスクスと少し笑う。


「──何も笑う事はないだろ──ないじゃないですか」

「ごめん、ごめん!君の姿があまりにもおかしくて、ついね?それに敬語が慣れてなければ別に使わなくても良いわよ。今から君に頼み事をする訳だし」

「はぁ」


 静香の話を聞いたフオンは相槌をするだけに留める。すると再度真剣な表情を作る静香は──フオンにではなく、蔵に顔を向ける。


「──蔵さん、さっきは話を遮ってしまいごめんなさい。ただ、これは協会長である私から彼、フオン君に伝えさせてほしいの。私の勤めでもあるのですから」

「──分かりました。協会長に任せます」


 静香に言われた蔵は特に異論を唱えず一歩引くとフオンと静香に顔を向けて静観した。そんな蔵の様子を見た静香は「ありがとう」と一言お礼を言い、フオンに顔を戻す。


「──まず、単刀直入に言います。フオン君に「東京ダンジョン」に潜っている「夕凪の日差し」のパーティを救出して欲しいのです。彼等とは3時間前から連絡が繋がらなくなり、何があっても午後6時には戻ってくると話を受けています。ですが、一向に戻りません」


 そこで静香は話を止めると勢いよく自分の頭を下げる。


「なので!どうか、どうか……救って欲しいのです。冒険者を登録したばかりであるフオン君に頼むのはお門違いだとわかっている。でも、うちのトップである千堂さんを軽くいなすと聞きます。そんなフオン君に彼等を救って欲しいのです!今は貴方達に助けを求めるしか無いのです。もし、救ってくださるなら君が望む物を用意します。富でも地位でも────私、自身でも!!」


 静香はそんな事を他の人々もいる中、大きな声で話す。そこに蔵も近付くと静香と同様にフオンに頭を下げる。


「俺からも頼みます!君を誰よりも強いとこの短い付き合いだが、自負している。そんな君に千堂さん達の──「夕凪の日差し」の救出を任せたい!!協会長と同じで君の思う事を必ず行うと誓う!!だから!!!」

「…………」


 そんな中、静香と蔵の話を聞いているフオンは無言で無表情で二人の頭を下げる姿を見ていた。他の人々も見守る中、フオンは少し表情を崩す。


 そんなフオンが出した答えは──


「──断る」

 

 そんな今、一番聞きたくなかった言葉の選択だった。それは救済を願う人々を嘲笑う様な所業だった。






 

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