第64話 集団ダンジョン探索②




「──今日集まってくれた皆は今から始まる「集団ダンジョン探索」の昇級試験者とみる。冒険者ランクが「D」ランクの上、各支部から昇級の話を受けている人だけだ。間違って来た人は申し訳ないが──立ち去ってくれ」


 建物から出て来た冒険者風の装いをしている一人の黒髪で短髪の長身の男性が前へ出て来たと思うと少しキツい言い方でそう、集まった人々に向けて話しかける。


 そんな中、誰一人として立ち去るものは現れなかった。その事を確認すると男性は話を続ける。


「────誰もいない様だな。では、まず初めに──俺は今日の「集団ダンジョン探索」の担当試験官を務める諏訪部隆久すわべたかひさと言う。「炎舞陵生えんぶりょうせい」という「B」ランクのパーティリーダーを務めている。俺自身は「A」ランク冒険者だ。それで、周りにいるのは俺のパーティメンバーだ」


 そんな事を淡々と男性──諏訪部隆久は伝える。その事にフオンとネロは特に何の反応も示さなかったが──


『マジかよ!今回の試験官、諏訪部さんが担当なのかよ!!』

『スゲェ!!『炎の魔剣使い』の諏訪部さんだ!本物だよ!来て良かった!!』

『カッコいい!あれが最も「S」ランクに近いと謳われている冒険者!!』


 ──周りで諏訪部の話を聞いた人々はそれぞれ口々に話し出す。


 ただ、盛り上がるのも当然で。今、話にも出た通り諏訪部隆久は本人も「A」ランク冒険者で中々の実力者の上、次期に「S」ランク冒険者に上がる人物だと噂をされる程の人物だった。それも「スキル」意外にも「ダンジョン内」で入手した『魔剣』をも所持しているのだ。


 ──魔剣とは、「ダンジョン内」の宝箱から稀に見つかる魔石が埋め込まれた「魔導剣」の事だ。中には「魔道具」とも呼ばれる。それに魔剣でも武器の種類が沢山あったりするが、それを全て総いて魔剣と呼ぶ。


 ただ、そんな中、いつも通り何も知らないし関心のないフオンとネロは通常運転だった。


「──今、口を開いた諸君は失格だ。「C」ランクになりえる器を持っていないと判断した。よって──失格とする」


 人々が興奮冷めない中、諏訪部が口を開いたと思うと静かにそんな残酷な言葉を伝える。そんな言葉を聞いた人々、口を開かなかった人々も合わせて全員が驚愕の表情を浮かべていた。


 ただ一人、フオンだけがそんな諏訪部の話を聞き、静かにニヒルな笑みを浮かべていた。


 諏訪部が話した内容は横暴に聞こえるが試験官であり、最上級冒険者である「A」ランク冒険者にそう言われてしまった。ましては口を開いてしまった人々は言い訳など出来ず、その場で膝を突いてしまった。それに、既に"試験"は始まっているのだから。


 そんな中、諏訪部は話しを続ける。


「──冒険者とはいついかなる時も冷静であれ。そして周りに流されない意志、個々の判断力を伴う。それは「C」ランク冒険者になってからは今まで以上に重要になる。──諸君らにはそれが何故か分かるか?」

『『…………』』


 諏訪部に質問された人々は何も答えれずにいた。そんな中、最初から返答なの返ってこないことを想像できていたのか、直ぐにわけを話す。


「────何故なら、今まで以上に過酷な世界になるからだ。「C」ランクにもなると魔物の強さも特徴も賢さも一段と高くなる。そんな中、周りを気にせず騒ぐもの、人の話を聞かず突っ走るもの──何よりも、弱い奴は生き残れないからだ。冒険者をあまり、舐めるなよ?」


 先程まで冷静沈着だった諏訪部の姿はそこには無く、静かに怒る様に表情を強張らせて、威圧している。──ただ、本当は諏訪部もこんな事は言いたくなかった。でも「C」ランク冒険者という中級冒険者にもなると魔物も凶悪になり少しの油断が命取りとなる。


 諏訪部も何度か自分の仲間や同僚が「C」ランクになった時に少しの慢心で命を落とした姿を数え切れない程見ていた。なので誰よりも「C」ランク以上になる人々には厳しくなっていた。それはこれ以上に犠牲者を出さない為の諏訪部なりの優しさだった。


 その諏訪部の話を聞いた失格と判断された人々は立ち上がると、とぼとぼと帰っていく。失格者により「集団ダンジョン探索」を行う人々の人数は初めの半分となっていた。ただ、珍しい事にその失格者の中にはフオンに絡んできた鳴金の姿は無かった。


(──ふむ。テンプレ?では直ぐに失格になり俺に絡んで来ると思っていたが、考え過ぎだったか。まぁ、何をやるかが分からないからこそネロを付けた訳だしな)


 そんな事を一人、内心で考えたフオンは諏訪部の次の指示を待った。



 ◇閑話休題その頃の千堂達


 

 フオン達が「集団ダンジョン探索」をやっている同時期。千堂達「夕凪の日差し」のパーティメンバーは異変が起きていると言う「東京ダンジョン」に来ていた。


 今はまだ「東京ダンジョン」の中には入っておらず、入口前で最後の確認をしていた。


「──千堂さん。"彼等"を連れて来なくて良かったんですか?」


 そんな事を千堂の「夕凪の日差し」のパーティメンバーであり、索敵役シーフ緑矢隼也みどりやしゅんやは千堂に話しかけた。

 緑矢隼也は茶髪で顔が整っていて少しチャラそうなイメージだがとても礼儀正しく後輩に優しい青年だった。


 そんな隼也に聞かれた千堂は難しい表情を作ると──


「──そんな事当然の事だ。フオン君とネロちゃんにも同行をして欲しかったさ。彼等は強い。強いが……俺達の様に「ダンジョン」に潜っている訳ではない。それに、彼等は既に「D」ランクだが、初心者冒険者には変わりは無いからな。それは──隼也とて分かっているだろ?」


 聞かれた隼也は降参とでも言うように両手を上げていた。


「──分かってますよ。俺も分かってますけど、多分、というか絶対にフオン君一人いただけでも今回の探索は簡単になりますよ?俺も彼と何度か話しましたがは冒険者ランクなんて関係ない超越した存在だ。千堂さんの様に直接戦った訳じゃ無いけど──わかりますよ。それはここにいる皆なら分かるでしょ?」


 そんな隼也の問いかけに静かに聞いていた他のメンバー達はが頷いていた。──その中にはセリナや凛の姿もあった。


 隼也はこう言っているが、他にもフオンと話した時に感じた事があった。それは──フオンのを見た時に感じた。


 ────彼の目は何処か寂しそうに、この世界をどうでも良さそうにいた。でもその目は何故か悪い物には感じなかった。それよかこの世界を直す為の────


 ただ、隼也はそれ以上は考えなかった。


 ────起きる事は起きるし。彼がやる事は彼自身が決める事だ。だから、俺達はただそれを見届けるだけだ。


 ────そう、思うだけに留めた。


「──今はその話はよそう。今回は前から話していた通り、このメンバーだけで入る。ただしこれは口酸っぱく何度も言うが──もし、コレ以上の探索を無理だと俺が判断したら探索を止める。その後は俺が他の支部にも提案している──「S」ランク冒険者だけでアライアンス冒険者同盟を組み、探索をする」


 その千堂の言葉に隼也もそうだが、誰も否定の言葉を言わなかった。


 ──なので千堂は一つ頷くと、探索を開始する合図を伝える。


「──しっ!誰も命を落とす事なく探索を。俺にお前達の命を預けてくれ!死なせないと必ず──約束する!!」

『『『オォォォォォオッ!!!』』』


 千堂の言葉に呼応する様にこの場にいる人々は真意を示す様に腹から声を上げる。


 その勢いのまま、千堂達「夕凪の日差し」は「東京ダンジョン」の探索を始めるのだった。


(──まぁ、もし、もしもだが。俺達が負ける──敗北してもは用意している。蔵さんにも、にも伝えてるから大丈夫だろ。何も起きない事が一番、良いんだがなぁ………)


 そんな事を少し、苦笑いをすると千堂は心の内にしまい、自分の武器である両手剣を確認すると真剣な表情を作るのだった。


(──この仮は絶対に返すわよ、フオン君。あの後も私を辱めた事を絶対に後悔させてあげるわ。だから、私達も必ず戻るから──あなた達もどうか無事で「集団ダンジョン探索」を………)


 一人の少女もある決意を固めていた。を思い出してしまい、頬を少し赤らめていたが少女──セリナも千堂と同様に自分の武器である腰に下げている細剣レイピアを撫でると真剣な表情を作る。


 ──そんな、人々の決意冷めない中物語はある──結末へと進んで行く。


 ──彼等、彼女らに逃れられない結末、抗えない脅威、それは虎視眈々と近付いていた。そんな中、運命とは時に残酷に無条理に人々に牙を剥く。

 

 ──死と隣り合わせの世界、それを嫌というほどに実感させられるのだから。







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