第69話 集団ダンジョン探索⑥





 服部はあの後も、無類の強さを見せ魔物の軍勢相手に一人で奮闘して見せた。襲いかかってくる敵を薙ぎ払い、殺し、命を確実に奪う。服部自身も無傷ではないが、フオン達がいる背後には決して近寄らせないという想いが久々と感じられた。


 大勢で魔物が押し寄せてくると「火遁・焔!」と叫び、特大の炎の塊を作り大規模な爆炎を魔物達に浴びせ、それでも近付いてくる魔物には「水遁」の水で滑らせたり「氷遁」で「ダンジョン」の床を凍らせて近付かせない。中でも自分の主武器である小刀に「雷遁」で纏わせた雷の忍術は強かった。

 「雷遁・イズチ ニズチ ミズチ!!」と叫び小刀を振るうと2メートル程の大きさの雷を纏った蛇が三匹出現し、「魔物達を喰らい付くせ!!」という服部の合図で一斉に魔物の群れに襲いかかる。「イズチ」は縦横無尽に魔物達に襲いかかり、「ニズチ」は口から雷の息吹を出し魔物を一網打尽にする。

 ただ、服部は何もしないわけではなく、残った「ミズチ」と共に愛刀を構えて魔物を襲う。服部は「ミズチ」と連携を組み、ヒットアンドアウェイを繰り返す。


 その一騎当千という服部の強さに、自分達を必ず守るという大きな背中に鳴金の取り巻き達は魅了されていた。


「──くっ!数は減らしても尚も軍勢でやってくるでござるな。これではジリ貧でござる。フオン殿は今、拙者の動きを見て"氣"の使い方を習得しようとしてなさる。助けは──無理でござるな」


 ただ、やはり強くても数の暴力には堪える様で、既に雷を纏った蛇達の姿はなく服部は一人で奮闘していた。そんな中、背後のフオンに助けをと思い様子を伺ったが──今も、真剣に服部の動きを観ていることから助けは"今は"無理だろうと理解した。

 理解したと共に、決心も決めた。別にヤケになって特攻などをしようとなどしていない。服部とて自分の命はおしい、でも勝機があるならと──


「──ふぅ、肉弾戦はやめでござる。──土遁・白亜の壁!──「瞬歩しゅんぽ」!」


 服部は右手で持っていた小刀で近くにいた蝙蝠型の魔物を斬り付けると返した小刀を腰の鞘にしまう。すると、最初と同様の白色の壁を魔物達の道を塞ぐ様に出現させるとそのまま「スキル」の名を呟き、一瞬のうちでフオン達の元に戻る。その動きは正に瞬きをしている間の一瞬に動いた様に見えた。

 その服部の動きにフオン以外の皆は驚いていた。だが、服部としても特段凄い事をしたつもりはなかった。ただ、両足に氣を込めて「瞬歩」という一時的に瞬発力を高める「スキル」を合わせて使いフオン達の元に戻っただけに過ぎないのだから。


「皆さん、今から拙者は大技を使い、魔物達を仕留めるでござる。ですが、大技故使った直後は直ぐに動けないと思います。拙者も仕留めるつもりで行きますが──まだ、安心はしないでくだされ」

『『は、はい!』』

「わかったよ!」


 服部の言葉に反応する鳴金の取り巻き達とネロ。フオンはただ、服部を観ていた。

 それは、フオンからの「その大技とやらを観せて見ろ」というメッセージだと認識した服部は特に何も言わず、両手で印を結ぶ。そのまま極限まで集中する。


「──雷遁・火遁──この手に留まれ、そして──無窮を生せ!」


 服部がそう呟くと、服部の目前に真っ黒な空洞の様な物ができるとそこに徐々に雷の塊の様な物が生成される。ただ、そんなただの黄色い雷が徐々に、徐々に──真っ黒く変色をしていく。既に真っ黒くなった雷を目前に一筋の汗を垂らしながらも服部は次の言葉を紡ぐ。


「──生成、完了。時点、留まりながら天へ──」


 服部が紡ぐとその雷は服部が出した白色の土の壁を迂回し、今もこちらに近付いてくる魔物達の頭上に上がる。その姿は真っ黒な太陽の様だった。

 それを目で見て確認した服部は最後のトリガーを紡ぐ。


「──雷火遁らいかとん──黒天・焔ブラック・ノヴァ!!」

 

 服部が右手を天に上げ、右手を握りながら叫ぶと真っ黒の雷はその場で極上に縮む。その様子を見た服部は──


「──そして、弾け──飛べ──!!」


 握っていた右手をぱっと開くと同時に叫ぶ。服部の合図を受けた真っ黒な雷は膨張し、膨張し──


 ──ドッパーーーン!!!


 爆弾が空中で起爆し弾け飛ぶ様な音が響き渡る。そんな音の後にフオン達まで押し寄せる熱風。魔物達の阿鼻叫喚。

 あの、真っ黒な雷の塊は服部の忍術で、魔物を広範囲で滅する技だったのだ。


 そんな技を使った服部は──


「ハァ、ハァ、これで、どうでござるか?」


 服部はそう呟くと、息も絶え絶えの中、自分で発生させた技で魔物達がどうなったのか今も黒煙が漂う先を見る。

 黒煙が晴れたそこには、魔物は既に一匹も存在しなかった。その事に服部もネロ達も笑みを見せる。鳴金の取り巻き達は「助かった!」と抱き合っていた。


 ただ、一人フオンは──


「──まだだな」


 一人、何かをわかってか呟く。


 そんな中──


 ──緊急 緊急 戦闘 最終段階フェーズへ移行します──


 また、そんな機会的な声が空間内に聞こえたと思うと──


『ギシヤッァァァァオオオォ!!』


 ──という、けたたましい鳴き声が聴こえてきた。


 その声に恐る恐る服部達が先程何もいなかった空間に目をやると、赤黒い身体を持つワイバーンの様な魔物が七頭空中で旋回していた。その姿を見て──絶望した。


「なっ!?アレは「カオスワイバーン」!「S」ランクの魔物だよ!なんでこの「ダンジョン」に………」


 驚きの表情を浮かべるネロは7メートル先にいる魔物達をそう呼ぶ。鳴金の取り巻き達はまだ魔物達が存在する事に悲鳴を上げる。


 そんな中、服部は──


「くそっ!拙者が、なんとかッ!!」


 動かない身体に鞭を打ち、服部はなんとか立ち上がろうとした、その時──


「まぁ、待て。今のお前の身体で動くのはキツいだろ。だから後は俺に任せろ。少し──氣について分かったからな」


 無理をして立ち上がろうとする服部の左肩を掴むとフオンはそう、伝える。言われた服部は──


「──面目ないでござる。後はフオン殿に任せるでござるよ。心配──はいらんでしょうな」

「──当然」


 その言葉を聞いた服部は糸が切れた様にその場で倒れる。


 ──やはり、無理をさせたか。


 そう、思うと共にフオンはある試みをする為に先程までの服部の動きを思い出し、集中する。そんなフオンに注目するネロ達。


 ──まず、体の、これはへその近くか。ここに氣が集まっているな。これを意識して、自分が込めたい部位に徐々に徐々に──


 そうフオンが思うとフオンが意識していた右手の薬指だけに眩い半透明な光が溜まる。その高密度な氣を観て倒れ込む服部は目を見張る。ただ、服部だけではなくネロ達も氣が見えているのか不思議な光景を見る様に目を見張る。

 氣を込めた右手をピストルの様な型にすると、今も空中に旋回している一頭のカオスワイバーンに標準を合わせる。


 すると──


「──射貫けシュート


 ただ、そう呟く。それだけで事足りる。フオンの合図と共に右手の薬指から放出された圧縮された氣の弾丸は淀みなくカオスワイバーンに直進する。

 普通の人では見えない筈の氣はその高密度からネロ達でも見える上、ありえない筈の速度を出すと全く気付いていないカオスワイバーンの頭部に当たる。


 パーンっ


 ただ、カオスワイバーンの頭部に当たるとそんな音が鳴った。いとも簡単に「S」ランクの魔物の頭部を射抜く。それも射貫くだけではなく、頭部をトマトの様に簡単に粉砕して見せた。

 その光景を見たネロ達は一瞬で絶命したカオスワイバーンの亡骸とフオンを交互に見て驚愕していた。


 ただ、フオンは──


「──意外と簡単に氣、使えたな」


 そう、一人呟く。


 ただ、仲間がやられたカオスワイバーン達はそのままでは終わらせるわけが無く──


『ギャッアァァァァ!!』


 叫びながら一斉にフオンの元に襲いかかる。その事に近くにいた鳴金の取り巻き達は「ヒィッ!」や「お助けを!」と叫び散らしていた。


 でも、フオンは普段通りで──


「………耳障りな。黙れ、トカゲ風情が── 射貫けシュート──連射」


 フオンが近付いてくるカオスワイバーンに標準を合わせ──ただ、無造作に、無作法に撃つ。撃つ。撃つ撃つ撃つ──


 パーン、パーン、パーン、パンパパパン──


 そんな音が空間に連続で鳴り響く。その死の音が鳴り終わると──さっきまで威勢よく襲い掛かってきたカオスワイバーンの姿はそこになく、見るも無残に全身穴だらけの残骸だけが転がっていた。

 そんな殺戮ショーはほんの一瞬の出来事だった。


「──ふむ。威力は上々、周りへの被害も氣で調整しているから特に無く、連射も可能、と。中々便利なものだな、氣とは」


 既にカオスワイバーンの事など頭の中には無く、自分の右手を眺めると氣について考察をしていた。ただ、周りで見ていたネロ達は驚いたり、呆れてたり、尊敬の目をフオンに向けていたりとそれぞれだった。


「今回は片手だが、次は両手でドンバチとやってみたい物だな。他にも改良はあるだろうしな。中々、楽しいものだな」


 そんな事を一人呟くフオンは両手をピストルの形にして次の機会にでもと思っていた。それに自分でも言っている様に──楽しそうにしていた。



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