第71話 集団ダンジョン探索試験の終わり②




 諏訪部が話している中、一人大声を上げた鳴金にネロ達や他の試験者達の注目を集める。ただ一人、フオンはニヤリと笑う。


「──君は鳴金君か。何か、あるのかな?」

「はい、今回の試験を参加させて頂いていた鳴金です。諏訪部試験官のお話の途中横槍してしまい申し訳ありません!」


 諏訪部が名前を確かめると鳴金は肯定し、話を止めてしまった事を謝る。そんな鳴金の様子が少し違う事に気付いた諏訪部だったが、今はどうしたのか聞いてみる。


「あぁ、別にそれは構わないよ。ただ、何かあるなら今、ここで言ってくれると助かるよ」

「わかりました。その、先程諏訪部試験官が言った通り、合否は分かりませんが僕は合格をしている──人々に入っているのだと思います」


 鳴金の話を聞いた他の試験者達からは「なんだよ、不合格者達への嫌味かよ」や「サイテー」、「お坊ちゃんか知らんが、空気を読め」などと辛辣な言葉の数々が鳴金に浴びせられる。

 ただ、諏訪部だけは何も言わずに静かに聞いている。


 そんな中、鳴金は──


「──ですが、僕は──不合格にしてください」


 そんな事を頭を下げながら告げたのだ。何も言わなければ合格になり、じき「C」ランクになれるかもしれなかったのに自分から棒を振ったのだ。

 その事に先程まで鳴金に辛辣な言葉を浴びせていた試験者達は自分達が思っていた様な事ではなかった為、罰が悪そうな顔をして口を閉じる。鳴金に何も言っていなかったフオン以外の人物は鳴金の事を驚愕した様な顔を向けていた。


「────それは、どうしてなのかね?何か君は失格になる様な事をしたのかね?」


 諏訪部の言葉に鳴金は何も言い訳などせずに頷く。


「はい、僕はやってはいけない事をしました。それも試験の失格というか、人間としての、冒険者としての──失格者だと僕は自分の事をそう、思います」


 そんな鳴金の良い様に漸く周りで聞いていた試験者達は初めの傲慢な態度が目に付く鳴金と違う事に気づく。

 ただ、諏訪部は普段通り聞き返す。


「ふむ、だから自分は今回の試験を自ら下りると、そう言うのか?」

「はい。僕は普段傲慢だったり他の人々に粗暴な態度を取る愚か者だったと

「ん?何か、言い回しがおかしくないか?それに君の雰囲気が………」


 他の皆が思っている事を諏訪部が代弁して聴いてくれた。聞かれた鳴金は直ぐに答える。


「はい、皆様もお気づきだと思いますが僕は普段と性格が違う様です。これは「埼玉ダンジョン内」で頭を強く打った事による──一種の記憶喪失だと思っています。だから雰囲気が違うのだと思います。でも、こんな性格になった事で自分の今までやってきた愚かさに気付きました」

「そう、だったのか。だが、それと試験を下りる事と関係は無いのでは?」

「──いえ、あります。まず僕達が「埼玉ダンジョン」に入ってからの話をします──」


 鳴金はそう、前置きを置くと自分が見て、聴いた事を事細かく詳細を全て諏訪部やここにいる人々に聞こえるように話した。


「──という事があり、僕は皆様を窮地に立たせた上、フオン君達に助けられたのです。そんな僕が昇級試験の合格の資格を持って良い訳がないのです」


 鳴金が話し終わった後、諏訪部や他の試験者達はなんと答えたら良いのかという難しい表情をしていた。

 ただ、聞いていたネロは驚き、鳴金の取り巻き達はそこまで考えていた事に「雅紀様は、そんな事を。なら私達も失格です」と呟いていた。


「──ふぅ、わかった。詳しい話は後日聴こう。ただ、本当に君は不合格で良いのだな?」


 諏訪部は一度ため息を吐くと真剣な表情を作り、鳴金に最後の通達を伝える。言われた鳴金は一度フオンの顔を見ると真剣な表情を作り、頷く。


「──はい、僕はあるお方から「誠意を見せろ、行動で示せ」と言われました。その時から既に腹は括っています。ただ、僕について来ただけの谷口さん達はそのまま合否を出してください。彼等は何も悪くないのですから」

 

 そんな鳴金の言いように谷口と呼ばれた取り巻きと他の取り巻き達も何かを言いたげな表情で鳴金を見ていたが、鳴金は首を振るだけで取り合わない。


「──君の意思は変わらない様だ。なら、俺からはもう何も言わない」

「ありがとうございます」


 鳴金はそんな諏訪部にお辞儀をする。


 そんな少し、しんみりとした雰囲気を吹き飛ばす様に諏訪部が明るい声で捲し立てる。


「──諸君等も聞いていた通り、今自分の非を認め自ら試験を下りた者がいる。ただ彼を決して侮辱してはいけない。彼がやって来たことは認められない事だ。だが、彼はそれを認め自分から直そうとしている。ならば後は我々がまた違う道に進まない様に啓司してあげればいい。「C」ランク冒険者になると言うことは人の器も示すことでもある」


 そんな諏訪部の話を聞いた試験者達は頷く。そんな中、「よく言った!」や「さっきは変な事を言って悪かった」、「道を間違えたら何度でも正してやるよ!だから、安心しろ」などと鳴金を励ます様な言葉が投げられる。

 その様子を見た諏訪部は一つ頷くと口を開く。


「これにて今回の「集団ダンジョン探索」を終了とする。今回惜しくも不合格だった者は次、頑張るように。なに、3ヶ月後にまた試験はあるからその時に成長した姿を見せてくれ。他の者は各支部に戻り担当に報告するように。合否は追って連絡する。では──解散」


 諏訪部の号令のもと今回の「集団ダンジョン探索」はお開きとなる。

 試験の終わりを告げた直後、諏訪部は自分のパーティメンバーと何やら話し合っていた。そんな中、フオン達も他の試験者達と同じ様に「東京支部」に戻る為少ない荷物を背負うと歩き出す。


 ただ──


「──お二人とも置いてかないででござる!拙者もお二人のお供をするでござるよ。拙者も「東京支部」に用事もあるので」

「──ついて来たければついてこい」


 服部の言葉に曖昧な言葉で返すフオン。ただネロが服部に小声で耳打ちをする。


「お兄ちゃんはツンデレだからね」

「ふふっ、知ってるでござるよ」


 そんな二人にフオンは──


「──お前ら、聞こえてるぞ」


 そんなやり取りもあったがフオン達3人は帰路に着く。


 ──ように思えた時────


「───フオン君達、待ってくれ!!」


 今回の「集団ダンジョン探索」の試験官だった諏訪部が血相を変えてフオン達の元に走って来た。その後には他のパーティメンバーの姿もあった。


 声が聞こえたフオン達は背後を振り向く。


「どうかしたのか?」

「あぁ、良かった。君達が直ぐに帰ってなくて────いや、今はその話はいいな。フオン君、俺も君達と同行をさせてくれないか?」


 いきなり諏訪部からそんな事を言われたフオンは少し難しそうな顔をしたが、それは一瞬でネロと服部に目線を移す。フオンから目線を向けられた二人は問題ないというように一つ頷く。


「──別に構わない。それよりも何かあったのか?先程、試験が終わった直後パーティメンバーと話し合っていたようだが。それにその表情を見る限り、何かあったのだろ?」

「あぁ、フオン君の言う通りだ。ただ、この話は「東京支部」に戻るついでに俺から話そう」

「──わかった。何を話すのかは"なんとなく"は分かるが、諏訪部さんに任せる」

「恩にきる」


 諏訪部のその話を聞いたフオンは一つ頷く。

 その後は諏訪部が用意してくれた車に乗り「東京支部」へと向かうフオン一行。諏訪部の他のパーティメンバーは「埼玉支部」に連絡をお願いしているので今回の同行は諏訪部だけになった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る