第67話 集団ダンジョン探索⑤
◆
「──痛っ!………って、此処は何処?」
機械的な声が聴こえた瞬間、目前が突如真っ白になったと思ったら、気付いたら先程まで自分達がいた1階層とは異なる空間に横たわっていた。
その事を直ぐに理解すると「"転移"させられたのだ」──と考えついた。
──一応、彼等もしっかりと僕と一緒に"転移"させられた様だね。
ネロは自分の背後をチラリと見ると鳴金とその取り巻き達が呻いているのを確認した。
ただ、そんな鳴金達よりも今の状況を確認することが優先だ。
(──まぁ、この状況が何なのかはとにかく、何が起きても僕がどうにかすればいいか。彼等には1ミリも期待できないからね。──ハァ、でもお兄ちゃんの勘が悪い方向で当たるとはね〜)
ネロが今考えた通り、フオンは"初めから"鳴金達が何かをしでかすと思っていた。なので念の為ネロを同行させていた。
フオンがあの時、鳴金に絡まれた時にネロに伝えた言葉は──
『──悪い予感がする。あいつら──鳴金とかいう奴らと共に同行をしてくれ。お前が付いてればなんとかなると思うし、お前に危険が起これば俺も、わかる』
『──ッ!お兄ちゃん!!僕は──』
『安心しろ、少しの辛抱だ。だから、頼む』
『………分かったよ』
──そんな事をネロに頼み、保険を掛けていたのだ。それが的中して今の状況に陥っていた。
そんな時──「ブーブーブー」といきなりブザーの様な音がネロ達がいる空間に鳴り響いた。その音を聴いた鳴金達は騒いでいたが、ネロは騒ぐ事なく自前の杖を取り出すと何が来ても良いように構える。
──が、ネロはある事に気付く。
──ははっ、不味いな。精神を集中させる為に魔力を練ろうとしたけど──練れないや。この空間、もしかしなくても魔法禁止?とか?
脂汗を垂らしながらもネロはそう、考えた直後──先程までは自分達しかいなかった空間に突如、夥い──魔物の軍勢が現れた。
その魔物達は何処からともなく現れるとネロ達をターゲットにしたのか徐々に近づいて来る。そんな魔物達を見て、鳴金の取り巻き達は体を寄せ合うとただ怯えることしかできなかった。
そんな中──
「──ヒイッ!く、来るなぁ!俺様を誰と心得ている!!俺様は「S」ランク冒険者になり得る男であるぞ!魔物風情が!これでも、喰らえ!!」
怯えていた鳴金の取り巻き達を他所にこの状況に一人痺れを切らした鳴金は自前の剣を腰から抜刀する。屁っ放り腰ながら魔物に震える剣先を向けると魔物相手にそんな、意味のない事を息巻く。そのまま近くにいたリザードマンにがむしゃらに走り持っていた剣を上段に構えながら突撃する。
ただ、そんな事は当然な事魔物などに通用せず──
「シャァッ!!」
「ガフッゥ!?」
『『雅紀様!!?』』
リザードマンに一撃も与えられずに逆にリザードマンが持っていた剣の一振りで吹き飛ばされ、返り討ちに遭ってしまった。「ダンジョン」の壁に叩き付けられた鳴金はそのままピクリとも動くことなくグッタリとしていた。
その事に取り巻き達は驚き、叫んでいたが魔物達が怖くて動けないようだ。
(──そこは、じっとしていなよ。勇気と蛮勇を履き違えるなよ。まぁ、運が良いのか、気絶しただけで死んではいないようだけど、状況は変わらない、か)
そんな事をネロが考えている間も、徐々に、徐々に魔物達がネロ達に近付いて来ていた。そんな魔物の中にも
その事に鳴金の取り巻きの女性達は「ひっ!」と悲鳴を上げていた。
(──ハァ、"コレ"は人前で見せたくは無かったし、こんな局面で使いたくは無かったけど、この状況じゃそうも言ってられないか。"保険"はあるけど──彼等を守りながらは無理だね。今の僕はひ弱で無力だ。こんな小物達に辱めを受け、殺されるよりは何億倍もマシでしょ。それになんなら後で彼等の"記憶を消せば"良い事だし)
何かを決心したのか、持っていた杖をそっと地面に置くネロ。そんなネロは地面に膝を突くように座る。座ると両の瞳を閉じて天に両手を捧げる。
「『──返還の時、来たり 楚は全てを現すもの 楚は全てを慈しむもの 此処に決別の時、来たり────』」
──何かを謳うようにネロは紡いでいく。そんな中、ネロの周りを神秘的な薄緑色の光が漂っていく。
周りで怯えていた鳴金の取り巻き達もネロが何かをしようとしているのがわかったのか、一度騒ぐのを辞めると注目した。
「『────偽りの衣を脱ぎ去る時
一句、一句、紡いでいく。その度にネロの周りを神秘的な光が眩いてゆく。そんな中、ネロは最後の言葉を噛みしめるように紡ぐ。
──様に見えたその時──
──ドッゴーーーン!!
そんな何かが無理矢理外側から破壊された様な音がネロ達がいる空間に響き渡る。──ただ、そちらをネロが振り向かなくても何が起きたかは分かっていた。
破壊できないオブジェクトと言われる「ダンジョン」の壁をいとも簡単に破壊出来る人物。今は壁を破壊したことでできた土埃で何も見えないが確かに分かる。──「ダンジョン」の壁を破壊出来る人物など限られていた。
それをやってのける人物を良く知っているネロは今さっきまで紡いでいた言葉を止めると──
「──はぁ、こんな所で何を遊んでいる。ネロ?既に試験の終わりの時間が近付いているが、そんな遊んでいて、大丈夫なのか?」
魔物の軍勢など全く気にしていないのか呆れた様に伝えて来た。
「──お兄ちゃん!!」
──振り向き様に花が咲いた様に笑みを浮かべると「ダンジョン」の壁を破壊した人物──フオンにネロはそう、声をかけた。そんなネロには先程までの神々しい雰囲気など無かった。
──侵入者 侵入者 発見! 直ちに処理せよ!!──
そんな中、警報の様な機械的な音声が流れると魔物達は動き出す。近くにいた鳴金の取り巻きや、再会を果たしたフオンとネロに牙を剥く。
鳴金の取り巻き達は「助けてくれ!」や「死にたくない」と懇願していた。
だが、助っ人はフオン以外にもいるわけで。
──土遁・白亜の壁!
そんな声が聴こえたと思うと、フオン達や鳴金の取り巻き達を守る様に頑丈な白色の土の壁が「ダンジョン」の地面から現れ、そそり立ち魔物との接触を防ぐ。
みんなを守った人物は──
「──再会の邪魔をし、人々の命を刈ろうとする理性の無い魔物達よ。それは無粋でござるぞ?まぁ、其方らにそんな事を考える知恵があるのかは知らなんが、お相手は拙者が致そう。なに、何も心配はいらなん。纏めて冥土に向かわせてしんぜよう」
──忍び装束に身を包む服部が腰差しから抜刀した小刀を右手で構えると魔物達に今からの殺戮の宣言をする。残っている左手では忍びが忍術を使う時にやる様な"印"を結ぶ様にしていた。その姿は体型を気にすることのない程の様になっていた。
魔物達はそんな服部をターゲットにしたのか、服部が出した白色の壁を迂回すると物凄い勢いで近付いて来ていた。
────いざ、参る!
ただ、服部も間髪を入れずそんな事を呟くと一人魔物達の軍勢に駆け抜ける。
「お兄ちゃん!!彼は?それに、彼一人で大丈夫なの?」
目前で駆けて行く服部と突撃してくる魔物を見たネロは直ぐ近くに来ていたフオンに告げる。
「アイツは俺の────パーティメンバーだ。それに、今は奴一人で十分だろ。俺は奴の"動き"でも観させてもらうさ」
ネロに問われたフオンはパーティメンバーと言う時に少し間を空けた気がしたが、しっかりと自分のパーティメンバーだと告げる。その後は特に服部を心配していないのか何かを仄めかす様に話す。
そんなフオンの話を聞いたネロは「お兄ちゃんがそう言うなら」と呟き、服部の様子を窺うことにした。
そんな服部は今────
「──沢山いるでござるな。では──雷遁・
服部が左手でまた印を結びながら叫ぶと右手で持っていた小刀に電撃の様な物が纏わり付く。そのまま目前の魔物達に小刀を振るうと──
バチバチバチッ!
と、電撃を纏った斬撃が飛んで行く。その電撃を纏った斬撃が魔物達の一部に着弾すると──
『『ギャッアァァァァ!!!?』』
と、正面からまともに当たった魔物達は、ある物は感電して、またある物はその斬撃に裂かれて絶命していた。そんな魔物達の光景を見た服部は自ら魔物達に突っ込み躍り出る。
その光景を見ていたネロ含む、鳴金の取り巻き達は驚いた表情をしていた。魔物達のランク帯は違えど、あっさりと命を刈り取ったそんな服部を見ながら。
「──凄い。彼って、何者?」
「さぁ?俺が知ってることなど少ないさ。ただ奴は強い。それに奴は不思議な技を使う様だ」
ネロの質問に淡々に応えるフオン。
「特別な技、って?」
「そうだな、確か──忍術、とか言ってたか?まぁ、その忍術を使う為の"氣"を練って戦うそうだ。どうだ?面白そうだろ?」
そんな事をフオンは子供の様に、また楽しそうにネロに伝える。伝えるとそのまま服部の動きを興味深そうに眺めていた。
──自分でも真似ができるのかと。
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