第70話 集団ダンジョン探索試験の終わり①




 ────エラー エラー unknown unknown un…kno……wn…wn……


 また、空間内にそんな機械的な声が聞こえて来ると思ったら、以前とは違く徐々に声が途絶え、途絶えになり最後には壊れたラジオの様な耳障りな音が鳴り響き、何も聞こえなくなった。


「──終わった、のかな?」

「恐らくな。次に来たとしても同じ様に殲滅するだけだがな」


 空間から聴こえる声を静かに聞いていた皆の中で、ネロが声を上げる。そんな中、近くにいたフオンが返答を返す。


「それよりも、ネロは何故魔法を使わなかったんだ?お前が相手をすればあんな雑魚に遅れを取らないだろ?」

「あぁ、それがこの空間は魔法が禁止されているみたいでね、魔力を練れなかったんだよ。魔力を練れない僕なんてただの一人の可愛い女の子さ」

「そうか、今も使えないのか?」


 フオンに言われたネロは念のため、試してみる事にした。精神を集中する様に魔力を練ると──


「──あっ、使える。うーん?さっきの声?が何か関係していたのかな?僕も「ダンジョン」については専門外だからね」

「──分からない事はしょうがないな。帰ったら蔵さん辺りにでも聞いてみるか」


 フオンとネロが話していると服部が近付いてくる。


「フオン殿、先程は助かりましたでござるよ。と、こちらはフオン殿のお仲間さんですかな?」

「──服部か。そうだが、今はそんな話よりも試験だろ。今の時刻が何時か分からんし、まずは俺が開けた「ダンジョン」の壁から外に出るぞ」


 フオンにそう言われた服部は特に否定の言葉を入れずに、ネロに顔を向ける。


「そうでしたな。ではまた後で話しましょう」

「うん、分かったよ」


 そう、3人は話し合うと外に出ようとした。が、その時──



『雅紀様!目を覚ましましたか!!』

『雅紀様、ご無事ですか!?』

『お怪我の様子は如何ですか!?』


 リザードマンの一撃で伸びていた鳴金が「うぅっ」と呻き声を上げながら丁度今、起き上がるところだった。そんな鳴金を心配してか取り巻き達は口々に声をかけている。


「………うっわ、目を覚まさなくても良いのに」

「くくくっ、奴も嫌われたものだな」


 そんなネロの辛辣な言葉を聞いたフオンは笑っていた。だが、笑っているフオンにネロは物申したい事があるそうで──


「──というか、お兄ちゃんが僕にあんな奴のパーティに入らせるから悪いんじゃん!!それを他人事の様に何、笑ってるのさ!!!」

「まぁ、他人事だからな。だが、悪かった。この埋め合わせは、今度な?」

「ハンッ!当たり前だよ!本当!!」


 プンスカと怒るネロに苦笑いで返すフオン。その様子を何やら楽しそうに静かに見ている服部。

 

 そんなほんわかと和んでいる中、鳴金達は──


「──ここは、何処ですか?は何を?」


 自分の事をと呼び、今の状況が何も分かっていない様な雰囲気を出す鳴金。その事に取り巻き達は──「今、集団ダンジョン探索試験の最中である事」、「鳴金がトラップを発動した事で変な空間に閉じ込められてしまった事」、「彼等フオン達が助けてくれた事」を話すと──


「──そんな、事が。僕は何をやっているのだ。傲慢な態度をとり、手を取り合う筈の冒険者の皆様に粗暴に扱う。あぁ、これは許されない事だ」


 最初のの鳴金とはうって変わって完全に別人の様に変わっていた。この状態が普段どおりなのか、おかしいのかはフオン達には分からなかった。もしかしたら頭を打った事で記憶が飛んでいるのかもしれない。だが、その場でという面倒臭い事にならなくて安心していた。

 そんな変わり果てた鳴金は取り巻き達に断りを入れるとフオン達の元に近付いてくる。


 近寄って来る鳴金にネロが身構えていると──


「──ネロ及び、皆様。大変ご迷惑をおかけしました。僕の浅慮な行動のせいで危ない思いもさせてしまった様で、その上窮地を助けて頂きました。なんと償えば宜しいのか………」


 そんな事を鳴金は深々と頭を下げるとフオン達に謝ってきた。言われたフオンと服部は特に接点はなかったのでどうでも良さそうにしているが──


「──ふんっ!どうだか、その性格もこの場凌ぎの為に作っているだけなんじゃないの?今までの君の行動を見ていた僕からしたら信用ならないよ」


 ──ネロはそんな中、鳴金を元々毛嫌いしているからか許せない様で憤慨していた。


「………ですよね……そうですよ、ね」


 ネロの話を聞いた鳴金は肩を落とす。ただ、そんな時、以外な人物が間に入る。


「──お前らに何があったのかは、なんとなくはわかるが、今はその話はよせ。ネロもそうだ、こいつが謝っているのだから許してやれ」

「ちょっと!お兄ちゃんはどっちの味方なのさ!!?」

「俺はどちらでもない。ただ、今は時間が惜しい。──俺らは良いが、お前達は合格の"石"を集めたのか?」


 フオンから話を聞いたネロや鳴金達は顔を青くする。


「──はぁ、その様子では集めてないのだろ?なら尚更無駄な時間を使うな」

「──むぅ、わかったよ」


 そんなフオンの言葉に反論できず、ネロは渋々頷く。


「鳴金と言ったな?お前もそうだ。償いたいなら誠意を見せろ。そして、試験が終わった後に行動で示せ。口約束なら誰でもできる」

「──わかりました。それは、必ずや。ネロさんのお兄さん、仲介役ありがとうございます」


 鳴金はフオンにそう伝える。言われたフオンは特に何も返さずにそのまま自分が開けた「ダンジョン」の壁へと歩いていく。その後ろをネロと服部がついて行く。少し遅れて鳴金達も置いてかれない様に急いでその後をついていく。


 

 ◇閑話休題それはさておき



  あの不思議な空間から脱出できたフオン達はそのまま、ネロ達の分の合格と書かれた"石"を探した。鳴金の取り巻きの一人が腕時計をしていた為、時間を確認すると午後4時30分となっていた。その事に初め、ネロ達は絶望した表情をしたが──フオンが服部に「探せるか?」と聞くと、聞かれた服部は満面な笑みで「勿論!」と告げる。

 その後は、服部が啓司した道に進み人数分の合格と書かれた"石"を探す事に成功した。フオン達はその足で「埼玉ダンジョン」から生還する。


 すると──


「──ッ!フオン君達、無事だったか!?」


 フオン達が「埼玉ダンジョン」の入り口から出てきた事をいち早く気付いた諏訪部は血相を変えて近寄ってきた。

 そんな諏訪部にフオンが代表として答える。


「あぁ、少しトラブルはあったが俺達は無事だ。それで、まだ時間はあるし──この石を探してきたから試験は合格でいいのか?」


 手に持っていた合格と書かれた石を見えるように翳すとそんな事を告げるフオン。フオン達が「埼玉ダンジョン」から生還した時の時刻は丁度午後の5時45分とギリギリな時間になっていた為、一応聞いてみたのだ。

 フオンの普段通りの姿を見た諏訪部は少し笑みを溢す。


「──トラブルがあったと言うのに君は、変わらないな。あぁ、それと合否はまだ言えないが他の皆も既に戻っているからこちらに集まると良い」


 諏訪部にそう言われたフオン達は安堵のため息を吐いていた。ただ、その中、鳴金だけが少し神妙な顔をしている。



「──少しアクシデントはあったが、今回「集団ダンジョン探索」を行った諸君の中で大きな怪我をした者や亡くなった者はゼロだ。これはとても喜ばしい事だ」


 そんな事を諏訪部はこちらを見ている試験参加者達に告げる。


「──ただ、今回の試験を全員が合格をしているかと言うとそれは違う。失格者はいない様だが、中には規定の石を見付けられずタイムアップしている者達もいる。そんな諸君達は先程俺自ら声をかけたからわかっていると思う」


 諏訪部の「タイムアップ」と聞いていた数人の冒険者達が肩を落とす。恐らくその冒険者達が不合格者達なのだろう。


「今は直ぐにこちらから合否を伝える訳ではないが各所属の支部から連絡があるだろう。だからそれを待ってくれ。では──「待ってください!!」──ん?」


 諏訪部が最後に何かを伝えようとした最中、「埼玉ダンジョン」から生還してからずっと神妙な面持ちをしていた──鳴金が口を開き諏訪部の言葉を止める。







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