第66話 集団ダンジョン探索④
そこにいた人物とは──
「ふぅ、やっとフオン氏が退いてくれたお陰で脱出が出来たでござるよ。さて、パーティメンバーも揃った事なので早速昇級試験へ、向かいますかな?」
──紺色の忍び装束に身を包んだポッチャリとした体型の男性だった。その男性はフオンの事をフオン氏などと馴れ馴れしく呼んでいた。ただ、それよりもフオン達が疑問に思った事は"いつから"この男性がそこにいたのか、だ。
なので、フオンが疑問をぶつける事にした。
「──お前はいつからそこにいた?それに、何者だ?」
そう、フオンから質問された男性は一瞬何を言われたのか分からないという表情を浮かべたが、理解すると笑みを浮かべてフオンの質問に答える。
「おおっと!これは失礼しましたでござる。──拙者は初めから「C」ランクの昇級試験を受ける為にこの壁に隠れていたでござるよ。性格故、人前だと上がってしまうので人が捌けるまで待とうとし思っていたところ──丁度フオン氏が拙者が隠れている壁に寄りかかって来て出られなくなったでござる。まぁ、そのお陰かこうして人が少なくなりフオン氏とパーティを組めるので一石二鳥でござるがな!あぁ、名を言ってなかったですな。──拙者の名は
長々と話した男性は自分の事を、忍者の末裔と言い、名を服部貞雄と告げて来た。
「──お前も、試験参加者だったのか。なら好都合だ。俺とパーティを組んでくれ」
「えぇ、えぇ!それは喜んで!拙者も先程から言っている通り、フオン氏だったらウェルカムですぞ!!フオン氏の事も先程の諏訪部試験官との話で一通りは分かりましたからな。拙者、力を貸しますぞ。──服部家の名に掛けて」
そんな事を服部は何故かフオンに信頼を既に置いている様に──昔からの友人の様に笑顔で告げて来た。
服部家の名にかけて、か。胡散臭い奴だが………今は選ぶ時間も人もいないからな。
その事にフオンは違和感を覚えながらも今は何も触れなかった。
ただ、二人の話を聞いていた諏訪部は「パーティメンバーが揃ったなら良いか」と服部という人物のインパクトがまだ冷めないのか、そんな事を蕩々と呟くとため息を吐いていた。櫻井は──「うぅ、あのフオン様のお顔を拝見したかったのに」とガッカリしていた。
まぁ、そんな訳でフオンと服部は簡易的なパーティを作ると諏訪部達と別れ、早速「埼玉ダンジョン」の中に入り、試験を始めた。
(──危なかった。あと少し、時間を浪費していたら恐らくネロとの距離が一定値を突破して面倒臭い事になる事だった。やはり、結んだは良いが──
そう、内心で考えたフオンは今は昇級試験に集中する事に決めてネロとの距離を保ちながら行動する事にした。
◇
直ぐに行動に移したフオン達は意外にも2時間という短時間で合格と書かれた"石"を5個ずつ見つける事に成功していた。──それもなんと、殆ど服部のお陰だった。
「スキル」を一切使えないフオンなので感で地道に探すしか無いと思い、初めは服部など宛にしてなかったのだが「探すなら拙者にお任せを!フオン氏は魔物の駆除を頼みますぞ!」と言うと、その体型で良くそんなに早く動けるな、と称賛の言葉を贈りたいほどの繊細な動きを服部が見せると──服部が案内する場所、全てで合格と書かれた"石"が見つかったのだ。
その際に「何故、直ぐに分かる?何かの「スキル」か?」とフオンが聞くと──「いえ、これは拙者の忍者としての技能でござるよ」と言ってのけるのだった。その事を嘘か本当かなど調べる術が無いフオンは「そうか」とただ相槌を打つだけに留めた。
服部がとても役に立ったのは本当の事なので、それ以上の検索をしない事に決めた。
「──フオン氏。試験合格の為のブツは手に入れましたが。この後はどうするでござるか?」
「──合格の"石"の名前を変な呼び名にするのはやめろ。──そうだな、俺の連れはまだ「
服部に注意を入れた俺達はネロを探す事にした。
「承知。拙者もお供しますぞ!」
「──好きにしろ。今はパーティメンバーだからな」
「フオン氏の、ツンデレさんめ〜!」
「黙れ」
フオンは服部を適当にあしらいながらもネロがいる場所に向かい歩を進める。ただ、そのたまに見せる表情は何処か──"幸太"の時にじせつ見せていた笑みの様にも見えた。
◇
(──まずい、これはまずい事になった。誤算だったよ。あぁ、誤算だとも………彼等がここまでも──動かないとは)
──目の前の鳴金達のピクニック気分とでも言いたげな振る舞いに逆の意味でネロは戦慄をしていた。
ネロを含む鳴金グループは初めからパーティメンバーも決まっていたと言うことから直ぐに試験会場である「埼玉ダンジョン」に入れたので当初は最短で試験を突破出来るものとネロは思っていた。が、それは思い違いだった。
1階層にある安全エリアに直行したと思ったら──ありえない事に鳴金の取り巻き達がピクニックシートを引き、お菓子やお茶の用意をしだしたのだ。鳴金も用意されたお菓子などを周りを気にしていないのか太々しく食べていた。
ただ、ネロも何もしなかった訳ではない。しっかりと鳴金達に「こんな事をしている場合じゃない、今は試験の最中だから真面目に取り組もうよ!」と、伝えたつもりだが──「まぁ、まぁ、ネロちゃんもそんな急がず今はゆっくりしたまえ。強者とは余裕を見せるものだぞ?」と訳の分からない事を伝えてくるだけでネロの話など聞いてなどくれなかった。
(──本当、こいつら最悪だよ。お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ。何で僕をこんなパーティなんかにつかせるのさ。まぁ、話を聞いた限りだと"懸念"を消したいのは何となくは分かるけどさぁ〜)
それでも納得がいかないのか内心でフオンに対してグッチていた。そんな時──
「──さて、英気を養ったから我々も早速動くとするか。ふふっ、それにこういった試験というものは近道が用意してあるものだ。それを知らずにただ"石"を探すのなど三流がやる事だ」
そう言うと、立ち上がり何かを探す様に安全エリアの周りをくまなく調べていた。それを見たネロはゲンナリとした顔をしていたが、なんとか表に出さない様に踏ん張るので精一杯なのか顔をこれでもかと言う様に痙攣らせていた。
鳴金の取り巻き達も鳴金の行動を不思議そうに見ているだけで特に何もしなかった。
(──ハァ、無駄な事をせずに普通に探せば早いものを。そんなところを探しても何もある訳──)
白い目を向けていたネロは内心でそう考えていたら──
「──あったぞ!俺様の読み通りだな!!」
そう叫ぶと──鳴金が探していたという壁にある"ただ"の盛り上がっている岩でできた突起に触れた。
「………なに、やってんだか」
そんな鳴金の行動に内心だけに留める筈だったが、そんな言葉が口からぽっと出たネロはそのままため息を吐いた。
──ただ、そんな時──
──承認しました。只今より、この地にいる全ての人間を転移します──
という女性とも男性とも判断のつかない機械的な声が響き渡ったのだ。
「──は?」
その機械的な声にネロはそんな間の抜けた様な言葉が口から溢れてしまった。ただ、それだけで、何も抵抗も出来ずに──ネロ達は強制的に転移をさせられた。
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